森七菜が歌う「スマイル」、原曲のニュアンスをなぎ倒す爽快感

日刊SPA!

 カバー曲には、だいたい2通りのパターンがあります。ひとつは、作者の意図を汲み取って、オリジナルの表現に寄り添うやり方。もうひとつは、そうしたもろもろを理解したうえで、あえて自分なりの解釈を加えるやり方。その場合には、自分の歌唱力をアピールするケースがしばしば見受けられます。

◆カバーの概念をぶち壊す、森七菜の無意識力

ただし、まれにそのどちらでもないケースもある。

現在NHK朝ドラ『エール』で関内梅役を演じ、『ZIP!』(日本テレビ)では8月の月間パーソナリティーを務めるなど、人気急上昇中の女優、森七菜(18)。彼女が歌う、「スマイル」がそうでした(原曲はホフディラン)。

まっすぐにみずみずしい正攻法で挑んだからこそ、従来のカバーという概念をぶち壊す“無意識力”が生まれた。原曲に仕掛けられた意図を、次々となぎ倒していく姿には、爽快感すら覚えます。歌ウマ女優が増える昨今、興味深いアプローチでした。

◆ホフディランの原曲にある“裏のニュアンス”

まず、オリジナルを聞き返してみましょう。1996年、ホフディランのメジャーデビューシングルとしてリリースされたこの曲は、異彩を放っていました。シンプルなメロディとコード進行で、<いつでもスマイルしようね>、<すぐスマイルするべきだ>と、誰が読んでも一度で理解できるメッセージを歌う。

にもかかわらず、聞き手に引っかかりを与えていたのは、計画的に間の抜けたサウンドと、ゴワゴワのカセットテープを早送りしたような、ワタナベイビーの独特な発声です。こういった影の要素が、ポジティブで道徳的に正しいメッセージに、反語的なニュアンスを与えていたわけですね。

たとえば、<いつでもスマイルしようね 深刻ぶった女はキレイじゃないから>なんて歌詞が成り立つのも、サウンドとボーカルが道化を演じているから、“そんな簡単にはスマイルできないけどね”という逃げ場が生まれる。曲がお説教や美談にならないための、スマートな仕掛けになっていたわけです。

◆森七菜あっけらかんとした歌は“100%表”

ところが、森七菜はこれを実にあっけらかんと歌い上げてしまいました。若さとルックスを兼ね備えた圧倒的な勝者の視点から、<深刻ぶった女はキレイじゃないから>と、無情にも真実を宣告する。

ダイレクトなメッセージにならないよう趣向を凝らした原曲の配慮も、天真爛漫さの前ではなすすべなし。18歳の女性から、<すぐスマイルするべきだ 子供じゃないならね>と、混じりけのない笑顔で詰め寄られては、言いわけの仕様もありません。

◆上手に歌おうとすらしていない爽快感

さらに森七菜がすごいのは、上手に歌おうとすらしていないことです。音楽やサブカルチャーに対する理解がある素振りすら見せようとしない。

もし池田エライザ(25)や上白石萌音(22)が歌ったとしたら、この曲の意図する“ためらい”のような、裏返しの感覚を自分なりに表現していたでしょう。

しかし、森七菜はそのような色気を出しません。そこに記された字句の通りに、<するべきだ>と読み上げるのです。そうやって、「スマイル」に隠れていた暴力性とか強制力をあぶり出したから、彼女の歌は新しいのです。

そこそこ歌の上手い女優ブームの中、さっそうと現れた森七菜。これからも、小細工なしの歌声で、曲のど真ん中をぶち抜いていってほしいと思います。

<文/音楽批評・石黒隆之>

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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