<純烈物語>この夏、プロレス界に突如現れた”準烈” と受け身を取った純烈の物語<第58回>

日刊SPA!

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第58回>この夏、プロレス界で準烈物語。純子&烈男に伝えたい秋山準のすごさ

もともと酒井一圭がリングに上がったり、NHKホールにおける単独公演でスーパー・ササダンゴ・マシンとコラボレートしたりするなど、純烈とプロレスは親和性が高い。とはいえ、そのものズバリの“じゅんれつ”が登場するとは、さすがにリーダーも想定していなかったと思われる。

これまで酒井及び純烈がプロレスとかかわる場合は、常にササダンゴことマッスル坂井の存在があった。そのクリエイティブな関係性については、当連載でも書いてきた。

二人がツイッターで明かしているが、本来ならば5月におこなわれる予定の明治座単独公演で、ササダンゴが芝居パートの台本を書くことも決まっていた。純烈が絡むのは、あくまでも通常のプロレスとは一線を画した「マッスル」のフィールド内……当人たちも、そうした認識だったはずだ。

ところがこの夏、そんな常識を覆す現象がプロレス界と芸能界を駆け巡る。誰一人として筋書きを描いたわけではなかったのに、その物語は一個の生命体のごとく膨らんでいった。

ことの発端は、全日本プロレス所属の秋山準(50歳)がこの5月にDDTプロレスリングのゲストコーチへ就任。専修大学レスリング部で主将を務め、あのジャイアント馬場のスカウトで1992年に入団し“王道”とされるトラディショナルな技術を骨の髄まで仕込まれた、バリバリの本格派として知られる存在だ。

表現力の進化とともにプロレスにおける価値観が際限なく広がる中で、昔ながらの技術をしっかりと体得する選手は限られる。基本中の基本であるリストロック(相手の手首を逆に取る技)も、わかった上で決める者と型だけをやっている者とでは決定的な違いがある。

老舗である新日本プロレスと全日本のいずれも源流に持たずインディペンデントからスタートしたDDTは、だからこそメジャーとされる団体がやらないことを発想し、支持を得てきた。マッスルも、そうした試みの一つだ。

そんなDDTも、この数年でアスリートタイプの若い選手が増えた。技術向上を目指す中で、これまでとは違う王道の血が必要と見た高木三四郎社長が「ダメ元で」コーチを依頼したところ、秋山は快諾。

その流れの中、7月1日付で全日本からDDTへレンタル移籍することとなった。この時点で、単なる客員コーチから頭が切り替わったと秋山は言う。

つまり、いちプレイヤーとしてもDDTに居場所を作らなければならなくなった。さっそく若い世代の選手たちの前に壁として立ちはだかると、そこへ食らいつく者たちが一人また一人と増えていった。

当初は「秋山軍(仮)」とされたが、大石真翔(おおいしまこと=41歳)、渡瀬瑞基(わたせみずき=29歳)、岡谷英樹(おかたにひでき=19歳)と4人に増えたところで正式なユニット名をつけることに。一人ずつ案を出し、ツイッターのアンケート機能を使ってファン投票により決めるというものだった。

秋山自身はDDTで新たなる爆発をという意味でNEW EXPLOSION(自身の入場テーマ曲『SHADOW EXPLOSION』にもかけている)を考え、渡瀬はエリン・ハンターのファンタジー小説『ウォーリアーズ』に登場する飼い猫から野生の世界に飛び出した猫の名前にちなみFirestar(ファイヤスター)を提案。岡谷は「ここから始まるという意味で」ザ・ビギニングを推した。

他の3人と比べてネーミングに神経過敏となったのが大石。DDT以前に在籍したKAIENTAI DOJO時代、旭志織という正パートナーがいながらいろいろ考えてもチーム名が決まらず、なんのひねりもない「大石旭」なる通称が業界内に定着してしまうニガい経験を味わっていたからだ。

そんな大石の渾身作が準烈。もちろんこれは、秋山準がいなければ成り立たない。このセンスがどうして旭とのコンビ時に発揮されなかったのかと、識者の誰もが突っ込みたくなるほどの抜群なハマった感があった。

◆秀逸すぎたネーミングゆえ、気まずさが……

その一方、あまりに秀逸すぎたため明らかに気まずさも漂い始めた。もしも本当に準烈が選ばれたらどうしよう……ツイッター上で秋山と大石が慌て出すのを見てニヤニヤしつつ、マッスルを通じてDDTファンにも純烈は認知されていることもあり票はどんどん伸びていった。

アンケート締切前日になると、秋山は“#リーダーは大石です”なるハッシュタグをつけて保身に走ったが、最終的には準烈49.1%、NEW EXPLOSION37.3%、Firestar8.1%、ザ・ビギニング5.6%(投票数3422)という結果をもって、ユニット名は「準烈」に決定。7月13日深夜2時34分に発表されるや、4時間後の早朝7時10分に酒井が「マジか!?」と絵に描いたようなダボハゼムーブをいかんなく発揮。

これが芸能界のBPMに乗って昼にはネットニュースとなり拡散され、純烈ならぬ準烈の名前が光の速さで世間に知れ渡った。大人の対応をするべく、秋山は本家に挨拶へ出向くと宣言。

ところが酒井は、違う意味の挨拶と受け取り「戦いたくねーぞ!!」とフラグを振りまくる。こうなると事の真相などおかまいなしに「スーパー銭湯アイドルvsスーパー戦闘ユニット」などと煽られるのが、世の常というもの。その後もトントン拍子で話は弾み、本当に両軍フルメンバーによる御対面が1週間後の7月20日に実現したのだった。

当日の純烈vs準烈も含め、一連の流れはDDTにおける話題を独占。SNSを活用し、紅白出場グループを巻き込むことで世間の関心を集めたのが、プロレスの世界では本格派としての評価を誇る秋山というのが面白い。

「純烈のファンの方々は僕らと同世代が多い。僕はそこに秋山さんがジャストフィットするとは思っていました。ただ、ここまで発信力のある方だとは……」

秋山と同い年の高木も、そう言って唸るしかなかった。DDTも、いかにしてプロレスファン以外の人たちの目に届かせるかをテーマとしてやってきただけに、技術的なものとは別次元のこうした行動力とある種の瞬発力も学ばなければと思ったようだ。

大石をリーダーに立てたということは酒井のポジションとなり、最年長の秋山は小田井涼平のように全体を見てリング上を回していく。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いコンビ・てのりタイガーとしても活動し、渡哲也&渡瀬恒彦兄弟が親戚にあたる渡瀬はそのマスクと現在進行形の戦力から白川裕二郎的存在。

今年3月20日にデビューしたばかりの岡谷は、後上翔太にちなみユニットの末っ子。なんともいい感じで“役どころ”も重なった。あとは準烈にも2m級のマネジャーがつけば完ぺきだ。

比較的スムーズに本家公認を取得し気をよくした大石は、母・マチコが純子であることをメンバーに伝え「親孝行」という殺し文句を駆使し曲をリクエスト。紅白出場グループにノーギャラで『愛をください~Don’t you cry~』を披露させ、まんまとスマホで撮影した。

訪問後、動画を母に贈ると大喜び。純烈ファンというのは本当で『愛をください~Don’t you cry~』のCタイプ&Dタイプを発売日前にフラゲ(購入)したにとどまらず、メンバープロデュースのブックレットつきLIP“UBU LOVE”もぬかりなく4人分購入していた。

純烈&準烈合同記者会見のメインイベントは、3度目の紅白出場を祈願し酒井がステージ衣装を脱いで上半身裸になり、秋山のチョップを受けるというもの。もちろん、ものすごーく手加減したのだが、渋谷中に響き渡るかのような快音が鳴り響くと赤く染まった胸板を押さえて悶絶。あまりの衝撃に、目ん玉ばかりでなく自慢のヘソまでが飛び出たかと思わせた(もう飛び出ているが)。

いくらリングへ上がった経験があるとはいえ、90年代にはあの三沢光晴、川田利明、田上明、小橋建太の“四天王”の胸にも刻まれたチョップを食らったのだから、プロレス少年・酒井とすれば夢のような瞬間だったはず。また、対面した前日の大会会場が鶴見青果市場というのもシンクロニシティー。白川の出身地・横浜市港北区とは目と鼻の先だ。

本家から公認を頂戴した準烈は、3日後の後楽園ホール大会より始動。純烈のテイストは一切出さず、闘いに集中し勝利をあげた。

「せっかく純烈公認になったんだから、入場曲で使ったりすればいいのに」なる声も聞かれたが、それは秋山の意図するものとは違う。試合に向かうのは、あくまでもプロレスラーのユニット。そこに違ったテイストを加えるのはヨシとしない。

酒井も、リングに上がれば自分が子どもの頃に見た強くて怖い秋山でいてほしいだろうし、大石のテクニシャンぶりも若手の渡瀬と岡谷に必要な要素が何かも知っている。トークではバカなことを言って笑わせても、歌についてはどこまでも真摯な純烈の姿勢と同じだ。

「ツイッターとかの反応を見ると、昔(プロレスを)見ていたという人が多いんですよ。(純烈と絡むなという声は)ビックリするほどなかったです。訪問する時に、対決か!?となって『そんなことしないで!』というのはありましたけど、拒否されることはなかった。

酒井さんも発信してくれてありがたいですよね。この先どうなるかわからないですけど、いけるところまでいければなと思います。どこがいけるところなのかわからないですけど、でもどういう形になるかわからないから面白い。最初からこうなるなんて思っていなかったわけで。紅白の応援? お邪魔にならず、チャンスがあるのであれば」(秋山)

プロレスも純烈も、想像した以上に騒がしい未来が待ってる(byスピッツ)という点で共通する。DDTは毎年、大晦日の夜は後楽園で「年越しプロレス」を開催するのだが、史上初のNHKホールとのハシゴは実現するか――。

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

【鈴木健.txt】

(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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