『有吉の壁』でスベリ倒す、とにかく明るい安村の姿に勇気づけられる

日刊SPA!

2020/8/12 08:51

文/椎名基樹

◆人生、死にたくなったら下を見ろ……

「人生、死にたくなったら下を見ろ、俺がいる」とは、全裸監督・村西とおるの言葉であるが、私は今こう言って自分を勇気づけている。「人生、死にたくなったら下を見ろ、安村がいる」。安村とは芸人の「とにかく明るい安村」のことだ。彼は収入面でも社会的地位でも私よりはずっと上にいると思う。しかし、私が勇気づけられているのは『有吉の壁』(日本テレビ系)でスベリ倒す安村の姿にである。

『有吉の壁』は貸し切った遊園地などを、有吉が練り歩くと、若手芸人たちがドラクエのモンスターのごとく現れて、お題に沿った芸を披露し、有吉は「○」と「×」の札で、その芸の合否を判定する、新しい形の大喜利番組である。

安村は番組出演者の中で、最も有吉が容赦なく「×」を出せる芸人である。つまり最も「スベリ芸」が完成されているのだ。安村自身も有吉のツッコミ待ちで、あえて自ら地雷を踏むネタを好んで披露する。 例えば、有名人の微妙な(つーか全く似ていない)扮装を披露するコーナーで、安村が選んだのはキムタクの娘のKoki,。そんなの安村だけでなく、見せられるほうも地雷を踏んでしまう。安村にはそんな「困惑上等」なパンクな姿勢があり、私は非常に共感する。

◆スベリ芸の芸人が最も目立っているお笑い番組

しかし、さすがの安村もあまりの滑りっぷりに、後になって「やっぱりやめとけばよかった」と、後悔する事もあるようだ。そんな時安村は、有吉曰く「首が落ちちゃったのではないか」と思うくらい、うなだれているらしい。それでも毎週安村は、実際に眉毛を剃り落としたり、『押忍!!空手部』みたいな極端な剃り込みをおでこに入れたり、とにかく体を張って『有吉の壁』に挑み続けるのだ。うーん、痺れるぜ。勇気づけられる。「とにかく明るい安村」という芸名通りのなんとポジティブな男だろう。

テレビ番組の会議では、普通「裏を食っていない笑い」を心がけて制作に向かう。「裏を食っていない笑い」とはつまり「面白くないのが面白い」という構造になっていないということだ。しかし『有吉の壁』では、とにかく明るい安村、パンサー・尾形、ワタリ119など「面白くないのが面白い」スベリ芸の芸人が最も目立っている。そこにお笑い番組の純粋性が表れていると思う。

◆『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』を思い出す

しかし、この番組で披露した「TT兄弟」が大ブレイクしたチョコレートプラネット、シソンヌ、パンサーの尾形以外の2人(笑)など、「裏を食っていない」正統派の芸人がいるからこそ、スベリ芸人たちが自由に振る舞えるのだ。あまり知らなかったトム・ブラウンの実力も知った。毎回きっちりと笑いをゲットする。そしてジャングルポケットだ。彼らは老人ホームから学園祭、そして海外と、どこに行っても笑いが取れるだろう。斉藤の学生時代のいじめ体験の告白を読んでから、彼らの練習量を感じさせる、研ぎ澄まされた動きのコントに、さらに凄みを感じる。

「有吉を笑わせろ」という、いわばむちゃぶりに、毎週毎週、見事に応えていく、これら若手芸人たちの力量と、その数に驚く。数年前に、お笑いブームというものが確かにあり、夢を持った多くの若者が集まり、アンダーグラウンドの修行の場で、激しい組み手を行ってきたのがよくわかる。勇気づけられるのは、安村だけではなく他の芸人たちにもである。

若手芸人が大挙出演する『有吉の壁』は往年の『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)を思い出す。関西色が薄いお笑い番組は久々に感じられ懐かしくて嬉しい。さらにドッキリのような苦々しさが残るような笑いではなく、ひたすらアホらしいのも晩御飯を食べながら、ビール飲ながらにぴったりで、とてもありがたい。若手芸人たちも生き生きとして見える。こんなお笑い番組らしいお笑い番組はいつぶりであろうか。つーか、この手の番組が再び復活するとは思ってもみなかった。

また、芸人たちだけではなく有吉とともにMCを務める佐藤栞里が闊歩するときに自然に出てしまうモデルウォークの優雅さにも注目だ。ファニーな顔と愛嬌のある笑顔で見落としていたが、こんなに顔が小さくて手足が長い日本人はそうそういない。改めて彼女のルックスの良さに気づく。あんまり可愛いのでインスタをフォローした次第である。

【椎名基樹】

1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中

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