スニーカーマニア男子の謎の生態「このナイキは観賞用、はきません」|辛酸なめ子

女子SPA!

2020/8/10 08:46

【いまどきの男を知る会 ファイルNo.24 スニーカー男子の経済活動】

スニーカーブームが定着し、大人男子の足元は革靴ではなくスニーカー、という光景にも見慣れてきました。

以前、ネットの番組の仕事でお世話になった映像ディレクターの萬さん(30代・美大出身)が、毎回違う新品のスニーカーをはいているのが気になっていました。どうやってレアものを手に入れているのか、そして経済はどうなっているのか……。今回改めてお話を伺うことができました。

◆やっぱり高そうなスニーカーをはいてる

久しぶりにお目にかかったら当然のようにまたプレミアムなスニーカーをはいていた萬さん。

「これは1年くらい前のsacai x ナイキのコラボです。2つの靴が合体したデザインでシュータン(ベロの部分)が2つあるのが特徴です」と淡々と語る萬さん。以前は別のsacai x ナイキのコラボをはいていたような……。

世界のsacaiとナイキなので10万円くらいしてそうなイメージですが、聞くと「定価は16000円くらいです。sacaiがこの価格で手に入るのがお得です」だそうです。

web抽選で運良く当たって購入することも多いそうで、スニーカーを買えば買うほどスニーカー運がついて当たりやすくなるのかもしれません。

さらにこの日は超レアなコレクションを持ってきてくださいました。

◆観賞用・転売用の靴は絶対にはかない

「持ってる中で一番レアなスニーカーですね。オフホワイトとナイキのコラボです」と、箱を開けながら「あぁもうかっこいいですね……」溜息をつく萬さん。箱のデザインもたしかに凝っていて、ふたの裏側にマイケル・ジョーダンのシルエットがプリントされていたり細かい演出が。素人だとわからずただの靴の箱として処分してしまうかもしれません。

厳かに箱を開けて解説してくれる萬さん。

「これはシカゴっていうカラーリングで、赤と白のデザインに黒が差し色になってます。ジョーダンがナイキと契約し最初に履いたモデルの色です。どうですか?」

「どうですか?」と言われても、「色の配分がおしゃれですね」と素人のコメントしか言えなくてすみません。

「でも、このスニーカーははかないですね。デザイン的にはく用の靴ではない。観賞用です」

自分の観賞用以外に、転売する用の靴は新品のまま売るので決して足を入れないという不文律があるそうです。スニーカー好きは新品かどうかを重視する……処女を大切にする男性のようです。

ちなみに最近ハイブランドでわざと汚れたデザインの高額なスニーカーを売っていますが、真のスニーカーマニアは、汚れたものはあまり好まないとか。ビッチみたいなイメージでしょうか……。

◆スニーカーの売買は株取引に近い?

「ところでバスケットシューズをはいて実際にバスケットすることはあるんですか?」と聞いてみると「バスケットするときは別のモデルをはくんです」と、萬さん。実はかつて中高時代部活でバスケットボールをやっていたという、丘スニーカー男子ではないれっきとした経歴の持ち主でした。

「バスケットボールやってたのでナイキが軸になってるんです」と、自負を漂わせる萬さん。その時お金がなくてなかなかシューズが買えなかったので、今は大人になって物欲が爆発しているそうです。

「ただ、僕は基本的にプレ値で買うことはないですね。これは抽選で定価で買えました。最初このコラボがそこまで人気出るとは思われてなくて、競争率は今ほどではなかったです。それが50万、60万で取り引されるようになるとは……。

僕が興奮するのは他の人が見向きもしなかった靴が、かっこいいと思って買ったあと爆上がりすると、株価が上がったような興奮が得られますね。株式市場ほどインパクトはないけれどやってることは株取引に近いです」

◆今まで使った総額がすごかった

スニーカーの世界の中で経済を回している萬さん。買う行為で満足し、新品のままコレクション。目で楽しんだ後オークションに出品すると購入時より高く売れることも多いそうです。

「買うと一回心が完結する。それで、売ると。不思議なものでレアなものであればあるほど売るときは悲しみも大きい。その情緒も魅力ですね……」

資本主義に情緒を感じるスニーカー男子は繊細です。今まで総額1000万円くらいはスニーカーに使ったそうですが、売って稼いでもいるので、その利益で自分の服を買ったりしているとのこと。スニーカーに引っ張られておしゃれ偏差値がどんどん高まるという効果が。

そして全身キメてかっこいいスニーカーをはいて外に出ることで承認欲求が満たされます。

◆スニーカーマニアたちの秘密のコミュニケーション

「街でいいスニーカーはいてるお兄ちゃんがいると、お互いのスニーカーを見て目で会話する、みたいなことがよくあるんです。スニーカーのアンテナ張ってるんですぐわかりますよ。

スニーカー仲間の中ではお互いのスニーカーを見合うのがコミュニケーションなんです。外国人の場合は微笑んでナイス、と言ってくれたりしますが、日本人同士は空気で感じる。それも楽しみです。ただ、ちょっと悔しいときは見て見ぬフリもしますが……」

でも、コロナでなかなかおしゃれして街に出かけることも減ってしまったのではないでしょうか……。

◆今は自分とスニーカーを見つめ直す時間

「そうですね。外にはいていけないので自分にとってスニーカーとは何かって見直しました。スニーカーに対する価値観が変わってしまったかもしれません。お互いスニーカーを見せ合う場所の一つが『並び』と呼ばれる、お店の行列だったんですが、ほとんどweb販売になってしまって、見せる場所がなくなってしまいました……」

と、残念そうな萬さん。いつかまた自由に外出できる日が来ることを願い、スニーカーのサイトを日々チェックしているそうです。

「次に狙っているスニーカーは何ですか?」と聞いたら「あるといっても無限にあるのでリークされる画像を見ては次に何を手に入れようか考えてます」とのことで、愚問だったようです。何足手に入れても決して飽きることがないスニーカーマニアの世界。その原動力があれば、今のような危機的状況も乗り越えられることでしょう。

<文&イラスト/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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