保育士、シッターによる性犯罪は防げないの?性犯罪歴を隠して働ける現実

女子SPA!

2020/8/4 15:46

 マッチング型の保育サービス「キッズライン」に登録・活動していたシッターの男2人が、シッターとして保育中の子どもにわいせつな行為をしたとして、今年の4月と6月に相次いで逮捕されました。2人とも保育士免許を持ち、保育園での勤務経験もあったといいます。

事件の報道を受け、キッズラインは対応策として6月4日に「男性シッターによるサポート一時停止」を発表。しかし男性というだけでシッター業務を停止させるという同社の対応には、疑問の声も上がっています。

待機児童問題や在宅勤務などにより国内でのベビーシッター需要は増えており、様々な企業がシッター業界に参入しています。今回の問題は一企業の事件という以上に、社会全体で改善を考えていくべきでしょう。

子どもをめぐる社会問題に取り組み、保育園も経営する認定NPO法人「フローレンス」の前田晃平さんによると、保育・教育現場の性犯罪を未然に防ぐ「仕組み」がないことが、現状の日本における課題だといいます。今回は前田さんに詳しく話を聞きました。

◆性犯罪の前科があっても、シッターや先生になれる

――保育現場での性犯罪を減らすために、まずできることは何があるのでしょう。

フローレンス前田さん(以下、前田)「日本における大きな課題として、保育の事業者が性犯罪者を確実に判別することが難しい、という状況があります。

今の行政の仕組みでは、仮に教員・保育士が罪を犯して免許が失効したとしても、法律上、教員免許なら3年(※1)、保育士資格なら2年(※2)経てば再取得できることになっています。そして免許が不要なベビーシッターに関しては、ほとんど規制がありません。それもあって、採用時に免許が失効していることを事業者に伝えずに、同じ業界へ再就職を行う事例が散見されます」

※1 文部科学省 教育職員免許法

※2 児童福祉法

――性犯罪歴があっても、それを隠して働くことができるとは驚きです。

前田「保育教育現場への就労前に犯罪歴をチェックし、保育教育従事希望者に無犯罪証明書を発行する機能を新たに実装することにより、少なくとも再犯を防ぐことが可能になります。そして、小児わいせつの再犯率が80%を超えている(※3)状況を鑑みても、この再犯を防ぐことは非常に重要であると考えます」

※3 法務省 平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/3

――確かに、犯罪歴はあくまで自己申告。日本はなぜ、「無犯罪証明書」を出すなど、法律や決まりが作られてこなかったのでしょうか。

前田「日本ではシッター文化が根付いておらず、今回のような事件が表面化していなかったからだと思います。諸外国では、子どものことをシッターに見てもらう機会が多く、シッターのわいせつ事件などがすでに起きていたため、早くに法律として整備されたのだと思います」

◆わいせつ行為にNOと言えず、大人に相談できない子も

――他の課題についてはいかがでしょう。

前田「子どもへの教育にも課題があります。今回のような小児わいせつ事件が起きる背景には、子どもがわいせつ行為に対し『NO』と言えない現状があります。被害を受けた子は、それが犯罪であるという認識もなく、なんとなく恥ずかしいことだと思ってしまい、親やまわりの大人に相談できないままでいます。これによって、表に出てこない小児わいせつ事件がたくさんあると思います。

そうなる前に、『これはいけないこと』『NOと言っていいこと』『大人に助けを求めるべきこと』であるという認識を子どもが持つことが大事です。そのために、子どもの発達段階にあわせて、学校のカリキュラムに入れるなどして啓蒙(啓蒙)していく必要があると考えています」

――まさに、企業・行政・業界が一体になって取り組まなくてはいけない問題なのですね。

前田「そのように感じています。今回の件は、シッター業界全体が抱えている問題だと言っても過言ではないと思います」

◆私たち一人ひとりの声も必要

――前田さんのお話を聞いて、業界以上に行政に一刻も早く動いて欲しいと感じました。

前田「今回の事件に問題意識を持っている議員の先生はたくさんいて、実際に動いてくれています。ただ、『無犯罪証明書』の提出を義務付ける法案を作るのにはとても時間とパワーがかかるようです。

というのも、企業の案件ということで経済産業省、保育に関わる案件ということで厚生労働省、さらにはシッターの助成金を出している内閣府、犯罪履歴などの個人情報を扱う関係で法務省、と複数の省庁が管轄として出てくるからです。こうなると一担当者が包括できる問題ではなく、どこの管轄下で法案を作っていくのか、議論をすすめるのに異常な手間がかかるのです。まさに日本の縦割り行政の狭間に落ちてしまう問題と言えます」

――そのような話を聞くと、「無犯罪証明書」の義務化は実現不可能のように思えてしまいます……。

前田「ですよね。けれど与党を中心とした議員が、この『無犯罪証明書』の提出を義務付ける法案を本年度秋の臨時国会に提出できるところまでこぎつけてくれたんです。これはかなりの進展だと思います。ただし、現段階の内容のままだと強制力を持った法案にはなっておらず、『無犯罪証明書』を出さなくても罰則はありません。いわば、『努力義務』になってしまうのです」

――「努力義務」ということは、出さなくてもよいということでしょうか。

前田「そういうことになりますが、まだまだ調整中です。世論が集まれば、政治家が本気で動きます。そうすれば縦割り行政の枠を超えて行政が動き、強制力をもった法案として実現されます。だからこそ私たち一人ひとりの声が必要なんです」

◆#保育教育現場の性犯罪をゼロに

前田さんは現在、子どもに関わる仕事につく人の「無犯罪証明書」の提出を強制力のある法案として国会で成立させるべく、SNSで「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」作戦を広めています。このハッシュタグとコメントをつけて、各自がSNSで発信・拡散していくことで世の中の注目と声を集め政治を動かすというものです。

また認定NPO法人フローレンスは7月14日、保育教育従事者が無犯罪証明書を取得できる仕組み「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の創設を求める記者会見を、厚生労働省で開催しました。

教育現場で事件が起きれば、責任の所在はどこにあったとしても、被害を受けるのは子どもになります。そして、今回のように被害者が出たから動くというのでは遅いのです。

シッター文化が社会に根付くことで、自由に働き自由に子育てができる人が増えます。そして笑顔で仕事も子育てもできる社会の実現に近づきます。今回の事件を通し、なぜこのような事件が起きたのか、一企業の問題として注意喚起するだけではなく、社会の問題として慎重に議論し自分にできることを考えていく必要があることを感じます。そして、そのタイミングがまさに今なのではないでしょうか。

<取材・文/瀧戸詠未>

【瀧戸詠未】

ライター/編集者。趣味は食べ歩き・飲み歩き。

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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