会社の「こんな場面」はパワハラ!? パワハラ防止法を専門家が解説


厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、「いじめ・嫌がらせ」等のパワハラに関する相談件数は8万7,570件となっており、10年前と比較すると2倍以上となっています。

深刻な労働問題に発展することも多いパワハラ防止の必要性が高いという背景から「パワハラ防止法」が施行され、大企業では2020年6月1日から相談体制の整備などの対応が義務づけられました(中小企業では2022年4月1日から)。

本記事では、パワハラの定義と企業に義務づけられた内容を解説するとともに、対応のポイントについてお伝えしていきます。

○パワハラの定義

パワハラは、(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素をすべて満たすもの、と定義されています。

「優越的な関係を背景とした言動」とは、例えば、以下のものが含まれます。

・職務上の地位が上位の人の言動
・同僚や部下でも業務上必要な知識や豊富な経験を持ち、協力を得なければ仕事ができない人の言動
・同僚や部下からの集団による行為で、抵抗や拒絶をすることが困難であるもの

ITに弱い上司に対して、部下が「そんな簡単なことも分からないなんて信じられないです。私の小学生の娘だってできますよ」と言ったとします。これは知識や豊富な経験といった優位性を背景に、部下が上司にパワハラを行っていることになります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、一般的に考えて仕事を行う上で不必要・ふさわしくない、以下のものが含まれます。

・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・回数や行為者の数が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

間違ったことをしたときに指導をして行動を改めさせることは業務上必要です。「なぜ決められたルールを守らないんだ」「こんなやり方をしたら危険じゃないか」「こうしたら周りに迷惑がかかるじゃないか」などと言うのは必要なことです。しかし、仕事とは全く関係ないところで相手を誹謗中傷したらパワハラになります。

「労働者の就業環境が害されるもの」とは、パワハラ行為が繰り返されることで労働者の就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じることです。

些細なミスを見つけては、「お荷物だ。消えてくれ」「死んでしまえ!」「いつ辞めてもらっても構わない」のような発言をすると、就業環境が悪化し、能力の発揮に重大な悪影響が生じますので、パワハラとなる可能性が高いのです。
○パワハラにはどんな種類があるのか

厚労省は職場のパワハラについて以下の6つに分類。該当すると考えられる例を解説していきます。

(1)身体的な攻撃

・叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける
・書類や文房具などの物を投げつけられる

(2)精神的な攻撃

・人格を否定されるような言葉をかけられる
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返しされる
・同僚の前で叱責される、馬鹿にされる
・他の労働者を宛先に含めたメールで馬鹿にされる

(3)人間関係からの切り離し

・上司と対立して、孤立した場所に移される
・一人だけ部署行事に呼ばれない

(4)過大な要求

・到底終わらないレベルの仕事を与えられる
・私的な雑用を強制的にやらされる

(5)過小な要求

・自分の業務とは関係ないトイレ掃除などの仕事を命じられる
・嫌がらせ目的で全く仕事を与えられない

(6)個の侵害

・交際相手やプライベートについて執拗に問われる
・配偶者や家族について悪く言われる
○企業に義務づけられた対策

企業は、職場におけるパワハラ防止のために、以下の4つの措置を講じなければなりません。

(1)事業主の方針等の明確化と周知・啓発

・パワハラの内容とパワハラを行ってはならないことの方針を明確化し、周知・啓発すること
・パワハラ行為者に対する処分内容を就業規則等に定め、周知・啓発すること

(2)相談窓口の設置

・相談窓口をあらかじめ定め、周知すること。
・相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。

相談窓口を設置し、その担当者を決め、担当者自身も問題に適切な対応を取れるようにしておく必要があります。相談対応マニュアルを作成し、人事部門との連携を適切に行えるようにしておきましょう。

(3)パワハラ発生後の迅速かつ適切な対応

・事案に関わる事実関係を迅速かつ正確に確認すること
・パワハラの事実が確認できた場合の被害者や行為者への適正な措置
・再発防止に向けた措置をとること

相談窓口担当者にとって重要なのは「事実の把握」です。行為者が被害者に対して、いつ、どこで、何をしたか、どんな背景があったかを把握していきます。また、行為者と被害者の主張が食い違うことも多いので第三者の証言、メールや録音記録などの客観的な事実を押さえるようにしましょう。

パワハラの事実が確認できた場合は、社内規程や過去の処分事例を参照し処分を決定します。軽い処分であっても、行為者の配置転換や指示命令系統ラインを別にするなどの適切な措置を講じる必要があります。

そして再発防止に向け、代表者からのメッセージ、行為者に対する再発防止研修、管理職登用の条件追加などの対策をとることが有効です。

(4)そのほか併せて講ずべき措置

・相談者や行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置をとり、周知すること
・相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、周知すること
○業務指導の延長にあるパワハラ

パワハラの特徴は職場での業務指導の延長にあることです。上司は部下に対して「教育している」「注意している」と思っていても、部下は「パワハラを受けた」と感じることがあります。

上司が部下の目標を達成させるために指導することはパワハラではありません。上司と部下で適切な目標を設定し、適宜進捗ミーティングを行い、「達成状況が良くないから、この点を注意して取り組んでいこう」という話をするべきなのです。

しかし、達成状況が良くないと業務上必要な範囲を超えて、感情的に怒鳴ったり、人格を否定する言葉を発したりするケースがあります。「何度も言わせるな! お前はバカなのか」「お前のせいで仕事がうまくいかない」「売り上げが少ないのによく有休が取れるな。やる気がないなら辞めろ!」などの発言は、自分勝手な感情の発露であり、相手の成長を考えた行為ではありません。感情をぶつけないように自分をコントロールすることが肝心です。

また、チームリーダーは「相談しやすい職場」を作るべきです。部下と話している時にPCを操作しながら応対したり、書類チェックをしながら返事したりしているようでは、部下は相談に来なくなり、パワハラが起きやすい職場になっていきます。自分の考えをオープンにして部下の話を真剣に聞く姿勢が大切です。

パワハラ対策は企業にとってやるべきことが増えることになりますが、見方を変えれば、職場環境を改善するチャンス。パワハラ問題は、時代が変化する過程で起きる現象と受け止め、むしろ企業が発展するためのよいきっかけと前向きにとらえて対策していただきたいと思います。

○執筆者プロフィール:和賀成哉
社労士。大槻経営労務管理事務所所属。不動産の営業から同事務所に転職し、長時間労働の問題に取り組む中で社労士の資格を取得。「なぜできないのか」ではなく「どうすればできるのか」をテーマに、日々クライアントへの提案を行っている。また、労働と保険制度に関するセミナー講師としての顔も持つ。

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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