悪夢を見ないようにする方法

Illustration: Elena Scotti (Photos: Getty Images, Shutterstock) via Gizmodo US

疲れきった体をベッドに預け、安らぎに満ちた眠りの世界へーー。

眠りとは本来、体力を回復させ、気力を養う癒しの時間であるはず。しかし、ひどい悪夢にうなされて、癒されるどころか心を乱されることもあります。

叫び声を上げながらはね起きると、全身汗だくで震えが止まらなかった。一晩中得体の知れない化け物に追いかけまわされた。出口のない迷路をさまよい続けた。子供の頃のトラウマを何度も何度も再体験させられた…。

もしあなたにもこんな体験があるなら、以下の記事が参考になるかもしれません。

あらゆる疑問に専門家が答えてくれる「Giz Asks」シリーズ。今回は、どうすれば悪夢を見ないですむようになるかを考えていきます。

Joseph De Koninck


オタワ大学心理学名誉教授

もしあなたが見ている悪夢が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こすぐらい深刻な類だったら、必ず専門家の治療を受けてください。それより軽症であれば、ある程度自分の意思でコントロールすることは可能です。方法のひとつに暗示があります。眠りにつく前になるべくリラックスして、夢で見られたらうれしいな、楽しいな、と思うことをいろいろ思い浮かべてみてください。これだけで多くの人に効果が期待できます。

もうひとつ、悪夢に真っ向から勝負を挑む方法もあります。これは「イメージリハーサル療法(Imagery rehearsal therapy)」という認知療法で、私の研究所含め多くの診療機関で有効性が認められています。方法としては、繰り返し見ている悪夢の内容を文章に書き出し、もっといい結末を考えて書き足す、というもの。

たとえば、多くの子どもたちがクマに追いかけられる悪夢を見るのですが、イメージリハーサル療法ではクマをウサギに、またはその他の無害な動物に変えてしまいます。私の研究室に所属して、子どもの悪夢について研究していた博士号課程の院生が、この方法を使って1~2週間以内に子どもたちの悪夢を消し去ることに成功しています。

もうひとつ、夢を夢と自覚しながらも自在に操ることのできる明晰夢テクニックもあります。ただ、こちらはイメージリハーサル療法より習得するのがずっと難しいですね。

Antonio Zadra


モントリオール大学内Zadra Dream Lab所長、心理学教授

まず最初に重要なポイントは、悪夢にも様々な種類があるということです。小さい頃から同じ悪夢を繰り返し見てきたという人もいますし、大きなストレスやトラウマの後に悪夢を見始める人もいますし、病状により、また服用し始めた薬により悪夢が始まる人もいます。

しかし、どのような種類の悪夢を見ているかにかかわらず、悪夢を見る回数を減らしたり、まったく見なくしたりする方法は存在します。

もっとも研究が進んでいて効果が認められているのがイメージリハーサル療法です。実践するには、まず悪夢の中でなにが起こっているのかを紙に書き出してみます。次に、そのシナリオを自分が思うままに書き変えていきます。はじまりを書き変える人もいますし、終わり方を変える人、またすべてを変えてしまう人もいれば、夢の中のごく細かい要素だけに着目する人もいます。通常悪夢から醒めたばかりの状態で行われ、8割以上の人に改善が見られています。

この方法は悪夢の原因が定かでない「突発性悪夢」にも効果的ですし、戦場から帰還した兵士や性暴力被害者、天災の被害を受けた人などが悪夢に苦しめられている場合にも効果があります。多くの専門家や臨床医がこの方法を勧めるのは、実践しやすく、自宅でも簡単にできて、改善が見られることが多いからです。

ほかにもいささかお勧めしがたい方法がいくつかあります。眠りにつく前に悪夢を見ないように自己暗示をかける人もいますが、この方法が効果的がどうかのエビデンスはまだ限られています。また、明晰夢を見られるように工夫を重ね、夢を見ている間に夢を見ていると自覚することで、悪夢のなりゆきをコントロールしようとする人もいます。しかし、こちらのエビデンスもまだはっきりしていません。それに、たとえ夢を見ている間に意識を持つことに成功しても、自分の意思で夢の内容を変えられなかった場合、もともとひどかった悪夢がさらにひどくなってしまうので注意が必要です。

Lisa DeMarni Cromer


タルサ大学内SPARTA Lab室長、心理学准教授

悪夢が普通の悪い夢と異なるのは、目を醒ましてしまう点です。私の研究室では悪夢の頻度だけでなく、悪夢が与える不快感の度合いも観測しています。悪夢から醒めた時、心臓がバクバクしているか? 汗をかいているか? パニックに陥っていたり、もう一度眠りにつくことにためらいを感じたりしているか、などの点を精査します。

悪夢が常習化した人を治療する際、まず私たちがすることは睡眠衛生の改善です。眠りにつく前に飲酒しない、最低でも寝る1時間前からスクリーンを注視しない、食べたり激しい運動をしたりしないなどのアドバイスをした上で、明かりを暗くし、脳内でメラトニンが自然に分泌されるよう促して、よい眠りへ導かれるように指導します。

それでも改善されない場合は、悪夢の書き変えを行います。夢の中で起こるすべてのことを現在進行形でなるべく詳しく書き出して、どんな妄想でもいいので嫌なところを変えていきます。地下鉄に閉じ込められた悪夢を見ているとしたら、その地下鉄が急に速度を上げはじめ、羽を生やして空へと舞い上がり、雲間を駆け抜けていくように変えてみます。この書き換えにより、彼らは夢を少しでもコントロールする術を手に入れるのです。

一番大切なのは、自分で自分の悪夢を変えられるんだ、寝ながらも自分の無意識をコントロールできるんだ、という意識です。私が今まで治療を行ってきた中には、夢を変えられるんだという気づきそのものが希望となり、大きな転換ができたお子さんもいます。

T.W.C. Stoneham


ヨーク大学哲学教授。悪夢についての研究に従事

私たちの研究によれば、悪夢を含むすべての夢は、睡眠時の知覚と内受容感覚によって引き起こされています。内受容感覚とは、私たちの体内で起こっている生理学的な現象に向けられた意識で、悪夢は特にこれと強く結びついています。悪夢を見ないようにするためには、内受容感覚を刺激するトリガーを排除する必要があります。寝室の明るさ、温度、騒音などを常に心地よいレベルに設定し、消化不良を起こしかねない飲食は避け(酒類を含む)、自分にとって一番寝心地のよい姿勢を見つけて、場合によってはイブプロフェンなどの鎮痛剤を少量服用するなどの方法があります。

もし悪夢が何らかのトラウマ体験と結びついていて、すでに心理療法士によるセラピーを受けている場合は、トラウマの所在を明らかにし、Systematic Experiential Embodied Reprocessing(SEER)など悪夢や睡眠異常行動を治療するために効果的な治療法を受けてください。

Rachel Salas


ジョンズホプキンズ大学神経学准教授

悪夢は誰にも起こりうるものです。今のようなパンデミック下では、なおさらのことです。けれども、もしその悪夢が睡眠を阻害し始めたり、不眠症の要因となったり、一人では抱えきれないほどの不安材料となっていたら、専門家の診察を受けましょう。

悪夢を治療するためには、睡眠行動心理学者が認知行動療法を行います。マインドフルネスのトレーニングを行うこともありますし、その日見た悪夢を詳しく書き出して、次の夜眠りにつく前に不安だったら「もうあの夢のことは全部言葉に記して、ちゃんと向き合ったから大丈夫」と自分に言い聞かせる方法もあります。それだけで、今までとは違う精神状態になれます。

催眠療法や瞑想が有効な場合もあります。加重ブランケットを使うことで安心感が増し、症状が改善した患者さんもいます。さらには、服用している薬品が悪夢に影響していないかも確認します。

もうひとつ大事なのは、睡眠環境からトリガーとなりうるものを取り去ることです。すでに亡くなった方の夢を見る人が多いのですが、もう悪夢を見たくないのなら寝室にその方を思い出すような物を置いておくのは得策ではありません。

さらに、レム睡眠行動障害という深刻な症状もあります。この障害を持っている人は、夢の中で誰か、あるいは何かと激しく戦います。そして乱闘の末、自分や自分と一緒に寝ている人に縫合が必要なほどの重傷を負わせてしまいます。私の患者さんのひとりは、ベッドから飛び降りて鎖骨を折る大怪我を負いました。この症状を持つ人の多くはその後パーキンソン病を発症することが知られているので、自覚症状がなくても早い段階で特定する必要があります。

悪夢に悩まされていても、医師の診断を受けたがらない人もいます。恥ずかしいと感じたり、大したことがない、みんなそれぞれ自分で対処しているんだからわざわざ医療援助を受けるまでもない、と感じたりするからです。でも、もし溺れたり、首を締められる悪夢を繰り返し見ていたなら、それは睡眠時無呼吸症候群に陥っていることを暗にを示しているかもしれません。悪夢を繰り返し見ることが、睡眠障害や、その他の障害を示唆している場合はあります。もし悪夢を見ているのなら、まずは医師に相談してみてください。

Deirdre Leigh Barrett


ハーバード大学心理学教授。『パンデミック・ドリーム(Pandemic Dreams)』著者で、主に夢についての研究に従事。

コロナ禍の夢を尋ねるアンケート調査でも、最近よく出てくる質問ですね!

まず、悪夢にははっきりとふたつのタイプがあります。ひとつめに、他の夢と同様にレム睡眠時に起こりやすい典型的なこわい夢があります。現れるイメージは奇妙なものばかりで、いかにも「夢」といったかんじです。このような夢を見て恐怖する人もいますし、「おもしろい」「ホラー映画みたいでワクワクする」と感じる人もいます。

ふたつめはトラウマ体験による悪夢で、実際にあったトラウマを伴う体験を夢の中で再体験するものです。夢の中では実体験とまったく同じように物事が進行していく場合と、それ以上に進展し、実際には危惧されていたものの起こらなかったことが夢の中で起こってしまう場合もあります。トラウマ体験による悪夢にも夢特有の奇妙なゆがみが見られることがあります。トラウマ体験による悪夢はレム睡眠時のみならず、眠りのすべての段階においてみられます。そして、夢を見た人に必ず大きな不快感を与えます。

トラウマ体験による悪夢を消し去るために一番効果的な方法は「統制夢(mastery dream)」で、夢とは異なるポジティブな結末に書き変えます。私が1996年に編纂した『トラウマと夢(Trauma and Dreams)』の本にもあるように、セラピストはまず統制夢のことを説明した上で、様々な手法を用いて患者が自分の悪夢に違う結末を描けるよう促します。睡眠医学専門の医師・Barry Krakow氏はこれらの手法をまとめて3つのセッションで構成されたグループ治療法を確立しました。その後の研究で、この治療法がトラウマ体験による悪夢を大幅に削減するのに効果的だと立証されています。この治療法は自分で試してみてもいいのですが、通常はセラピストと一緒に行います。

一方、普通のこわい夢を見ないようにするもっとも効果的な方法は、寝る前にどんな夢を見たいかを想像することに尽きます。会いたいけど会えない大切な人と、せめて夢の中では一緒に過ごしてみたいと思いませんか? または、お気に入りのバケーションスポットに行ってみる? 空を飛ぶ夢は誰でも楽しめますよね。それとも、昔見た素晴らしい夢をまた見てみたいかもしれません。私たちが呼ぶところの「ドリームインキュベーション」という方法を使えば、あなたが見たい夢を自分にオススメすることが可能です。

夢は非常に視覚的なものなので、画像やイメージは特に夢の世界と通じやすい性質があります。大好きな人、場所、または自分が空高く舞い上がっている姿を想像してみてください。または、前に見た素晴らしい夢を細部にわたって自分の頭の中で再現してみてください。イメージすることが苦手ならば、ベッドに近いところに見たい夢に関連している写真やモノを置いて、寝る直前にそれらが目に入ってくるように眺めながら消灯してください。そして、眠りに落ちていく過程で、見たい夢のことを自分に繰り返し言い聞かせてください。私の研究では、ドリームインキュベーション方法を使って見たい夢が見れる確率は50%ぐらいです。見たい夢を見れなくても、それはそれで眠るまで楽しい時間を過ごすことになるので不安が解消されますよ。

Courtney Bolstad


ミシシッピ州立大学で心理学を専攻する大学院生。研究分野は悪夢。

悪夢を見ないようにする、あるいは見にくくするには、トラウマ体験に遭わないように努め、ストレスと不安を緩和し、トラウマ体験に遭ってしまった場合はその後のケアを怠らないことが重要です。

ストレスと不安を和らげるには、深呼吸、漸進的筋弛緩法(progressive muscle relaxation)や瞑想などのリラックス効果を生む行動や、運動したり、日記をつけるなどのセルフケアが効果的です。さらに、ストレスの原因となっている要素を取り除くことも重要です。今現在でいえば、例えばテレビを見過ぎないことや、家族や友人たちと不安を何度も口に出さないこと。これは新型コロナウイルスの蔓延が世界的に引き起こしている集団トラウマから身を遠ざけるのにも効果的です。

すでに悪夢を見ているのであれば、研究で効果が実証されている「イメージリハーサル療法」というアプローチが悪夢を見る回数を減らしたり、悪夢の内容そのものを変えてくれます。この方法では、まずターゲットとなる悪夢の詳細を確認し、不快感を打ち消すために書き直して、さらに新しく書き直した夢を頭の中で反芻して悪夢と差し替えます。

はじめに、ターゲットの悪夢を詳細に書き出します。このような悪夢は繰り返して見ることが多いのですが、もし毎回少しずつ変化していく夢である場合は、夢に共通していることを探し出して、それについて書いてみてください。次に、夢が感情的にニュートラルに、もしくはポジティブにもなり得るように、夢のストーリー展開や内容をあらゆる手段を使って変えてください。せっかく夢の世界にいるので、想像力を働かせて現実離れした要素(例えば空を飛ぶなど)を付け足すこともできますよ。次に、新しく書き直した夢のイメージを膨らませて、1日2回、最低5分ずつ、夢のリハーサルをしてみてください。初めてやることですから最初はちょっと難しいかもしれませんが、何度かやっているうちに慣れてくるはずです。リハーサルは寝る直前ではなく、日中に行うことを推奨します。この方法を続けていくうちに、数週間で夢の内容が改善したり、悪夢を見る頻度が減ったりすることを多くの人が報告しています。

トラウマ体験による悪夢を見ている人の場合は、通常トラウマを体験した1ヶ月後以降からイメージリハーサル療法を開始したほうがいいでしょう。トラウマ体験直後に見る悪夢は、そのトラウマを長期的に理解し、処理するために重要となってくる場合もあるからです。しかし、1ヶ月後以降も悪夢が続く場合はイメージリハーサル療法を使って対処したほうがいいでしょう。

イメージリハーサル療法は悪夢を見る頻度を減らし、悪夢の内容そのものを変える力を持っていることが研究により実証されています。悪夢を減らし、睡眠の質を上げる方法は他にもいろいろあって、「睡眠衛生」の部類に入ります。毎日決まった就寝・起床時間を設定し、ベッドで過ごす時間を寝るか、性的な愉しみを追求する時だけに限定し、体力を回復させるのにちょうどいい睡眠時間を摂り(大人であれば7~9時間。寝過ぎないことも大切です)、昼寝は避け、定期的に運動し、睡眠に影響を及ぼす成分など(ニコチン、カフェイン、アルコール等)は摂取を控え、寝る直前に飲む水の量を調整し、空きっ腹で寝ないことなどが推奨されています。

これらすべてを実行してもまだ悪夢を見続けたり、安眠できない場合は、睡眠行動心理学者か心理療法士に相談してください。認知行動療法、イメージリハーサル療法など、自分の症状に合った治療法を提案してくれるはずです。

当記事はギズモード・ジャパンの提供記事です。

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