第95回 『魔の巣』

BOOKSTAND

2020/7/7 10:13

『魔の巣』
1966年・アメリカ・68分
監督・脚本/ハロルド・P・ウォーレン
出演/トム・ネーマン、ジョン・レイノルズ、ダイアン・マーハ、ハロルド・P・ウォーレンほか
原題『Manos:The Hands of Fate』

***

前回の『ロボット・モンスター』に引き続き、屈指のZ級最低映画(2012年、全米ワーストランキング第3位)を紹介したい。『魔の巣』と言えば、藤子不二雄Ⓐ原作『笑ゥせぇるすまん』に登場するバーの名称で知られるが、この場合は原題『マノス』に掛けたグッジョブな邦題ネーミングだ。
「『死霊の盆踊り』『ロボット・モンスター』『プラン9・フロム・アウター・スペース』に匹敵するチープ作品」、「ハロルド・P・ウォーレン監督の、エド・ウッドを超えるカルトな演出を観られる唯一の作品」などと、コアなトラッシュ映画マニアから絶賛(っていうのかな、この場合)される謎の作品『魔の巣』の全容を明らかにしよう。

砂漠が広がるメキシコ国境をひた走る3人家族(プラス小犬)が乗るオープンカー。脇を通過した停車中のスポーツカー内では、若いカップルが抱き合って熱いキスをしている。このシーンの始め、助監督が振っているカチンコが画面の右端に映り込んでいる(苦笑)。そこへ保安官が来て「どこかヨソでやれ!」。

一家の車は、田舎系ホラー映画の定番「ニセ標識」に誘導されて怪しい一軒家に辿り着く。家の前には、体をモジモジさせてキョドっているヒゲ面の男が腰掛けている。男は「私はトーゴ。ご主人様の留守を守っている」。日が暮れてきたので一泊させてもらう事になるが、「こんなとこ泊まりたくないわ。不気味だもの」と失礼な美人ママ。さらにホテルのボーイでもない足の悪いトーゴに重いトランクを部屋まで2つも運ばせる(辛そうなトーゴ)米国中流ホワイトカラーの夫婦は、見た目で相手を見下すクズだ。

リビングの壁には、黒い大型犬を従える怖い顔した家主の肖像画。すると外で犬の遠吠えがしたのでパパが追っ払おうとドアを開けると、隙間から愛犬が脱走して数秒後に「キャンキャン!」。パパは何者かに咬み殺されている愛犬を発見し、死骸をどこかへ隠す。部屋に戻ると娘のデビーが「ワンちゃんは?」(名前ないのかよ)。今度はデビーが外へ出ていき、夫婦が探しに行くと「ワンちゃんと遊びたかったの」とドーベルマンを連れて戻ってくる(そいつだよ! 君のワンちゃん咬み殺したの)。「絵の犬だ!」と驚く夫婦にデビーは「人がいっぱいいる所に行っていたの」と言うが早いか、次のシーンは即「人がいっぱいいる所」。いや、普通そこまで歩いていく過程とか見せるでしょ。

そこは野外の神殿で、下着がスケスケの白い衣装を着た数名の眠れる美女が柱に縛り付けられている。台座の上には家主が寝ていて、怖くなった親子は家に戻る。入れ替わりにトーゴが神殿に来て、主が寝ているのをイイことに「俺はあの奥さんが欲しいんだ。あれは俺のだぞ」とタメ口を利いている。柱の女達は全員、主の妻だという。

家に戻ったトーゴは、まず窓の外からママの着替えを覗く(カーテンないのか?)。一方、例のバカップルが別の場所に移動してキスをしていて、再び保安官に「またお前らか。何度言わせるんだ」と怒られる。ホラー映画で真っ先に殺されるパターンのカップルだ。

さて神殿では、ついに主が「おおマノスよ」と覚醒する。6人いる妻達は、焚火を囲んで車座になりペチャクチャと井戸端会議を始める。「子供を殺すのはダメ」と主張する1号妻と「皆殺しよ」という2号以下の間で意見が分かれている。「マノス」とはスペイン語で「手」の事で、彼らは手を崇拝する一夫多妻のカルト教団らしい。ここは悪魔の巣窟、つまり「魔の巣」だったのだ。

教祖が神殿を去った後、意見の相違から妻達が3対3に分かれて大乱闘を始める。やがて、ママを窓から覗きに行っていた教祖(アンタもか)が戻ってきて「やめろ!」と一喝する。そしてトーゴはマノスの生贄として台座の上に寝かされ、教祖の「殺せ!」で2人の妻が襲い掛かる。でも体を揺さぶったり顔を手の平でムギュムギュしたりと、それで人が殺せるのか? 教祖がグタッとしているトーゴの左手を焚火で炙ると、「ボンッ」と火花が散って手首が切断。その手首を頭上に掲げて高笑いする教祖を後に、トーゴは手首の切断面から炎を上げながらスタコラサッサと走り去っていく。

さて、ついに一家は逃走を図り、パトカーも接近中。一家が助かる可能性が高まるが、彼らの前に教祖が立ちはだかる! パパは必死に発砲するが「効かないよ」といった顔の教祖(ピンボケ)がフェードアウト。画面が明るくなると2人の若い女性が乗る車がバカップル号(3度目の登場)の横を通過する。2人が行き着いた家の前に立っていたのは、顔色の悪いパパ。神殿ではママが白い衣装を着せられて柱に加えられ......あ、デビーちゃんまで(泣)。パパ「私はマイケル。ご主人様の留守を守っています」で完。

全編に渡るナニコレ珍場面。バカップルは殺されず、保安官は役立たず。意味不明の間(ま)や噛み合わない会話。要するに誰も来ない砂漠の一軒家に住む邪教マノスの教祖がニセ標識でドライバーを導き、好みの女だったら妻にしてしまうというお話。マノス、恐るべし!

(文/天野ミチヒロ)

当記事はBOOKSTANDの提供記事です。

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