上野耕平 オンラインコンサート『配信小屋 Vol.1』レポート~ 生演奏の臨場感とサクスフォンの詩情を自宅で

SPICE

2020/7/3 18:00



2020年6月10日(水)に、サクソフォン奏者の上野耕平によるオンラインコンサート『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』がイープラス・streaming+で行われた。「舞台で演奏するのは久しぶり。妙に緊張しますね。初めて舞台に立ったことを思い出すような初々しい気持ちです」と冒頭に語った上野。盟友のピアニスト山中惇史と渾身のプログラムで挑んだ。今回は、コンサート当日の模様をレポートする。

サクスフォンの熱演に時を忘れて


コンサート開始時刻の19時。J.Sバッハ『G線上のアリア』から演奏の幕が開いた。美しくシンプルな主題に、日常をしばし忘れ、コンサートの時間に誘われる。上野のサクソフォンが丁寧に先導しつつ、豊かで温かな山中のピアノが寄り添う。息の合った瑞々しい調べに耳を澄ませた。演奏を終えた上野は、リラックスした声で語った。

「ようこそ。第一回の配信小屋にお越しいただきありがとうございます。画面の向こうに沢山のお客様がいらっしゃるのと思うととても嬉しいです。耳馴染みのある曲から、ちょっとコアな奥深い作品、聴いたことのない刺激的な作品まで色々取り揃えていますので、ぜひ最後まで聴いてください。」
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)

続く作品は、シューマンの『3つのロマンス 』。シューマンが妻クララへクリスマス・プレゼントとして贈った作品として知られている。気高くも、想い溢れるがままに描き出された3つの物語に身を委ねた。これまでにも度々、この作品を演奏してきたという上野&山中。「観客のいない会場で演奏することはなかったので、お客様に影響されていることを実感しました。今日の演奏は、これまでよりも、一層、個人的な感じがしたと思います」と感想を述べた。

前半のラストを飾ったのは、上野が知られざる名曲と呼ぶバザンの『ロマンス』。優しく、しっとりとした旋律に心惹かれた。サクソフォンとピアノが繊細に重ねられ、対比と融合を繰り返しながら、綿密に織り上げられていく。静かな中に、豊かな強弱の色彩が光り、まるで楽器同士が対話をしているかのような好演に、思わず溜息が洩れた。リアルタイムのチャットには、「幸せな気持ちになります」や「小学校の娘はうっとり。母はご飯を作りながら聴かせていただいています」といったコメントが次々と寄せられた。上野も、観客からの生の声が寄せられることを喜んでいた。
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)

その後、暫くの間、上野と山中のトークで場が和んだ。二人の母校である東京藝術大学での在学中のエピソードや先生の話、そして、二人の出会いにまつわる秘話が披露された。上野は既にYouTubeで生配信をしているが、互いの楽器が難しいといった何気ない会話から、飾ることない彼の自然体な魅力が垣間見える。オンライン上には、アットホームな雰囲気が溢れていた。

オンラインコンサートで感じる一体感


思いの丈を語り合ったトークコーナーに次いで披露されたのが、トマジの『バラード』。上野が、「サクソフォンのために書かれた曲のなかでは1位、2位を競うぐらい大好きな曲」と語る一曲である。

「夜に一人の道化師が憂鬱な話を物語る
彼のようにひょろ長く落ち着いた英国の古い旋律にのって
彼の運命の影は 川岸に沿って曲がりくねる
古臭い冗談が 彼の口の中でまとった煙草の味に 彼は苛立つ
ぶかぶかな衣装とのっぺりした化粧から逃れようとしても
ためらいがちに喜びと悲しみの間を行き来するサクソフォンにしかなれない
彼の絶望が響きの沼の底へとまっすぐに沈んでいくと
道化師は また仕方なく観客を笑わす」

上野による詩の朗読に続いて、おとぎ話のような古風な旋律が独白のごとく始まった。道化師は、厚塗りの化粧と華やかな衣装で滑稽に振舞い、人々を楽しませる。ささやかに、しかし、詩情豊かなサクソフォンの調べは、次第に、陰影を帯び始め、道化師の憂鬱さと内奥にうねる心の闇も見せてくれる。不思議な魅力を湛えた一曲だった。
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)

続くリムスキー=コルサコフの『熊蜂の飛行』で、雰囲気はがらりと変わった。熊蜂の羽音のような鈍いサクソフォンソロに始まり、ジャズ調の華やいだ粋なリズム、矢継ぎ早に繰り出される躍動感がみなぎる超絶奏法。最後にはスケールの大きな展開をみせた。まさに、上野の演奏の醍醐味を知る一曲となった。即興のようでありながら、緻密に楽譜に書き込まれた音の数々を、息をのむような演奏でさらりと吹きこなす。場の温度は一気に高まり、オンライン・コンサートでありながらも一体感が生まれた。
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)

コンサートのクライマックスは、お待ちかねの『カルメン・ファンタジー』。山中がサクソフォンとピアノ版に編曲したというこの作品では、「アラゴネーズ」から始まって、「ハバネラ」、「トレアドール」、「花の歌」、「セギディーリャ」、「ジプシーの踊り」と数々の名曲が情熱的に繋げられている。アーティキュレーションと自在なテンポで、様々に趣を変えながら、静と動を巧みに描き出し、作品『カルメン』の奔放さと激情を肌で感じさせた。そして、なによりも二人の熱演に心が揺さぶられた。

『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)
『配信小屋 Vol.1上野耕平×山中惇史』(Streaming+より提供)

興奮冷めやらぬ雰囲気の中、観客から熱狂的な「アンコール!」の声援が寄せられる。アンコールとして演奏されたのは『ニュー・シネマ・パラダイス』メドレー。誰もが知るイタリア映画音楽の調べが郷愁をそそう。最後に温かい余韻を残した。こうして、あっという間の1時間半が過ぎた。ジャンルの垣根を越えた粋な選曲に、サクソフォンの新たな可能性を感じさせる一夜となった。『配信小屋』は、第二弾も近々予定されているとのこと。次は、上野のどんな演奏に出会えるのか、今から待ち遠しい。

取材・文=大野はな恵

当記事はSPICEの提供記事です。

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