琴音、次代の歌姫が1stフルアルバム『キョウソウカ』でラブソングに挑戦した理由とは?

SPICE

2020/7/1 12:00

新潟県長岡市出身、まだ18歳のシンガーソングライター、琴音が初のフルアルバム『キョウソウカ』をリリースした。2年前にインディーズデビューして以来、高校生とは思えない歌唱力と表現力の高さが話題になってきた彼女だが、ここに届いた『キョウソウカ』はこれまでになかったラブソング中心の一枚。邪気なく目の前の風景を描き、それを堂々と歌で表現してきた10代の琴音が、恋心をテーマに歌詞を綴っていることがとても新鮮に感じた。数々のオーディションやコンテストで高い評価を得て、次代の歌姫との呼び声も高い琴音が、1stフルアルバムでラブソングに挑戦したのはなぜなのだろうか。取材当時、新潟で暮らす琴音にオンラインでインタビューした。



――1stフルアルバムにして、ラブソングが多いアルバム、そんな印象です。初のフルアルバムに際して、これまでと歌詞の方向性が変わったのはなぜだったんですか?

今まで、私の書く歌詞には題材になる人が一人いて。その人に向けて書くことが多かったんです。でもそれはラブソングじゃなくて、テーマは家族だったり友達だったり……。そもそも私はラブソングを書いたことが全然なかったんです。そこにトライしたかったというのもあって、今まで書いたことのないテーマで書くというやりがいのあることに挑戦してみたんです。ラブソングしか書かないよ、くらいのアーティストの方もいらっしゃいますよね? でも自分は書いたことがない。こんなに世の中にはラブソングがあるのに……って。

――ラブソングにトライしようと思ったことはあったんですか?

今までも、書いてみようかな……と思って書こうとしたことはあったんですけど、挑戦しては“う~ん……”となって(笑)。数行書いて、“あ、ダメだ!”ってなったり。だから今回もできないんじゃないかなって思ったりもしたんです。でも、純粋な愛を伝える曲は書けたかなと。今回、他の方に作詞していただいた曲もあるんですけど、やり遂げた曲もあったことで少しだけ前に進めたかなと思います。

――ラブソングを書くにあたり、参考にした、お手本にしたソングライターはいますか?

私が尊敬している方の一人が、Mr.Childrenの桜井和寿さんなんです。桜井さんは、直接好きな気持ちを“好き”と伝えることもできるし、言葉にしなくても愛情があることを伝えることもできる。そういうことが私もできるようになれればな……って思っています。その両方ができればいいなと。まだまだ私は序盤で心が折れて、またやり直して、また序盤で折れて……の繰り返しなので。

――ラブソングにこれまで抵抗があったのはなぜだったのでしょう? 照れ、羞恥心など以外にありました?

もちろん言葉にするのが恥ずかしいという思いもあったと思うんですけど、単純に経験があまりなかったというのがあるかな……。友達の中には“恋多き乙女”みたいな人も多かったので(笑)、そういう友人の話を参考にすることはできたんですけど、自分にはそんなに経験がなかったんです。家族とか友達に対する思いを言葉にすることはできても、恋愛に対して情緒がたかぶるようなことがなかったんですね。それでも、ラブソングに挑戦していきたいと思ったんです。


――では、実際にラブソングを書いてみて、気づき、発見はどういうところにありましたか?

最初にラブソングの歌詞を自分で全部書いたのは「The moon is beautiful」という英語詞の曲と、「昨日より」というギターと歌だけの曲なんです。「The moon is beautiful」の場合は、ラブソングを書くということだけに引っ張られたものではなく、まず、“バーのような雰囲気のある場所でドレスを着た女性が歌っている”というイメージで書きたいというのが最初にあったんです。つまり、ラブソングを書くこと以外の目標がもう一つあったんですね。「昨日より」にしてもそうで。あれは、素朴で可愛らしい曲が書けたらいいなっていうのがもう一つあったんです。ラブソングという一つの目標だけではない、もう一つのテーマがあることで、割とラブソングにも入っていきやすかったです。バーで女性が歌う曲って、情熱的な愛っていうイメージがあるじゃないですか? 情熱を感じる歌詞ってどういう感じだろう? みたいな感じで書き始めたら出来上がっていって。

――バーで女性が歌う情熱的なラブソング……といって頭に思い浮かぶのは例えばどういう曲ですか?

昔、吹奏楽部で演奏したことがあるホイットニー・ヒューストンの「すべてをあなたに」かな。吹奏楽でやってもムーディーな曲なんですよね。あと、ジャズっぽい和音を使った曲がいいかなと思って。ラブソングってフィールドが広いので、それだけじゃなく、それに何かアイデアを加えていくようなやり方がよかったのかなって思います。他にもこの「The moon is beautiful」は、全編英語の歌詞で書きたいという目標もあったんです。そういういくつかのアイデアが重なって、自然とラブソングが書けたのかなって思いますね。

――なるほど。Moon=月というのは女性を象徴するワードでもありますしね。

夏目漱石が“I Love You”を“月が綺麗ですね”と訳した……というエピソードがあるじゃないですか。いいなあってずっと思っていたんですけど、全編を英語詞にする時にそのエピソードが浮かんできたんです。ストレートな表現じゃないけど愛がある、みたいなのっていいなと思って。タイトルにそのエピソードの訳の方をつけたらおもしろいかなって。


――「Fly Me To The Moon」のようなジャズ・スタンダード曲もありますけど、月はそもそも一人では輝くものではないじゃないですか。恋愛もそうですよね。一人でできるものではない。そういう解釈もあるのかな、と思いました。

ああ、なるほど。ありがとうございます。自分では気づかない解釈です(笑)。ほんとに夜のバーで歌う女性のイメージ……くらいで書いたんですよ。

――具体的なシンガーのイメージはありました? 例えばノラ・ジョーンズとかエラ・フィッツジェラルドが歌っているイメージとか……。あるいは、自分がそこで歌っているイメージとか……。

いや、特になかったかもしれないです。あくまで曲を作っている段階では、綺麗な女性がドレスを着て歌っている、というイメージがあって。歌詞を書くときにはまた別の感覚で書いていたので……特に誰かというのもなかったですし、自分が歌っているのを想像して……みたいなのもなかったです。ただ、歌詞に関していうと、その題材に対して、その人の気持ちになって書くこともありますし、それに対して自分が思っていることを書く、みたいなこともありますし……色々なんです。

――曲と歌詞ではどちらが先なんですか?

楽曲にもよりますけど、だいたい曲ですね。曲を作って、メロディを作って、どういう歌詞にしていこうかってことを考えます。これならどういう雰囲気の歌詞が合うかな……って考えたり。こういう雰囲気の曲が作れたらいいなあっていうようなやんわりしたイメージが先にある場合もありますけど、それでも曲が先に出来てから歌詞ですね。今回のアルバムの場合も、いろんな曲を作ってみたいなという気持ちが先にあったんです。アルバム全体のイメージではなく、一つ一つの曲があって、それをまとめていく、みたいな感じでした。だから古い曲もあります。「キョウソウカ」は中学の頃に作った曲なんです。


――では、今回のアルバムの中で琴音さんが歌詞を書いている曲について、それぞれ歌詞の目線をおしえてもらえますか? 例えば、「今」という曲は、どういう目線から書いた歌詞なんでしょう?

あれは自分の気持ちや思考回路を言葉にしたので主軸は自分にありますね。

――「あなたのようになるために」は?

これも同じタイプで、自分の尊敬する先輩に対しての気持ちをそのまま書いた感じの歌詞です。

――「キョウソウカ」については?

これは実際にあった出来事をモチーフにした曲なんです。昔、対バンをしたことがあるご夫婦のミュージシャンがいて。ご夫婦の旦那さんが亡くなられてしまったんですけど、残された奥さんに何か伝えることはできないかな……何もできないけど何かしたい、という気持ちから書いた歌詞なんです。自分語りといえば自分語りなんですけど、その人に直接関わっている歌詞というより、もう少し素直に言葉で気持ちを伝えている感じですね。

――「キョウソウカ」はアルバムタイトルでもありますが、示唆的な言葉……造語ですよね。狂想曲ならぬ、狂想歌っていうのがユニーク。狂想曲のもともとの言葉の意味はもちろんクラシックの音楽用語ですが、転じて特定の出来事に対して人々が大騒ぎする様子を比喩的に表現したもの、とされています。それを歌として置き換えるというアイデアが面白いですね。

もともと小さいことで騒ぐ、みたいな意味ですけど、それって自分の中にも当てはまるし、この曲のテーマにも合うかなと思って。知り合いの旦那さんが亡くなられてすごくショックで悲しくなってしまった自分の気持ちを描くにあたって、割と狂想曲が転じて、狂想歌って合っているかなと思い。自分の中では特別な曲なんですけど、いろんな人に聴いていただく時に、それは娯楽の一つでしかないっていうことへのジレンマもあるんですね。自分にはすごく大切な曲だけど、届いた時には、他の人にとってはそこまでの曲じゃなくなるかも……ってひねくれた思いもあったり(笑)。なんかそういうことも考えて「キョウソウカ」ってつけたんです。いろんな人が聴いてくれた時に、それぞれどう感じるのかわからないですけど、その時には“狂想歌”って文字じゃないかもしれない。でも、それだからこそアルバムのタイトルとしてはいいのかなって思っています。


――決してうまい表現を使ってるわけじゃないのに、言葉を自由に操っている、その豊かで柔軟なところが歌詞に現れていて、そこがとても魅力的です。どういう時に歌詞が生まれたりしますか?

印象的な言葉が見つかったり、きっかけになる出来事があると曲を作りたくなったりしますね。ただ、曲はその断片を残しておいて、後から使ったりすることはありますけど、歌詞は書き残しておくより、その時に浮かんだ言葉をそのまますぐ歌詞にしたりします。割と瞬間的に歌詞にしちゃうことが多いですね。

――夜中から明け方までの時間帯が描かれることが多いのには気づいていました?

そうですね。夕方から明け方くらいまでの時間帯は割と好きなんですよ。外の情景をイメージした時に出てくるのがその時間帯なんですね。何か印象的なことがあったりしたら歌詞を書くんですけど、そういう時には割とその時間帯が舞台になったりしますね。

――夜に遊びに出たりもしないけど?

(笑)そうですね。微妙な時間帯だからこそ味わいがあると感じていて。あと、実際に夕方に学校から帰るようなことがあると、夕焼けが綺麗と感じたことも経験として大きいのかな。夜は夜で家の外で夜空の星を家族と一緒に眺めていたり、夜中に部屋の中で夜更かししたり……そういう経験が自分の中でイメージする時に自然と浮かんできたりするのかなとも思いますね。眠れなくて、明け方に目がさめると外はもう夜明けになっていて、そういう時に窓から外を見るとすごく綺麗に見えたりしたこともありました。

――それは生まれ育った新潟の記憶ですね。

そうです。それは本当に大きいかもしれないです。そういう経験が全てベースになっていると思うので。この春から東京の専門学校に進学することになっているので……今はコロナの影響で(取材当時は)まだ始まっていないんですけど、東京に引っ越したらまた少し描く情景が変わってくるのかもしれないですね。これまで、何か相談事があったらいつも家族に相談したりしていたんです。「キョウソウカ」という曲をアルバムに収録するにあたっても、そもそもご主人を亡くした奥さんのことを考えると、そんな曲をアルバムに入れてもいいのかなって悩んで。それで家族に相談したんですけど、大丈夫だよ、きっとその奥さんも喜んでくれるよって言ってくれて。それでアルバムに収録することにしたんです。

取材・文=岡村詩野


当記事はSPICEの提供記事です。

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