歌舞伎史上初の試み、図夢歌舞伎『忠臣蔵』(構成・演出・出演:松本幸四郎)開幕レポート

SPICE

2020/6/30 11:00



2020年6月27日(土)、松本幸四郎が構成・演出を手がけるオンライン歌舞伎作品「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」を視聴した。本作は『仮名手本忠臣蔵』を配信向けに大胆に構成し直し、通し狂言として全11段を5回に分けて送る企画。配信プラットフォームにはイープラスのStreaming+が用いられた。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」((C)松竹)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」((C)松竹)

第1回配信は「大序から三段目」で、高師直(こうのもろのう)が塩冶判官(えんやはんがん)の美貌の妻・顔世御前(かおよごぜん)に横恋慕して口説いた挙句にフラれ、その怒りを判官にぶつけ、判官がついにたまりかねて斬りかかる発端まで。幸四郎は高師直・加古川本蔵(かこがわほんぞう)・塩冶判官の3役という大車輪の大活躍! 顔世御前を中村壱太郎が勤め、狂言回しとなる口上人形の声は市川猿弥が担った。

まずはプロローグ、「エヘン、エヘン!」と咳払いをしながら、眉毛を上下コミカルに動かす口上人形が画面に登場。「三密を避け濃密に、夢を図る歌舞伎、“図夢歌舞伎”と銘打ち、オンラインにて上演することに相成りましてございまする」……猿弥による達者な語りは楽しく、ワクワク感を盛り上げてくれる。登場人物や配役、あらすじなどを分かりやすく説明し、忠臣蔵の物語へグイッと引き込んでくれた。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」口上人形=市川猿弥((C)松竹)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」口上人形=市川猿弥((C)松竹)

最初の場面は鎌倉鶴岡八幡宮の社前、高師直が美しい顔世につけ文(ラブレターを渡すこと)をする場面。別のスタジオでスタンバイする壱太郎の顔世と画面をつなぎ合わせ、一緒にいるように合成。別空間で演技の息を合わせ、今のご時世「密ですっ」と言われてしまいそうな近距離をリモートでクリアした。この場面のもう一人の重要人物、顔世の窮地を救う若狭之助は画面に登場せず、師直が台詞を掛ける方向と目線でカメラ側に「いる」と感じさせる見立てのような手法で処理。邪魔された師直の、いかにも悔しそうな憎々しげな顔がイイ。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」右から、高師直=松本幸四郎、顔世御前=中村壱太郎((C)松竹)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」右から、高師直=松本幸四郎、顔世御前=中村壱太郎((C)松竹)

次のシーンは、若狭之助の家老・加古川本蔵が鶴岡八幡宮での出来事を心配し、主人を思う場面。思慮深く、老獪な本蔵を演じる幸四郎の味のある演技は、細やかな思いが伝わってくる。

この日の最後は足利館松の間での刃傷。フラれた師直が腹いせに判官を侮辱し、たまりかねた判官に斬りかかられるシーンだ。ここが第1回配信のクライマックス! 「判官役にしか見えない景色=判官目線」で動くカメラワークによって、悪態をつく師直の底意地悪い表情や台詞を、視聴者は超至近距離で体験できる。これによって観ている側は、いびられて耐える判官の気持ちに自然とシンクロし、師直への怒りがマックスに。この間チャットを覗くと「憎たらしい」「なんか腹立つ」などといった感想が次々と流れていき、可哀想な判官に大いに同情する視聴者が続出した模様(チャットは生配信時のみ参加&視聴可能。 “みんなで観ている”気持ちになる生ならではのお楽しみだ)。生き生きと憎まれ役を演じる幸四郎の演技を特等席(?)で追え、普段ならありえないアングルから堪能できた。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」高師直=松本幸四郎((C)松竹)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」高師直=松本幸四郎((C)松竹)

舞台とは違う構成や演出でコンパクトになった作品は、場面ごとに背景&カメラワークが変化して世界が切り替わり、通常なら一時間半はかかる「大序から三段目」が約30分でまとめあげられた。バーチャルではない書割の背景、近距離でまじまじと見られる美しい衣裳からは衣擦れの音も聞こえ、生の舞台を思い出す。久々に集ったであろう裏方たちの仕事が、歌舞伎が恋しいシワシワの気持ちにしばし潤いを与えてくれ、画面越しに職人技を思った。幸四郎の師直と本蔵、壱太郎の顔世は初役で、「いつか本公演で……」という夢も広がる。終演直後に行われた出演者たちによるトークでは、舞台裏などが語られた。
「アフタートーク」右から、松本幸四郎、市川猿弥、中村壱太郎
「アフタートーク」右から、松本幸四郎、市川猿弥、中村壱太郎

生配信では、音声が聞きにくいなどのハプニングもあったが、大方の問題は編集版アーカイブでは調整されていた。初めての試みには課題もあるだろうが、視聴者が新しい表現を一緒につくる気持ちで、この試行錯誤を厳しくも温かく見守りたいところ。あの手この手で生の演技を発信してくれる俳優の奮闘、裏方たちの心意気が企画の肝だろう。歌舞伎にとって「上演できない」苦難の状況下、ピンチをチャンスに変えるべく「やったことないこと、やってみよう」と集まった者たちの名前が並ぶ、エンドロールまでが作品と感じた。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」リハーサル風景(撮影:塚田史香)

配信は残り4回。7月4日(土)配信の第2回「四段目」には、大星由良之助として幸四郎、大星力弥として市川染五郎が登場。さらに7月11日(土)配信の第3回「五・六段目」では早野勘平を市川猿之助、斧定九郎を幸四郎が演じる。
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」稽古場にてスタッフの皆さん(撮影:塚田史香)
「図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回」稽古場にてスタッフの皆さん(撮影:塚田史香)

また、本作には先頃、Zoom演劇『門外不出モラトリアム』で話題となった劇団ノーミーツが諸面で全面協力している。これまで歌舞伎に触れたことのない層にも是非観てほしい。

文=川添史子

当記事はSPICEの提供記事です。

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