ニシキゴイが農村の少子高齢化を打開する?一匹1億円超の“泳ぐ宝石”も

日刊SPA!

2020/6/30 08:30

 観賞魚として古くより親しまれてきた「ニシキゴイ」。かつて日本ではステータスでもあったが、近年は自宅の庭に池をつくる人は減っており、あまり見られなくなりつつある。一方、海外での人気はうなぎのぼりだ。そんなニシキゴイを取り巻く現状とは?

農林水産業に詳しく、日本の食の海外流出を扱った『日本が食われる~いま、日本と中国の「食」で起こっていること~』(彩図社刊)を6月30日に上梓するジャーナリストの松岡久蔵氏が寄稿した。

◆「泳ぐ宝石」と呼ばれるニシキゴイ、1匹2億円のケースも

「さあ、ほかにいらっしゃいませんか? いらっしゃいませんね? では、2億300万円で落札!」

――2億円の落札というと高級絵画を想像してしまうが、実はこれ、2018年10月、広島県三原市で開かれた高級観賞魚のニシキゴイのオークションの光景だ。

ニシキゴイは「泳ぐ宝石」と呼ばれ、近年、海外の富裕層から人気だ。同じ魚ではマグロを大手寿司チェーンのすしざんまいが3億3000万円で競り落としたのが有名だが、ニシキゴイはあくまで観賞用のため、より贅沢品の性格が強い。

日本政府は農林水産物・食品の年間輸出1兆円の目標をかかげているが、主力商品となることを期待されていた。欧米に加え、中国や香港、タイなどアジア向けの輸出が伸びており、財務省貿易統計によると、2018年の輸出額は15年前の3倍となる43億円に上っていたというからそれもうなずける。

新型コロナウイルスの影響で今年と来年は厳しい輸出実績が予想されるが、「全体の1%にあたる1000万円以上の超高級魚は競り落とした後、日本国内でサラブレッドのように育てるケースが多く、影響は限られる」(養鯉業者)という。

かつては日本国内でも地方などで鯉を入れる池があったものだが、東京都内など都市部では地価高騰でそれもかなわなくなった。そのニーズを日本庭園が好きな中国などの海外の金持ちが満たしているという構図だ。

◆東南アジアには低価格帯

では、ニシキゴイは常に富裕層向けでしか海外のニーズはないのだろうか? 実は、数百円から高くて数千円程度の価格帯では、東南アジアなどで需要はあるという。日本から鯉を輸入して中国の業者が現地で育てて国内やタイなどに売るというケースが見られており、日本国内の養鯉業者は危機感を強めている。

このような状況を見て、自民党は鯉を「国魚」とし重要輸出品目に位置づけようと動き出した。昨年、「錦鯉文化産業振興議員連盟」、通称「ニシキゴイ議連」が立ち上がった。この議連の大きな目的は、ニシキゴイの生産能力を高めるため、農地法などの規制緩和を行うことだ。

「もともと鯉は農地のそばに池を作って育ててきたものだ。これをドンドン広げられれば、農地の過疎化の大きな対策になる。要するに仕事が増えれば地元にいたいという若者も多いから、その受け皿を作ろうということだ」(議連幹部)

ただ、現在の制度では、農地で養鯉業を営む場合、現地の農業委員会に転用の届け出を出して許可を得る必要がある。そこで、議連は国家戦略特区制度を活用して、農地を養鯉池に転用しやすくする方針を立てている。

しかし、政府は規制緩和に慎重だ。農地法を所管する農水省が恐れるのは農地の荒廃。「民間業者は始めるのがいいが、事業に失敗した後は放置されたら荒れ野原だらけになる。国家戦略特区で一度認められれば、全国に規制緩和が拡大することになるため、農水省としては熟慮を重ねて方策を検討しないといけない」(農水省関係者)という。

ただ、中山間地域を中心に農村人口の減少は深刻で、新たな産業を生み出すことが死活問題だ。先のニシキゴイ議連幹部はこう話す。

「養鯉は、エサさえしっかりやっていればそれほど手間はかからないし、海外需要があるのは確かだから、利益が見込める。アジアだけでなく、ヨーロッパも伸びしろがある。第一、放っておけば仕事が出てくるわけないだろう。規制緩和は待ったなしだ」

世界に羽ばたくニシキゴイが日本の人口減少という最大の問題の救世主となる日も近いかもしれない。<取材・文/松岡久蔵>

【松岡久蔵】

ジャーナリスト。マスコミの経営問題や雇用、防衛、農林水産業など幅広い分野をカバー。「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ビジネスジャーナル」などに寄稿。YouTubeでアニメニュースチャンネル「ぶっ飛び! 松Qジャーナル」も運営している。

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ