<純烈物語>成長したからこそわかる「幸耕平さんが僕らをミュージシャンにしてくれたんです」<第51回>

日刊SPA!

2020/6/27 08:30

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第51回>「幸さんが、僕らをミュージシャンにしてくれたんですよ」(酒井一圭)

2017年あたりから酒井一圭は、本格的に紅白歌合戦を狙うためのホップ・ステップ・ジャンプ想定し、純烈というプロジェクトを高めていった。レコード会社はどの作家を起用するか考え、かかわる人間の士気も上昇していく。

「それに耐え得る作家さんというのが、おのずとあぶり出されるわけです。レコード会社の方で出た『今の純烈だったら幸さんじゃないの?』という話が僕のところまで降りてきた。でも、その時点ではどれほどの方なのかなんて僕にはわかんないわけですよ。なので、スタッフが持ってきてくれたことを信頼してやるしかない。

そうなった時点で、僕の中では幸さん一点になりました。アタックした時点ではOKしてくれるのかわからなかったけど、OKしたということは純烈のことを面白そうだと思ってくれているんだろうなと受け取りましたね」

前回、トータルプロデュース気質という点で幸耕平先生(以下敬称略)と酒井は共通していると書いた。じっさい、すべての権限を託されたからこそ、それまで接点がなかったグループのために腰をあげた。

純烈において全権を揮う酒井ではあるが、作家のオーダーに関してはデビュー以来、自分で指定したことはない。楽曲という、紅白を目指す上で根幹となる部分にもかかわらずだ。

自分の持ち札が及ばないのであれば、ほかに任せることでその力量を引き出せる。さらに言うならすべてを思い描くよりも、描かなかったシチュエーションを楽しんでしまう。酒井はそんな性分にある。

「マッスル」のリングに上がる時もそうだった。話が来た時に「プロレスラーになれるわけないだろ!」と断っていたら、マッスル坂井(スーパー・ササダンゴ・マシン)とも出逢っていなかった。他者に委ねることで得られる新たなる邂逅……それをこよなく愛しているのだ。

「レコード会社一つをとっても、その人たちが動いてくれることによっていろんなクリエイターと出逢えるわけじゃないですか。自分が会いたいと思って、そのために直接オファーしたり、近しい人に寄っていったりするのではなく『このタイミングで会えたか!』という方が僕はたまらないんで。自分の考えたルートじゃない出逢いの方が面白いんですよ。

幸さんにお願いすると決まったあと、たまたま歌番組でお弟子さんにあたる田川寿美さんと隣同士になった時、幸さんがすごいのはトータルプロデュースができるところと聞いたんです。その瞬間、これは丸投げするのが一番いい形になると思いました」

人を選んだところで、メロディーやリリックについては指定できない。だったら最初から自分で作ればいいというオハナシだ。純烈がやるべきは、託された楽曲の質や完成度をより上げて、売ること。

各セクションのスペシャリストによって、作品が磨かれていく。その意味では、アレンジャーの存在も大きい。

『プロポーズ』のデモテープが上がってきて、最初に聴いた時はどう感じたかを問うと、酒井は正直に「この曲が大化け(ヒット)するかどうかは、わからなかった」と答えた。そこは「一発で売れると思った」などと言わない。

「人間ならわかるんですよ。こいつは売れる売れないとか、どれぐらい耐えられるかとかの洞察は経験値をもとに見えるんだけど、こと音楽に関しては今でも僕は勉強中で。幸さんからデモを渡された時点で、そのすごさを理解できるような人間じゃないです。仔馬の頃のディープインパクトを見て『これは将来名馬になる!』なんていうイメージは湧かない。ただ、説明はできないんだけど確かにキャッチーだしフックもあった。

◆『プロポーズ』のイントロを聞いた瞬間、浮かべた会心の笑み

それを明確な形にしたのが編曲を担当した萩田光雄さんです。スッピンの女性にメイクして、ヘアメイクを施し、何を着せてどんなフォトを撮ればバーン!といくか。芯の部分となる素材を生み出すのが幸さんで、装飾するのが萩田さん。そこに純烈が歌を重ねて作品となるんです」

『プロポーズ』のトラックをスタジオで録った時、ミュージシャンによって奏でられたイントロが流れるや酒井と幸は目が合い、どちらからともなく会心の笑みを浮かべたという。その瞬間は「最高」と称すことができるものに思えた。

それを記憶に焼きつけ、変わらぬ熱量のままオーディエンスの前まで持っていきたい――あの日、あの場で聴いた『プロポーズ』のイントロは、酒井にとって「一生の思い出」として刻み込まれている。

「もちろん僕らは僕らでやらなければならないことがあるわけで、幸さんの曲を歌うことで潜在能力が引き出された。白川(裕二郎)もすごく伸びたし、小田井(涼平)さんもちゃんとやらないといけないなという気持ちになって、後上(翔太)も幸さんに見られているとあれば一生懸命やらなきゃと思うようになった。いい加減な連中だったのが、見られていないところでちゃんとやるようになったんです」

幸の存在が、純烈に意識改革をもたらせた事実。健康センターで熱狂するマダムたちの気持ちを考え、ファンを喜ばせるところまで神経を巡らせた上で書いた楽曲だけに、作家とリスナーがそれまで以上の距離感でつながった。

その間に立ってプレイする側が滑ったら「これじゃCDを聴いていた方がいいや」と思われてしまう。だから純烈は、ライブならではの、一緒に楽しく歌えるための工夫を考えるようになった。

幸・萩田コンビによる作品と向かい合うことによって、本当の意味でメンバーが音楽の楽しさを知ったはずと酒井は言う。そして、感謝の思いをこめてこう続けた。

「幸さんが、僕らをミュージシャンにしてくれたんですよ――」

幸は若いアーティストによる売れ筋の曲も聴いている。過去と比較することで、その価値観を否定するためではけっしてない。幸は言う。

「時代は変わるものなのだとつくづく思います。僕が若い頃は、レコード針を置いて音を聴いて音楽を勉強していたのが、今はボタン一つで世界中の音楽が聴ける。それによって、僕なんかでは考えられないことを若い人たちはやっている。今の音楽は今の音楽として、すごいんですよ。

そこから逆算して五十代ぐらいの人たちの唄を書くわけで、今の音楽も研究しないとね。音楽って、幅広いです。そうした中で純烈が売れ続けられるかどうか。今はキャラクターで売れている部分もあって、それが飽きられたら売れなくなるもの。そこは、より歌がうまくなるしかないです。あのキャラクターで、ちゃんとした唄を歌っている純烈はすごいとなるわけじゃないですか」

『プロポーズ』『純烈のハッピーバースデー』『愛をください~Don’t you cry~』と、シングル3曲を手がけた幸。もちろん、この先も引き続き……と確定しているわけではない。そこは酒井が読む「気運」にもよるだろう。

今後、幸にどこまで世話になれるのかはわからない。ほかの作家との出会いもあるだろう。幸によって純烈が成長できたからこそ、それ以外の作家の力を借りた時にカウンターとしての効果が得られると酒井は考える。

2018年と2019年は純烈がまとった旬と、幸自身「この5年ほどでもっとも精神状態がいい」と分析するほどの旬が融合し、紅白に向けてのグルーヴ感が高められたと言っていい。スポーツと同じように、タレントや作家のあらゆるコンディションが整う重要性……細かく検証することで、物語が物語となり得た理由をつかめた。

そして今年はコロナ禍の影響で先行きが見えにくい状況にありながら、それでも純烈は旬であり続けるべく動いている。同じ言葉でも、口にする人間によって与えられるパワーが違うのであれば、幸耕平から聞かれたこそのこの声をメンバーと純子・烈男の皆さんに伝えたい。

「こういうことになっても、純烈(『愛をください~Don’t you cry~』)は10万枚売れると思っていますよ。だって、こういう状況の中でもCDがほしいと思える人たちはまだまだいっぱいいるんだから」

(この項終わり)

撮影/ヤナガワゴーッ!

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

【鈴木健.txt】

(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売

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