なぜ、危ない玩具がネットで買える? 宝塚・ボウガン殺傷事件で改めて考える

日刊SPA!

2020/6/26 08:50

 頭蓋骨を貫通する矢。家族皆殺しのために、犯人が選んだのはボウガンだった。「有害玩具」を使った凶行は、なぜ繰り返されるのか? 規制を受けずに野放しになっている身近な武器の実態に迫った。

◆ボウガンは数万円あればネットで簡単に手に入る

一家4人がボウガンから放たれた「矢」によって次々と殺傷されていく。6月4日、宝塚市で凄惨な凶悪事件が発生し、日本中を震撼させた。

ボウガンとはライフルのように銃床を肩に当てて構え、引き金を引いて矢を発射する「洋弓銃」のこと。英語圏では「クロスボウ」と呼ばれている。放たれる矢は時速400㎞を超え、射程距離は300mに及ぶ。被害者は至近距離で背後から長さ50㎝の矢を頭に撃ち込まれ、即死。弟には強い憎しみを抱いており、確実に息の根を止めるため2本目の矢が放たれていた。

一命を取り留めた伯母は、耳からもう片方の耳に貫通した矢が刺さったまま近隣宅に助けを求めていたというから、なんともおぞましい猟奇的な事件だが、ボウガンが犯罪に使用されたのは今回が初めてではない。’93年には東京・板橋区で矢が刺さった状態の「矢ガモ」が話題となった。’11年と’13年には、刃物とボウガンを併用した殺人事件が起きている。重傷者が出たり、動物が殺される事件が定期的に報じられるなど、枚挙に暇がない。

なぜボウガンを使った凶悪犯罪は根絶できないのか。理由のひとつには入手の容易さが挙げられる。ボウガンはレジャー用の小型モデルならネット通販で1万円程度から手軽に購入でき、所持するための許可も不要だ。

販売店に取材すると「ほかをあたってください」「現在、ボウガンは販売自粛中」「法律が改正されたら遵守します」と、通り一遍の返答だった。そこでアフガン戦争に従事し、さまざまな武器に触れてきた元フランス外人部隊の野田力氏に話を聞くと、事件が後を絶たない理由が徐々に見えてきた。野田氏はボウガンの特徴をこう語る。

「ボウガンは誰でも簡単に矢を撃つことができる武器です。例えば、アーチェリーは的を狙うとき、弓を左右均等に引っ張るドローイングという動作を行いますが、これは素人には難しく、かなり訓練を積まないと狙いをつけることもできません。その点、ボウガンは矢をセットしさえすれば、初心者でも扱え、近距離なら命中精度も高い。照準器を装着すればさらに狙いを絞りやすくなります」

記者も今回、ボウガンの射撃場で実際に撃ってみたが、練習せずとも面白いように的に命中した。ボウガン本体は重量感があり、矢のセットに多少手間取ったものの、構えて引き金を引くと、「バシッ」という音がした瞬間にもう数メートル先の標的に矢が突き刺さる。試しに空き缶を撃ってみたら、難なく貫通するほどの威力だ。

「欧米諸国には、実際にボウガンを使って七面鳥などの野生動物をハンティングしているハンターがたくさんいます。また、小銃のように大きな音を立てずに獲物を仕留めることができるのもボウガンの特徴のひとつです」(野田氏)

今回の事件でも被害者らは犯行に気づかないまま、一人ずつ一撃で殺されていったと言われている。

ボウガンの入手しやすさ、素人でも簡単な扱いやすさ、そして静音性。これらがボウガンが悪用される原因となっているのだろう。

一方、ネットで手軽に購入できる有害玩具(武器)は、ボウガン以外にも多々ある。例えば、鉄のパチンコ玉を使ったゴム銃である「スリングショット」は、ボウガンと同様に手軽でありながら強烈な殺傷能力を秘めている。

「パチンコ玉の代わりに石を使うこともできます。私はアフガンで山奥にあるタリバン派の村に行ったとき、村人からスリングショットによる攻撃を受けたことがありました。100mほど離れた場所から、こちらに向かって石がビュンビュンと飛んでくる。小さい石でも当たれば命を落としかねません。石が風を切る際のブルルンッという音が不気味でしたね」

そのほか、やはり矢を使うブロウガン(吹き矢)、殴打系、各種のナイフ、さらに銃砲刀剣類登録証が必要とはいえ、日本刀もネットで購入できるから驚きだ。

◆再発防止に向けて早急な対策が必要だ

宝塚市一家4人殺傷事件を受け、菅官房長官はボウガンの販売・所持の規制について「必要に応じて検討」すると述べた。だが、そもそもなぜボウガンはこれまで銃刀法で規制されていなかったのか。刑事事件に詳しい弁護士の齋藤裕氏が話す。

「ボウガンを使った犯罪件数は全体的に見れば少なく、またスポーツでも使われるので、規制は難しい。一方、’08年、秋葉原通り魔事件では凶器に殺傷能力の高いダガーナイフが使われ、7人が死亡しました。ダガーナイフはスポーツで使うことはないので、翌年には規制されています」

齋藤氏は、ボウガンの所持をクレー射撃銃のような「登録制」にするべきではないかと提案する。

「以前もボウガンを規制対象にすべきという議論がありました。そのときも政府は『慎重に検討する』と。しかし、今回は過去に類を見ない悲惨な事件。ボウガンそのものによって3人も殺されていますから、規制は必要という前提で議論すべきです。野放しにせず、クレー射撃銃のようにルールのなかで許可を得た人が使えるようにすればいいのではないでしょうか」

いつまでも「検討」ばかりでは、事件はなくならない。

<取材・文/押尾ダン・武馬怜子・野中ツトム(清談社) 写真/朝日新聞社>

※週刊SPA!6月23日発売号より

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ