日本のダンスに注目しよう!若手編/ホーム・シアトリカル・ホーム ~自宅カンゲキ 1-2-3 ~[Vol.28]<ダンス編>

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おうちをシアトリカルなエンタメ空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、演劇関係者が激オシする「My Favorite 舞台映像」の3選をお届けします。(SPICE編集部)

ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.28]<ダンス編>
日本のダンスに注目しよう!若手編​ by 高橋森彦
【1】川村美紀子『インナーマミー』
【2】中村蓉『阿修羅のごとく』
【3】Baobab(北尾亘)『笑う額縁』
日本のコンテンポラリーダンスには多様な才能がひしめく。今回は2010年代初頭に台頭し活発に活動する若手に着目したい(公式チャンネル/サイトで全編配信されているものを優先)。バラエティに富むカラーを楽しんでいただければ幸いである。

【1】川村美紀子『インナーマミー』



川村美紀子『インナーマミー』

川村美紀子の登場は鮮烈だった。2011年1月、「座・高円寺ダンスアワード」で川村のソロ『むく』に接したときのことは忘れない。前年に行われた大学生のための創作コンクール「アーティスティック・ムーブメント・イン・トヤマ」の受賞披露の場だが、そこで底知れぬ存在感と骨太の踊りを見せた。同年2月の「横浜ダンスコレクションEX 2011」では、新設されたコンペⅡ新人部門の最優秀新人賞を受賞し脚光を浴びる。

川村が踊り始めたのは16歳からで、被服科に通う高校生活を送るかたわらチームを組んでストリートダンスの大会に出ていたという。日本女子体育大学舞踊専攻に進んでからは大学で実技も学びながらクラブなどで踊り、そうした経験も踏まえて鍛えていったようだ。破壊力満点のダンスに加え選曲や自身の唄もユニークで、映像やアクセサリーも作る。ダンス界に久々に表れた異才として話題をさらい、各コンペティションや新人賞を総なめにした。

『インナーマミー』は「トヨタコレオグラフィーアワード2014」次代を担う振付家賞、「横浜ダンスコレクションEX 2015」審査員賞・若手振付家のための在日フランス大使館賞を受賞。紹介するのは2017年2月に「横浜ダンスコレクションEX2017」で再演した際の映像で、川村、亀頭可奈恵、後藤海春、永野沙紀が出演している。幕が開くと、川村がマイクを持ち、「おい、お前ら」と客席に向かって檄を飛ばす。その後はエレクトロ・ミュージックと共にソロから4人が踊る場面まで多彩に変化しながら展開し、パンクな踊りからにじむ切実さが見る者に迫る。ときおり舞台に現れるキューピー人形たちが良い味を出している。

川村がコンテンポラリーダンスの世界に現れて時が経った。強烈な個性、奔放な舞台によって熱視線を浴びたが、マイペースを崩さない。国内外のフェスティバルに招聘される機会もあるが、独立独歩で進む粘り強さを感じる。今後も目が離せない。

【2】中村蓉『阿修羅のごとく』



中村蓉『阿修羅のごとく』

中村蓉は自作ソロを発表しコンペティションで注目された。言葉や小道具も駆使して独創的世界へと誘う語り上手で、歌謡曲や古き良き日本映画へのオマージュも感じられた。2013年2月の「横浜ダンスコレクションEX 2013」にて『別れの詩』を踊り、審査員賞・シビウ国際演劇祭賞を受賞。海外招聘も続く売れっ子になったが、横浜の審査員だった舞踏家・室伏鴻(故人)の『墓場で踊られる熱狂的なダンス』に出演するなど研鑽を怠らなかった。

中村は文学作品や映画を栄養分にすることが多いが、ダンスが、身体がしっかりと物語る。たとえば初の長編ソロ『顔』。松本清張の推理小説を原案とし、主人公を自らに置き換えたこの作品において中村はスターダンサーへと昇りつめる女に扮する。自身の過去と現在が行き来するなかで、心の二面性を浮き彫りにする語り口とダンスが絶妙だった。そしてシリアス一直線ではなく、ときに笑いも織り交ぜ、見る者の心を解きほぐし惹き込んでいく。

『阿修羅のごとく』は2018年11月、神楽坂セッションハウスで初演された(映像は2019年12月、福生市民会館で上演された際のもの)。向田邦子の同題テレビドラマ脚本が原案で、4姉妹とその両親らをめぐる人間ドラマを生かしている。未亡人の長女が愛人と自宅で密通している際に愛人の妻が訪れる修羅場では、長女役の中村と妻役の五十嵐結也の丁々発止のバトルが見もの。続いて4姉妹が集い父親の不倫について相談するが、母親はすでに夫の不義を知っていて怒りや哀しみをにじませる――。YouTubeページの説明では「こんな「女」や「家族」や「人」がいて、世の中は愉快に哀しく豪快になるのでしょう」と触れられている。演奏も担う金井隆之、長谷川紗綾も活躍し、日常に潜む人間の業をときにユーモアも込めて描き出す。

中村は、このほかにも坂口安吾の小説が原案の『桜ノ森ノ満開ノ下デ』、ロマンティック・バレエの名作に想を得た『ジゼル』(新型コロナウイルスの影響で公演中止・特別ver.として映像配信)、デュエットから群舞へと拡張させた『理の行方』などを発表。オペラの振付や演劇のステージングも行う。次代を担う舞台人として注目していきたい。

【3】Baobab(北尾亘)『笑う額縁』



Baobab『笑う額縁』ダイジェスト

北尾亘が率いるBaobab(バオバブ)を知ったのは2011年3月~4月、初単独公演『純白のスープ皿の完璧な配置』を東京・千歳船橋のAPOCシアターで上演したときだった。ダンスと演劇を混ぜ合わせたような風味のパフォーマンスだったが、自然かつ密度の濃いダンスが巧みに配され音楽との一体感も抜群だった。北尾の振付・構成・演出に流れるみずみずしさに魅了されたのである。

それから時を置かず、2012年7月に行われた「トヨタコレオグラフィーアワード2012」の最終審査会に出場しオーディエンス賞に選ばれ注目された。そのときに披露した新作『vacuum』はBaobabメンバーの目澤芙裕子、米田沙織をはじめとする男女9人による群舞だったが、ここでは身体を極限まで振り絞るパワフルな作舞が新鮮だった。また北尾は柿喰う客、範宙遊泳、ロロ、木ノ下歌舞伎、KUNIOなどの演劇の振付も手がけるようになる。

『笑う額縁』はさまざまなフェスティバルで上演されている、Baobabの名刺代わりだ。ご紹介する映像(※全編はBabab公式サイトで視聴可能)は、岡本優、目澤、米田、北尾という4人が出ているもの。冒頭、女性たちがショスタコーヴィチのワルツ第2番と共に踊る。その後、大きな額縁を持つ北尾が現れる。彼らは動物の擬態をしたり、歌ったりも。アフリカンな打楽器の曲など音楽も多彩で、小気味よいユニゾンや北尾の敏捷で音楽性豊かな踊りもスリリング。ここでは「ダンスを絵画に置き換え、“額縁”という枠組みを飛び越えようと勇むダンサーの姿を描く」というのがコンセプトである。Baobabはポップなセンスを備えるが愚直なまでにダンスの根源と向き合う舞台創りをしているようにも思う。「土着的でリズミカルな独特の躍動感を持つ振付で、圧倒的な群舞を踊り抜くのが特徴」と標榜する本質が本作に示されているのである。

Baobabは本公演や各種フェスティバルへの参加のほか、2016年以降『DANCE×Scrum!!!』というフェスティバルを隔年で催す。創造・発信に意欲的な北尾とBaoabが、これからもダンスを豊かに伝えていくことを願っている。
★Baobab公式サイト(http://dd-baobab-bb.boo.jp/movie.html)にて全編配信中

文=高橋森彦

当記事はSPICEの提供記事です。

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