「エール」44話 裕一の初めてのレコード。古関裕而と野村俊夫の「福島行進曲」

エキレビ!

2020/5/28 14:30

第9週「東京恋物語」44回〈5月28日 (木) 放送 作・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉


44回はこんな話
福島から上京して2年、裕一はついにプロの作曲家となる。
裕一(窪田正孝)、鉄男(中村蒼)、久志(山崎育三郎)の3人で酒を酌み交わしたとき、鉄男が書いてきた「福島行進曲」という恋の詞に裕一が曲を書き、それが初めてのレコードになった。ただ、残念ながら歌は久志ではなかった。

私って強欲?
鉄男が酔って騒いで大変だった一夜が明けて、音が学校でそのことを眠そうに話すとき、つい漏れ出た「主人」という言葉に同級生たちはびっくり。

「いま、主人って言った?」
「人妻で、学生で、カフェーの女給ってこと?」

妻、学生、女給……3つも属性を持つなんて信じられないようで、千鶴子は音を「強欲」と責める。
子供のときからすべてを犠牲にして、歌一筋でやってきたから、音のような人に負けたら立つ瀬がない。千鶴子は、「椿姫」のヴィオレッタを勝ち取ってみせると宣戦布告する。

禁欲 VS 強欲

人生で誰もがぶつかる問題であり、朝ドラでもこの問題は必ずと言っていいほど出てくる。いわゆる、仕事と恋、仕事と結婚。仕事と子育て。ふたつとも取るか、どちらを選ぶか、主人公が選択を迫られ悩むのである。

「エール」の主人公は音ではなく裕一だが、彼はかつて藤堂先生(森山直太朗)に「何かを得るためには何かを捨てろ」と言われている。そして故郷を捨てて、音楽と音を取った。

音の場合、大事なものをひとつも捨てずにいまがある。そして彼女はそれを強欲だとは自覚していない。いつの間にか豊橋に戻って軍人さんと結婚の準備が進んでいる姉の吟(松井玲奈)がふいに東京に出てきていて、音に「強欲上等」と背中を押す。

ただ、音の場合、自分の意志とは別に、幼いとき、大事なお父さんを早くに失っている。なにひとつ失うことなく人生を謳歌しているわけではないのである。彼女の場合は、そこで人生のバランスをとっていると言ってもいい。ちなみに、お父さんは熱心なキリスト教信者であったはずで、キリスト教では「強欲」は罪とされていた。音は、父の死と共に「強欲」は罪であるという概念を失ったといえるかもしれない。

ここで大事なのは、誰しも禁欲的であらねばならぬということはなく、ストイックであろうと、強欲であろうと、ヒトそれぞれであるということ。なんでも得られる人が羨ましいと思っても、我慢を強いる権利はないし、といって、なんでも得られる人が正しいわけでもなく、禁欲的な人だって尊い。ちなみに、裕一も、捨てた故郷福島を「福島行進曲」で再び振り返ることになる。こうしてみると、「エール」では、捨てなくていいと提案しているようである。

吟が音の高い口紅を借りることが、音の幸福のおすそ分けをもらっているように見えた。たくさんの幸運を得た人はその分、分け与えるべきという教訓にも解釈できる。

吟の旦那さんは亭主関白で、裕一はなんでも音の好きにさせてくれることを羨ましがる。そう、裕一は天才で、妻に優しい。なんでもひとりでやってしまうのではなく、妻が彼を助け支える余地を残してくれている、朝ドラにおける理想の夫の典型なのである。



「福島行進曲」
鉄男の歌詞に裕一が感化されて曲ができた「福島行進曲」。これは裕一のモデル古関裕而が実際にコロンビアレコードの専属契約を結んだとき、初めてレコード化した曲である。会社と高額な契約を結んだものの、なかなか曲ができず、契約を見直されてしまい危機的状況のなかで作られた。

昭和40年代に流行るご当地ソングの原型のような「地方小唄」が昭和一桁の頃、流行っていた。地方から東京に働きに出てくる人の増加によって、東京と地方都市をつなぐ歌が求められたのである。

裕一は、福島にいるとき同郷で、家の向かいの魚屋の息子だった野村俊夫(鉄男のモデル)と昭和5年に作った「福島行進曲」を、レコードデビューにあたり故郷・福島に捧げるつもりで出すことにした。歌詞には、福島のランドマーク(福ビルヂング)も織り込まれ、地方小唄にぴったりであった。曲調は、クラシック以外で彼が親しんでいた民謡調。

裏面は、福島で展示会を行った竹下夢二の絵から思い浮かべた曲「福島夜曲」。古関裕而は、小山田のモデル・山田耕筰のみならず、人気画家・竹下夢二とも交流があった。そういうえらい人たちに興味をもたれる音楽の才能が古関にあったのだろう。

「福島行進曲」を歌ったのは、帝劇出身のオペラ歌手・天野喜久代(ドラマでは川野三津代)。
こうしてデビュー作が昭和6年に発売されたが、その曲は残念ながら……。

ドラマでは、鉄男が書いた歌詞に刺激され、捨てた故郷に向き合おうと思い立った裕一が曲をつくり、地方小唄でまだ手薄の東北方面だったことでレコード化となる。やる気まんまんだった久志はまだ無名の学生だったので歌手デビューができなかったことが残念である。そのときの久志の顔を見てみたい。

木曜日だが、裕一の初めてのレコードができたところで、ひとつのハッピーエンドを迎えた。でもまだ鉄男の恋の問題が解決していない。音の「椿姫」オーディションの結果も。それは金曜日までお預けか。

27日は、21年前期の朝ドラ「おかえりモネ」が発表になって、「あさが来た」「なつぞら」と朝ドラから育った清原果耶がヒロインに決まった。新型コロナウイルス感染予防による緊急事態宣言も解除され、「新しい生活」様式が求められているとはいえ、通常の生活が戻ってきつつある。そんなとき、明るい話題がいくつもあることは喜ばしい。

今日の名セリフ
恵「顔がいい人(鉄男)は言うこともかっこいいわね」
保「顔がいいからかっこよく聞こえるんじゃないか」

とっても説得力があった。

今日の窪田正孝
酔って寝てしまった、鉄男と久志にかいがいしく布団をかける窪田正孝。
(木俣冬)

●参考文献
「鐘よ鳴り響け 古関裕而伝」(古関裕而/集英社文庫)
「古関裕而―流行作曲家と激動の昭和」(刑部芳則著/中公新書)
「古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家」(辻田真佐憲著/文春新書)
「新版 評伝 古関裕而」(菊池清麿/彩流社)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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