ヨーロッパ企画初の長編映画『ドロステのはてで僕ら』原案・脚本の上田誠に聞く~「ギミックが効いた映画が好きな人は“待ってました!”となるのでは」

SPICE

2020/5/22 18:00



演劇以外にも、TV番組『暗い旅』(KBS京都)や、アニメ『タクシードライバー祇園太郎』など、劇団ぐるみで多彩なジャンルの作品を作ってきた「ヨーロッパ企画」。その彼らが満を持して、劇団員総動員で製作した長編映画『ドロステのはてで僕ら(以下ドロステ)』を公開する。監督は、長年劇団の映像スタッフを務め、ドラマ『警視庁捜査資料管理室』(BSフジ)なども手掛けた山口淳太。脚本を担当したのはもちろん、劇団代表の上田誠だ。

以前から演劇作品と並行して、タイムスリップやタイムリープなどがテーマの物語を、脚本や撮影を工夫することで、ワンシーン・ワンカットで描き切るという、驚異の短編映像を発表し続けていた上田。今回もほぼカフェの中だけというワンシチュエーションで、過去と未来がねじれる様を、ある仕掛けでビジュアル化することに成功している。ヨロ企ならではのワチャワチャな楽しさもありつつ、キャッチ通り「時間に殴られる」感覚になるのは必至の本作について、上田に話を聞いた。

【動画】映画『ドロステのはてで僕ら』2分予告

■映画で写したいと思うのは、企画性とか仕掛けの方です


──上田さんの映像作品は、舞台『サマータイムマシン・ブルース』のような、「時間」をテーマにした作品が、圧倒的に多いですね。

僕がもともと時間ものが好きというのもありますし、映像で勝負する時に、何か自分の得意技を一個作った方がいいなあという思いもありました。結局映画って、予算が画(え)にまんまはね返って来るんですよ。でも自主映画イベントとかだと、充実したスタッフとロケを組んで、素敵な絵を撮って……という勝負がなかなかできない。そうじゃない所で、何を武器に戦うか? というので、こういう仕掛けありきの時間ものを、自作の売りにしてきました。

──確かに、時空のゆがみを風景の変化などで見せるのではなく、一冊の本だけを使って表現するとか、あんなローカロリーなやり方はなかなかないです。

あと多分、僕が出不精だからというのが大きいんですよ。演劇はたまたま諏訪(雅)さんが劇団を作ってくれたけど、映画に関しては僕のチームというものがない。だから映像作品を作る場合は、一からクルーを集めて、外にロケハンに行って、ロケの交渉をして……みたいなことをしないといけないけど、そういうのが本当に苦手で。

映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)朝倉あき、土佐和成。
映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)朝倉あき、土佐和成。

──だから極力部屋から出ないで、人もあまり集めないで、しかも時間もお金も最小限で済むワンカットの撮影で、時間ものを作れるアイディアはないか? という方向に。

僕の場合、映画で何を写したいのか? と聞かれたら、景色でもドラマでもなく、やっぱり企画性とか仕掛けの方。さらに劇団で作るなら、(舞台のように)ワンカットでやれるという強みを活かせますよね。だから僕がオリジナル作品を作って映画界で戦うには、それしかないと言えます(笑)。でも実際、映画の脚本仕事をよそでする中で「こういうやり方は、世の中にないかもしれない」というのがわかってきたから、いつかそれを劇団ぐるみでやってみたいという思いはありました。

──そして「トリウッド」さんが、長編映画制作の名乗りを上げてくださったと。

淳太君の監督作品を作るという流れが、まず先にあったんです。それで、僕が以前作った『ハウリング』の続編みたいなことがやりたいというので、脚本の話が回ってきました。

──2分後の未来とつながるTVを発明した男性の、一人芝居みたいな話でしたね。

そうそう、あれを映画的に押し広げたいと。淳太君は今やいろんな映像の現場で活躍して、そこで培ってきたチームみたいなものがあったから、その点では僕より監督として長じてたんです。だから僕は脚本で、淳太君が監督というのが、現場の動き的にはいいだろうと思いました。

──山口監督の短編作品は何本か観ていますが、ちょっとポップな手触りがあって、上田さんがあまり描き込まない要素を大切にしているという印象があります。

そうなんです。僕はどうしても、ぜい肉を削ぎ落とした方がカッコいいと思ってしまうので。仕掛けさえ面白かったら、正直飾りの部分はどうだっていい(笑)。でも淳太君は、見た目の部分からお客さんを楽しませようとする意識が強いんです。ヘアメイクとか衣裳とか、画のこととか音のこととか、その辺りを作り込むことにすごく長けている。僕が監督するよりも、だいぶエンターテインメントの方に寄せてくれるんじゃないかって。

映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)藤谷理子、本多力、永野宗典。
映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)藤谷理子、本多力、永野宗典。

──脚本執筆の段階では、どういうすり合わせがありましたか?

初期の打ち合わせの頃は、淳太君があまり京都に帰って来れなかったので、僕がロケハンをして淳太君に提案するという感じ。「この場所よりも、こっちの方が画を作りやすいです」「じゃあ、こっちで書くわ」というやり取りをして、内容を固めていきました。

──そういえば上田さんは演劇でも、物語を先に考えるんじゃなくて、まず舞台美術をガッツリ決めてから、その風景を生かした脚本を考えるという順番ですよね。

絶対そうですね。使える場所と人を最初に指定してもらって、それに合わせて書くという方が、僕はイメージが膨らみやすい。「この場所まるまる使って、何か一本書いてください」っていうのが、一番やりたい仕事です(笑)。

──では今回の場合だと「1Fはカフェと理容室が隣り合っていて、2Fと5Fに空室があるマンション」というシチュエーションに合わせて、脚本を考えたということに。

完全にその通りです。まずカフェの方に話をしたら、たまたまマンション内に空いてる部屋があると言われまして。隣の理容室さんも、僕の知り合いだったので、じゃあ使える場所を全部使おうということになりました。でも本当に、なんでみんなこういう作り方をしないんだろう? と思いますね(笑)。シナリオを先に書いて、それに合った現実(の風景)を探すよりも、現実に合わせて話を書く方が、よっぽど合理的だと思います。
映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)中川晴樹、角田貴志。
映画『ドロステのはてで僕ら』劇中シーンより。(左から)中川晴樹、角田貴志。

■TVの画面をはめ込む合成は、一切使っていません


──『ハウリング』がサスペンス調だったのと違い、『ドロステ』はラブコメディの要素もあって、狙い通り明るく楽しめる作品になってましたね。

ギリギリ長編と呼べる70分の尺で、カジュアルに観られる映画にしようという思いは、何となく淳太君にも僕にもありました。さらに「僕たちがやりたいのは、こういうことです」というポイントをキチンと見せるために、あまりいろいろ詰め込みすぎないようにしようと。中身は相当野心的ですけど、見かけのパッケージが割とかわいらしくなったのは、そういうカジュアルさを意識していたからかもしれません。

──カフェのマスターの家のTVから、2分後のカフェの様子が店のTVを通じて見えるようになるという設定はすぐ理解できましたが、それ以降の展開はかなり込み入ってました。

2分が4分、4分が6分になるという仕掛けは、直感的には理解できない人が結構出てくるでしょうね、きっと。でもその理屈が完全にわからなくても、物語についていけるようにはなっているんじゃないかと。「◎分後に起こる」と言ってたことが、全部ちゃんと◎分後にやってくるということだけでも楽しめるだろうし、それはなかなか世界でも類を見ない構造だと思います。
撮影中に打ち合わせをする上田誠(一番左)と山口淳太監督(一番右)。
撮影中に打ち合わせをする上田誠(一番左)と山口淳太監督(一番右)。

──実は二度目の鑑賞では、実際に時間をカウントしてみたんですけど、本当にいろんなことが時間軸通りに起こることに驚きました。あれはかなり、調整が難しかったのでは?

これ、未見だとなかなか伝わりづらいかもですけど、時間の層が8レイヤーぐらいあって(笑)、それを一層ずつ重ねて撮っていく時に、やっぱり相当細かい計算が必要でした。でもアナログでやることにもこだわりがあったので、CGとかはほぼ使ってないです。TV画面上の自分たちと話をするシーンも、先に撮影した映像に向かって、リアルで演技をしてもらいましたし。その演技のタイミングは、本当に0コンマ秒の世界だったので、実際調整が大変でした。

──あの一連はあまりにも自然過ぎて、確かに合成が疑われるレベルですね。

かもしれないですね。編集では、70分間ワンカットに見えるようにカットをいくつかつなぐという作業はしたんですけど、TV画面の中をハメ込み合成したということは一切ないです。

──でもあの流れのほとんどが一発撮りというのは、想像するだけですさまじいです。

かなりごまかしが利かない手法で作ったので、役者もスタッフも大変だったと思いますよ。スタッフの方が大変だったのかな? 撮影中、何が正しくて何が間違ってるのかわからないことが多すぎて(笑)。「今撮っている映像に、この画面が写りこんでてもよかったですか?」とかいうことを、現場で完全に把握できているのは僕で。だから完全に分業でしたね。画作りは淳太君が仕切り、僕は僕で時間の配分や整合性の確認をするために、現場に張り付いてました。
上田は撮影中「時間監督」として、撮影や演技のタイミングを細かく計算していた。
上田は撮影中「時間監督」として、撮影や演技のタイミングを細かく計算していた。

──それこそそういう実験を面白がって、とことん付き合ってくれる「劇団」という集団でないと、なかなかできないことだったかもしれないですね。

本当にそうだと思います。ちょっと無理も聞いてもらえるので、実験がやりやすい。これが外の仕事だったら、僕もここまで実験的な脚本は書かないから、きちんと安定的に撮っていける反面、新しい映画を突き抜けるようには作れない……という気がします。それをわかってくれているから、みんな大変なのは覚悟の上で、このプロジェクトに最後まで付き合ってくれたと思うし、そこはすごく誇れる所ですね。

──ただ一人ヨーロッパ作品初参加となった、朝倉あきさんをお呼びしたのは?

カフェのお隣にある、理容室の娘さんをやってもらったんですけど、このキャラクターだけは、ちょっと僕らとは距離が遠い人がいいなあと話してたんです。それで淳太君と(映画の)プロデューサーが、普通に朝倉さんのファンだったそうで(笑)、正攻法でオファーしてお呼びしました。朝倉さんはそんなにベッタリ出る役ではないけど、それでも「大変なチームだなあ」と思われたんじゃないですかね?

──ただ、最初はカフェチームと他人同然だったけど、騒動に巻き込まれてどんどん距離感を縮めていくというキャラクターが、実際の朝倉さんと劇団の関係性と重なって、良い相乗効果になっていたように思います。

そう見えたのなら嬉しいです。大変とは言っても、やっぱりやってることがコメディですからね。現場が殺伐とすることはほとんどなかったですし、撮影が進むほど楽しく仕事してくださっていたと思います。
主演の土佐和成(左)に指示を出す上田誠(右)。
主演の土佐和成(左)に指示を出す上田誠(右)。

■「劇団が映画を作ったらこうなった」という珍しさ


──上田さんの映像作品はバッドエンドが多いですけど、今回はそれとはまた違った感触の終わり方をしましたね。

多分短編だと、仕掛けを見せきった所で終わりにしたいから、突き放したような終わり方になるんだと思います。主人公が死んで、ブチッと終わるとか(笑)。

──物語を好きな所で断ち切るには、バッドエンドが万能だと。

逆に長編だと、何か心地いい着地を見せないと終われないという気持ちになります。『暗い旅』もそうなんです。ポータル版(短編)はアイディアだけ投げ出してバチッと終われるけど、24分間ある本編の場合は、何かほっこりさせて終わりたいなあと思うので。ヨーロッパの(舞台の)長編も、そんなにバッドエンドにはしないですしね。

──完成した映画の感想は。

自分たちがやるべきことはやれた映画だと思うし、少なくとも僕が一観客として観たら、かなり感動します(笑)。多くの方に試写を観ていただいて、いろんな感想を聞かせてもらってるんですけど、おおむね楽しんでもらえる映画になってはいるなあ、と。とはいえ偏った映画だし、そしてお客様の中には、本当にギミックが効いた映画が好きで「これを待ってました!」って人もいるんじゃないかと期待してるんです。そういう人に出会えたら幸せですね。
おおむね和やかだったという『ドロステのはてで僕ら』撮影中の一コマ。
おおむね和やかだったという『ドロステのはてで僕ら』撮影中の一コマ。

──『サマータイムマシン・ブルース』の時間のパズルがまだまだ甘い! と思った人がいるなら、もう誰よりも必見ですよね。

あれよりさらにエクストリームになってますからねえ。でも本当に、今までの邦画にはなかったというか……僕らは演劇でも、京都で独自の文脈の芝居を独立独歩で作ってきて、それが今の日本演劇の多様性みたいな所に寄与していると、大袈裟ですけど少し感じているんです。それは『暗い旅』というTV番組もそうだし、映画もきっと同じ。これまでの邦画の文脈の流れはさておき、ヨーロッパ企画という劇団が映画を作ったらこうなったという、その珍しさみたいなものは感じていただけると思います。

──邦画の突然変異みたいなことが。

だからわかんないんですよ、邦画好きの人に楽しんでもらえるのかっていうのが(笑)。でも『カメラを止めるな!』も、あれはインディーズの文脈では、世に出るべくして出た作品かもしれないけど、やっぱり邦画界の中では異質なもので、だから熱狂を持って受け入れられた部分があると思います。あの盛り上がり方は「いいなあ」と憧れるけど、そんなに甘いもんじゃないとも考えますよね。劇団も初期の頃は、しばらく苦しい時代があったから、多分映画もそうなるんじゃないかって。
映画『ドロステのはてで僕ら』メインビジュアル。
映画『ドロステのはてで僕ら』メインビジュアル。

──しばらくは、イバラの道を歩む覚悟でのぞもうと。

やっぱり新しいジャンルに進むというのは、10年がかりぐらいでやらねばと思ってるので、これが第一歩という感じです。まぐれ当たりで、意外と喜んでもらえたらラッキーぐらいに(笑)。でも本当に、こういう仕掛けで未来や過去を表現したのは発明だと思ってますし、変化球のような作品ですね。とはいえ、長年映画の世界で学んできた淳太君が監督をしてるので、ちゃんと映画作品として楽しめるようにはなっているんじゃないかと。「こういう作り方をする映画が、世の中にはあるんだなあ」という風な感じで、変わり種の映画をご覧になりたいという方には、ぜひ観ていただきたいです。

※2020年6月5日(金)の「京都シネマ」での上映初日に合わせて、オンラインの上映会が決定。詳細は下記「イベント情報」欄を参照。

取材・文=吉永美和子

当記事はSPICEの提供記事です。

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