競馬のG1・NHKマイルで家賃を払えるか? 穴馬に命運を託した結果…

日刊SPA!

2020/5/22 15:50

―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。

それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteで有名になったTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後、短かった闘いを振り返り、喫緊の金策のアイディアを綴っていく当連載。

最終回を見届けられるのが先か、借金で破滅するのが先か……すべては犬次第だ。

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◆「人から借りてでもいいから払ってください」

日本の代表的なレースギャンブルに馬が選ばれているのはきっと必然なのだろう。人の数倍大きな体、無駄の無いフォルム、どこか遠くを見ている達観したような瞳。

決して人を襲わない優しい動物が走る様を見て、わかったように講釈を垂れながら金を賭けることを考えると、人間とはなんて傲慢でプライドの高い生き物だろうと思う。

現在僕は重篤な多重債務者なので、口座の金がいつ引き落とされるかもわからない生活を送っている。月末月初にいくらの金が必要かなんて調べればすぐにわかるのだが、自己管理ができているならそもそも借金をしていないし、この自己意識の低さこそが自分なので毎月慌てふためいているのもまた必然だ。先月末に家賃用として入金しておいた10万円のほとんどが別のカード会社に引き落とされてしまい、図らずも払い損ねることになってしまっていた。

だが僕も学習する人間なので、この手の危機には慣れている。今更天を仰いでうなだれたりはしない。金は使えば戻ってこない。覆水も盆には返らない。引き落とされた金に想いを馳せても時間の無駄だ。

知り合いに次々と連絡をし、1日だけで終わる仕事を探す。以前接客業をしていて、仕事をやめた後にそのまま友人になった客が多いので、10万20万とはいかないが即金で1万円手に入れる手段には困らなかった。業種は毎回バラバラだが、僕は借金をしている点以外は極めて普通の人間に擬態できているつもりで、使ってみると存外役に立つ。借金に潰されないように上手く付き合っていくにはフットワークの軽さと馬鹿みたいなポジティブが大切だ。

今回は都内某所で店番のようなことをした。商品の陳列はなく、客も来なかったので最後まで何をしていたのかわからなかったが、こうして1万円を手に入れた。

一週間かけてアルバイトをして家賃を捻出しようと思っていたが、ちょうど1万円持っている時に管理会社から家賃の催促があり、

「遅れてしまうがアルバイトでなんとかしたい」と言うと、

「それでは間に合わないので誰かに借りてでも3日後に払ってくれ」と返された。

当然と言えば当然だが、無い袖は振れないし、借金で身を固めたような僕に金を貸してくれる人もいない。管理会社の言い分は100%正しいし、ここは是が非でも期日までに金を用意して誠意を見せたい。

打つしかないな。

打つしかないのだ。

とはいえ1万円はパチンコ屋に行くには心許ない金額だった。別に3万円あれば勝てるわけでもないのだが、1万円を持ってパチンコ屋に行く不安は、5,000円持って同窓会に行く不安に近い。払えるだろうが、なんとなく不安になる。もし足りなかったら久しぶりに会った同級生に金の話をしなければならないだろうし、そんな興が醒めることを大人の飲み会でするわけにはいかない。

今回は馬券を買うことにした。1万円を全部使い、当たれば家賃が出る組み合わせで馬券を選ぼう。

競馬の恐ろしいところは賭け金が青天井、つまり1回のレースに100万でも200万でも賭けることができる点にある。これはカジノと同じだ。さらにレースギャンブルなのでゲームが終わりに近づくにつれて汗が吹く。

例えばパチンコなら投資した金額が戻ってきた時点で安心感に包まれ、その後はずっとニヤニヤしながらウイニングランを楽しめるのだが、競馬は最後の瞬間まで結果がわからないからずっと腰が浮く。もちろん最後の直線で逆転する気持ち良さは他のギャンブルの比にならないが、その逆もあり、あまりに瞬間的なショックを食らうので物を壊したり雄叫びを上げたりしそうになる。

僕は大人なのでSNSに馬の悪口を書いて酒を飲むことで悪意の刀を鞘に納めているが、耐えられない同志が発狂する姿を見ても迷惑だとは思わない。その気持ちは痛いほどわかる。むしろ刹那的な絶望に身を斬られた断末魔を聞くとこちらの身が締まる。次は自分かもしれない。天国と地獄は上と下で分かれているのではない。

競馬のレースは3分も掛からないので、あまり大金を賭けてしまうと負けた現実に感情が追いつかなくなる。競馬場でなぜかニヤニヤしてる人たちは皆顔が間に合ってない人たちだ。心の中では泣いている。

買い方は様々あるが、基本的には10数頭走るうちの上位3頭を予想するゲームだ。1位の馬のみを予想する買い方が単勝、選んだ馬が3着以内に入ることを予想するのが複勝、選んだ2頭の馬が両方とも3着以内に入ることを予想するのがワイド、と買い方の名前は様々だが、基本的には上3頭のみが結果に反映される。ビリになった馬を当てても金は増えない。

競馬場には芝と土(ダート)があり、さらに馬の血統、騎手、過去の成績が事細かに公開されている。そしてレースの前にはパドックと呼ばれる顔見せがあり、直前になって馬の様子を伺うこともできる。僕はパドックのセンスが絶望的に無く、

「4番は前の馬が放り出した糞を気にせず踏み抜いたから気持ちが強い」

「10番は目があった時に顔を逸らさなかった」

などの独自解釈を元に買って何度も負けていたので、今回は完全にネットの予想を組み合わせることにした。競馬好きはデータやパドックを元にして予想することに至上の喜びを感じるらしいが、誰が育てていて、調教中の短距離走での記録、結果を出したレースの長さまで調べていたら人生が終わってしまう。餅は餅屋、馬券は馬好き。

博打としての競馬が好きなだけの僕は、今まさにゲートに入らんとする馬の「これまで」に興味はない。勝負をするのか、手堅く勝ちに行くのか、見ず知らずの人が考えた予想に乗る。よく調べないで馬券を買う僕らは、馬ではなく人を買うのだ。人を買っているから別に本気でないわけではない。今回の馬券に人生を賭けているような人を選んでも良い。賭場における熱量は運命を変える力になる。悪い方向にも良い方向にも。

◆競馬好きはG1前に馬券を聞いても優しく教えてくれる

買ったのは日曜日の東京競馬場で11番目に開催されたNHKマイルカップという大きなレースだ。競馬のレースは1日に大体12レース開催され、11レース目が重賞と言ってその日の目玉であることが多い。勝っても負けても「もう1レースだけ」と思い至ってしまうのを手玉にとった悪質なレース構成だと思う。

インターネットを巡回して、結局最後は競馬に詳しい友人にLINE

「穴馬を教えてくれ」

とメッセージを送った。

穴馬とは、一番人気ではないけど調子次第では良い順位につける可能性がある馬のことだ。穴という概念自体かなり適当だと思うが、万が一がある。それに彼は結構競馬が上手だった。今回は荒れるレースのようで、人気順に決まる可能性はそれほど高くないという。1万円を10万円近くまで増やすにはもってこいのレースじゃないか。

LINEのメッセージではラインベックという馬がいかにこのレースで才覚を発揮する可能性を有しているかを語っていたが、途中で読むのをやめた。これだけ書いてくれるならきっと本気で考えたんだろう。僕はその本気に乗りたい。下手の横好きで余計な知識が邪魔をする前に買ってしまいたかった。僕が買うのはLINEの彼であって、きっとラインベックではない。

とにかく10番人気のラインベックを買おう。

この馬の単勝に4,000円、さらに2、3着でも大きく当たるようにいくらかずつ賭けた。1着にならない場合は他の馬との組み合わせも込みで当てなければならなかったが、この馬さえくれば10万万近く勝てる買い方をした。頼むぞラインベック……。

今は新型コロナウイルスの影響で競馬場が空いていなかったのでネットで馬券を購入した。400円くらい余ったから自分の誕生日に絡んだ馬券を買う。こういう運否天賦のスパイスは博打の場では大切だ。視界の外から飛んでくる金ほど輝いて見えるものは無い。

中継を見ると馬が順番にゲートに吸い込まれていくところだった。ラインベックは9番のゼッケンをつけている。こう見るとラインベックが一番強い気がしてくる。人の予想に乗っかるような競馬素人はここでエンジンがかかる。

ラインベック、画面越しでもわかる。君の目は燃えているぜ。

NHKマイルカップがスタートする。ダサいラッパの音を追いかけるようにゲートが開き、目的も無く馬たちが走り出した。

スタート直後の順位がそのままゴールラインを通ることがほとんど無い競馬は、最後まで見応えがある。

よく噛まないな、と思いながら実況を聞く。僕は基本的に競馬に詳しくないので他の馬の名前は全部呪文にしか聞こえなかった。レシステンシアとラウダシオンが連呼される。ラインベックの名前は一度しか出てこなかったが、9のゼッケンをつけた馬は馬群の真ん中にいた。まだ焦る時ではない。

最終コーナーを曲がった後に驚異的な伸びを見せる馬もいる。経過時間は1分。まだ焦る時ではない。1kmを1分で走るなんて馬はやっぱりすごいな、と思いながら画面を見る。焦ると博打の神に見捨てられる気がして澄ました顔をしていたが、握った手の中の湿度は100%を超えていた。ラストスパート、実況が邪魔だ。ラインベックの名前を全く呼んでくれない。今に見てろ、僕のラインベックは視界の外からやってくるぞ。

ラインベック。さっき知ったばかりの馬に僕は家賃を賭けている。心の準備ができる前にゴールしてしまうので心臓に悪い。

ラインベック。両親が強かったらしいじゃないか。本気を出すならそろそろだぜ。

ラインベックは、最後まで馬群の真ん中で他の馬と仲良く走り終えてしまった。知らない馬が1着になった瞬間に画面から目を背ける。ああ、ダメだったか。強い絶望に身を斬られて思わずタバコに手が伸びる。7万円近くも払って僕は地獄に住んでいた。

一部の人に期待され、最後まで諦め切れないポジションを保ったまま、ラインベックは凡馬と化した。「まだ本気を出してないだけ」と言いながら何も成し遂げることなく26歳を迎えた僕の人生のような結果だった。後ろを向いて逃げた僕と比べたらゴールするだけ立派だろう。

結果を見て、ため息が出る。1着だったのは、11番人気の馬だった。入る穴を間違えた。

家賃に間に合わせるために買った馬券が当たればカッコ良かったが、これではまるでギャンブル中毒みたいじゃないか。僕は家賃のお金すら賭けたかったのではなく、家賃を持っていなかったから勝負に出た。だがこの理屈を世間は詭弁と呼ぶだろう。ぐうの音も出ない。その通りだ。

部屋に静寂が戻る。どんなに辛くても前を向かなくてはならない。

何度も繰り返してきた金のない一週間が、始まる。

5/14

借金残高 ¥5,161,798-

―[負け犬の遠吠え]―

【犬】

フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。

Twitter→@slave_of_girls

note→ギャンブル依存症

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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