「#検察庁法改正案に抗議します」気鋭の弁護士がスッキリ回答

日刊SPA!

2020/5/16 08:49

 検察官の定年を引き上げ、定年延長制度を創設する検察庁法改正案。Twitterで「#検察庁法改正案に抗議します」と小泉今日子、浅野忠信、井浦新、城田優、きゃりーぱみゅぱみゅ(現在は削除)など多くの著名人が声を上げています。

一方で「公務員の定年を65歳にするのは前から決まっていた」「選挙で選ばれた政治家が検察をコントロールするべき」など賛成の意見も多く寄せられました。

そんななか、ネットでは若手弁護士がまとめた検察庁法改正案のQ&Aが「わかりやすい」と話題となっています。一体、検察庁法改正案のどこが問題なのか。東京法律事務所の江夏大樹弁護士が作成したQ&Aを紹介します。

(本記事は、東京法律事務所のブログ「#検察庁法改正案に抗議します 賛成意見に捧ぐQ&A」(5/13公開)を江夏大樹弁護士の許可のもと、編集して載せています)

*  *  *

◆Q1 改正法は国家公務員全体の定年を65歳に引き上げるものです。法案に反対する理由がわかりません。

(回答)改正法の内容をわけて考えましょう。

改正法は①検察官を含む国家公務員の定年を63歳から65歳に段階的に引き上げます。これは問題ありません。

ここから問題ですが、改正法は②63歳の段階で役職定年制(例えば検事長や検事正という役職は終わり)を採用し、内閣が認めれば、63歳を超えてその役職を継続できるという制度を創設します。③検察官の定年も65歳以降、内閣の判断で定年延長できるという制度になっています。この②③のように内閣の判断で検事総長、検事長、検事正といった重要ポストを内閣の判断で定年後引き続き行わせることができることが問題なのです。

◆Q2 改正法はコロナが発生するずっと以前から法案として準備されてきました。安倍政権や黒川検事長の定年延長問題とは関係がないのではないですか。

(回答)従前から用意されてきた制度は、①検察官を含む国会公務員の定年を65歳に引き上げ、63歳で検事長や検事正といった役職の定年を設けるものでした。

しかし、2020年1月17日、黒川検事長の定年延長問題と時期を同じくして、内閣が認めた場合に限り、②役職定年延長、③検察官定年延長という、今回の問題となっている部分が法案として追加されるに至りました。突然追加された時期と量を比較すると一目瞭然です。従前のシンプルなものから、問題部分がドサっと追加されたのです。

◆Q3 検察庁法改正案の施行日は2022年4月1日です。黒川検事長の定年延長や検事総長就任(予定)とは関係がないのではないですか?

(回答)確かに検察庁法改正に関わらず、黒川検事長の定年は延長され(2020年2月)、その後に検事総長に就任すると思われます(2020年7月)。しかし、黒川検事長の定年延長はその根拠がないため「違法」です。この「違法性」を事後的に正当化するために改正法が成立します。加えて、改正法は黒川検事長の定年延長問題と時期を同じくして用意されました(Q2参照)。このように見ると改正法と黒川検事長は密接な関係があります。

さらに改正法は黒川氏を68歳まで検事総長に据えることも可能な内容となっています。すなわち、黒川氏は7月に検事総長となり、定年が65歳にまで延び、2022(令和4)年2月7日に定年を迎えますが、以下の2つの抜け道があります。

(その1)最初の抜け道は、解釈変更された現行法に基づく勤務延長で検事総長を続投させれば、2022年4月1日を検事総長として迎えることができ、その後は改正検察庁法で続投できます。

(その2)次の抜け道は、法施行日が政令で定めることができるので、前倒しをして、2月7日より前に改正検察庁法を施行し、さらに定年を3年間延長することができます。法成立後もこのような動きに注意しなければなりません。

◆Q4 改正法が三権分立(立法、行政、司法の分立)に反するとの意見がありますが、内閣と検察は共に行政に属するので三権分立に反することにはならないのではないですか。

(回答)検察は行政に属していますが、その役割は犯罪を刑事裁判にかける権限(公訴権)を独占しており(換言すると検察官なくして刑事裁判はできません)、刑事裁判の執行を指揮監督します。このように検察官は刑事司法運営の中核的機能を担っており、司法権に準じた役割・権限があります。したがって、司法の一翼を担っていると言えるのです。

憲法学の第一人者である芦部信喜は「検察作用は裁判と密接にかかわる準司法的採用であるから、司法権に類似する独立性が認められなければならない」と述べているとおりです。したがって、内閣が司法の一翼を担う検察官の人事に介入することは厳に慎まなければなりません。

◆Q5 もともと検事総長の任命権は内閣にあります。検察の暴走を止めるためにも、内閣が検察の人事に口を挟むのは当然ではないでしょうか。

(回答)とても重要な質問ですので(1)~(3)にわけて回答します。

(1)入口と出口を混同しない

検事総長の任命を「入口」とするなら、定年退職時は「出口」です。

改正法の問題は、この「出口」に内閣が介入することを防ごうというものです。すなわち、改正案の本質的かつ致命的な問題は、特定の検察官について、年齢という客観的基準を曲げて「内閣の裁量」によって定年を延長して役職に就くことを法制度化する点にあります(なお5月13日の内閣委員会では定年延長の基準すらないことが武田大臣の答弁から明らかになりました)。

(2)検察の暴走を止めるのは内閣?

検察の暴走とは、つまり検察官が行う捜査によって人権侵害を引き起こす恐れがあるということです(人質司法や冤罪問題)。つまり、「捜査による真実発見」と「国民の人権侵害」は対立し緊張関係にあり、検察の暴走を止める役割が行政府には求められます。

そのため現行法では、法務大臣の検事総長に対する指揮権(検察庁法14条)の制度があり、この制度は、政権と検察の緊張関係を一定反映したものといってよいでしょう。

しかし、今回の改正案は、検察に求められる時の政権との緊張関係を、圧倒的に政権寄りに緩めてしまう点が問題なのです。

時の政権との緊張関係を欠いた検察は、政権に都合の悪い捜査を控えるだけでなく、政権の意図を受けた権限濫用(国策捜査、弾圧)を行う危険性がより高まるのではないでしょうか。

この緊張関係の中では、定年退職においては「年齢」という客観的な指標を基準とすべきなのです。

(3)任命時に介入してよいわけではない

ちなみに「じゃあ、入口は内閣が介入してもよいのか?」と言われるとそうではないことも確認しましょう。

検事総長の任命権者は内閣ですが、歴代の自民党政権は、検察庁とりわけ前任の検事総長の意見を尊重し、これに介入しないという慣例がありました。

黒川検事長の定年延長問題はこのような慣例を破ったことをまず出発点にしましょう。これまでも安倍内閣は、2013年にも内閣法制局次長を昇格させるのが慣例であった内閣法制局長官に外務省出身の小松一郎氏を任命し、集団的自衛権の行使容認という解釈改憲を行うなど、慣例に違反する人事を行ってきました。

黒川検事長の定年延長問題は、上記のような慣例違反を超えて、法律の規定さえも無視(違法)している点で常軌を逸しているのです。

◆Q6 ホリエモン(堀江貴文さん)が法改正に反対している人は動画見ろと言って、反対するのはおかしいと言っていると聞いています。それでも法改正はおかしいのでしょうか。

(回答)堀江貴文さんのTwitterの発言は以下のとおりです。

「#検察庁法改正案に抗議します とか言ってる奴ら、むしろ問題なのは検察官起訴独占主義と独自捜査権限と人質司法のコンボなのであって、そこが三権分立を脅かしてること知ってるんかいな。定年延長なんぞ些末な事項にすぎぬ。」

この堀江貴文さんの意見は、改正案に賛成する意見には読めません。

ご指摘された「検察官起訴独占主義(犯罪は検察官しか訴追・裁判提起できない)」、「独自捜査権限(検察官には捜索や差し押さえ等の独自の捜査権限がある)」、「人質司法(被疑者を長期間拘束して自白等を強要し、移動の自由を侵害する捜査手法)」は改正法案の問題点と関連がありません。

堀江貴文さんは「改正法案は些細な問題でもっと重要な問題がある」と言っているようなので、むしろ法改正に賛成していないとも読めます。

なお、私はよく堀江貴文さんの動画等を拝聴し勉強させて頂いております。

◆Q7 芸能人を含め、法案の内容を詳しくわかっていない人が「反対」と言っているのはおかしいのではないでしょうか。

(回答)全くの誤りです。

芸能人も国民の一人として表現の自由があります。法案の批判は一部の専門家の特権ではありません。自由な発言を行い議論を交わすべきです。

そもそも完全に正しい意見などありません。仮に一部誤りがある投稿をしたからといって、訂正すればよいのです。むしろ言論を萎縮することが問題です。

加えて、改正案はいくつもの内容が盛り込まれた一括法案ですので、これを詳しく把握することは不可能です。弁護士らもその読解に大変苦労していました。なので批判する方に聞きたい、「批判するあなたは法案の内容を詳しく読んだのか?」と。でもご安心ください。法案の内容の概要さえわかればいいのです。

◆Q8 今回の件は野党が結託してTwitter工作するなどの陰謀ではないでしょうか。

(回答)Twitter工作、陰謀とする根拠が見当たりません。

*  *  *

【江夏大樹】

平成2年生まれ。東京法律事務所所属。主に労働事件(労働者側)を多数扱う他、交通事故、離婚・相続、借地借家等の一般民事事件を担当し、さまざまな裁判例を勝ち取っている。

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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