「エール」27話 謎の男・山崎育三郎 第4のミュージカル俳優登場

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第6週「ふたりの決意」27回〈5月5日 (火) 放送 脚本・吉田照幸 演出・松園武大〉


謎の男、登場先週の明るいノリとまったく違う重たい雰囲気に体がついていかない。どうせゴールデンウイークはみんな遊びに出かけるか寝坊するかで見る人が減るから陰鬱なやつをやってもいいかと思ってしまったのだろうか。あいにく今年は新型コロナウイルス感染予防のため国民が等しくずっと家にいる。しかも6日に開けるはずだった緊急事態宣言が5月末まで延長するという発表が4日にあり陰鬱な気分は更に増している。そんなときに重いエピソードとはなんと間が悪いことか。

はじまりはまだ良かった。音が東京に出てきてから、裕一からの連絡がない。うつろな目で机に突っ伏している音だったが、吟に歌の練習をしてこいと部屋を追い出され、公園で歌「歌の翼に」(メンデルスゾーン)の練習をしていると、謎の男(山崎育三郎)が「体は楽器だ。もっとリラックスして。体全体を使わないと駄目だ」「君は力んで猫背になる悪いクセがある。体を開いて姿勢をすこしあげてごらん」とアドバイス。

ハットをかぶり、ラベンダー色(薄いピンク?)のスーツを着た華のある男は音の顔も見ずに言う。「見てないくせに」と音は不審に思うが、やってもみるとたしかに声が出る。振り返るともう男はいなかった。

「エール」を初回からずっと見てきた人や、ムック本など事前の番組宣伝的なものを見ている人たちはピンと来るような登場の仕方である。ドラマのなかでいつその謎が明かされるか楽しみに待ちたい。



別れてください 夢を選びます音との結婚問題がまさ(菊池桃子)と浩二(佐久本宝)の反対で進展せず、思い余った裕一は藤堂先生(森山直太朗)に相談に行く。

学校が狭いと感じる裕一。大人になって学校とか幼稚園とかに行くとそう感じるのは共感できる。この導入はよかったが、藤堂先生、裕一が家族の気持ちをわかってなかったと反省していると、「じつはおれ、教師を辞めるかもしれない」と言い、自分の話をはじめる。人に相談されたとき自分の話にもっていってしまうのは良くない例である。

チーフ演出家にして脚本も書いている吉田照幸先生は、著書「その雑談カチンときます」(青春出版社)でこういうことを「会話泥棒」と指摘している(正確には、「私も」と「も」と言って自分の話にすりかえることを書いていて、藤堂先生は「おれも」とは言っていないが、同じようなものだと思う。違ったらすみません)。まあよく解釈すれば、自分の例を出して、裕一に考えさせているのかもしれないけれど。正直、唐突に感じた。

裕一のほうがコミュニケーション上手で、先生だったらどうするか聞く。
藤堂に「本気で何かを成し遂げたいなら、何かを捨てねばいけない」と言われた裕一は「別れてください。夢を追います」と音に手紙を書いてしまう。

展開が早いのは「朝ドラあるある」で、朝ドラ好きなら慣れっことはいえ、この場面は、登場人物の感情の変化があまりに早送りで心がついていけなかった。

藤堂先生が久しぶりに出てきて、音楽の話をたくさんするでなく(演奏会、どうだった?とか「いびき」って曲はいいなあとか言ってほしいじゃないですか)、自分の家の話をして「何かを得るためには何かを捨てなければいけない」などという形骸化された言葉を言うだけ。藤堂先生、すっかり使い捨てられた感。



震えが止まらん音が歌の稽古を終えて帰宅すると、裕一から手紙が来ていた。

「別れてください。夢を選びます」

音が裕一からなんの連絡もないとぼーっとしていたときにはすでに裕一は藤堂先生と会って手紙を書いて出していたってことか~と時系列を一視聴者である私が頭の整理をしている間(音が手紙を受け取った日は謎の男に会った日とは別であることが服の違いでわかるとはいえ、一瞬つながって見えてしまう)に、音は体は震えだし、吟の胸に泣き崩れる。

手紙を読んでいく二階堂ふみの表情の変化は圧巻で、さらに「震えが止まらん。押さえて。おかしいな……。なんでだろう、止まらん。おねえちゃん。震え止めて。おねえちゃん。止めて」と泣くところも名演技。よ。二階堂! と掛け声をかけたくなった。

「音さん、捨てたんだろ」裕一は「音さん、捨てたんだろ。一流になんなきゃ意味ない」と自分に何度も言い聞かせながら、曲を作っていたが、なぜか留学が取り消しになってしまう。泣いている顔を、鏡に映す演出。

「家族を顧みなかった報いかな」「全部、終わり」と絶望でいっぱいの裕一。窪田正孝の絶望演技が朝ドラクオリティーを超えていて、もったいないくらい。お金ももらえないのかなと俗っぽいことを考えてしまった私を恥ずかしく思う。

心配した三郎が関内家に手紙を書き、光子(薬師丸ひろ子)が東京にやって来る。
早い。早い。登場人物の感情の余韻なく、どんどん状況を進めていくのは、書きたいことはここではないからなのだろう。

謎の男・山崎育三郎さて。「謎の男」としてあるので、レビューでは正体を明かして書くことは避けるが、山崎育三郎について少々。

ミュージカル界のプリンスといえば井上芳雄で揺るぎないが、新世代のプリンス視されているのが山崎育三郎。ミュージックティ(ーチャー)御手洗役の古川雄大と、新型コロナウイルス感染防止のため中止になったミュージカル「エリザベート」のトートという大役を井上芳雄と共にトリプルでこの4月からやる予定だった実力派。

いま、多くの舞台が中止や延期になっているなかでミュージカル俳優40人がリモートで「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」を歌って配信(企画、製作/Shows at Home)し、そこにも山崎は参加している。歌の力に励まされるとてもいい動画なので未見の方はぜひ見てほしい。



山崎がテレビドラマでも注目されたのは、初主演ドラマ「あいの結婚相談所」(17年)で、ミュージカル俳優の特性を思う存分生かしてから。劇中で歌と踊りをふんだんに披露し、盛り上げた。

「アナと雪の女王」(14年)のヒット以来ミュージカルがブームになり、同じ頃、フラッシュモブも流行り、歌ったり踊ったりが日常化してきたところで、ドラマのなかのミュージカルテイストも当たり前に受けるようになっていた(昔はタモリがミュージカルは突然歌いだして不自然と言っていたことに代表されるように、一般層には受けない表現であったが、その不自然さがぐるり回って面白いものとして楽しめるようになった)。

そう思えば、ミュージカル俳優の歌のうまさや存在の輝きは凄いものだと思えるようになる。そのいい流れに山崎育三郎は乗った。その後「昭和元禄落語心中」(18年)では型破りな落語家を演じ、歌と踊りだけではない実力を見せつけた。

「エール」は音楽をテーマにしたドラマだからか、音楽に関係する出演者が多い。ミュージカル俳優もこれまで、岩城役の吉原光夫(劇団四季出身)、川俣銀行の菊池役の堀内敬子(劇団四季出身)、ミュージック・ティ御手洗役の古川雄大と4人めとなる。

歌える俳優がたくさんいるのだから、「てるてる家族」(03年)みたいに毎回歌と踊りがある構成にしてほしいけど、働き方改革のうえ、コロナ禍で撮影も危ぶまれているいまはもう難しいのだろう。ミュージカルブームがくる10年も前に劇中ミュージカルをほぼ毎朝やっていた「てるてる家族」は、本当に凄いことをやっていたんだなと改めて感心する。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)



番組情報連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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