人気現代劇クリエイターの手掛けた新作歌舞伎/ホーム・シアトリカル・ホーム[Vol.12] ~自宅カンゲキ 1-2-3<歌舞伎編>

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自宅で。あるいは移動中に。はたまた時間がぽっかり空いたとき。そんなすきま時間に手に取れる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品を、エンタメ界隈に棲息する人々が「3選」としてジャンル・テーマ別に語り尽くします。(SPICE編集部)

人気現代劇クリエイターの手掛けた新作歌舞伎​
ホーム・シアトリカル・ホーム[Vol.12]~自宅カンゲキ 1-2-3<歌舞伎編>
by 塚田史香
【1】『野田版 研辰の討たれ』野田秀樹
【2】三谷幸喜『決闘!高田馬場』
【3】歌舞伎NEXT『阿弖流為』/中島かずき作×演出いのうえひでのり演出


StayHome #WithMe の言葉とともに、世界中のアーティストやカンパニーが、インターネットでメッセージや舞台映像を配信しています。この記事に辿りついた方ならばご自宅での時間を期間限定配信映像を追いかけたり、録りためた劇場公演の映像を見返してお過ごしの方も多いのではないでしょうか。中には、そろそろ目新しい作品に出会いたいという気もちがよぎる方もいませんか?

本稿では、現代劇の演出家が手がけた歌舞伎公演をご紹介します。「現代劇の演出家」としたのは、通常、歌舞伎には演出家がいないからです。座頭が主演俳優として大きな役を勤めながら、演出家の役割も担います。そんな事情もあり、演出家を迎えて作品がつくられる時は大きな話題となります。過去には名だたる演出家が歌舞伎を手がけてきました。

串田和美さんは中村勘三郎さんとソリッドな手触りの世界観に人間の生々しさを濃縮したコクーン歌舞伎シリーズを(『三人吉三』については、ライターこむらさきさんの既出記事をご覧ください!)、蜷川幸雄さんは幻想的な空間でシェイクスピア劇を、宮藤官九郎さんは向井秀徳の音楽を使い檜舞台にゾンビを徘徊させました。横内謙介さん、G2さん、赤堀雅秋さん他、映画界から三池崇史監督が参戦することもあります。2017年には青木豪さん脚本、宮城聰さん演出でインド抒情詩『マハーバーラタ』が歌舞伎になりました。

これらの作品は、歌舞伎という同一のフォーマットで作られました。歌舞伎からはみ出したところに、演出家の個性を感じることができます。そんな中から今回は、一般販売され自宅で見ることができ、台詞は現代劇に近い感覚で聞ける作品を3作選びました。

【1】『野田版 研辰の討たれ』(2001年、歌舞伎座)



公式『野田版 研辰の討たれ』予告動画

野田秀樹作・演出の新作歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』は、中村勘三郎(十八世。当時、勘九郎)とのタッグで生まれた歌舞伎の1作目。2005年には十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として再演された舞台だ。原作は木村錦花の小説で、大正14年12月に歌舞伎として脚色され、明治座で初演された。
あらすじ: もとは町人で刀研ぎだった辰次(勘三郎)は、口の上手さで近江の国粟津城の殿様に召し抱えられる。目上の人には調子の良い態度だが、家臣たちに対して酷いもの。この日も家臣たちが赤穂浪士の討ち入りの話題で盛り上がるところに、辰次は水を差すような持論を披露。小ばかにした態度で周りを怒らせるが、ぶたれた途端になりふり構わず土下座する。そこへ家老の平井市郎右衛門(三津五郎)と奥方様(福助)がやってくる。辰次は奥方様に良いところを見せようと家老の市郎右衛門に手合いを願い出るが、コテンパンにやられてしまう。辰次はこれを逆恨みし、市郎右衛門に仕返ししようと計画を立てるのだった‥‥。

三津五郎はその身のしなやかさで軽やかに笑いを誘い、福助は癖のあるキャラクターで場をさらう。口先ばかりの辰次におかしみと憎みきれない魅力を与えたのが勘三郎だ。勘三郎は、野田自身が舞台でみせる弾むような身体的表現や言葉遊びのような台詞まわしを、まるで野田の分身のように、しかし野田には出しえない歌舞伎役者としてのオリジナリティで体現する。いつもの野田ワールドでありながら歌舞伎。そんな奇跡を起こしたのは、野田演出をまるごと受け入れても揺るぎのない、継承されてきた芸の力、そしてその歌舞伎の力に全幅の信頼を寄せて作・演出した野田の覚悟ではないだろうか。

野田版の辰次は、木村錦花版と異なり市郎右衛門の命を奪う気はない。しかし想定外が起こり、辰次は市郎右衛門の二人の息子、九市郎(幸四郎)と才次郎(勘九郎)から追われる身となる。この皮肉は、劇中で民衆が仇討を煽り、お祭りのように熱狂するシーンにまで効いてくる。無責任に放たれるヤジは当事者たちの運命を左右するにはあまりにも軽々しい。本作は約20年前のものだが、その光景は現代のSNSにおける“炎上”と似た残酷さを感じさせる。

残念ながら勘三郎と野田の“次回作”を観ることはもう叶わないが、野田の代表作『贋作・桜の森の満開の下』が、2017年に新作歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』となり勘九郎の耳男、幸四郎のオオアマ、七之助の夜長姫で上演。圧巻の桜吹雪の中、万雷の拍手がおくられた。
★『野田版 研辰の討たれ』は松竹DVD倶楽部ほか購入可能

■『決闘!高田馬場』(2006年、PARCO劇場)



〽パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ劇場、と延々と耳に残る唄で始まる、三谷幸喜脚本・演出の新作歌舞伎『決闘!高田馬場』。講談で『安兵衞駆け付け』などのタイトルで読まれるエピソードをもとにしている。三谷は阪東妻三郎主演の映画が、本作の歌舞伎化を考えるきっかけになったと語っていた。
あらすじ: 舞台は江戸。中山安兵衛(幸四郎。当時、七代目染五郎)は優れた剣の腕を持ちながら、喧嘩仲裁が生業の浪人暮らし。旧友の小野寺右京(猿之助。当時、二代目亀治郎)が立ち直らせようにも耳を貸さない。大工の又八(勘九郎。当時、二代目勘太郎)や長屋の住民も、安兵衛を慕いつつ、飲んでばかりの堕落ぶりすっかり呆れている。ある時、安兵衛のおじ菅野六郎左衛門(松本錦吾)は、御前試合で村上庄左衛門(猿之助)と中津川祐範(幸四郎)の恨みを買い、老いた体で一人、高田馬場での決闘に向かうことになる。おじからの別れの手紙で事態を知った安兵衛は、奮起し助太刀すべく高田馬場へ駆け出す。

三谷作品に欠かせないのは笑いの要素。歌舞伎でもそれはかわらない。幸四郎は時代考証を無視したネタを投下したかと思えば、独特な位置にホクロのある奇抜なキャラで登場したりと先陣を切って笑いをとる。勘九郎はドリフか吉本新喜劇さながらのおじいちゃん過ぎるおじいちゃん、家族ネタ、〇〇〇〇ダンスと大サービス。本作最多の一人3役を勤める猿之助は、堅物キャラ、スーパーポジティブな恋する女の子キャラ、ウツケキャラと役の個性で楽しませた。歌舞伎俳優だからこそ知る絶妙な間合いで、歌舞伎特有の台詞回しになるのもイチイチおかしく、後半は無敵状態の笑いを作る。トリックスターはおウメ婆さん役の萬次郎。幸四郎、猿之助、勘九郎のやんちゃを治めるポジションかと思いきや、3人を追い抜かんばかりの大活躍をみせた。

喜劇としての笑いから掟破りのギャグまで何でもありの無法状態。現代劇なら破綻しかねないが、本作では歌舞伎俳優たちの腕力が、一瞬で芝居の空気を元に戻す。その戻ってくる場所が、三谷により緻密に構成された脚本だ。三谷といえば、当て書きで知られる。いま歌舞伎で古典と呼ばれる演目が、時代時代の狂言作者により当時の人気役者のために書かれたように、三谷は稽古を進めながらアイデアや人となりを取りこんで本作を作ったのだろう。どの俳優にも見せ場があり、どの役もその俳優である必然性を感じさせるハマり役となっていた。

物語後半、安兵衛が高田馬場へ走り始めてからはノンストップ。下座音楽と附け打ちが高揚感を駆り立て、笑いが緩急をつける。ブレヒト幕による場面転換と歌舞伎の早替りを織り込んだ演出は、映画のカット・バックのようにエピソードを繋ぐ。幸四郎は武者絵から飛び出したような形相で、六方を踏み続けるがごとく疾走。クライマックスは、見る者の目に鮮烈な印象を焼き付けるだろう。
三谷にとって2作目の書き下ろし新作歌舞伎『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』が、2019年、歌舞伎座の八月納涼歌舞伎で上演された。こちらは2020年10月2日(金)~10月22日(木)にシネマ歌舞伎として上映される予定。(★『決闘!高田馬場』はPARCO STAGE SHOPなどで購入可能)

【3】歌舞伎NEXT『阿弖流為』 〈アテルイ〉(2015、新橋演舞場)



『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』予告動画

作・中島かずき、演出・いのうえひでのりによる『歌舞伎NEXT 阿弖流為』。2002年に劇団☆新感線と松本幸四郎(十代目。当時、染五郎)が上演した『アテルイ』を、歌舞伎俳優だけで上演する歌舞伎版として仕立て直したもの。
あらすじ: アテルイとは、奈良時代末期から平安時代初期に実在したとされる、蝦夷(えみし)のリーダーの名前だ。時代設定は、古代。帝を頂点とした「大和」朝廷は国家統一を目論み、北の地に暮らす民「蝦夷」の討伐に乗り出す。その頃、都は蝦夷出身の盗賊「立烏帽子党」の出没に困らされていた。坂上田村麻呂(勘九郎)は都の警護を任い、踊り女の鈴鹿(七之助)と立烏帽子党を追う。ある時“北の狼”と名乗る男と出会う。それが北の民・蝦夷の族長の息子、阿弖流為(幸四郎)だった。田村麻呂と阿弖流為、守るものは異なるが響き合うものを感じてか、その場は「次に会う時は死力を尽くして闘うのみ」と誓いあい、別れるのだった。戦は激化し阿弖流為は蝦夷の長に、田村麻呂は蝦夷討伐を率いる征夷大将軍となり…。

物語は勧善懲悪のようで、どの立場にも大義名分がある。たしかなドラマでありながら、歌舞伎の「格好良い!」を新感線のスピード感にのせた、ひたすら格好良いエンタテインメントでもある。繰り広げられるアクションシーンでは、キャストたちの鬼神のごとき太刀裁きに、歌舞伎の附打ちに似た音、さらにズビシッ!ズバァ!といったSEも炸裂。和楽器の音を取り入れたBGMと派手な照明演出が盛り上げる。

特に格好良いのは、田村麻呂と阿弖流為が出会うシーン。客席をはさむ両花道(通常の花道に加え、上手側にも仮花道が敷かれた状態)で二人は対峙する。劇画的な衣裳、メイク、台詞だけでも文句なしの格好良さ。そこに勘九郎と幸四郎による歌舞伎ならではの台詞回しが加わると、痺れるほどに格好良い。女形の俳優もまた格好良い。立烏帽子と鈴鹿の2役を勤めた七之助は、美しさとともに(2002年の新感線版と比較し、善し悪しではなく身体的に女優と異なる点で)力強さがある。女形ならではの性の境界の曖昧さからは、時に禍々しいほどの色気が放たれていた。

江戸時代の芝居小屋で、当時の歌舞伎をみた江戸っ子たちも、きっとこんな気持ちで興奮したに違いない。そんな気持ちにさせてくれる『阿弖流為』の格好良さは、日常とかけ離れた時代物狂言の格好良さと通じるものがある。歌舞伎の様式を取り入れながらも様式美を超えて直接感情に訴えかけてくる格好良さだ。これだけ言っても言い足りないくらいに格好良いので、ぜひ見てください。
★松竹DVD倶楽部ほか購入可能
以上3作です。

劇場で見られるに越したことはありませんが、一流の演出家と時代をけん引する歌舞伎俳優たちの作品は、映像で見ても心をつかまれるのに充分な力があります。「次は生の歌舞伎をみてみよう」と思っていただくきっかけになれば幸いです。

文=塚田史香

当記事はSPICEの提供記事です。

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