ジュディ・ガーランドの天才を堪能するミュージカル映画/ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.9]

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自宅で。あるいは移動中に。はたまた時間がぽっかり空いたとき。そんなすきま時間に手に取れる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品を、エンタメ界隈に棲息する人々が「3選」としてジャンル・テーマ別に語り尽くします。今回は「ミュージカル編」の“特別拡張ヴァージョン”として「ミュージカル映画編」をお届けします。(SPICE編集部)

ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.9]<ミュージカル編>
「ジュディ・ガーランドの天才を堪能するミュージカル映画」​ by中島薫
【1】『オズの魔法使』
【2】『イースター・パレード』
【3】『サマー・ストック』​


47歳で燃え尽きた、凄絶な人生


 アメリカを代表する稀代のエンタテイナー、ジュディ・ガーランド(1922~69年)。ミュージカル女優として数多くの映画に主演し、抜群の歌唱力と明朗快活なパーソナリティーで一世を風靡した。しかし、その生涯は波乱万丈だ。47歳で早逝するまで、薬物と酒に溺れながらも、命を削って歌い続けた最晩年の姿は、2020年3月6日に公開された伝記映画「ジュディ 虹の彼方に」(2019年)で活写された通り。惜しくも上映自粛の時期と重なり、再公開が待たれるが、血の通ったガーランド像を創り上げ、アカデミー賞主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガーの名演も相まって、見応えある快作に仕上がっていた。ここではガーランドの出演作の中から、DVDかブルーレイで堪能できる厳選3作を紹介しよう。たとえ私生活はボロボロでも、映画の中で歌い踊る彼女はオーラを放って光り輝いている。その活気に満ちたパフォーマンスを楽しんで頂ければ幸いだ。

【公式動画】『ジュディ 虹の彼方に』予告篇


【1】『オズの魔法使』(1939年)

左からレイ・ボルジャー(かかし)、ジャック・ヘイリー(ブリキ男)、ドロシー役のジュディ・ガーランド、バート・ラー(ライオン)  Photo Courtesy of Scott Brogan
左からレイ・ボルジャー(かかし)、ジャック・ヘイリー(ブリキ男)、ドロシー役のジュディ・ガーランド、バート・ラー(ライオン)  Photo Courtesy of Scott Brogan

公開当時17歳だった可憐なガーランドが、一躍スターの座を獲得した一作。ガーランド扮するカンザスの少女ドロシーが、竜巻に飛ばされてたどり着いたオズの国で数奇な冒険を経験し、一番大切なのはわが家である事を悟るファンタジーだ。映画序盤で、「心配事のない場所」を夢見るドロシーが歌う〈虹の彼方に〉は、ガーランドのテーマソングとなったばかりか、無数の歌手やミュージシャンにカバーされ、永遠のスタンダード・ナンバーとなった。

素直かつナチュラルな歌と演技で、早くも非凡な才能を開花させたガーランドだが、彼女の脇を固める助演陣も強力だ。旅の途中で出会う、かかしとブリキ男、ライオンを演じるレイ・ボルジャー、ジャック・ヘイリー、バート・ラーは、ボードビルやブロードウェイの舞台で鍛え上げた百戦錬磨の芸人。特に、身体クネクネの一風変わったダンスで鳴らしたボルジャーと、弱虫ライオンを鷹揚とした個性でユーモラスに演じるラーが場面をさらう。

この映画、ガーランドの将来を決定付けただけでなく、悪い意味でも運命を左右した。彼女の死期を早める結果となった薬物を、撮影中に初めて服用したのだ(撮影時は16歳)。クスリの名はベンゼドリン。覚醒作用と減量効果を併せ持つ薬物で、ハイになった状態で深夜までハードな撮影をこなし、その後は睡眠薬で無理矢理眠らされた。当時は「魔法の新薬」と呼ばれたドラッグだったが、副作用や依存症の知識を誰も持ち合わせていなかったというから恐ろしい。ガーランドは、本作の成功で過密スケジュールに拍車がかかり、所属していた映画会社MGMの看板スターとして、薬物に頼りながらも次々に主演作を放った。
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【2】『イースター・パレード』(1948年)

フレッド・アステア(左)とガーランド  Photo Courtesy of Scott Brogan
フレッド・アステア(左)とガーランド  Photo Courtesy of Scott Brogan

 ガーランドが、不世出のダンサー、フレッド・アステア(1899~1987年)と共演した秀作。〈ホワイト・クリスマス〉でおなじみの、アメリカの国宝的作詞作曲家アーヴィング・バーリンの名曲を全編に散りばめ、心弾む一作に仕上がった。長年のパートナー(アン・ミラー)に、突然コンビ解消を言い渡されたアステアが、ガーランドを見出し育て上げる物語だ。

軽妙洒脱かつ優雅なスタイルで一時代を築いたアステア。片や、感情をストレートに表現する熱演型のガーランド。2人の相性は水と油と思いきや、このコンビは成功だった。彼らのソング&ダンスには、お互いへの敬意が滲み出ており、大充実のミュージカル・ナンバーへと昇華したのだ。まずは、映画中盤で展開するメドレーが必見。〈アイ・ラヴ・ア・ピアノ〉に始まり、フィニッシュの〈アラバマ行きの夜汽車が出る〉まで、タップを交え軽快に踊りまくるのだが、名人アステアと互角に渡り合うガーランドに感嘆する。また、彼らがルンペン姿でコミカルに歌い踊る〈2人の名士〉も楽しい。たとえボロ着をまとっても、どこか気品が漂うアステアに注目だ。

ガーランドのソロ・ナンバーでは、バラードに細やかな感情表現を見せる〈ベター・ラック・ネクスト・タイム〉が素晴らしい。加えてアステアが、おもちゃ屋でドラムを叩きながら鮮やかにタップを踊る〈ドラム・クレイジー〉など、とにかく見せ場の多いミュージカルなのだ。シンプルで耳に馴染みやすいバーリンの楽曲も美しい。監督はチャールズ・ウォルターズ。ブロードウェイのダンサー&振付師出身の彼は、さすがにミュージカル・ナンバーの演出は手慣れたもので、キャストの個性と実力を生かし手堅くまとめている。
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【3】『サマー・ストック』(1950年)

〈ゲット・ハッピー〉を歌い踊るガーランド  Photo Courtesy of Scott Brogan
〈ゲット・ハッピー〉を歌い踊るガーランド  Photo Courtesy of Scott Brogan

ドラッグとアルコールの常用で精神を病み、幾度となく撮影に穴を開けたガーランドは、ついに解雇を宣告される。この「サマー・ストック」は、MGM時代最後の作品で、日本では劇場未公開に終わったものの、後にDVDで発売された。共演はジーン・ケリー(1912~96年)。ブロードウェイの舞台で歌い踊る彼を観て、その才能に惚れ込み、ハリウッド行きを勧めたのがガーランドだった。

農場を営むガーランドの元に、納屋をリハーサルで使用すべく劇団が到着。演出家のケリーと揉めながらも、ショウを成功させるストーリーは凡庸だが、2人が実力を存分に発揮したミュージカル・ナンバーが凄い。まずは、表現力が格段に進歩したガーランドのボーカルに魅せられる。特に豊かな声量で堂々と歌い上げる、オープニングの〈歌いたい気分なら〉と〈実り多き収穫を〉は、胸がすくような快唱だ。一方ケリーも負けてはいない。床に敷かれた新聞紙の上でタップを踏みながら、両足で器用に紙を引き裂く〈ニュースペーパー・ダンス〉が圧巻。その至芸に唸る事請け合いだ。

そして本作の白眉、と言うよりガーランドの生涯におけるベスト・ナンバーが、映画終盤の〈ゲット・ハッピー〉だ。タキシードを着こなし、男性ダンサーを従えた彼女が歌い踊るこの場面は、正に粋の極み。ユニークな振付も相まって、ハリウッド・ミュージカルの神髄を伝える傑作ナンバーとして評価が高く、何度観ても飽きない魅力に溢れている。前述の「ジュディ 虹の彼方」では、ゲイ・カップルの家に招かれたガーランドがこの曲を静かに歌い、常に同性愛者の味方だった彼女の優しさが滲み出る名シーンとなっていた。監督は、「イースター・パレード」と同じくウォルターズが担当。〈ゲット・ハッピー〉の振付は、彼が自ら手掛けている。

実はガーランド、『ハロー・ドーリー!』(1964年)で知られる、ジェリー・ハーマン作詞作曲のミュージカル『メイム』(1966年)で、ブロードウェイ・デビューを飾る予定だった。しかし当時、薬物依存症は悪化し、コンサートもドタキャン連発。本人は大いに乗り気だったが、制作陣は「毎晩舞台を務めるのは無理」と判断し、企画は幻と消えた。もしドラッグを絶って『メイム』に主演していたら、その後の人生も変わっていただろう。
これも〈ゲット・ハッピー〉。ダンサーたちを上手く絡めた振付が見ものだ。  Photo Courtesy of Scott Brogan
これも〈ゲット・ハッピー〉。ダンサーたちを上手く絡めた振付が見ものだ。  Photo Courtesy of Scott Brogan
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文=中島薫(音楽評論家)

当記事はSPICEの提供記事です。

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