【今週はこれを読め! SF編】ふたつの偽史が結ぶ真実の因果

BOOKSTAND

 日本ファンタジーノベル大賞2019受賞作。古代中国を思わせる世界「伍州」を舞台とした伝奇ファンタジイだが、テキストの構成に再帰的な企みがあり、なおかつ超弩級スペクタクルのSF的アイデアが投入される。じつに読みどころの多い作品である。ヒロイン「瑤花」の飄然としたキャラクターも魅力的だ。

SF的アイデアの部分は作品中盤のサプライズ的山場なので、ここで詳述するわけにいかない。印象だけ言っておくと、ジョージ・R・R・マーティンの初期短篇やブルース・スターリングの宇宙SF、もしくは諸星大二郎の漫画を髣髴とさせる有機生命的グロテスク。びっくりした。

いっぽう、テキストの企みは、冒頭の章のなかにある言葉「偽史と小説によって編まれた真の歴史」が暗示している。この章はこの作品の枠をなしており、語り手の「私」が菫の花が咲き誇る大地を歩むエピソードである。私が向かっているのは、壙(こう)とジナンという二国の結末だ。

表立って伝わる歴史には、壙もジナンも登場しない。

そもそもの発端は、伍州(ごしゅう)の科学院考古学研究員、梁斉河(りょうせいか)のもとに持ちこまれた矢状の装身具に刻まれていた文言で、そこに壙とジナンという国名が示されていたのだ。斉河は膨大な文献のなかから、この二国について言及のあるふたつの書物『南朱列国演義』と『歴世神王拾記』を見つける。この斉河の研究がバトンのように引きつがれ、私の旅になるのだ。

この斉河−私による枠物語を挟みながら、『南朱列国演義』と『歴世神王拾記』の内容が、交互に示されていく。

『南朱列国演義』の開幕部で、ジナンが伍州の外界にかつてあった辺境国だということがわかる。しかし、壙のほうがよくわからない。伍州のすべてを治める国とのことだが、その実体がなかなか示されず、読者は『南朱列国演義』と『歴世神王拾記』の記述をたどって推測するしかない。

いわく、壙とはひとりの少年が幽谷の岩肌に穿った穴居のことである。
 いわく、壙とは地平線いっぱいに広がる城塞都市である。
 いわく、壙とは蟻たちが地下に構成した複雑な巨大回廊である。

よくわからないといえば、『南朱列国演義』と『歴世神王拾記』のつながりである。どちらでも、瑤花という娘が重要な役割を担っている。

『南朱列国演義』の瑤花は、ジナンの王女だ。彼女は真气(しんき)と出会う。彼は、祭祀をおこなうためジナンへ遣わされた壙国の第四三二〇一王子である。

『歴世神王拾記』の瑤花は、飾り気のない麻の衣を被った童女だ。彼女は螞九と出会う。彼は、伍州の中心部で催された射的儀礼をきっかけに弓の修練に打ちこむことになった、小部族出身の少年である。

このふたつのガール・ミーツ・ボーイが、部族を巻きこんでの抗争へとつながり、複雑な歴史の因果をかたちづくっていく。

(牧眞司)

当記事はBOOKSTANDの提供記事です。

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