VTuber 樋口楓インタビュー「叩かれるにせよ、応援されるにせよ、全部受け止めようと思っています!」

SPICE

2020/3/25 18:00


3月25日、VTuber・樋口楓のメジャーデビューシングル『MARBLE』がリリースされる。樋口楓は2018年に、「にじさんじ」のライバーとして動画配信活動をスタートしたVTuber。活動開始まもなく人気を集め、2019年には自身が希望していた音楽活動もスタートし、今年ついにランティスからアーティストデビューすることとなった。今や地上波のテレビ番組にも出演し、一般層にも存在を知らしめることとなったVTuberではあるものの、その実像をまだまだ知らない人も少なくないはず。そこで今回SPICEでは音楽家・樋口楓の魅力に迫るのはもちろん、VTuber・樋口楓の正体、そしてVTuberそのものの正体を探ってみた。

VTuberデビューのきっかけは「毎日があまり楽しくなかったから」

――今回のメジャーデビューを機に樋口楓というVTuber、それからVTuberそのものの存在を知る人も多いと思うんです。

そうだとうれしいですね。今回のメジャーデビューには「VTuberのことをもっと多くの人に知ってもらいたい」という目標もありますから。

――なので、樋口さんのプロフィールから追いかけさせてください。まずVTuberになるきっかけは?

「にじさんじ」というVTuberとして動画配信できるiPhoneアプリの公式ライバー(公式VTuber)のオーディションをするという情報がTwitterで回ってきて、毎日同じような生活を送るのが「あんまり楽しくないなあ」と思っていたので、なんとなく「やってみようかな?」と気軽に受けたらなぜか受かったという感じですね(笑)。

――VTuberデビューのきっかけは「毎日があまり楽しくなかったから」(笑)。

あとちっちゃい頃から『マビノギ』っていうオンラインゲームをお父さんのパソコンを借りてやってたんですけど、中でもほかのプレイヤーさんとのチャットが好きだったんです。基本的にほかのプレイヤーさんは大人だったからゲーム上で勉強を教わったりして。そこで普段の学校生活とはまた違う世界に住む楽しさを知ったので、それを広めたかったんです。

――そして2018年2月のお披露目直後から人気を集めた。「毎日があまり楽しくなかったから」VTuberになった人にしてみたら、けっこう驚くべき事態だったのでは?

ただ私が「にじさんじ」で活動を始めたころのVTuberは基本的に三次元……3DCGのアバターを被っている方が多かったんですけど、「にじさんじ」は二次元……上半身しかない2DCGのアバターだったから「お前らはVTuberじゃない」みたいな批判もめちゃくちゃあって。「『にじさんじ』は確かに二次元だけど、そのぶん気軽にiPhone1台あればVTuberになれるんだよ」ということをPRする要因として選ばれたので特に傷つくこともなかったんですけど、だからこそ人気者になったっていう実感も薄かったんですよね。私は『マビノギ』と「にじさんじ」をアピールできたらとしか思ってなかったから

――ではご自身の動画がウケている理由を分析するのは難しい?

いや、暴言を面白がってもらえてるんだと思います!(即答)

――あはははは(笑)。

あとはVTuberの内情をぶっちゃけるからでしょうね(笑)。ほかの子たちはちゃんとゲーム実況したり、歌ったりしてるのに。

――ちゃんと『マビノギ』をプレイしてください!

……はい。

――一方、音楽のキャリアについてなんですけど、プロフィールには「幼い頃からトランペットが好きで」とあります。

うちの小学校にミニ吹奏楽部みたいなのがあったんですよ。そこで「一番ちっちゃくて、一番高い音が出て、しかもほかの楽器に比べてメロディラインを吹くことが多い楽器だよ」ってトランペットのことを教わって。それで吹いてみたらたまたま音が出たんですよ。トランペットっていきなり音を出せない人はあんまりいないのに、なぜか吹けちゃったから「このままやってみよう」と思って始めました。

――それが音楽との出合いですか? それともその前から好きなアーティストやアイドルがいたりした?

両親が大学の軽音部のドラマー同士だったので音楽好きな家庭で。本当に生まれたころからずっといろんな音楽が家で流れていたし、3歳のときからピアノも習っていました。ただトランペットを始めたらキーの違い……トランペットは基本的に中心音がB♭なんだけど、ピアノはCっていう違いがあったから、ピアノの楽譜が読めなくなってしまって。それでトランペット1本になりました。

――そのご家庭で流れていた曲の中でも特に好きなものってありました?

インストのバンドばっかり聴いてました。歌モノよりもインストのほうがしっくりきたというか。そういうこともあってジャズやファンクを聴いていました。歌モノは、歌詞の意味が理解できなかったのと、メロディしか耳に入ってこなかったし、なにかそのメロディラインに言葉が乗っているだけっていう印象だったので

――ボーカルも曲を構成する音のひとつでしかなかった。特に意味をなすものではなかった、と。

私にとってはそうでしたね。

――ところが2019年にはインディながらも樋口楓名義で音楽活動、しかも歌手活動を開始しますよね?

そのころファンの方に二次創作のイラストや小説や曲を作っていただく機会が増えて。そのいただいた音楽に対してどうお礼をしようかな? と考えたとき「私が歌えばいいんだ」って思って。で、曲のデータをいただいて、それに自宅で歌を乗せて、そのデータを作曲してくださった方に送り返してミックスしてもらう機会がどんどん増えていったら「歌うのって楽しいな」って気付いたんです。そうしたら「にじさんじ」のほかのライバーの子と一緒にコンピレーションCDをリリースするお話もいただけるようになって、そこで初めて歌詞の意味がわかったんです。

――ファンの方が樋口さんをイメージして書いた歌詞だから?

そうです。「この歌詞はあの日の配信を観て書いてもらったものだから、この人はあのときの動画をこう解釈してくださったのか」って、自分の立場に立ってもらった歌詞だからようやく意味が理解できて(笑)。そうしたらほかのアーティストさんの歌モノの楽曲の歌詞の意味もわかるようになったんです。中学のころ、同級生が聴いていたような曲をあらためて聴いて「このアーティストさんはこんなに深い葛藤を抱えていたのか」って今さら泣くみたいな(笑)。


ランティスからの提案で豪華作曲家が集ったメジャーデビュー

――そしてこのたびランティスから個人名義でメジャーデビューします。そもそもランティスから声がかかった経緯って?

私がランティスさんのリリースする楽曲とライブの作り方がものすごく好きで。たとえば『ラブライブ!』シリーズだったら、スクリーンにアニメのダンスシーンを流しながら声優さんが歌ったりして。このライブの作り方が好きだったんです。VTuberっていうのも個人のストーリーとキャラクターのストーリーを重ねながら活動しているので……私だったらさっきお話したとおり、オリジナル曲を作っていただいたり……今後も樋口楓として音楽を続けて行くんだったら、それからVTuberという存在を世の中に広めたいんならランティスさんで活動したいなと思って私が声をかけたらお返事をいただけた、というのが経緯です。

――売り込みをかけたんですか!?

はい(笑)。「樋口楓って言います!」「配信やってます!」「今度ライブをやります!」って。

――最初のお話のとおり、その音楽活動を続ける動機のひとつにVTuberの認知の拡大があるわけですよね?

そうですね。あえてこの見た目のままで勝負することでVTuberの世界を知ってもらえるきっかけになると思うし、あまりVTuberのことを知らない人の誤解も解けると思うんです。

――「誤解」?

Vtuberといっても、実はみんなリアルな人たちと変わらないんだよ。VTuberだって毎日普通に暮らしている。ただ、私は「樋口楓」という容姿で表現をしたいんだっていうことをメジャーレーベルを通して伝えたられたらいいな、という思いはあります。



――今のお話でデビューシングルの表題曲「MARBLE」のタイトルの意味がわかってきた気がします。世間の評価と樋口楓という存在のありようという異なる色をまさに“マーブル状”に混ぜていきたい?

そうですね。リアルの人のようにごはんを食べたりはできないんだけど、VTuberにも感情はちゃんとあって、うれしいときはうれしいし、傷つくときは傷つく。そういうことをわかってもらいたいなという気持ちが常にあったので、デビューするに当たって「二次元と三次元の壁を壊したい」「うまくいかないかもしれない」「でも音楽を通じてその壁を少しでも薄くしてもらいたい」という気持ちを伝えたいというお話はさせてもらいました。

――二次元と三次元はマーブル状に混ざり合ってるんだ、と。

あとVTuberとして活動してきたこの2年間の楽しかったことや辛かったことも全部ゴチャゴチャにしたかったんです。

――では平朋崇さんの手がけた詞は納得のいくものに?

樋口楓の2年間を知らなければ絶対に書けない歌詞だし、これまでのオリジナル曲に出てきたフレーズを抜粋して歌詞に盛り込んだりしてくれていて。本当に樋口楓のこれまでとこれからが混ざった1曲だと思っています。歌詞を初めて見せてもらったとき、ランティスの方から「リテイクはありますか?」って聞かれたので「ないないない」って(笑)。本当にぴったりっていう感じでしたね。

――そして作曲と編曲は光増ハジメさん。樋口さんのランティス入りを決めた『ラブライブ!サンシャイン!!』のオープニングテーマ、Aqours「君のこころは輝いてるかい?」の作家さんです。

もううれしかったですね。デビューが決まったあと、ランティスさんから「デビュー曲の作曲家についてご提案があるんですけど」ってお話をいただいたから「誰になるんだろう?」と思っていたら「光増さんっていう方、ご存じですか?」と言われて(笑)。「そんなもん知ってるに決まってるじゃないですか!」って即答しました。



――ただ「MARBLE」はストレートなギターロック。「君のこころは輝いてるかい?」とも、樋口さんが聴いてきたファンクやソウルともずいぶん肌合いが違います。

でも両親が軽音部出身っていうこともあって、ちっちゃいころ家やクルマの中で流れていた曲の中にはロックも多かったので。ただ光増さんには「君のこころは輝いてるかい?」みたいなキラキラアイドルっぽい曲を作る人のイメージがあったので「こんなカッコいい曲を作って下さってありがとうございます!」っていう感じでした。

――では曲もリテイクはなし?

実は1回……。最初にいただいたデモがけっこうキラキラしていたんですけど、私はそんなにキラキラ系VTuberではないので(笑)。「“2.9次元系”としてかなり泥くさい活動をしてきたし、これからもそういう感じでやっていきたいので」ということで一度リテイクを出させていただいて、そのあと届いた2曲のうちの1曲が「MARBLE」だったんです。

――おー! 本当に“アーティスト”デビューしているというか、ちゃんと楽曲制作にもコミットしているんですね。

トラックダウンにも参加させてもらいました。インスト曲を中心に聴いていたっていうこともあって「ベースの帯域がどうだ」とか「ドラムの張りがどうだ」とか、そういうのを気にしちゃう人間なので「ドラムのトップ(シンバル)の音がちょっとキツい気がします」とか、いろいろ口を挟んじゃいました。

――でもそのディレクションが活きているのか「樋口楓とそのバックバンド感」ではなく「樋口楓というボーカリストを擁するロックバンド感」のあるサウンドになっています。

ありがとうございますっ! トラックダウンに口出しした甲斐がありました(笑)。

――レコーディングはいかがでした?

これまでは宅録が中心だったけど、VTuberを知ってもらうという使命もあったので「自分だけでジャッジするのは違うよなあ」とちょっと不安だったので、光増さんにディレクションしていただけたのがすごく助かりました。「ここの歌い方はどうでした?」「ここがちょっと自分でも気に入らないんですけど、どう歌えばいいですか?」って相談させてもらって、「じゃあもっと笑顔で歌ってみようか」とか「ちょっとここのガナリは抑えてみようか」というアドバイスをいただきながらのレコーディングだったので、めちゃくちゃ時間はかかったんですけどね。

――ただ時間をかけたぶんだけ納得のいくものができた?

そうですね。光増さんやプロデューサーさんやディレクターさんやエンジニアさん……いろんな意見をいただけてうれしかったです。プロっていうのはそうやって高め合っていくものだと思っています。

――そしてカップリング1曲目「Sugar Shack」。作詞は平さん、作曲・編曲は光増さんと「MARBLE」と同じコンビの楽曲なんだけど……。

「MARBLE」とは全然違う(笑)。

――重くて踊れるラウドロックに軸足を置きつつ、シンセサイザーをフィーチャーした2010年代的な1曲です。

この曲は煽りだったり、ラップだったり、私のしたいことを全部ギュッと詰め込んでいただきました。だからすごく表情がコロコロ変わる曲になったし、それがいいなと思っています。

――ただ、その「表情がコロコロ変わる」曲である、つまりAメロ、Bメロ、サビ、Dメロそれぞれでリズムパターンも変われば、曲想も変わるから、これはこれでレコーディングが大変だったんじゃないか? という気もするんですけど……。

この曲のレコーディングはめちゃくちゃ楽しかったですね。「みんなで一緒に盛り上がろう」っていうコンセプトの曲だったので、本当にストレートに歌っただけ……ラップはちょっと難しかったけど、それも含めて楽しかったです。

――おっしゃるとおりみんなで一緒に盛り上がりそうな曲ですよね。サウンドデザインもそうだし、〈踊れ!(踊れ!) 歌え!(歌え!) 騒げ!(騒げ!)〉というコール&レスポンスも然り。やっぱりライブで披露することをにらんでいる?

はいっ! 「歌うといえばライブでしょ!」というイメージがあるので「ライブで盛り上がれる楽しいハイテンポな曲をお願いします」というお話をさせてもらったし、絶対ライブはやりたいですね。
限定版
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――で、カップリング2曲目の「For you」の作詞家は「樋口楓とみんな」。このみんなって?

ファンのみなさんですね。さっきお話した私をネタにした二次創作作品をもらうようになってから、「絵も書けない、文章も書けない、曲も作れない僕たちはコメントでしか応援できないけど、それでもいい?」というお話をされることがすごく多くなって。当然コメントをもらえるだけで、すごくうれしいんですけど「そう言ってくれる方がいるなら、気軽に歌詞を募集する企画をやろうか」とも思って。みなさんからフレーズ単位で歌詞の中身を募集したらものすごい数の応募がきて。「こういう企画があるんですけど」ってランティスさんにお話して仕上げた歌詞ですね。

――結果できあがった詞は〈ずっと忘れない気持ち たくさんのありがとう〉というもの。テーマは感謝?

そうですね。あとはみんなと一緒に前を向くこと。

――あっ、そうか。作詞家は樋口さんでもなければ、ファンの方でもない。「樋口楓とみんな」だから一方通行に感謝を伝えるだけじゃないんですね。

そうですね。私はみんなに支えてもらったからここまで活動してこれたから、もしかしたら靴の先が向かっている方向は違ったとしてもみんなと一緒に歩いていこうという歌詞になっています。

――そして作曲家は影山ヒロノブさん。「樋口楓とみんな」プロジェクトに影山さんが加わっちゃいました(笑)。

歌詞を募集する企画の話をしたら、ランティスさんから「あのー、ひとつご提案があるんですけど」というお話をいただきまして……。

――光増さんのときに続いて「ご提案」が(笑)。

それが「影山さんの予定が空いていらっしゃったらお願いしようと思っていて」「でも叶わなかったらゴメンね」という“ご提案”で(笑)。

――確かに今年JAM Projectの20周年企画を展開してますもんね。

それなのにスケジュールの合間を縫って作ってくださることになって。私以上に両親がビックリしていました(笑)。それで「感謝がメインテーマの曲なのでゆったりめで夕方の景色がふと思い浮かぶようなメロディにしてください」とお願いしました。

――その影山ヒロノブ楽曲をアレンジしたのはSCREEN modeの太田雅友さんです。

影山さんからいただいたデモの段階ではもっと泥くさいロックだったんですけど、もっと優しいロックにアレンジしていただきました。

――あと樋口さんのキャラクターを象徴するかのようにブラスが入っています。

トランペットは私が太田さんにお願いして入れていただきました。それで1曲目や2曲目とはまた別のロック。めちゃくちゃ優しい曲ができあがったな、と思っています。


ランティス所属のリアルアーティストの人と肩を並べられるアーティストになりたい

――今回のシングルは、ここまで聞いてきた樋口楓という人のストーリーがモロに刻まれた1枚、力強い1枚だと思うんですけど、ご本人的にもやっぱり手応えはある?

自分のできることは全部出し切ったつもりなので、叩かれるにせよ、応援されるにせよ、全部受け止めようと思っています!(笑)

――いや、普通にこのシングルを聴いた人には応援されると思いますよ。

でも私はもともと歌が得意でVTuberになったわけではないし、逆に歌のうまい子はいっぱいいらっしゃるので。だけどみなさんよりも活動を始めるのがちょっと早かったから、どうしても比較対象にはされやすいんですよね。そんなヘタクソながらも自分なりのストーリーを描いてここまで辿りついたことには自信は確かにありますし、それは応援してくださるみなさんのおかげだから、すごくありがたいことだと思ってます。

――では今後はどうしましょう?

ランティス所属のリアルアーティストの人と肩を並べられるアーティストになりたいですね。あとは人生がこのまま続けばいいなあ(笑)。

――確かに動画配信を楽しみにしてくれている人がたくさんいて、このたびメジャーレーベルからCDをリリースして。今の”樋口楓という人”はすごく素敵な環境にいるな、という気がします。

シンデレラストーリーというか、本当に恵まれていると思います。

――そんな樋口さんの背中を見て、これからVTuberを始める人もいるかと思うんですけど、未来のVTuberにアドバイスってあったりします?

気軽に参入してきてください! VTuberであれば言える本音ってあると思うんです。Vtuberならコンプレックス……たとえば人と対面で話すのは苦手とか、ご病気なんかでなかなか外に出られない方でも、自分の話ができるんです。人気になりたいとか、知名度を上げたいとなると、今はVTuberの数が増えすぎているし、めちゃくちゃ個性的な人もたくさんいるから、成功の秘訣は私自身わからないんですけど、でも、私がそうだったようにVtuberになることで自分らしくいられる人って絶対いると思うんです。そしてその自分らしい自分を好きになってくれる人が絶対に全国・全世界にはたくさんいると思うので、その未来感、将来の明るさには期待しているので、みなさんにも始めてもらいたいですね。


取材・文:成松哲

当記事はSPICEの提供記事です。

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