金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第21回 プログレは「音楽を表現する」ではなく「音楽で表現する」

SPICE

2020/2/14 18:15



1970年代に興隆した「プログレッシヴ・ロック」。「曲が長い」「複雑」「変拍子」――など今ではすっかり固定化したイメージの上に屹立したれっきとしたジャンルになっている。黎明期から50年が過ぎ、固定のジャンルになることこと自体は音楽の歴史上「宿命」だと思っている。次々とあらゆる音楽が生み出されて消費されている厳しい市場環境において、一つのジャンルとして生きながらえていることに、むしろ偉大さと生命力の強さを感じる。筆者自身、「プログレ・バンド」を自称する「金属恵比須」ではその固定化されたジャンルを楽しみながら活動しているぐらいだ。

しかし原義を辿ることも大切だ。「前衛的なロック」という意味。誤解を恐れず一面的な切り口で表現するなら、ロックとそれ以外のジャンル(音楽問わず、文化全般もありうる)を掛け合わせる試みをしていたミュージシャンの音楽という認識を持っている(もちろんそれ以外の試みをしていたプログレッシヴ・ロックもあるが)。

2020年1月18日、新宿Rock Cafe Loftで主宰した「金属恵比須・めるたんの『青少年のためのプログレ入門』」においても取り上げた話なのだが、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)は特にジャンルをまたいだシンボリックなバンドであるように考える。「ジ・オンリー・ウェイ~限りなき宇宙の果てに」では、バッハ「トッカータ ヘ長調」「平均律クラヴィーア曲集第1巻『前奏曲とフーガ第6番ニ短調』」を引用。

EL&P「ジ・オンリー・ウェイ~限りなき宇宙の果てに」

「ホウダウン」では、アメリカの現代音楽家アーロン・コープランドのバレエ音楽「ロデオ」をロック・アレンジに。(※なお、コープランドの「ホウダウン」自体もアメリカ民謡「ナポレオンの退却」に基づいている)

【動画】「ホウダウン」EL&P ヴァージョン

【動画】「ホウダウン」原曲

「展覧会の絵」では、ロシアの作曲家ムソルグスキーのピアノ曲でラヴェルによりオーケストラ化もされた同曲をロック・アレンジに。

【動画】「展覧会の絵」EL&P ヴァージョン

【動画】「展覧会の絵」ラヴェルによるオーケストラ・アレンジ

……と、例示していくと枚挙に暇がない。筆者自身、正式な音楽教育を受けていなかったため、ELPを通じてクラシックや現代音楽に知見を広げる機会を与えてくれた。

そういえば、中学2年の頃、陸上部の都大会に出場した時のこと。帰り道にクラシック専門のCDショップがあったので入ってみたことがある。バッハかベートーベンのCDを探そうと思ったのだが、店主がまるでこんな「中坊」が入るような店ではないという態度を取ったので咄嗟に、「ここはアーロン・コープランドとかは置いてないんですかねェ。『ロデオ』聴きたいんだよなァ。ヒナステラとかもあります?」と、ELPによって取り上げられていた現代作曲家の名前を適当に羅列して虚勢を張った。

店主は驚き、「ううん、ちょっとそういうのは置いてないんだよなァ」と困った顔になった。なくてよかった。あったら買う羽目になっていた。財布には電車賃150円とジョージアの缶コーヒーを買うための100円玉しか入っていなかったのだ。

我が金属恵比須は、基本的に音楽ジャンルとして固定化された「プログレ」を奏でている点では、原義的な「プログレッシヴ・ロック」バンドではない。しかし、活動は「(他のジャンルとのクロスオーバーという意味における)プログレッシヴ」である。その原動力となった言葉があった。

クラフトワークが来日した1981年。リーダーであるラルフ・ヒュッターとYMO坂本龍一・高橋幸宏との対談が『ミュージック・ライフ』の誌上にて実現した。その中で坂本が、クラフトワークのステージでは「音楽以外の影響をいろいろと発見できる」とコメントしたことに対し、ラルフ・ヒュッターはこう答える。

「そう、いろいろなものに興味があります。(中略)わたしたちには様々な友人がいる。(中略)ほとんどが音楽以外の人との仕事ですね。(中略)音楽自体は退屈なものです。いろいろなものを接触させる、ひとつの手段が音楽なんです」(『THE DIG No.40』2005年、38~39ページ)

「音楽自体は退屈なもの」という言葉には首肯しかねるが、音楽を「目的」ではなく「手段」とする考え方が筆者にとってコロンブスの卵だった。音楽を表現するのではなく、表現の一形態として音楽があるという考え方。

それまでも能の台本をもとにロック・オペラをしてみたくて完成した「紅葉狩」のように自然発生的にクロスオーバーの恩恵を受けた作品はあったが、意識的にヒュッターの言葉を体現したわけではなかった。ただなんとなしに興味を持っているものを一緒にまとめてみようかと、そんな軽い気持ちだった。

ヒュッターの言葉を意識したのは2010年代になってからである。藤子・F・不二雄はまんが家を志す人に対してこのような警鐘を鳴らしている。

「いま、まんが家を目指している若い人たちは、まんがしか読まないことがけっこう多いんです。でも、映画や小説、テレビなどたくさんのメディアがあって、様々な刺激を受けられるんですから、まんがだけというのはもったいない気がしますし、問題だなとも思っているんです」(1993年『サンデー毎日』5月23日号、毎日新聞社)

ヒュッターと藤子・F・不二雄の言葉に共通点を見出した筆者。元来、音楽・小説・ドラマ・映画などが満遍なく好きだったのだが、表現形態として最も得意だったのが音楽だったわけで、であれば、音楽という表現をツールとして興味のある様々なものを融合してしまおう。このように発想を転換したおかげで、2010年代の金属恵比須は豊作に恵まれた。歴史小説を得意とする作家・伊東潤の小説の「架空のサウンドトラック」という位置付けで2018年に発表した『武田家滅亡』が一つの完成形となった。誰もがわかるようにブリティッシュ・ロックのエッセンスをふんだんにちりばめながら小説を表現していく。作詞は著者・伊東潤が自ら手がけるという本格的コラボレーション。

【動画】金属恵比須「武田家滅亡」PV

この成功により、2019年は更なるコラボレーションを行なっていき「活動がプログレッシヴ」なバンドへと成長していくのである。

(以下次号)
◆参考文献
『キース・エマーソン・インタビューズ』
キーボード・マガジン編集部編、リットーミュージック、1992年
『THE DIG No.40』
シンコーミュージック、2005年
『藤子・F・不二雄の発想術』
ドラえもんルーム編、小学館新書、2014年

当記事はSPICEの提供記事です。

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