宮沢りえに訊く美術展『ハマスホイとデンマーク絵画』の見どころと、“ヒュゲ”な時間 ~音声ガイド・インタビュー~

SPICE

2020/2/14 13:30

東京都美術館で開催中の展覧会『ハマスホイとデンマーク絵画』は、デンマークの画家たちの目を通し、美しい自然や日常の暮らしに潜む“ヒュゲ”に触れる機会となるだろう。本展は日本で初めてデンマーク絵画を本格的に紹介する試みであり、デンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイの作品も約40点集う。
展覧会の音声ガイドをつとめるのは、女優の宮沢りえ。静謐な中にも温かみのある声で、作品や作家、時代の背景をナレーションする。プライベートでも美術鑑賞を好むという宮沢に、展覧会の印象や、ヒュゲな物や時間について話を聞いた。


※デンマークでは、“ヒュゲ”という価値観が大切にされている。「hygge」と綴り、くつろいだ、心地よい雰囲気を意味する。

過剰なものは何もない


──展覧会の感想をお聞かせください。

デンマークは一度は行ってみたいと思っていた国です。その文化の高さに触れてみたいと思いながら、なかなか機会に恵まれずにいました。今回、音声ガイドのお仕事をさせていただくことになり、送られてきた資料を封筒から出してそれを見たとき、とても心が突き動かされたんです。普段これほどたくさんの物や情報の中で生活をしていながら、なぜこの絵にこれほどの魅力を感じるのか。

そして今日会場に来て、ここには人間に本来必要なシンプルな時間が流れていると感じました。過剰なものは何もない日常を、画家たちの研ぎ澄まされた視線が切り取ったんですね。これは今の自分に必要なものだと直感しました。

──印象に残った作品はありますか?

どれも本当に好きなのですが、ハマスホイの《室内——開いた扉、ストランゲーゼ30番地》、素敵ですね。室内の絵は、窓から差し込む光の位置で時間を想像させてくれたりもします。《聖ペテロ聖堂》も好きです。ヨーロッパを旅行して郊外に足をのばしたときに見た、ふとした瞬間の風景が蘇りました。曇天の中、体はコートで暖かいけれど、ほっぺたに触れる風がすごく冷たかったな……、とか。

何もない部屋や何気ない奥さんの後ろ姿など、日常のささやかな時間を切り取り、この場所を描こうと思う目線そのものが、とても素敵ですね。余計なものが何もないことに対して、一番魅力を感じます。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen

そうではないところに、本物がある


──音声ガイドの収録はいかがでしたか?

絵画鑑賞は私にとって貴重な、自分だけの趣味の時間です。私自身も音声ガイドのファンですから、レコーディングでは、自分ならどんな音で聞きたいかを想像しながら読ませていただきました。過剰なニュアンスを作らず、フラットだけれど聞いてくださる皆様に届く言いかたやイメージを持って。でも今、こうして展示室に来て鑑賞してみると、「照明がこれくらいなら、もっとああできたかな」とか考えてしまいますね(笑)。他のお仕事に申し訳ないくらい、気合いを入れてやらせていただいた、嬉しいお仕事でした。

音声ガイドで知ったのですが、ハマスホイは、当時の画壇では異端とされながら、それでもスタイルを変えることなく描き続けたそうですね。そのアーティストとしての存在の仕方にとても憧れを感じます。作品に流れる静かな時間の中に、そのような背景がある。これは私にとって貴重な情報だと感じました。この展覧会は、派手なものやきらびやかなことに目を奪われがちな私たちに、「そうではないところに本物があるんだよ」と気づかせてくれる機会にもなると思います。もしかしたら、11歳になる私の娘にはこの絵が退屈かもしれません。けれど、この絵を鑑賞した記憶は刻まれると思いますし、刻みたいとも思うんです。自分の娘だけでなく、今の時代を生きている方々にも届いたら嬉しいです。

──もしお嬢さまから「何が面白いの?」と聞かれたら、どう答えますか?

何が面白いか、何がいいのかは、説明しないと思います。その絵の前に立ち止まり、じっくり絵を眺めている姿を見せるかな。母親は何をそんなに見ているんだろう、というところから感じてもらうしかないと思うんです。誰かが言葉で説明したものは、記憶に残りづらいかもしれない。「なぜ?」と思い、自分で考えてもらうのが大事なのだと思います。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《聖ペテロ聖堂》 1906年 デンマーク国立美術館蔵 SMK, The National Gallery of Denmark SMK Photo/Jakob Skou-Hansen
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《聖ペテロ聖堂》 1906年 デンマーク国立美術館蔵 SMK, The National Gallery of Denmark SMK Photo/Jakob Skou-Hansen

新芽、朝焼け、日常のよろこび


──展覧会には“ヒュゲ”というキーワードが登場します。宮沢さんにとって、ヒュゲなもの、ささやかな幸福は何でしょうか。

いっぱいあります。たとえば植物です。植木屋さんにびっくりされるくらい、大事に大事に、家族で分担してたくさん育てています。今日はこれに花が咲いたなと思うと、いい一日に思えます。

それから私は「新芽フェチ」なんです(笑)。今(冬)の時期、植物は水もあまり欲しませんし、葉っぱも落ちています。でも、もう少し春に近づくと新芽が出てきますよね。新芽を見つけるととにかく嬉しいんです! 桜もそう。どちらかというと、咲いているときに気を留めがちですよね。でも私は、桜の花が咲く前の、茶色い蕾がふくよかになってきたときが一番楽しい。植物と一年を過ごすことで、自分が生きている季節を感じることができるんです。

──ささやかな幸福という表現にぴったりのヒュゲですね。

時間でいうと、日が昇る前の朝焼けも好きですね。キッチンから朝日を見ることができるのですが、冬の間は、起きた時点では空がまだ真っ暗。娘のお弁当や朝食を作る間に、だんだん空が白くなり朝焼けに変わって、朝がはじまる。本当に地球って回ってるんだな、球体なんだなって思うんです。早起きのご褒美、日常の喜びですね。それを、起きてきた娘に「朝焼けだよ!きれいだよ!」といっても、「あー。ほんとだー」で終わってしまうのですが(笑)。私は花が咲く前の蕾が好きなのと同じように、これから始まる時間っていうのが、すごく好きなのかもしれません。

──ありがとうございました。最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

今の時代に、強く響くメッセージを持っていると感じられる展覧会だと思います。そのメッセージを受け取りに、ぜひ会場にお越しください。
宮沢りえ (C)読売新聞
宮沢りえ (C)読売新聞

『ハマスホイとデンマーク絵画』展は、上野の東京都美術館で、3月26日(木)までの開催。宮沢りえによる音声ガイドは、展覧会場入口にて、560円(税込)での利用となる。

当記事はSPICEの提供記事です。

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