“最狂レース”アイスクロス、女子選手の防具の秘密とは?

日刊SPA!

2020/2/14 08:29

 氷の崖のような斜面に、上下左右に曲がりくねったコースを猛スピードで駆け抜ける――。「最狂のレース」と呼ばれるアイスクロスが、着々と冬季オリンピック正式種目に向けて注目度を高めている。

2001年にスウェーデンの魚市場ではじまったアイスクロスの大会は、ヨーロッパ、ロシア、北米へと人気が広まり、世界選手権シリーズに発展。2018−19シーズンは日本にも上陸し、アジア圏への拡大に踏み出した。とはいえ、アジア人の選手はまだ少なく、大会開催実績から日本人が最多だ。

昨シーズンの横浜大会での日本上陸を果たして以来、パイオニアの山本純子を筆頭に、インラインスケート王者の安床武士、昨季ジュニアカテゴリーで日本人初の表彰台3位に輝いた山内斗真など、続々と日本人にも有力選手が活躍をしはじめている。

なかでも、山本は10年以上、アイスクロスの世界選手権に参戦を続け、昨シーズンの横浜大会でも6位入賞を果たした。今シーズンは悲願の初表彰台に向けて「優勝したい」と公言。日本国内でも一気に増えたアイスクロスの仲間と、さらなるトレーニングを積んで、来る横浜大会に焦点をあわせる。

山本純子果たして、アイスクロス史上初のアジア人優勝者誕生なるか。歴史的瞬間が見られることが期待されているのだ。

◆アイスクロス選手の命を守るプロテクターとエッジはどうなっている?

山本が今シーズンの初レースに選んだのは、1月18日に開催されたアメリカのモン・デュ・ラック大会。最高峰ATSX1000の横浜大会の次クラスに当たるATSX500の大会だ。五大湖のスペリオル湖に程近いスキーリゾート地で、北米のトップ選手も多く集まる。

すぐ隣のミネソタ州は、男女ともに年間チャンピオンのキャメロン・ナーズ、アマンダ・トルンゾが拠点としている故郷。地元スター選手と仲間のライダーたちが参戦し、レベルの高い大会となったが、ここで山本は予選5位、決勝6位に入賞を果たす好スタートをきった。

「レースでしか学べないことがある」とレース後に手応えを語った山本は、この地のアイスホッケー専門店でエッジのメンテナンスも行う。そこで、アメリカの老舗ショップ「Bauer」ミネアポリス店に同行させてもらい、アイスクロスならではの防具やスケート靴のエッジ研磨について話を聞いた。

派手な転倒シーンが衝撃的なアイスクロス。選手たちを守るのは、「アイスホッケーのプロテクター」と広く知られているが、レベルアップが著しい近年はスピード重視の傾向が強く、少しでも軽くするためにモトクロスのプロテクターを組み合わせている選手も多いという。スケート靴もオーダーメイドにしたり、研磨でレース仕様に加工したり。

「スケート靴のエッジも、アイスホッケーのように深くすると、ブレードが丸くなる分、氷に深く刺さってしまって、レース向きではないんですね。だから、私もアイスクロスのスケート靴は、できるだけ接地面がフラットになるよう、エッジを浅くしてもらっています。そうすると摩擦も少なく、スピードが出やすいんです」

◆山本も大興奮! 王者キャメロン・ナーズ、突然現る

日本人選手が急増するまで、長年ただ一人の日本人としてアイスクロス界で孤軍奮闘してきた山本は、欧米のトップ選手たちから多くのテクニックを学んできた。Bauerでエッジを研磨するのも、キャメロンやアマンダに倣う意味もあったという。

「Bauerの職人さんも地元のチャンピオンを良く知っていて、『アマンダはこういう用具でエッジはこう研磨してるよ』『キャメロンはこうだね』って何でも教えてくれたので、それを参考にしたんです」

と、その時、ドッキリ番組かと思うほどのタイミングで、王者キャメロンが店に入ってきた。防具のメンテナンスに来たという。アジアのパイオニア山本にとっても、キャメロンは憧れのライダー。山本は飛び上がらん勢いでキャメロンに挨拶をすると、「ちょうどあなたの話をしていました。ここの職人さんに教えてもらって、あなたのスケート靴を参考に、私のエッジも研磨しています」と告白。

突然の告白にもキャメロンはにこやかに「そうだったんだ。役に立ったなら良かった。ぼくは近所に住んでるんだ。ミネアポリスにようこそ!」とスターたるゆえんの神対応。

前日のレースでは、キャメロンは危なげなく決勝まで進出し、いつもどおりの鮮やかなスケーティングでトップを快走するも、後半にカイル・クロクソール(カナダ・昨季ランキング2位)に抜かれて逆転負け。そのことに触れても「面白かっただろ?」と冗談を交えながら、「地元で負けるのは悔しいけれど、いいレースで盛り上がったなら何より」と王者の風格をのぞかせた。

アイスクロスの大会が初開催されて20年。歴史が浅いマイナースポーツだけに、選手たちは自分たちのことを『ファミリー』と呼び、互いに協力して、切磋琢磨しながら、競技のレベルアップに努めてきた。女王アマンダの誕生も、時に合同トレーニングをしてきたキャメロンの存在が大きい。

日本人選手も、昨シーズンの横浜大会を機に今、協力しながらさらなるレベルアップに努める。インラインスケート王者の安床武士は、教え子でインラインスケート全日本選手権2位の実績のある吉田安里沙とトレーニングをし、元プロアイスホッケー選手の鈴木雅仁は、今シーズンはアイスクロス世界選手権を転戦し、刺激を受けたアイスホッケー仲間も続々と加わった。

ますます盛り上がるアイスクロス。今シーズン、日本人選手はどんな活躍をみせてくれるだろうか。

取材・文・撮影/松山ようこ

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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