森田剛の際立つ存在感と吉岡里帆の演技力。かたときも目が離せない舞台「FORTUNE」

wezzy

2020/2/13 12:00


 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

人気アイドルを多数有するジャニーズ事務所が、舞台にも力を入れていることはよく知られています。アイドルとしての立ち位置を全面に押し出した自社プロデュース作品も独自の魅力あるものですが、その枠に収まりきらず、純粋なひとりの舞台俳優として演劇ファンからも強く支持されているのが、V6の森田剛。

森田剛は故蜷川幸雄や宮本亜門、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、鄭義信(チョン・ウィシン)など著名な演出家の手掛ける作品の数々に主演しています。その森田の直近の主演舞台が、現在全国公演中の「FORTUNE」です。
森田剛の際立つ存在感
 「FORTUNE」は、イギリスを代表する世界的な劇作家サイモン・スティーヴンスの新作で、今公演が世界初演。森田は2014年にも、スティーヴンスのローレンス・オリヴィエ賞受賞作「夜中に犬に起こった奇妙な事件」で主演を務めています。演出のイギリス・グローブ座の準芸術監督ショーン・ホームズはこれが日本での初演出で、演劇界では大きなトピックである話題作です。

悪魔と契約し魂を売り渡して欲望をかなえるゲーテの「ファウスト」を、現代のロンドンに置き換えた物語。森田演じる気鋭の映画監督フォーチュン・ジョージは、幼いころに自分と母を捨て去っていった父親の死がトラウマになり、成功を手にしながらも、精神のアンバランスさを抱えています。

売り込みにやってきた若手プロデューサー、マギー・マーロウ(吉岡里帆)に好意を覚えるも、すでに結婚しており自分の仕事ぶりにもプライドを持っている彼女はフォーチュンの思いを拒否。心の喪失感を埋められないフォーチュンは、バーで出会った謎めいた女性ルーシー(田畑智子)と、自身の魂を引き換えに12年のあいだ何もかもが思い通りになるという契約をかわしてしまいます。

舞台上には大掛かりなセットがなく、端にダイエットコーラがつめこまれた小さな冷蔵庫があるのみ。空虚なはずの空間は、森田の存在感で埋め尽くされていました。

フォーチュンはアーティストらしくエキセントリックで繊細ですが悪人ではないため、仕事をたてにマギーに強引に言い寄ることはしません。花屋を営む母親のもとへ赴き、世間話や弱音をこぼす森田のフォーチュンは、等身大の40代の独身男性そのものでした。

半信半疑だったルーシーとの契約後、マギーと仲睦まじかった夫が職場の事故で急死。フォーチュンは彼女と思いが通い合うようになり、一緒に手掛けた仕事も絶好調。気に入らない相手をねじふせ全能感にあふれていくなかで高まっていく森田の狂気のさまは、かたときも目が離せない吸引力があるとともに、その変貌ぶりは人間の業の深さを深く印象付けるものでした。

フォーチュンが高揚のあまり踊り狂う場面(ダンスユニット「カンパニーデラシネラ」を主宰する小野寺修二のステージングが秀逸!)は、キレのありすぎるダンスまで披露し、アイドルとしての森田ファンにとっても満足がいったのでは。
「FORTUNE」で描かれる絶望と愛しさ
 フォーチュンが惹かれるマギーは、ケンブリッジ大学を首席で卒業した才女である一方、薬物使用の前科も。年齢が離れていてパッと見も地味で冴えない(もっともこれは、吉岡本人と衣裳スタッフが相談した結果の演出だそう)。でも吉岡の演技は、マギーの知的さが際立っていました。

フォーチュンとマギーの初対面時、立て板のようにまくしたてるフォーチュンへの返答「そうです」は、連呼しているのに滑舌と耳あたりがよく、フォーチュンがただ外見ではなくマギー自身に魅力や安らぎを感じたことに説得力。

何もかもが思い通りになっていたはずのフォーチュンでしたが、やがて魂を奪われることにおびえ始め、マギーにも去られることに。亡き父を蘇らせ、その魂を自身の身代わりにしてくれるよう懇願したり、つねに自分のそばにつきまとうルーシーから逃れるために殺人を犯して刑務所に逃げ込んだりと転落していきます。

「FORTUNE」は原典の「ファウスト」と同じく、人間の欲望や弱さ、悲しみを描いていますが、劇作家のスティーヴンスは、この作品は愛の物語であると明かしています。フォーチュンがマギーへ注ぐ全力の愛や、マギーが契約による影響だけではない思いを感じさせることはもちろんですが、個人的にいちばん愛を思わせたのは、ルーシーを演じた田畑智子の存在だったようにみえました。

ルーシーの正体は、人の魂をだましとる悪魔。神出鬼没なルーシーは脚などの露出の高い衣裳も多く、非常に艶かしいものの、田畑の少女のような声質が生々しさを打ち消して、本当にこの世のものではないかのような超越感がありました。

契約を結ばせたあとのフォーチュンへちいさくつぶやく「ごめんね……」という響きには、悪魔であるにもかかわらず、命をうばう葛藤や罪の意識もにじみでているようで、人の欲望に対する絶望とともに、人間という存在への愛しさも抱いているような。

悪魔の存在は物語なればこそのものですが、「FORTUNE」は細かな描写の中に、現実味があふれています。人間関係や仕事など、生きていくなかでは誰かの判断に踊らされたり言葉にそそのかされたりして、道を誤ることはよくあること。そう考えると、日々生きることは、魂を売ることととても近いところにあるのかもしれません。

当記事はwezzyの提供記事です。

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