神尾真由子インタビュー~満を持して弾くバッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」は必聴!

SPICE

2020/2/13 06:00



2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールを優勝して以降、常に第一線で活躍を続けている世界を代表するヴァイオリニスト神尾真由子

誰もが認める超絶技巧の持ち主で、難曲で知られるパガニーニやエルンストは言うに及ばず、リゲティをはじめとする現代音楽にも積極果敢に挑み、これまでに数えらないほどの曲を演奏してきた彼女が今回ソロリサイタルで取り上げるのは、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」全3曲。

ヴァイオリニストにとってはバイブル的な存在に位置付けられている曲だが、これまで曲の一部を弾く事はあっても、「いつかバッハの無伴奏全曲を弾いてやろう!」と思った事は一度も無かったそうだ。

演奏会まで1か月を切ったとある昼下がり、ザ・シンフォニーホールの楽屋で現在の心境を語ってくれた。

―― 神尾さんの弾くバッハのパルティータ全曲なら聴いてみたい!と思われるファンの方は多いと思います。何故今、バッハのパルティータなのでしょうか?

そろそろバッハを弾いても良いかなと思ったのです。別に弾かないと決めていた訳でもなかったですし、ソナタはコンクールでたくさん弾いて来ました。1番のソナタはコンサートでも弾いたことがあります。ただ、どちらかというと皆さん、私にはロシアものや音の大きな派手なものを求められているのかなあと思って…(笑)。人生を賭けてバッハに挑みます!ではなく、他の曲と同じように、バッハを神格化せずに弾こうと思っています。バッハだからこうしないといけない!ではなく、バッハの垣根を無くすと言うか、親しみやすく自由にバッハを弾ければと思っています。
私のバッハをぜひお聴きください! (C)H.isojima
私のバッハをぜひお聴きください! (C)H.isojima

―― ソナタとパルティータを一緒にやる演奏会もありますが、パルティータ3曲を選ばれたのは何か理由がありますか?

ソナタとパルティータを一緒に演奏するのが一般的だと思います。ただ演奏時間も長時間になるのでどちらかにしようと思い、自由で楽しいパルティータをやる事にしましたが、昔は数学的なソナタの方が好きでした。崇高で重厚なドイツ音楽という感じではなく、バロックらしく軽い感じで弾こうと思っていますので、気軽に聴いて頂けるとありがたいです。演奏順は1番、3番、2番の順番。やはり2番のシャコンヌは最後に来る方が、皆さまもしっくり来るのではないでしょうか。私もシャコンヌには色々と想い出もあり、大変思い入れの強い曲です。
(C)Makoto Kamiya
(C)Makoto Kamiya

―― ヴァイオリニストの方とお話をしていると、日々の練習の最初には決まって何らかの形でバッハを弾くと仰る方も多いですが、神尾さんはいかがですか?

そうですね、パルティータ3番のプレリュードは好きなので弾く事もありますが、私は基本的に指慣らしをせずにいきなり目的の曲を弾くタイプですので、決まってバッハを弾くと云った事はありません。

あ、これを言うと驚かれるかもしれませんが、私は音階練習をした事がありません。皆さん、毎日音階練習をしていると聞いて、驚いたくらいです(笑)。

―― これまでの先生方から、そういった指導は受けられなかったのしょうか。

音階練習をやった方が良いよと言われたことはありますが、レッスンでチェックされたことはありません。当然、やっているもんだと思われていたのかもしれませんが(笑)。

私は曲がちゃんと弾けるなら音階だけを練習する必要は無いと思っています。子供の頃からあまりやる意味を見出せなかったんだと思います。少なくとも、私には必要無かったという事ですね。
(C)Hikaru Hoshi
(C)Hikaru Hoshi

―― それだけに今回のバッハのパルティータ3曲を弾くという演奏会は、神尾さんにとってかなり特別なものですね。

そうですね。大阪のザ・シンフォニーホールと東京の浜離宮朝日ホールだけの特別プログラムです。東京は早々に完売のようですので、ぜひザ・シンフォニーホールにいらしてください。

―― 神尾さんがチャイコフスキー国際コンクールで優勝されたのが2007年ですので、まだ13年しか経っていないと云う事が驚きです。ずっと第一線で活躍されておられるからか、ベテランのようなイメージですが、まだ33歳だそうですね。

はい。よく意外だと言われます(笑)。私の楽器、1731年製の「モーランルビノフ」を貸与して頂いている宗次コレクションの宗次徳二理事長も、「神尾さん、ずっとやってるから40過ぎだと思っていたのに、まだ30歳そこそこだったのですね⁉」と驚かれていました。
ベテランに見られますが、まだ若いですよ! (C)H.isojima
ベテランに見られますが、まだ若いですよ! (C)H.isojima

―― チャイコフスキーコンクールで優勝されたのが21歳。10歳の時にデュトワの指揮で華やかにオーケストラとデビューされました。その後もプロのオーケストラと共演されたり話題が多く、ずーっと関西では有名でした。演奏会はつねに注目されてたように思います。

おかげ様で、人と比べてやって来た曲は多いと思います。オーケストラのレパートリーでやった事の無い曲は数えるほど。色々な曲を弾かせて頂きました。将来弾いてみたい曲は何ですかって聞かれる事が良くありますが、もうほとんどのレパートリーを弾いてきたので、答えるのがいつも難しいです。

―― 本当に恵まれておられますね。

それは全部、師匠がお膳立てをして頂いたからです。私は音楽的な事で悩んでいれば良いだけでした。小栗まち絵先生、工藤千博先生は、実の子供のように可愛がってくださいました。原田幸一郎先生もザハール・ブロン先生も、ヴァイオリンを教えるだけでなく、すべての面倒を見て貰って、私は何も苦労する事なくここまで来ることが出来ました。教えると云うのは大変なことです。五嶋みどりさんに教わったのはたった1週間でしたが、別人のように全てを変えて下さいました。今度は私が恩返しをする番です。それが人として在るべき道。ヴァイオリン界がもっと栄えるように尽力したいと思っています。個人的には、最近の演奏の風潮に疑問を持っています。若い人たちが意思もなくバリバリとアッパショナータで弾いている姿を見るにつけて、あまり良ろしくないなぁと。自分の生徒さんには弾く事の意味を丁寧に教えています。
(c)Makoto Kamiya
(c)Makoto Kamiya

―― コンクール後も常に第一線で活躍されていますが、たゆまぬ努力を続けておられるのでしょうね。

コンクールで優勝したのは21歳の時。世間の評価とは裏腹に、技術的に覚束なかったので、ずっとフラストレーション。先生もフラストレーションで、ずっと怒鳴られていました。ブロン先生には「右手、右手、右手!」とノイローゼになるくらい言われ続けて来たのですが、時間の経過とともに技術的にも安定感が出て来ました。

ある日、弓をつっかえる事無く自然に返せている事に気付き「出来た!」と。それ以来、右手のテクニックでは出来ない事は無いと自負しています(笑)。先生が諦めずに口を酸っぱくして言って下さったおかげだと感謝しています。
ヴァイオリン界が栄えるように尽力したいです! (C)H.isojima
ヴァイオリン界が栄えるように尽力したいです! (C)H.isojima

―― スーパーテクニシャンで知られる神尾さんも人知れず努力されて来たのですね。

私が苦労した技術的な事を伝えていくのはもちろんですが、生徒が演奏出来る機会や環境なども作ってあげたいと思っています。すべて師匠にしてもらった事を生徒にしてあげたいですね。

―― 私生活では2015年に出産も経験されましたし、演奏家としてもまさに充実の時を歩まれていますね。これからの活動も益々目が離せません。神尾さん、この後のスケジュールはどうなっていますか。

バッハのコンサートの翌日、同じ東京の浜離宮朝日ホールで桐朋学園の同期生と室内楽のコンサートをやります。高校時代、かけがえのない時間を共に過ごした仲間です。みんなそれぞれに大活躍をしていて、私がいちばん時間の融通が利くくらい大忙しですが、このメンバーでやれる事が楽しくて仕方ありません。個人的にはシューベルトの大曲に挑戦できることがとても嬉しいです。

―― 「神尾真由子with Friends」というコンサートですね。ヴァイオリンの滝千春さん、ヴィオラの横溝耕一さん、チェロの横坂源さん、富岡廉太郎さんによる弦楽五重奏のコンサートで、シューベルトとボッケリーニの弦楽五重奏曲を取り上げられるのですか。これがバッハのコンサートの翌日。まさに、バッハを特別視せずに、楽しんで弾くというスタンスがわかりますね。ソロにアンサンブルと来れば、オーケストラでの演奏が聴きたくなります。

はい、オーケストラもやりますよ(笑)。フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーでソリストを務めます。指揮は初めてご一緒させていただくミッコ・フランクさん。マエストロに演奏を聴いて頂いて、プロコフィエフの1番に決まりました。
(C)Hikaru Hoshi
(C)Hikaru Hoshi

―― こちらは今年6月に東京と大阪だけのコンサートですね。サントリーホールと、大阪公演は堺に新しく出来たフェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)です。

フェニーチェ堺は初めてなので、どんな音がするのか私も楽しみです。プロコフィエフのコンチェルトは、CDをリリースしている派手目な2番の方が演奏機会は多いかもしれませんね。でも1番も素敵な曲です。演奏するのは3年振りくらいになりますが、きっと皆さまに気に入って頂けると思います。

関西では、9月にマックス・ポンマー指揮 日本センチュリー交響楽団の定期演奏会でモートァルトの4番のコンチェルトを、10月には角田鋼亮指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団の京都特別演奏会でベートーヴェンのコンチェルトを弾かせて頂きます。

―― 先日、BSテレ東の「エンターザミュージック」にお弟子さんの外村理紗さんと出演されていましたね。

司会の藤岡幸夫さんは一緒にいてとても楽しい方です。常に新しい事にチャレンジさせて頂けますし、いつも刺激を頂いています。外村さんのことも気に入っていただいて、3月に行われる関西フィルのコンサートでは、ベートーヴェンのソリストに選んで頂きました。

―― 番組で藤岡さんが、神尾さんは売り込みが凄い!って仰っていましたね(笑)。

いえいえ、自分の師匠が自分の為にやって来てくれた事を私もやってあげたい。それだけですね。外村理紗さんや前田妃奈さんといった素晴らしい才能を皆様にお聴きいただきたいのです。私の演奏会と同様に、若い才能にも注目していただけると嬉しいです。

皆さま、コンサートホールでお会いしましょう!

ーー 神尾さん、ありがとうございました。益々のご活躍を楽しみにしています。
コンサート会場でお待ちしています! (c)Makoto Kamiya
コンサート会場でお待ちしています! (c)Makoto Kamiya

取材・文=磯島浩彰

当記事はSPICEの提供記事です。

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