「ネットの税金情報は鵜呑みにするな」国税局OBが語る

日刊SPA!

2020/1/31 08:50

 国税OB税理士としてTV・雑誌のコメンテーターや税に関する著書を多数持ち、1月24日に『仮想通貨脱税』を出版した佐藤弘幸氏と、TwitterやYouTubeでの活動を通して税知識をカジュアルに発信する新進気鋭の税理士・大河内薫氏との対談が実現した!

前編では国税職員の実態を暴露。確定申告を目前に控え、今回は「脱税」について、法整備や制度の観点から二人の意見をじっくりぶつけ合ってもらった。

◆ICOとMLM商法は消費者にとって最悪のマッチング!

――『仮想通貨脱税』という本のタイトルにもあるように、仮想通貨を使った脱税事件が2010年代後半に横行しました。税のスペシャリストであるお二人に、そのあたりをお伺いできればと思います。

大河内:2017年前後から、ICO(仮想通貨の新規発行)がめちゃくちゃ流行りましたよね。

佐藤:実際にICOは数えきれないくらいの億り人を輩出しました。今は仮想通貨は下火になっていますが、ICOで何倍にも膨らませ、そこからビットコインやイーサリアムに代えて値上がり益を取ることを繰り返すことによって、何百倍、何千倍にまで資産を増やした人もいました。

大河内:でも、ICOはとにかく嘘やでまかせが多かった。

佐藤:ホワイトペーパーといって、株のIPOでいうところの目論見書みたいなものがあって、ICOの場合はペラ1枚くらいの薄い事業内容が書いてあるだけだったり、実現不可能な壮大な夢物語が描かれているだけだったり。今考えたらそんなものを信じること自体おかしな話でしたね。そこで騙された人もものすごく多いと思います。私自身、ICOで損をしたうちの一人ですし。

大河内:やはり仮想通貨ブームの爆発の陰にはMLM商法(マルチ・レベル・マーケティング。マルチ商法のこと)とのマッチングが大きかったんですか。

佐藤:それも大きな要因の一つですよね。ICO単体で出資者を募っていてもやはり限界があるので、人的ネットワークが使えるMLM商法の団体との関わりが非常に大きかった。MLM側も商材に困っていたし、時流に乗ったものを商材にして生き残ってきたという過去があるため、両者の思惑が完全に一致したんですね。

大河内:MLMが仮想通貨に食いついたことで、とんでもない額のお金が仮想通貨に流れ、あの暴騰劇が起きたと。ただ、ICOを買った人がさらにそれを紹介するという、マルチ的な商法も蔓延るようになりました。そうした不正な経済的利益に対して課税がなされていないことが多いと思っていて、それを国税局がどう成敗していくのかが見ものだと思います。

佐藤:もちろん当局側もそういった輩を討伐したい気持ちはやまやまだと思います。しかし、コインチェック事件によって警察のサイバーポリスの技術を持ってしても、犯罪者を追いきれないということがわかってしまった。やっぱり直接キャッシュで取引をされてしまうと、もうわからないですよね。

プロ集団であるサイバーポリスでさえ手をこまねいているのですから、規模も小さく専門能力も明らかに格下のサイバー税務署が手に負える案件なのかは甚だ疑問です。そうすると、過去にICOで儲けた連中の課税というのはかなり難しいと言えます。

大河内:ICOの発行体がシンガポールや香港に逃げてしまうと、そもそも課税することはできないですからね。タックスヘイブンが適用される証拠を残していればいいですが、完全に課税権がない場合も多いと思いますし。

佐藤:あとは詐欺案件で儲けた人物をどう事件にするのか。それとも事件にすらできないのか。そういうことも見物ですね。詐欺っていうのは最初から騙そうとしていなければ詐欺として立件できない。例えば「配当を出しますよ」と言って最初の2割とかをきちんと配当してさえいれば、そのあとは資金繰りがうまくいかなくなっちゃったとか言ってトンズラされても、詐欺にはならないんですよね。

大河内:それってただのポンジスキームだから、それで罪状が軽くなるというのはおかしな話ですよね。

◆2020年、国税による調査方法が大きく変わる

――国税局は今後どういった対策を練っていくのでしょうか?

大河内:FXの時はいろいろあって分離課税になったじゃないですか。仮想通貨もそれに倣って分離課税にしたほうがいいと思っています。税率を2割にしてあげることで経済も潤うし、仮想通貨が発達するとその下のテクノロジーも育つじゃないですか。金融庁はそこをまったく考えてない。やり方次第では、仮想通貨大国、ブロックチェーン大国日本になりえたと思うんですよね。

佐藤:産業を育てる経産省と、締め付けを行う金融庁や国税庁との間でせめぎ合いはたくさんあったと思います。やっぱり「税=政治」と言われるくらい、そこの取り決めに関してはなかなか難しい。

ただ、私も分離課税にするというのは賛成です。現状では仮想通貨の税に関して把握できるのは日本の仮想通貨交換所だけで、KYC情報(※)すらままならないですからね。税率は2割でいいから自分で申告してくださいってやったほうがはるかに理に適っている。

※KYC=Know Your Customer 顧客の本人確認義務のこと

大河内:難しいことは重々承知ですが、そういった議論が交わされているのかどうかさえ僕たちの耳に入ってこないということには腹立たしささえ感じます。

佐藤:もちろんいずれ変わるんでしょうけど、もう少し定着して一般の人たちも手を出すようにならないと、仮想通貨だけを取り出して他の金融商品と同じような扱いにするにはまだちょっと時間がかかるかもしれないですね。

あとは、仮想通貨自体も今後衰退する可能性があるわけですし。というのも、日本とヨーロッパとの共同で電子通貨を開発するというニュースもあって、国や中央銀行が出すような新たな通貨が出回ったら、仮想通貨も流通しなくなると思うんですよね。そういった仮想通貨の行方というか、どれくらい生き残れるのかも考えていかなければいけないですよね。

大河内:実際、ビットコインでものが買えるお店もなくなっちゃってきてますよね。店側としても管理が大変だし、もらった翌日に価値が下がっていたら意味ないじゃんっていうのもありますしね。

佐藤:ただ、2020年からそういった仮想通貨に対する取り締まりが強くなっていきます。国税は調査に活かすために資料情報を集める調査を行いますが、今までの法律だとそれに協力してくれない業者もいたんですね。国税の情報調査には協力しません、もしやりたいんだったら実地調査にきてください、と。

でもそれだとあまりに非効率的なので、法改正を行い協力しなかった場合にはペナルティを作りました。その法律が今年から施行されるんです。これは国税側からすると念願の強力なツールのひとつなんですよね。これは仮想通貨業者だけに限定する訳ではなく、いろんな場面でそういう手法が取られるようになっていくと思います。

◆商人の街・大阪は税に対してもシビア

――佐藤さんはいわゆる「国税OB税理士」ですが、ここだけの話、脱税絡みの相談などもあるのでしょうか?

大河内:もう無理なんだけど、国税OBなら何とかしてくれるんじゃないかみたいな(笑)。

佐藤:HPを見てたまに真っ黒な人が来たりすることもありますね。「1000万円くらい積めば何とかしてくれますか?」みたいな。そんなもの受けられるわけがないですよね。私も一緒に税理士法で処分されちゃいますし。

大河内:やっぱり昔は国税OBが調査に立ち会っていることで結果が変わるみたいなことは、あったと思うんですよね。課税の公平性という観点からは、どうなんだろうと思いますが。

佐藤:昔は多分にあったでしょうね。だからこそ今もそれ目当てでやってくる人がいる。あと大阪の方が相談に来られるのが非常に多いですね。大阪は商人文化と言いますか。

大河内:大阪は確かにシビアですよね。僕も顧問料を1円単位で値切られたことがあります。ケチっていうと言い方が良くないですけど、めちゃくちゃお金に厳しい。

佐藤:東京は権利意識が強い文化なので、国税職員が変な態度で接すると納税者が怒りますからね。だから東京が一番丁寧なんですけれども、大阪の連中から言わせると東京はぬるいと言われます。

大河内:納税者と税務署の取っ組み合いの喧嘩なんでしょうね。

◆インターネットの情報はやはり眉唾物!?

――最後に、一般市民の方が税金に対して気をつけたいことはありますか?

佐藤:インターネットで調べたことを鵜呑みにしないことです。ちゃんと資格を有して登録している税理士に話を聞いていただくのが一番いいですよね。ちょっとくらいの話であれば何十万円とか吹っ掛けられることもないので安心してください。

大河内:僕もほぼほぼ一緒で、それが経費になるとか、それは税金がかからないとか、決めるのは納税者じゃありません。あくまで国税局なんですね。ネットの情報が果たして税務調査を潜り抜けた情報なのか、潜り抜けていたとしても置かれた立場によって結論は変わるんじゃないかとか、考えていくと全然あてにならないんですよ。

だから参考にして欲しいのは、税理士事務所のブログとか、専門家自身の発信ですね。気を付けたいことは、税理士にも得手不得手があります。何でもできますって言う税理士はあんまり信じない方がいいんじゃないですかね。相続税専門の人が所得税の処理を高いレベルで行うのは正直厳しいはずなんですよね。でも、僕はこれが専門ですって言わない税理士があまりにも多い。そういうところもしっかりチェックした方がいいですよね。

仮想通貨の税体制や、仮想通貨にかかわらず脱税そのものに対する対策について厳しい評価をくだす両氏。二人の活動によって日本が税に関してクリーンな国へと変わっていくことを願うばかりだ。

大河内 薫氏

税理士。株式会社ArtBiz代表取締役。自称「日本一発信する税理士」。

Twitterフォロワー4万人超、YouTubeチャンネル「税理士大河内薫の税金チャンネル」登録者9万人超。最新メディアやSNSで知ってトクするお金と税金の話を全力発信中。スーツを着ずに”税知識をカジュアルに発信”がモットーで「お堅い、まじめ」などの税理士イメージ打破を目指す。日本では稀な芸術学部出身の税理士として、芸能・芸術・クリエイター特化型税理士事務所を経営。

著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(SANCTUARY BOOKS)は発売1年で6万部超のベストセラー。

佐藤弘幸氏

元国税局勤務。現税理士。プリエミネンス税務戦略事務所代表。

国税職員時代には東京国税局課税第一部課税統括課、電子商取引専門調査チーム、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査課、同部第三課に勤務。伝承取引事案、海外事案など、大口から悪質なものまでさまざまな税務調査を担当。

1月下旬、実在の仮想通貨の脱税事件をモデルにした金融小説『仮想通貨脱税』(扶桑社)を刊行。ほか著書に『国税局資料調査課』(扶桑社)、『税金亡命』(ダイヤモンド社)などがある。TV、雑誌のコメンテーターとしても活躍している。

<取材・文/櫻井一樹 写真/八杉和興>

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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