「退職代行を使うヤツは弱い」と言う人は、ブラック企業の現実を知らない

日刊SPA!

2020/1/16 08:50

「こういうゆとり世代っぽいサービス(退職代行)を考えられると、関係ないゆとり世代まで怒られる。ぜひやめて頂きたい」

昨年末、出演する情報バラエティ番組内でこう語ったのは、人気ギャルモデル・ゆきぽよ氏(『サンデージャポン』TBS系、2019年12月2日放送)。

ゆきぽよ氏の発言には「『厳しい世界を生き抜いてきた』という強い自負がある人なのかな」くらいにしか思いませんでしたが、その後ゆきぽよ氏に批判が殺到しているのを見るに、「退職代行」は今や市民権を得るほど需要も高く、この時代に出るべくして出たサービスなんじゃないかと思うようになりました。

以前勤めていた会社を退職する際、相当な引き留めにあった私としては、退職代行サービスの利用には肯定的です。人手不足の会社にとっては、たった一人の社員が退職するだけでも致命的なダメージを受けることがあります。そのため会社側も必死になって、深夜でも関係なく「考え直せないか」といった電話をかけてきたり、思い通りにならなければ嫌がらせをしたりと、なりふり構わず私の退職を阻止しようとしたのでした。

◆まともな会話が成立しない会社もある

退職代行サービスに否定的な意見の中には「嫌なことを人に任せていては『逃げ』の人生になる」、「今までお世話になった会社に対して、筋は通すべき」といったものがあります。

しかし、そもそも退職代行を利用する人たち自身も、多くの場合は使いたくて使っているわけではありません。やむを得ない理由があるからこそ第三者にお金を払ってまで依頼しているのであって、できることなら、費用をかけずに円満退社で終わらせたいのではないでしょうか。

ただ、それはあくまで「会社側の対応がまともなら」の話であり、良識ある対応を取ってもらえる場合に限って、です。残念ながら、退職の意向を示す社員をしつこく引き留めたり、嫌がらせをしたり、悪質なケースであれば恫喝、暴行が行われるなど、常識の範囲から大きく逸脱したことを普通にやってしまう会社も少なくありません。

ニュースでも大きく報道されていたように、最近では社内での自殺教唆やパワハラによる自殺もあとを絶たず、社会問題になりつつあります。

まともに会話が成立する相手ならまだしも、違法行為を堂々と行う会社や上司であれば、話し合いで解決するのは相当骨が折れますし、退職を引き延ばしにされ、トラブルが長期化することも十分考えられます。

こうしたトラブルに見舞われた場合は労働基準監督署や弁護士に相談することもできますが、「膨大な時間や費用をかけるくらいなら、初めから退職代行サービスを利用して一刻も早く会社と縁を切りたい」と思う人がいても不思議ではないでしょう。

◆退職トラブルで適応障害や顔面麻痺になった知人

私の知人にも、退職を申し出たことで、会社とトラブルに発展してしまった人は少なくありません。「会社を辞めるなら、今まで支給した交通費をすべて返せ」と言われたり、長期間にわたって陰湿な嫌がらせを受けたり、「同じ業界に転職できないように根回ししてやる」と脅されたケースも知っています。

被害を受けた知人たちの精神的な負担は相当なもので、そのとき発症した適応障害に今も苦しんでいる人や、顔の神経が麻痺してしまったことで、10年以上続けてきた管楽器が吹けなくなってしまった人もいました。

ここまで追い込まれても、尊厳を踏みにじられても、加害者に通すべき「筋」とは一体なんでしょうか。理不尽な攻撃でボロボロになってまで、会社から逃げることも許されないのでしょうか。

◆迷惑がかからないよう務めるのはもちろん大事だけれど

退職をめぐったトラブルでは、会社側は問題を表沙汰にしたくない思惑があります。そのため、話し合いにおいて「第三者」に介入してもらうのは非常に有効な解決手段です。

もちろん退職に際して、これまで一緒に働いてきた仲間になるべく迷惑がかからないよう務めることは最低限の礼儀であると思います。できれば退職の挨拶もしておいた方がいいですし、引き継ぎを済ませてから会社を去るのが望ましいでしょう。しかし、どうしても事情があってそれが難しいのであれば、誰かに助けてもらうことがあってもいいのではないかと思うのです。

「逃げだ」と言われようとも、「筋を通していない」と言われようとも、誰にも助けを求められずに心身を病んでしまう社会より、自分にとってもっとも負担の少ない方法を選択できる社会の方が、私はずっといいと考えています。

◆自分もいつ「助け」が必要になるか……

退職代行サービスについては賛否両論ありますが、「一人では手に負えないようなトラブルに見舞われてやむなく利用する人」と、『「面倒臭いことは人任せにしたい」という理由で利用する人』を同列に語るべきではないですし、何も退職代行サービスの利用自体を十把一絡げにして、善悪の判断を下す必要はないでしょう。

自己責任論が強く叫ばれる日本社会においては、「誰かに頼ること」がたびたび非難されがちです。そして、非難されている人を見ていた大勢の人たちはそのたびに、誰かに頼ることがますます怖くなっていくのだと思います。しかし、今は一人で生きていられても、自分がいつ、誰かの助けが必要な状態に陥るかはわかりません。

自分の価値観に合わないものを理解することは、いつか未来の自分を救うことになるかもしれないのだと、年齢を重ねるごとにつくづく感じます。

<文/吉川ばんび>

【吉川ばんび】

1991年生まれ。フリーライター・コラムニスト。貧困や機能不全家族、ブラック企業、社会問題などについて、自らの体験をもとに取材・執筆。文春オンライン、東洋経済オンラインなどで連載中 twitter:@bambi_yoshikawa

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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