「スカーレット」86話。マツ(富田靖子)の口ぱくぱくが凄い。地味とも言われるが「スカーレット」の底力

エキレビ!

2020/1/15 08:30



(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~


『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第15週「優しさが交差して」86回(1月14日・火 放送 演出・中島由貴)
すげえ。
冒頭、いきなり、声が出なくなったマツ(富田靖子)からはじまるのだ。
ぽかーんと口を空けてぱくぱくするマツ。武志(中須翔真)のランドセルの蓋も開いている。
ここではマツの声に関する詳しい説明はない。約5分後に合唱の練習のしすぎで声が出なくなったことがわかる。
おもしろい。
これは「スカーレット」にある泰然とした余裕によるものだろう。「スカーレット」には朝ドラに必要な「あるある」を入れながら半年間、過不足なく埋めなくてはならないという初めての仕事に従事するような新人感もないし、反対になんとしても自分の作風を世間に認めさせたいというベテランの強烈な自我もない、とにかく視聴率をあげなくちゃいけないという組織人の使命感もあまり感じない(あくまで私の見解です)。

最近の朝ドラは、「あるある」を入れなくてはいけない、SNSで話題にならないといけない、視聴率をあげなくてはいけないというような作り手の力みがテレビから出過ぎ、見ている側も提示された話題に我先に乗っかることが第一になっている感じがする。ぐるぐるまわりながら合図に合わせてあるだけの椅子に座ったものが勝ちみたいなそれだけのゲームみたいなものによって、参加している俳優や脚本家や技術スタッフが楽しんで創意工夫する部分が後回しになってしまっている印象がある。その点、「スカーレット」は脚本も、前述のような意表をついた日常描写があり、俳優も楽しんで演じているように思える。

八郎の独り言がわからないと「独り言言うなら独り言のポーズをしてから言ってください」と弟子の三津(黒島結菜)が言うように、誰もがわかる「独り言のポーズ」みたいなことを描かないのが「スカーレット」。朝ドラが全部こうでなくてもいいけれど、こういうのがあってもいいと思う。こうでないといけないばかりを詰め込まずこういうのがあってもいいというのが「スカーレット」に感じる余裕だ。おかげで見る側も自由な見方を楽しめるような気がする。

同じ時間に見てSNS に参加しなきゃいけないような空気は時としてしんどい。もちろんそれがしたい人もいるけれどみんなやっているから……とがんばってしまう人もなかにはいるだろう。そんな空気に「スカーレット」はたまにドアを開けて風を入れているようなドラマだなと思う。

三津と八郎
85回、86回と印象的だったのは工房の引き戸。
85回は、喜美子(戸田恵梨香)と百合子(福田麻由子)が出ていって扉が閉まり、工房の中に八郎と三津が残される。
86回は、武志を見送って扉が閉まり、工房の中に八郎と三津、ふたりきりになる。
朝ドラで当たり前のセットのひとつでしかない工房が、なぜかものすごく特別な閉ざされた空間に見えてくる。まるで岩松了の舞台のように。岩松了の舞台は閉ざされた空間のなかで繰り広げられる言葉にならない人間関係の妙をメタファーに込めて描くものが多いのだ。

かわはら工房はいま、ひじょうにスリリングなことになっている。
夫婦貯金で買った電気釜の調子が悪い。接触が悪くて、「買い替え時かもしれない」と言う八郎は目下、創作に行き詰まっている。こういう描写の文学性は「昼顔~平日午後後三時の恋人たち」(14年 井上由美子脚本)以来かもしれない。

若く純粋な三津と八郎は才能あるパートナーへの負い目という共通点によって近づいていく。
東京から来た三津が八郎に新しい情報を注いでいく。やがて八郎は三津にろくろを回していいと許可し、あんまりうまくできない彼女に教えようとするがためらい、「喜美子に習え」と言う。

喜美子のときは背後から体にそっと触れながら教えてあげていた八郎が、三津にそれはできない節度。好ましき誠実さと、それがいつか壊れるときが来るかもしれないと思うとわくわくする。

省かれた部分にこんなにも心がざわつくなんて、ここはまだ描かれてないことだから、たくさんの人とは共有できない。ひとり心の中でこっそり味わう楽しみだ。

男はつらいよ 八郎編
外にいた喜美子が工房に入ってきたときは、生活のために橘さん(紺野まひる)の大量注文を受けるという決意を話に来る。
喜美子が懸命になればなるほど八郎は静かに傷ついているように思う。だって、自分の陶芸の腕で子供にテレビを買うことのできないのだから。貴美子ががんばって働いてテレビを買えたら、そりゃきついだろう。ヒモならそれでいいけれど、八郎はヒモじゃないのだ。八郎は三津に団地妻の夫の見送り方を聞いて「高いところにいる人苦手やわ」と言っている。上から目線の妻は苦手なのだ。

と、ここで思い出すのは、常治(北村一輝)である。ちょうど、陽子(財前直見)が「常治さんがいてくれたら」と言うから思い出した。先週も力が入っていたが、86回も、エピソードとモチーフがみごとに関連づけられていて、密度が濃い。朝見るにしては凝りすぎているほどだ。

常治も自分の甲斐性がなく貧乏であることを悔しがっていたが、マツは決して自ら働かなかった。子供が働いても、マツだけは何もしない。常治のやれる範囲の生活で満足することで常治のプライドを保ってきたのではないか。そんな馬鹿な……という気もするが、そういう愛もあるのだと「スカーレット」を見ると思う。

いまはもう違うけれど、昔は家長第一だったから、男が家を維持する責任があった。そこに女は余計な手出しをしちゃいけない暗黙の決まりみたいなものがあって、それが女の仕事を抑制してきたともいえるだろう。女のほうの働きがいいために男のプライドが傷ついていくことがうまいこと描かれていて面白かったのは「カーネーション」。主人公の父も愛人もみんな糸子の強さに仕事の面では面目を潰されていく。「スカーレット」もこのテーマに向き合いながら、もう一歩違うところを描こうとしているような予感がある。それは八郎が創作活動をしているからだ。創作は、個展を開くことでも、家族を守ることでも、生活を維持することでもない。本来、あくまで自分の好きにすることだ。朝ドラに限らずドラマは資本主義に基づいた価値観で描かれているがそうではない生き方だってほんとうはいくらでもある。もちろんそれがさぼることや才能のないことの言い訳になってしまったらいけないんだけれど。「スカーレット」、これからどうなるかほんとうに楽しみだ。
(木俣冬 タイトルイラスト/まつもとりえこ)

登場人物とあらすじ(週の終わりに更新していきます)

第1週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第2週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第3週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第4週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第5週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第6週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第7週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第8週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。
第9週 昭和34年夏、丸熊陶業の社長が亡くなり深野組解散。秋、喜美子の絵付け火鉢が完成する。
第10週 昭和34年秋、喜美子、十代田八郎に陶芸を習いはじめ、彼に恋をする。
第11週 喜美子と八郎、結婚を誓う。昭和34年年末、陶芸展出品作づくりに八郎は励む。
第12週 昭和40年、喜美子と八郎、独立し、男の子も生まれている。川原家は離れを作ったせいで未だ貧乏。
第13週 昭和40年、常治が亡くなる。喜美子はじめて自由に作品を作る。
第14週 昭和44年冬、かわはら工房に松永三津が弟子入りする。

●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、信楽に戻り、丸熊陶業初の女性絵付け師となるが、絵付け火鉢が下火になり、陶芸の勉強をはじめる。陶芸の先輩・八郎と結婚。主婦と陶工を両立させていたが、創作に目覚める。

十代田八郎 → 川原八郎…松下洸平 8人きょうだいの末っ子。父母は亡くなっている、京都の美術大学出身。丸熊陶業の新商品開発の仕事に携わり、喜美子と結婚(婿入り)。陶芸家として独立。昭和40年、金賞を受賞。

川原武志…又野暁仁→中須翔真  喜美子と八郎の長男。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。口は悪いが、娘たちを溺愛し、喜美子の結婚に猛反対するも、体を壊すほど働いて離れを建てるという愛情を見せるも、そのまま弱って膵臓と肝臓癌を患い、昭和40年死亡。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったが常治と駆け落ちして結婚。体が弱く家事を喜美子の手伝いに頼っている。ぼんやりして何をしているのかよくわからないながら、なぜかなくてはならない存在感を放っている。

川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職。父の葬式にも出ず、大阪で商売をはじめると宣言する。

川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。家庭科の先生になるため短大進学を目指すが、結局就職する。

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 喜美子の幼馴染で親友。喜美子とは幼いときキスした仲。信楽の大きな窯元・丸熊陶業のひとり娘。学徒動員で戦死した兄に代わって家業を継ぐため、京都の短大を卒業後、婿をとる。四人の子供の母となる。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。昭和34年、突然死。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。先代の突然の死により
社長となり、八郎に期待を賭ける。照子には優しい夫。

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変しモテるように。高校卒業後、役所に就職する。早く結婚したかったが、来る者拒まず交際しても、毎回うまくいかない。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。大手雑貨店の影響で雑貨店からカフェに商売替えする。

大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面するが一件落着。カフェサニーをきりもりしている。

●信楽の人たち 
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

所沢…牛丸裕司 信作の上司
黒岩次郎…上野俊介 幼少期 溝上空良  信作の幼馴染 お見合い大作戦に参加する。

田畑よし子…辻本みず希 お見合い大作戦に参加、信作に好意を寄せるが、9対1で嫌いと振られる。

佐久間 …飯田基祐 美術商。信楽にジョージ富士川を呼ぶ。

●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
緑…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
西牟田…八田浩司 丸熊陶業の中堅社員。

深野心仙…イッセー尾形  元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
若社長の代になり、長崎の若手陶芸家・森田隼人に弟子入りすることにする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。深野組解散にあたり、京都に就職。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。深野組解散にあたり、大阪に就職。

藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。

森田隼人…長崎の陶芸家。深野が弟子入りを申し込む。

柴田寛治…中村育二 窯業研究所の所長
橘ひろ恵…紺野まひる 窯業研究所所員 喜美子の花の描かれたカップを気に入る。

畑山順 …田中亨  かわはら工房の弟子  稲葉と喧嘩ばかりしてすぐにクビになる
稲葉五郎 …永沼伊久也 かわはら工房の弟子 畑山と喧嘩ばかりしてすぐクビになる

松永三津 …東京の美術大学で釉薬の研究をしていた勉強熱心でなにごとにも物怖じしない若い女性。家は芸術家一家。かわはら工房に弟子入りする。

●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。

●大阪の人たち 
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。昭和40年、信楽に実演会を行いにやって来る。

十代田いつ子…しゅはまはるみ 八郎の姉 大阪で髪結いをしている。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。東京に住んでいたが、台湾に貿易の仕事に行くことに。

草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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