新国立劇場 2020/2021シーズンラインアップ説明会<小川絵梨子・演劇芸術監督編>~ イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出、イザベル・ユペール主演『ガラスの動物園』を招聘!

SPICE

2020/1/8 18:50



新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会が2020年1月8日(水)に開催され、オペラ、バレエ&ダンス、演劇部門の各芸術監督が登壇した。演劇ラインアップについては、演劇芸術監督の小川絵梨子氏より説明があった。

小川はこれが芸術監督として任期3年目のシーズンとなる。幕開けに選ばれた作品は『ガラスの動物園』で、2020年3月にフランスの国立劇場であるオデオン劇場制作でワールドプレミアを迎える舞台の招聘公演となる。演出にはローレンス・オリヴィエ賞・最優秀演出賞やトニー賞・演劇演出賞を受賞するなど世界的な人気を誇るイヴォ・ヴァン・ホーヴェ、主演のアマンダ役にはフランスを代表する女優のイザベル・ユペールを迎えるなど、テネシー・ウィリアムズによる名作がどのように上演されるのか期待が高まる。

『リチャード二世』は、2009年から続いたシェイクスピアの歴史劇シリーズの最終作として上演される。この作品はシリーズの中でも歴史的には最も古い時代を扱った史劇で、最終作にしてこれまで上演された作品の出発点が解き明かされることになる。鵜山仁の演出、岡本健一、浦井健治、中嶋朋子らの出演など、このシリーズに欠かせないメンバーでおくる、シェイクスピア歴史劇シリーズの10年に渡る旅の完結を見届けたい。また特別企画として、シリーズの完結を記念して、過去の上演作品の中から選ばれた『ヘンリー六世』三部作と、『リチャード三世』の映像上映を予定している。

子どもも大人も楽しめる演劇シリーズの第三弾として上演される『ピーター&ザ・スターキャッチャー』は、ピーター・パンの前日譚を描いた小説「ピーターと星の守護団」をもとに劇作家のリック・エリスが戯曲化した作品で、2012年にブロードウェイで上演、トニー賞9部門にノミネートされ5冠を獲た音楽劇だ。演出には、2014年に新国立劇場で『ご臨終』を演出し、近年活躍目覚ましいノゾエ征爾を迎える。
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 左から、小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都次期舞踊芸術監督
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 左から、小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都次期舞踊芸術監督

2019/2020シーズンには「ことぜん」シリーズ三部作が上演されたが、2020/2021シーズンには「人を思うちから」シリーズ三部作が上演されることとなった。このシリーズについて小川は「人を思う力というのは誇るべきこと。こんな素敵な側面が人間にはあるということを感じられたら」と思いを語った。シリーズ第一弾は、江戸末期から明治にかけての時代の揺動を描いた三好十郎による大作『斬られの仙太』で、演出は昨年6月に新国立劇場で上演された『オレステイア』で鮮烈な印象を残した上村聡史がつとめる。今作はフルオーディション企画の第三弾でもあり、出演者16名は今年1月から2月にかけて行われるオーディションにより決定する。

「人を思うちから」シリーズ第二弾は、アニメーション映画監督として様々な名作を世に残した今敏監督の2003年公開の映画、クリスマスの一夜の東京を舞台に年齢も性別も異なる3人のホームレスが遭遇する“奇跡”の物語を描いた『東京ゴッドファーザーズ』の初の舞台化だ。近年、ミュージカルとストレートプレイの両方でその手腕を発揮し目覚ましい活躍を見せる、新国立劇場には初登場の藤田俊太郎がこの作品の演出に挑む。

「人を思うちから」シリーズ第三弾は、井上ひさしの傑作喜劇『キネマの天地』を小川芸術監督が演出する。小川はこの作品には思い入れが深く「中学校1年生のとき、演劇部のオーディションで初めて取った役がこの作品の小春役だった。それ以来ずっと心に残っている好きな作品。人への愛が描かれており、私は演劇への愛と感謝を持って挑みたい」と思いを語り、改めて「人を思うちから」シリーズについて「それぞれ三作品とも地に足をつけた市井の人々を描いた作品で、思いやりや優しさ、愛を持って、現実と葛藤しながらなんとか前に進んでいく道をお互いに見つけていくような話になっている。期待して欲しい」と意気込みを述べた。

2020/2021シーズンの最後に位置付けられたのは、『短編フェスティバル「嘘」(仮題)―はじめての演劇―』だ。「演劇に触れたことのないお客様にもぜひ劇場に足を運んで頂き、演劇の面白さや素晴らしさを感じてもらいたい」との思いで、普段なかなか上演しにくい短編を集め、小劇場と中劇場を中心にしつつ、劇場という形にとらわれずに建物内の様々な場所で様々な作品をフェスティバル形式で上演する。作品は国内外、および新作旧作を問わず、バリエーション豊かに取り上げるという。演出家も若手からベテランまで幅広く参加する予定だ。

また、シーズンラインアップには含まれていないが、「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」も継続して行われており、2019年3月のリーディング公演以降、試演会(非公開)を重ねている状況だ。まもなく行われる3回目の試演会の後、現在の第一期プロジェクトは終了となる。第二期プロジェクトはまた新たなメンバーで行われるとのことで、第一期終了後に詳細が発表される予定となっている。

2019年5月より、英国ロンドンのロイヤルコート劇場と新国立劇場が協力して行っている「劇作家ワークショップ」も進行中だ。14人の劇作家が参加し、ロイヤルコート劇場から来日した企画担当者や劇作家とのワークショップを経て、参加者全員が新作戯曲を1本ずつ執筆、それをテキストとして更にワークショップが行われたのがこれまでの経過で、今後は戯曲をブラッシュアップ、2020年内にロンドンにてリーディング公演を行う予定となっている。

また、昨年のラインアップ説明会で発表された新制作の子どもオペラについて、企画監修を務めるオペラ芸術監督の大野和士氏より詳細が改めて説明された。2020年8月22日(土)、23日(日)にオペラパレスで上演される、2020新国フェス ~とどけ!舞台の魔法~ 子どもたちとアンドロイドが作る新しいオペラ『Super Angels スーパーエンジェル』は、島田雅彦台本、渋谷慶一郎作曲で、演出には演劇芸術監督の小川絵梨子、舞踊監修には現・舞踊芸術監督の大原永子氏があたり、新国立劇場としては初めての三部門共同制作作品となる。
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 左から、小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都次期舞踊芸術監督
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 左から、小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都次期舞踊芸術監督

発表会終了後、小川氏を囲んでの記者懇談会が行われた。

シーズントップを飾るイヴォ・ヴァン・ホーヴェについて聞かれると、小川は「以前から大好きな演出家で、実は初年度から招聘できないかと働きかけていた。やっと3年目でかなって嬉しい」と笑顔を見せた。

ノゾエ征爾、上村聡史、藤田俊太郎と同世代の演出家が続けて登場することについては「彼らと出会ったから、私は辞めずにやって来られた。今の自分がいるのは同世代の彼らの存在が大きいので、このようなラインアップにできたことは感慨深い」と語った。また「ノゾエさんは地に足がついた、他の人の言葉を聞く耳を持った方。藤田さんは役者一人一人と真摯に向き合う姿が素晴らしい方。上村さんは2013/2014シーズンの「三人の演出家の視点」シリーズで出会って以来まさに盟友としてお互いを高め合える存在、非常にクレバーな方」とそれぞれの演出家について評した。

「人を思うちから」というテーマの持つメッセージ性について問われると、「心無い言葉を吐く人を見て、誰にだって人を思う力はあるはずなのに、どうしてそれを解放できないのか、と思ってしまう。私自身これまで、いろいろな人に思ってもらい、助けてもらってきた。私もそれを何とか返していきたいと思っている。何が正しい、何が強い、とかそういうことではなく、まず根本にある“人が人を思える力”が非常に大事。この三作品とも、日本でしか絶対に書かれない作品だと思っている。というのはいずれも人の情の話だから。アメリカにいたときは感じ方が違って、個人や権利が強く感じられた。改めて人を思える力を誇りに思いたい」と熱く語った。
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 小川絵梨子演劇芸術監督
新国立劇場2020/2021シーズンラインアップ発表会 小川絵梨子演劇芸術監督

「ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ」の成果について質問が出ると、「この1年のことだけじゃなくて、本当は10年20年、もしくは50年100年まで行ってもいいんじゃないかと思っている。もちろん、1年後に傑作を書くぞ・書いてくれ、という思いは持ってやっているが、時間をかけていくことで作品の強度やアーティストの強度が上がっていくこともある。1年後に傑作が書けなかったからといって、成果が出なかったということではない。こういうことは公共が長年かけてやっていくべきこと。こうした環境を守るのが私の闘いでもある。すぐに目に見える成果という考え方では出来ないものがあると思う」と強い口調で述べた。

最後に芸術監督としての三期目を迎えるにあたっての意気込みを改めて問われると、「公共は自分たちから開いていくべきで、演劇の面白さやその意義を伝えるような扉や入り口の役割を背負えたらいいなと思っている。フライヤーや広報、劇場のロビーの雰囲気づくりなど、少しずつでも演劇のワクワクする空気を伝えられるように観客に歩み寄っていければ」と思いを語った。

公共としての役割や、その姿勢がどうあるべきかを挑戦的に考え続け、演劇の未来を見据える小川芸術監督の思いがにじむ発表会と懇談会となった。現在の不安定な世界情勢の中で、日本はどうあるべきか、そしてその日本において演劇が担える役割は何なのか。考え続け、闘い続ける小川芸術監督の提示する次シーズンのラインアップからも目が離せない。

取材・文・撮影=久田絢子

当記事はSPICEの提供記事です。

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