MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第十九回目のゲストは武井壮 反骨心が希望に変わった

SPICE

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』、第十九回目のゲストは武井壮。気付けば、武井が「百獣の王」と名乗り、お茶の間に現れてから7年半が経った。今やニュース、バラエティ、スポーツなど色んな番組に顔を出す人気タレントだ。しかし、誰しも一度は思ったことがあるはずだ「一体、何者だ?」と。今回は武井壮という人間がどこから始まり、なぜタレントを目指すようになったのかを紹介する対談となった。



●だから、もっと有名になりたいと思った●


アフロ:今日はお時間いただいて、ありがとうございます。

武井壮(以下、武井):宜しくお願いします。初めましてですよね?

アフロ:ちゃんとお話しするのは初めてなんですけど、前にテレビ局でご挨拶したことがありまして。

武井:あ、テレ朝でしたっけ?

アフロ:そうですね。3年くらい前にーー。

武井:下のカフェですよね?

アフロ:あ、そうです。

武井:思い出した。そっかそっか。

アフロ:対談の前にもお仕事をされてたんですよね?

武井:朝、ラジオを2本やって、この対談の後はテレビ局で収録ですね。

アフロ:そうかぁ、仕事がいっぱいあるのは羨ましいです。

武井:仕事ねぇ、俺もそう思ってたな。仕事はいくらでもしたいよね。

アフロ:休んでいる方が具合悪いですね。

武井:うんうん、俺もそんな時期はありましたよ。

アフロ:時期によっては、ツアーで週の殆どを家を空けていることが多いんですけど。たまにポッカリ予定が空くと苦しいですね。

武井:それこそ昨日はライブを観に行ってました、俺がMCをやってる『ROAD TO EX 2019』というイベント出身のバンドの。

アフロ:イベントの存在は知ってます。

武井:この間、イベントの決勝まで行って負けちゃった子たちから「武井さん、良かったら来れませんか?」と誘われて、仕事終わりに顔を出したんです。そしたらステージの子たちも、観ている子たちも楽しそうで「なんか良いなぁ」と思いましたね。

アフロ:俺はラッパーなので音楽を聴く時、特に言葉を軸に教訓や生きていく上での気付きに出会う事が多いのですが、武井さんは好きな音楽に出会うとどう突き動かされますか。

武井:俺は音源を聴いて「ウォー」と盛り上がるようなことはあんまりないんですけど、ライブで衝撃を受けることはありますね。

アフロ:それって誰のライブだったか覚えてますか。

武井:俺がタレントになって初めて衝撃を受けたのは、森山直太朗のライブですね。その日、ステージがよく見える2階席の最前列に座らせてもらったんです。開演時間になると場内が真っ暗になって、ピンスポが直太朗をパンと照らした瞬間、会場中からワッと歓声が上がった。そして1曲目にバラードを演奏したら、さっきまで笑ってた子たちが泣き出して、その光景に「なんじゃこりゃぁ!」と驚きました。スポーツをやっていた時、自分のファンなんか10人くらいしかいなくて。俺が手を上げたところで歓声が起きることはなく、トップを取った時にやっと拍手をもらえる感じだったんですよね。そんな世界で育ってきた人間からすると、森山直太朗のライブは衝撃的で。観に来てた5000人ほどの観客は、みんなが彼を目当てに集まってる。「夏の終わり」の第一声を歌っただけで泣いている子もいて。「とんでもねえな」と思ったし、自分が欲しいものはこういうことなんだと思った。

アフロ:なるほど!

武井:自分は速く走れるようになったし、筋力も強くなって、スポーツならなんでもできる能力を手に入れた。それから何かが足りない。それが何かずっとモヤモヤしながら、色んなスポーツをやってきました。だけど、あの日のライブをきっかけに誰かが感動したり、泣いたり、幸せになれる場面を作り出したいんだなと気づいて。そこからライブにハマって、色んな人のステージを観に行くようになったんですよ。

アフロ:音楽は勿論の事、「森山直太朗さんとお客さんの関係性」にグッときたんですか。

武井:それもあるんだけど、それだけじゃなくて。お客さんの中には、初めてライブを観る人もいっぱいいたんですよ。その人たちも同じように感動してた。何かを表現することで大勢の人の心が動くという、そういう場面に俺は響くんです。だから、もっと有名になりたいと思った。

●どうやったら有名になれるのか分からなかった●



アフロ:有名になる事でどんな自分になれると思い描いたんでしょうか。

武井:俺の身体能力って、学生の頃は他の競技のトップクラスのアスリートと比べても引けを取る事はなかった思うんです。でも、観客が見てワッと盛り上がるのは、有名な人なんです。だから、俺に一番足りないのはそこだなって。「あの人を見たい」と思って大勢に支持されている人が羨ましくて仕方なかったです。「あの試合があるからチケットを買おう」とか「あのライブがやってるから観に行こう」とか、そういう行動をしちゃう何かを感じさせられる存在になりたい、というのがありますね。

アフロ:森山直太朗さんのステージを見ながら、「自分もあっち側になりたい」と思いました?

武井:うん、思いましたね。

アフロ:俺も、武道館やアリーナとか同世代のミュージシャンのライブに招待されて観に行くことがあるんです。自分が立ててない大きなステージを観に行く時は家を出る時点で既に悔しくて。会場に着くと招待された人は関係者窓口に並ぶんですけど、「関係者窓口」って張り紙を見て俺は関係者じゃなくて同業者なんだぞ!と思ったり。

武井:ハハハ。

アフロ:俺は言葉で生きているので、そういうところに一々引っかかりを見つけたがるんです。そして会場入れば座席も2階席の最前席だったりして。善意で良い席を取ってくれた事も勿論わかりつつ「これは……見せつけるためにこの席にしたな!」という宣戦布告的な受け止め方をして、ちくしょう!って燃え滾るんですよ。武井さんもそういう気持ちになったりしましたか。

武井:その人に対して、ちくしょうと思うことはないんですよ。ただ単に、俺もああなりたいって。だから反骨心がモチベーションになるタイプじゃないんですよね。「今の俺よりも、ああなった方が良いじゃん」っていう、希望で動く人間なんです。逆に、反骨心がモチベーションになったのは、小さい頃だけでしたね。

アフロ:小さい頃ですか。

武井:俺の家は親がいなくて、子供だけで暮らしてて、飯も作ってもらえない、電気もガスも水道も止まっているような状況だった。学校へ行けば他の子は弁当を持ってきてるけど、俺は何も持ってない。財布に入っている200円を使って、パン1個を3日に分けてちびちび食べる時代もありました。その頃の俺は、勉強もめちゃくちゃ頑張って良い成績を取っていたし、スポーツも他の子に負けないように研究して、何でも一番になってた。恵まれてないけど、なんとか人生負けないようにするんだと思って頑張っていて。


アフロ:その頃の反骨心が自分の中で溶けていくのはどのタイミングだったんですか。

武井:大学生の頃ですね。その頃に陸上を始めたんですけど、デビュー戦で100m10秒台を出したら話題になって。「これが俺にとっての進むべき道なのかな」と思っちゃって、それで十種競技に出会い「これなら日本一を獲れそうだ」と。そんな時に、兄貴が癌で死んじゃって。

アフロ:お兄さんが……

武井:兄貴は中学を卒業して、高校へは行かずにカバン持ちをしながら俳優を目指していたんですけど。やっとテレビに出られるようになった時に死んじゃったんですよ。兄貴がだんだん弱っていって、ガリガリになって、お腹だけすごく出て、髪の毛が抜けてハゲちゃって。目の前で兄貴が衰弱していく一方、俺は十種競技で海外遠征にも呼ばれるようになり、人生が良い方向に進みだしていた。ずっと、自分は恵まれてないと思いながら生きてきたけど、兄貴は高校も大学にも行かず、ろくに学業も学ぶことができなかった人間なんです。

アフロ:それは想像に余りある葛藤だと思います。お兄さんは役者の夢を追うために、高校へ行かなかったんですか。

武井:後から聞いた話なんですけど、俺が成績とかが優秀だったから弟のために自分は学校へ行かないと決めたらしくて。16歳からカバン持ちとアルバイトをしながら、夢を追いかけていた。やっと評価されて世に出だした頃に、癌になって死んじゃうなんて……こんなに恵まれてない奴いないじゃないですか。ろくに親とも暮らせないまま子供時代を過ごして、自分の道を見つけてうまくいったら人生終わりなんて。それを見てから反骨心は解けましたよね。俺なんかスーパー恵まれてるじゃんって。なんの不自由もないし、勉強もスポーツも誰にも負ける気がしなかったし。その辺りからーー。

アフロ:反骨心が希望に変わった。

武井:そうですね。だから30歳までスポーツをやって、それからは兄貴の分まで芸能の道を目指すと決めました。だけど、どうやったら有名になれるのか分からなかったから、とにかくスポーツで名前を売ってタレントになろうと思った。だけど、中々そう上手くはいかない。そのぐらいから、人に対して「なんで俺はこうなんだ」という思いがなくなりました。自分が売れてないのは、売れないなりの理由があると思ったし、自分が仕事をもらえないのは足りない部分があるからなわけで。実際に30歳で芸能界を目指し始めた時は、まったく仕事はないし、知り合いもいない。だけど野球は出来るから、とりあえず芸能人の野球チーム(茨城ゴールデンゴールズ、神様)に入って「すげえ奴がいると教えてやろう」と思って、そこから始めました。

アフロ:誰かを妬むよりも、謙虚になったんですね。

武井:そうですね。素直になったと思います。

●丁寧に生きることに繋がった●



アフロ:反骨心って、怒りや不満が軸にあると思うんです。だからこそ油断すると他人を悪者にしてしまう事があると思うんです。

武井:「自分は頑張ってるのに」とか「なんであいつだけ」みたいな、確かにそういう感情が混じっていると思いますね。

アフロ:恥ずかしながら、俺はそういう他人への怒りや憎しみさえもペン先に宿らせて言葉を綴ってきた自負があるんです。武井さんも、それまではそういった反骨心をガソリンにして十種競技の日本一になれたわけじゃないですか。それが溶けていくことの恐怖はなかったですか?

武井:ふとした時、何にもない頃のわびしく部屋で勉強していた子供の頃の自分の姿が頭に浮かぶんですよ。何にもねえのに、すげえ頑張ってたから、可哀想だなって客観的に思うんです。不思議なんですけど、子供時代の写真を見ると息子を見ているような感覚にさえなる。すげえガリガリで身長も低かったから、あの子がよくもあんなに勉強してスポーツを頑張って。よくここまで来たなっていう。そういう感謝がすごくあるんですよ。

アフロ:なるほど。良くやったね、頑張ってくれてありがとう、という気持ちですね。

武井:お金だって昔よりもらえるようになったし、学生時代に獲ったタイトルでスポーツのお仕事ももらえるようになった。

アフロ:それは本当に凄い事ですよね。何もないところから掴み取ったんですね。だけど足りないものにも気づいて。

武井:そうっすね。俺と同じ1973年生まれには、イチロー選手とか小笠原道大選手とか、松中選手といったプロ野球のスターや、スケートの清水宏保選手とか、多くのスーパースターがいるんですよ。あの人たちと俺には、どんな溝があるんだろうと考えた。そしたら、シンプルなんだけど「見たいと思う人の数が全然違うな」と。とにかく芸能で売れるための作戦を、その日から練りだしたんですよね。

アフロ:作戦ですか?

武井:芸人さんにくっついてお喋りをしてもらって、今度は俺の「動物の倒し方」とかのネタを聞いてもらいつつ、トークスキルを手に入れた。そしてスポーツ番組で扱われるのは、野球、ゴルフ、陸上が圧倒的に多いから、その3種をガムシャラに練習した。もういい歳だったし、同級生からは「あいつ何やってんの?」という目で見られてましたけどね。有名になるまでは孤独な戦いでしたよ。


アフロ:訓練でいうと、俺は武井さんの「コップを持つ時すらも、トレーニングをしてる」という話が大好きで。

武井:普通には持たないんですよ。コップに限らず、蛇口をひねるときも角と角を押さえて回してみたり、部屋のスイッチを押す時も毎日違う身体の部位を使って押してみたり。小さい頃から、そういうルールを課してました。

アフロ:要するに、身体中の部位を使いこなせるようにしていたんですよね。

武井:それはアスリートにとってすごく重要なことで。ほとんどの関節やパーツをアジャストできると、どんなスポーツの動きにも簡単に対応できるんですよね。

アフロ:その話を聞いてから、俺が日常的にできるトレーニングはなんだろうと考えたんですよ。例えば誰かに会いにいく時は、その人の日常を描く曲、その人に向けて送りたい曲、その人の気持ちをなぞった曲、兎に角その人を題材に1曲つくるんだ!という感覚で話を聞くようになりました。

武井:なるほど。ラッパーとしては、そういう訓練が大事だと。

アフロ:それをやるようになってから「この人はどんな事を思って生きているんだろう」と、より相手の話を集中して聞くようになりました。さらには「俺はそれを聞いて何を感じて、どの言葉を選んだら相手の人生が曲として伝わるだろうか」と考えるようになりました。つまり人に対して言葉に対して丁寧に生きることに繋がった。だから武井さんの話は、自分の中ですごくプラスになりました。

武井:ああ、それは良かった。

●人類愛みたいなことですね●



アフロ:ちなみに恋ってどうなんですか。

武井:恋?

アフロ:武井さんって色んなことを冷静に分析されて、ロジカルに紐解いているイメージなんです。だけど恋だけは、ロジカルじゃどうにもならない世界じゃないですか。

武井:若い頃は普通に恋愛してましたよ。「顔が可愛いな」「スタイル良いな」とかで好きになって、ふらっと付き合って、なんか喧嘩しちゃって、別れてとか。そういうの一通りあったけど、この業界に入ってからはルックスだけで好きになることがなくなりました。

アフロ:ないんですか?

武井:そう思っておかないと、全員好きになっちゃうから。

アフロ:ハハハ、そうですね。じゃあ、どこで好きになるんですか。

武井:「何にも知らないんだな」と思う子か「すごい経験をしてるな」と思う子かのどっちかなんですよね。そういう人に興味を持ちます。

アフロ:何にも知らない子には、自分が色々と教えてあげたいという。

武井:んー、それとも違うんですよね。親とか周りの人に大事にされて、幸せに育ってきた人生が一番良いことじゃないですか。逆に、俺の見てきた世界なんて知らない方が良い。だから、自分の子供時代を思い出して「あんなことにならなくて良いんだよ」という目で見るんですよね。俺、たまに若い女の子と仲良くなると、めちゃくちゃ甘いし、なんでもしてあげたいと思う。小さい頃の自分に対して「あいつのために、なんとか頑張ってあげよう」と思う感情に近い。だから自己愛ですね。

アフロ:無垢な部分を目にした時、女性にかつての自分を重ねてるんですね。

武井:そうなんです。逆に、経験をしている子は気持ちが分かるから共感できる。興味を持つのはその両者なんですけど、好きになるかは別なんですよ。


アフロ:好きになる人は、言葉で説明できないですか。

武井:好きはね、最近ない。

アフロ:ない!?

武井:「好きだわ、この子」というのは、あんまりない。

アフロ:どのくらいないですか。

武井:芸能界に入ってから、正直1回もないかな。だけど、それは良いことだと思っていて。

アフロ:どういう意味ですか?

武井:本当にみんな魅力的で、みんな好きなんですよ。ブリリアンのコージ(徳田浩至)とか、元宝塚のトップスターの子とか、なぜか俺を兄のように慕ってくれる後輩の子が増えてきて。女の子に「この子好きだわ」と思うのも、「可愛いなこいつ」と思う男の後輩も同じレベルで好きなんです。

アフロ:人類愛みたいなことですね。

武井:そうです。一緒に番組をやっているスタッフもみんな好き。女の子のタレントが、俺が回してる最中にワケ分からないことを言ってボケてくれた時も「よく、あんな一言を発してくれたな」と好感を持つ。それが若い頃でいう「好き」なんですよね。男女関わらずみんな尊敬できるし、みんなに愛情を持てる。

アフロ:そうか、なんか羨ましい話だな。

武井:彼女と一緒に過ごすのが楽しい時期もあったけど、今はそれよりも楽しいお付き合いが日常に溢れてる。だから彼女は作らなくても満たされてます。たまに仲良くなる女の子もいるけど、それは親みたいな気持ちで接してますね。この子が一番楽しく過ごすためには、どうすれば良いかなって。ただ、やり過ぎると甘やかす感じになるから、少しだけ抑えてますけど。

アフロ:ハハハ。本当はもっと世話してあげたいんですね。かつての自分にしてあげたかったような自己愛で。

武井:本当にそうですね。

●金がないからこそ「金のためじゃねえ」と言ってた●



アフロ:その自己愛は、俺もめちゃめちゃあって。高校3年間は野球部の補欠だったし何より彼女がいなかったんですよ。俗に言うザ・青春の時代である高校生活で彼女がいなかった事実、これはもうどうにも取り返しがつかないじゃないですか。だから俺、あの時の俺を励ますような気持ちで今頑張れたりするんです。こんな景色見れるぞ、とか、こんな風に人から求めてもらえるぞ、とか。ただ……やっぱり高校時代に彼女や彼氏がいた奴と比べて、共感できる映画とか音楽の数も違う気がするんです。それはめっちゃ悔しいっす!

武井:ハハハ。でも、恋愛をしてないからこそ感じるものも多いですよ。アフロさんには、その頃に彼女がいてリア充していた奴には作れない何かがある。それは反骨心とも繋がっているのかもしれない。そう思ったら、全部の経験が自分の糧になります。何にもマイナスがないですよ。自分に置き換えると、子供の頃に金がなかったのも、親がいなかったのも、全部が俺の武器であり強さになってる。

アフロ:武井さんにとって「あの経験は意味なかった」というのはないですか。(少し間を空けて)……いや、それはないですね。俺も「あの時間は意味ねえな」と思っていたことが曲の歌詞になってるもんな。

武井:そうそう。大人になればなるほど、無駄だと思っていたことが確実にプラスになってたりするから。

アフロ:意味ないと思っていたことが実は「やっぱり、意味はあったな」と思える瞬間というのは、ドラマとしてフックになるシーンですね。俺にとって「何の意味があんだよ!」って思いながら半ばヤケクソでやってた野球部補欠の声出しも、今の仕事にむちゃくちゃ役立ってる。喉、めっちゃ強いんすよ。

武井:あと、これだけ人生に満足感が出てくると「意味のないことに、すごく意味がある」ことも分かってくる。暇で意味のないような時間を過ごしていた時期は、意味のねえことの意味も分からない。例えば、金がない時は金があることの有り難みも分からないから、「金のためじゃねえ」とか言っちゃう。その時の「金のためじゃねえ」という言葉ってすげえ軽いし、弱いし、ダサい。金を稼いだこともないのに「金のためにやってるんじゃねえんだよ」というのは違う、稼いでから言えたら本当だと思うんです。

アフロ:武井さんも、そういう時代がありました?

武井:ありましたね。本当は金が欲しくてスポーツをやってたし、豊かになりたくて勉強もした。それなのに、金がないから「金のためじゃねえ」と言ってた。それって、すごいダサいなと思いましたね。

アフロ:「金じゃねぇ」そう言わなければ自分を保てない状況が自分にもあったと思います。ちなみに今はどうですか。

武井:金がどれだけ大事かを分かりつつ、金じゃないものを選択できるようになりました。金があるからこそ、金のためじゃないのが分かる。話を戻すと、くだらなくても、意味がなくても、人生でそういう時間を過ごすべきだと分かるようになった。今は意味のない時間をただ過ごすんじゃなくて、それを自分から取りに行けるようになったから「今日は意味のない時間を、どれだけ豊かに味わうか」という。兄貴は24歳で死んじゃって、俺はもう46歳だから22年も彼よりプラスの時間をもらっているわけで。俺は24歳からの時間はめちゃくちゃ充実してるから、それを考えたら最高だよね。


アフロ:「どうせ死ぬんだから」という言葉と「生きていられるんだから」という言葉って、対のようで同じ意味だと思うんですよ。だけど「生きていられるんだから」と言えるのが武井さんなんだなと思います。

武井:そうだね。

アフロ:自分の歌詞の中では「必死にやらないと終わっちまうぞ!」というような角度の言葉があります。心から思っているし、俺はそう言う言葉に尻を叩かれてやって来たからこれも間違ってないと思います。ただ武井さんはそっちじゃないんですよね。「これだけやったら、こうなれるよ」っていう指差す先の希望を語っている。これを武井さんという人間が発する事によって深く強く伝わると思うんです。それが凄く眩しく映ります。ただそんな武井さんにギャップを感じる事が最近ありました。YouTube番組の中でバンドに「年内にYouTube登録者が1万人達しなかったら解散」という条件を出したじゃないですか。あれは希望を力強く指差す、いつもの武井さんとは違った一面だったのかと思います。

武井:そもそも、SaToMansionは3年前に『ROAD TO EX』で出会ったのね。ある時、「武井さんにYouTube出演をしてほしくて」と頼んできた。で、まだまだ若手のバンドだから出演料もないわけですよ。それなのに「ああ、良いよ」と出るわけにはいかないじゃないですか。「だったら、俺へのギャラとして年内にYouTube登録者1万人。出来なかったから解散」という条件を出した。ミュージシャン側からすれば、このペナルティは重いのかもしれない。別に俺は「解散」じゃなくてもいいんです。だけど俺はタレントだから、観ている側の気を惹くためにはTVショーにしなければいけない。だから「解散」と言ったんです。

アフロ:「ショーとして成立させるために」という意味なら、すごく腑に落ちました。

武井:ただね、1万人なんて全然低いハードルですよ。これから音楽1本でやっていきたいんだったら、知名度がなければダメだから。自分の好きなことだけとか、自分のやりたいことだけを通して「偶然、誰かにハマる」とか「いつかスターになれる」のを待ってちゃダメだと思う。他人が素敵だと感じるものを届けて、有名になってから好きなことをやれば良いと思ってます。その好きなことって昔は評価してくれなかったけど、有名になればいくらでも評価してくれる人はいる。もしも、そこを無視するんだったら「野っ原で歌えば良いじゃん」と思うし「商店街でおばちゃん相手に、笑いを取っていれば良いじゃん」って話なわけで。でも……そうじゃないでしょ!? もっと売れたいし、もっと有名になりたい。絶対にみんながそうなりたいはずなのに、諦めて「俺はそうじゃない」と言ってる人がいる。

アフロ:確かに自分の素直な欲望にフタをして、分別のついた顔をして諦めてしまう事は世に溢れているのかもしれないっすね。お金が欲しい、有名になりたい、言葉にすれば浅ましく思われてしまうかもしれないけれど、その先には心動く瞬間や、自分と自分以外の幸せがあるという事も見つめていきたいです。譲れない創作への拘りとの両立は凄く難しいと思いますが、その間で揺れ動く様さえも曲にしていけたらと思います。

武井:全員が俺みたいにストイックじゃなくても良いと思う。生きてる時点で幸せなんだから。だけど俺は「有名になって成功してやる」と目指したから。それをやると決めたから挑戦してやってるだけなんです。


取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5 ティグリス中目黒Ⅱ 3F)

取材・文=真貝 聡 撮影=内田遊帆 ​

当記事はSPICEの提供記事です。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ