戸塚祥太、福田悠太も驚く?!「忠義の世界」 浪曲も交えてでつづる『阿呆浪士』ラサール石井(演出)×鈴木聡(脚本)×玉川奈々福(浪曲)が語る討ち入り物語

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2019/12/25 15:20



年末の定番と言えば『忠臣蔵』。NHKテレビ東京の長尺ドラマで幾度となく取り上げられてきた、赤穂浪士47士が主君の敵討ちをする物語。日本人のDNAを刺激する袖が入山形に染められた黒地の羽織。ーーなんてのは、もしかしたら今は昔のことなのか? もしそうであったら、PARCO STAGE『阿呆浪士』を見てみて! 一介の魚屋「八」が「自分は赤穂浪士だ」と付いたうそが、なぜだかコロコロ、ゴロゴロ転がり始めて討ち入りに加わるハメに!? ナナメウエ行く展開の喜劇が、現代では薄れかけた「忠義」を教えてくれる。脚本のラッパ屋・鈴木聡、演出のラサール石井、そして『忠臣蔵』と言えば浪曲、その唸りで飛ぶ鳥を落とす勢いの浪曲師・玉川奈々福に話を聞いた。
鈴木聡
鈴木聡

――今はなくなったシアタートップスという小劇場の客席側をステージに変えて上演された『阿呆浪士』を拝見したことがあります。

鈴木 それは1998年ですね。初演は94年で、これも今はない青山円形劇場でした。そのころ『ショウは終わった』『ハリウッドマンション』『サクラパパオー』など現代物を続けてやっていたんですよ。で、何か違うアプローチで、時代劇でもやろうかというモードだったわけ。それで落語が好きだから、巨大な落語ができないかと思ったんです、できれば誰もが知っている物語をアレンジして。

――亡くなった浪曲師の国本武春さんが「忠臣蔵」でおなじみの装束で、狂言回しをやったり、役を演じたり、物語を唸ったり大活躍でした。

鈴木 初演は国本さんは出ていなかったんです。木の実ナナさん主演の『狸』というミュージカルを書いたときに、国本さんがキャスティングされていて知り合ったんです。国本さんは世間に浪曲を広めるためにいろいろ挑戦していたから、再演時に手伝ってもらって、浪曲的なシーンや曲もいくつか書いていただいた。今回のPARCO STAGE版は、その98年バージョンをベースにしています。
ラサール石井
ラサール石井

――切腹させられた主君・浅野内匠頭のために、赤穂浪士は潜伏しながら機会を伺い、吉良上野介を見事討ち取って本懐を遂げるわけですが、この主従関係を表す「忠義」「忠臣」という感覚が日常では薄れているかもしれません。もはや歌舞伎や映画の世界にしかないというか。

鈴木 主君に仕える、主君のために命を投げ出すということが、確かに今の若いお客さんには理解できないかもね。僕らが子供のころは、年末になると「忠臣蔵」がテレビで放送されたり、映画で大石内蔵助を演じた長谷川一夫さんの「各々方」というせりふのモノマネをしたもの。わからないなりに見ていたし、常識としてみんなが知っているものという気配があった。ただ懇切丁寧ではないけれど、せりふのやりとりで「忠義」というものが何かはわかると思うけどね。

石井 「忠義」「忠臣」が伝わらないことはないと思うんですよ。ただ今の時代、それを自分の日常で生かす機会があるかといったらほぼないわけです。

奈々福 私は浪曲師として「赤穂浪士」をやっているわけですが、あまり「忠義」にスポットを当てないんです。やっぱり伝わりにくいから。それよりも人生に枷を与えられ、奥さんや子供、親友と別れてでも「この道を選ばねばならぬ男たち」の物語としてやっています。それは建前を生きるということかもしれない。その一方で、先日も野田秀樹さんの歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』を浪曲にしたんですけど、「仇討ち? バッカみたい」というのも同時にやりたいんですよ。『阿呆浪士』では本物の赤穂浪士たちが仇討ちがバカバカしくてやめていくじゃないですか。その様子が私のやりたいこととすごく響き合うんです。
玉川奈々福
玉川奈々福

石井 初演が1994年ですよね。この戯曲にはバブルの余韻が残っていて、そういうものに触発されて書いたのかなと思わせるところがありますよね、今、読むと。「赤穂浪士」という江戸時代からのエネルギーと、90年代に鈴木さんが書いた小劇場のエネルギーとを、あまりにもエネルギーがない現代に強烈に感じてもらえる芝居だと僕は感じたんです。

鈴木 それはうれしい。主人公の八、長屋小町にモテたいばっかりに「俺は赤穂浪士だ」とうそを付いたことが、物語の発端。この八には共感できると思うんだ。ノリのいい、お馬鹿な人だなって。それに討ち入りの中心人物である大石内蔵助も決して「忠義」で立ち上がるのではなく、友情だったり、江戸の町のいろんな庶民の気持ちを受け止めた「祭り」がモチベーション。

石井 そう、「祭り」と言っているわけだから、庶民のエネルギー、人間のエネルギーは伝わる。一生に一回くらいは阿呆になって、先を考えず、一銭も儲からないけどやらなければいけないときがあるんだよ、ということが伝わればいいと思うんです。

奈々福 内蔵助は主君の浅野内匠頭のことが人間的に大好きなんですよ。「いい藩だったよな、のびのびとしていて」って。だから「主従」「忠義」ではなくて、友情などのために「一丁やってやるか」となる。今の時代は人生にセーフティネットを敷くことに汲々としているけれど、『阿呆浪士』には敷かない人ばっかりが出てくる(笑)。今日の徒花、今日が楽しければいいというのは一般的ではないかもしれないけれど、芝居の世界くらいパッと生きてパッと散っていく人がいてもいいじゃないかというような祝祭性を感じます。
玉川奈々福
玉川奈々福

――奈々福さんと言えば、大人気の浪曲師さんです。

鈴木 僕はキャスティングにはかかわっていないんだけど『阿呆浪士』をやるなら有力候補だろうとは思っていました。とても忙しい方だから、スケジュールを調整してくださったことに、みんな喜んでましたよ。奈々福さんは国本イズムをどこか引き継いでいるというか、浪曲を今のお客さんに対して広く開いていこうという姿勢がある。つまり今のお客さんにもわかりやすく、現代的な視点で浪曲をやっていらっしゃる。女性だからより華やかだし、へんに構えず親しみを持って聴けるんです。

奈々福 ありがとうございます。私は、国本武春師匠が出ていた『阿呆浪士』は存じ上げていたんですけど、まだ入門したばかりだったので見ることはできませんでした。後で映像を拝見したんですけど、そのエネルギッシュな感じが、すごい芝居だなと思いました。

石井 いや、奈々福さんは本当に素晴らしいんですよ。見事な浪曲を毎日稽古場で聴けるというだけで至福です。そしてやっぱり日本人が持っているDNAの中に、メロディや唸りを受け入れるものがあるんですよね。それは戸塚祥太くん、福田悠太くんのファンや、浪曲を初めて聴く若い人たちにも伝わると思う。それに初日までは誰にも知らせないんだけれど、あるサプライズもあるんですよ。それはこれから稽古するし、お願いする役者さんには負荷をかけるので申し訳ないんですけど、どうしてもやりたかったこと。それによって奈々福さんと芝居がリンクするから。



鈴木 さっき最近は「忠臣蔵」と出会わないという話をしたけれど、奈々福さんが芝居のオープニングで「忠臣蔵」のあらましを浪曲で唸ってくださるんですよ。

石井 そう。僕がもう一つお願いしているのは、台本にはないけれど、エンディングを「ちょうど時間となりました」で締めてほしいんです。奈々福さんは恥ずかしがっているけど、浪曲的な仕掛けをすることで、この芝居のカギかっこを努めてもらいたい。

奈々福 鈴木さんは芝居が始まって最初の5秒でお客様を笑わせたいとおっしゃるけど、まさにその役割なんですよね。お客さんと仲良くなっておく。「みんな!よく来たね、携帯切った」って(笑)。そうやって温めて、明るいカギかっこの役割ができればいいなと思っています。

――演劇と浪曲は近しい表現だと思いますが、今回のコラボではどんなところに親近性を感じていらっしゃいますか。

石井 浪曲は特に歌舞伎と昔はリンクしていたんですけど、歌舞伎に反発して新劇ができ、新劇に反発して小劇場ができるという歴史があるわけですよ。それが今、一周回って一緒になっている。だから小劇場的なものに、実は浪曲的なDNAがあるんだよとみんなが気づいていただけると思うんです。いわば先祖帰りみたいなもの。演劇自体が浪曲や落語と一緒だということです。

鈴木聡
鈴木聡

――奈々福さん、若いファンの前で浪曲を披露されるお気持ちはいかがですか?

奈々福 今まで経験した中で、一番幅広い層のお客様に見ていただけるんじゃないかなと思うと、すごくうれしいです。皆さんを新しい世界に導くということになるのかと思うと、その場に居られるだけでワクワクしますね。

石井 鈴木さんはかつてご自分がサラリーマンだったこともあって、大石内蔵助という中間管理職の悲哀みたいなものを書いているんですけど、これは庶民の物語、ザッツ・鈴木聡という本ですから、それをこわさないようにしたいと思います。

奈々福 赤穂浪士は本来は建前で生きる人たちの物語なのに、人間として正直に生きるってどういうことなのかが描かれています。そして私自身は演劇の現場は初めてですし、多彩な皆さんとご一緒できるのでとても刺激的です。ここからもっともっと頑張ります。

石井 小倉久寛さんの内蔵助、素敵ですよ。もうオグちゃんしかできない内蔵助です。ジャニーズのお二人も素晴らしいです。すごく真面目で、でも柔軟性があって、芝居の勘所がすごくわかっている。稽古当初から、劇団みたいになっています。そのチームワークをご覧いただきたいですね。

鈴木 いろんな世代、いろんなホームグラウンドを持った人たちが集まって、この座組がお祭りみたいですね。そのエネルギーがきっと客席を巻き込むと思います。ぜひ体験してもらいたいですね。


取材・文:いまいこういち

当記事はSPICEの提供記事です。

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