今年は岩崎正裕&松田正隆作品に、気鋭の演出家が挑戦! AI・HALL「現代演劇レトロスペクティヴ」

SPICE

2019/12/11 16:00



主に関西在住の若手演出家が、1960年代以降に発表された日本の名作戯曲の上演に挑む、兵庫県伊丹市の公立劇場[AI・HALL(アイホール)]が主催する企画「現代演劇レトロスペクティヴ」。寺山修司、唐十郎、別役実、野田秀樹……と、これまで取り上げてきた作家の作品は数多いが、今回は「トリコ・A」の山口茜が『ここからは遠い国』、「コンブリ団」のはしぐちしんが『紙屋悦子の青春』と、どちらも90年代に関西で発表された名作を取り上げる。この2公演について、山口とはしぐちの会見の言葉を交えながら紹介する。
トリコ・A『ここからは遠い国』チラシ。
トリコ・A『ここからは遠い国』チラシ。

『ここからは遠い国』は、大阪の劇作家・演出家で、AI・HALLディレクターでもある岩崎正裕が、96年に自らが主宰する「199Q太陽族(現・劇団太陽族)」で初演。その前年に起こった「オウム真理教」の一連の事件を真正面から取り上げ、同作で「第4回OMS戯曲賞」大賞を受賞するなど、彼の評価を大いに高めた記念碑的作品でもある。宗教団体の施設から救出され、実家のガレージで暮らす青年を通して、あの事件がもたらしたものや、加害者と被害者はこの先どう生きていくのかなどを、ストレートに問うた人間ドラマだ。

オウム事件の時はまだ高校生で「自分の身に迫るような感じで、とらえたことがなかった」という山口。オウム関係の参考文献を元に理解を深めながら、演出を進めているが「(上演した)舞台を見ていないし、この戯曲が何かわからない所から始まってるので、やればやるほど言葉の面白さや、発見がどんどん出てくる。じわじわと味が出てきているので、あえて言うと、結構自信があります」と手応えを感じている模様。また今回は「世界を変えるとはどういうことか?」に、物語の焦点を絞るそうだ。「主人公の男の子には、自分のことは自分でしろ、家事をしろよ! と、どうしても思ってしまう(笑)。自分の周りの人を幸せにできない人が、どうして世界を幸せにできると思えるんだろう? ということに手触りがなさ過ぎるので、その部分をどうやって、演出として表現できるのかを考えてます」と経過を述べた。
トリコ・A『私の家族』(2018年) [撮影]松本成弘
トリコ・A『私の家族』(2018年) [撮影]松本成弘

ちなみにこの山口の発言を受けて、ディレクターとして会見に同席していた岩崎が「この年令になると“家事をしろよ!”は、めちゃくちゃ身にしみてわかってきました。おっしゃることは当然です」と、苦笑するシーンもあった。

『紙屋悦子の青春』は、96年に『海と日傘』で「第40回岸田國士戯曲賞」を受賞した、「マレビトの会」の松田正隆が、92年に当時主宰していた「時空劇場」で初演。昭和20年春、鹿児島の片田舎で生きる女性が、2人の軍人の間で揺れ動く様を通して、死の影が常にただよっていた当時の日本の状況を、静かに浮かび上がらせた会話劇だ。06年には、故・黒木和雄監督&原田知世主演で映画化もされた。実ははしぐちは当時「時空劇場」に所属し、この作品にも出演している。
コンブリ団『紙屋悦子の青春』チラシ。
コンブリ団『紙屋悦子の青春』チラシ。

時空劇場のいくつかの作品の中から、本作を選んだのは「僕の中で一番、今も身体に染み付いてるほど台詞が強かった」のが決め手だったそう。そして演出プランとして「(時空劇場の)初演は、キッチリした戦時中の家の一室を作っていましたが、今回は抽象性を舞台美術に入れて、昭和20年にとらわれない普遍性をつかみ取っていきたい」と語り、その上で「この戯曲に書かれてることは、昭和20年に限らない」ということを伝えたいという。「日常を生きている中で人がいなくなってしまうのは、戦争中じゃなくても常に起こることだ……というのは、今回戯曲を読んで改めて思った所。それは、自分がお芝居を作ってる時にずっと感じていることと、非常に重なる。そのことの根本になるような、小さな家族の小さなあり方に、すごくフォーカスを当てたいです」と抱負を語った。

また、はしぐち自身も、初演と同じ役で出演。「当時は20代でじいさんの役をやったわけだけど、むしろそっち(の年齢)に近づいたので(笑)、もう一度チャレンジしたいと思います」と心境を語った。
コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』(2018年) [撮影]井上信治
コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』(2018年) [撮影]井上信治

90年代の関西は、松田以外にも鈴江俊郎や深津篤史(14年逝去)が「岸田國士戯曲賞」を受賞したり、岩崎や土田英生などの力のある劇作家が頭角を現すなど、静かなムーブメントが生まれていた。そこから早くも20年以上の年月が経ち、立派に「レトロ」となったこの時代の作品群。その熱を懐かしむのではなく、どれほど豊穣かつ普遍的な劇世界を、当時の関西の作家たちが築き上げていたのか? そして両演出家が、どんな手段でそのことを再認識させるのか? その両面で驚かされる、2公演となることを期待したい。
AI・HALL|現代演劇レトロスペクティヴ2019」チラシ。
AI・HALL|現代演劇レトロスペクティヴ2019」チラシ。

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