最終巻発売『やがて君になる』仲谷鳰に更に聞く「やっといちゃいちゃしているところを描けるなって」

エキレビ!

2019/12/4 09:45

11月27日にコミックス最終第8巻が発売された、仲谷鳰の大人気百合漫画『やがて君になる』。
エキレビ!の仲谷鳰インタビュー後編では、第8巻のネタバレにも触れながら、誰のことも特別に思えなかった小糸侑と、自分のことが好きな人を好きになれなかった七海燈子の物語の結末までを追っていく。

(前編はこちら)


燈子は、「好きなものは好き!」ってタイプの子だなって(笑)
──ここからは第8巻の内容になるのですが。第40話で、侑と燈子がお互いの気持ちを伝え合い、本当の両思いになるシーンは本作のクライマックスだと思います。二人の会話の内容は、この回を描く前からイメージされていたのでしょうか?

仲谷 侑については、連載開始当初からとかではないのですが、あの回に辿り着くまでには、「自分で選ぶ」ということをキーワードにした言葉で「好き」という思いを表現するんじゃないかなと考えていました。でも、燈子に関しては、ギリギリまで具体的には思いついていなくて。ずっと、どういう言葉で「好き」という気持ちを定義するのかなって考えていたんです。でも、最終的に、燈子は別に言葉では説明しないな、「好きなものは好き!」ってタイプの子だなって(笑)。

──理屈じゃないって感じもある子ですよね。

仲谷 そうなんですよね。その方が燈子っぽいし、侑の気持ちとも噛み合うなと思ったんです。それは、かなりギリギリになって、「あ、こういうことだな」と気づいたところでした。


──二人が思いを伝え合う場所が生徒会室というのも、決めていたのですか?

仲谷 燈子が侑に「待ってて」と伝える時、待ち合わせの場所にどこを選ぶかは悩んだんですけれど、やっぱり生徒会室しかないかなって。室内なので、演出的にというか、画的に保つかなとも少し思ったのですが。二人にとっての始まりの場所っぽいイメージもあったので。

──恋愛漫画では、主人公カップルが成立してすぐに最終回になる作品と、その後の二人の関係も長く描いていく作品とがあります。本作では約1巻分、恋人同士になった侑と燈子を描いていますね。

仲谷 すぐに終わりだと、読者の皆さんがこの二人は本当にずっと付き合っていけるのかな、とか心配になりそうなので「大丈夫だな」と思ってもらえるくらいの分量は描きたいと思っていました。2、3話くらい描くつもりだったので、それよりは少し長くなった感じです。

やっといちゃいちゃしているところを描けるなと思いました(笑)
──ようやく恋人同士になった二人を描けたことに対して、特別な思いはありましたか?

仲谷 やっとここまで来たんだ、という気持ちはありましたね。そこまで大変だったので。それに、それまでの二人は描いていても、好きという思いを100%出しきれはしなかったので、二人がお互いの気持ちを確認してからは、やっといちゃいちゃしているところを描けるなと思いました(笑)。

──第41話からの数話は、少しバカップル状態でいちゃいちゃする二人が可愛いです。

仲谷 (前編で)最初に、ある程度の流れは考えていたと言ったのですが、8巻の内容で考えていたのは思いを伝え合う40話と、最後の2話(第44話、第45話)の内容だけで。その間の話については考えたことがなかったので、本当に直前になって、二人はどういうことをするのかなと考えていきました。


──仲谷さんのTwitterアカウントで、「単行本作業で原稿を見直したんだけど、終盤は作画中の記憶がわりと…ふわふわ…してて自分でちょっとびっくりしたりしました 44話とか とか」という投稿があったのですが、どういったところに「びっくりした」のでしょうか? 侑と燈子が二人きりでお泊まりする展開には、私も少し驚いたのですが。

仲谷 なんて言うか……思ったよりもエロく見える感じで描いてるなって(笑)。

──私が読者として驚いたのと同じポイントですね(笑)。

仲谷 もちろん、ネームとかをやっていた時はちゃんと頭が働いていたはずですし、どういう絵を入れるかも、覚えてないわけはないんですけれど。作画中、実際にどういう線を引いて、どういうトーンを貼ってというところまでは記憶が曖昧になっていたので。そういう感じに見えるように描いているなって。「びっくりした」というのはちょっと違ったかもしれないですが、「私、こんな風に描いたんだ」って思いました。

──先ほど、44話の内容はイメージしていたということでしたが、どのような描写にするかは別として、そういったシーンも、二人の物語の中で描いておくべきだとは思っていたのですか?

仲谷 はい。そういう欲求は二人ともあるよ、ということは、ごまかす必要もないことだし、ごまかさない方が良いと思っていました。

──すごく細かい質問になるのですが、第44話のセリフが無いコマで、燈子の持ってきたケーキを見て侑が驚いています。これは、以前、侑の姉の怜からレシピを教わっていた燈子がそれを作っていて。侑が「怜ちゃんと同じだ!」と驚いているのでしょうか?

仲谷 あ、そういうことです(笑)。


──第42話では、レシピと一緒に怜から届いた居眠り中の侑の写真を燈子がスマホで見ているシーンもありました。写真をもらった直後、待ち受けにしたいけど我慢している燈子のカットもあったので、恋人になってから、ついに待ち受けにしたのかなと想像したり。そういう細かな描写が伏線のようになっているのも楽しかったです。

仲谷 待ち受けにしているかは分からないですが、大切に保存はしていたんでしょうね(笑)。レシピのことも、最初から後で使おうと思っていたわけではないのですが、これは拾えるなと思って描きました。

3年後にみんなが何をしているかの設定は、すでに考えていた
──最終回(第45話)では、大学生になった侑と燈子が母校の学園祭を訪れて、友人たちと再会するという前話から数年後のエピソードが描かれます。私は、数年先を見せてくれる終わり方は大好きなのですが、仲谷さんも、読者として、こういった形式の最終回が好きだったりするのでは?

仲谷 そうですね。私も見たかったんです。水上悟志先生の作品が大好きなんですが、『惑星のさみだれ』や『戦国妖狐』は、エピローグをすごくしっかりと描いてあって。45話を描くときには、『惑星のさみだれ』の最終巻を横に置いて、数年後のみんなの様子とかはどういう風に描けば良いのかなって、かなり参考にさせていただきました。

──最終話は、侑と燈子の二人だけでなく、他のキャラクターたちのその後も描かれていて。短いセリフだけで環境の変化を示唆していたり、非常に情報量の濃い回になっています。最後に描きたいことがたくさんあって、工夫しながら、入れられる限りの情報を詰め込んだ結果なのでしょうか?

仲谷 あの頃のみんながどうなっているのかという設定は、実は45話のために考えたものではなくて。来年の春に出る『佐伯沙弥香について』の3巻も、最終話と同じ時期の話になるのですが……。

──『やがて君になる 佐伯沙弥香について』は、燈子の親友の沙弥香を主人公としたスピンオフのライトノベルですね。


仲谷 その資料として、以前、入間人間先生に、この時期のみんなはこういうことになっていますというテキストをお渡ししていたので、すでに設定はあったんです。それをネームの中で見せられるだけ見せようという感じでした。会話を削ったりもしましたが、絶対に描きたかったことは描けたと思います。

──最終話は、第44話の何年後の話なのでしょうか?

仲谷 3年後のつもりで描いています。

──最終話の中で、これは描きたいという優先順位が特に高かったのは、どのエピソードですか?

仲谷 侑、燈子、沙弥香の3人で、沙弥香に彼女がいることなどを話すところは、すごく前から会話までできていて。入間先生が『佐伯沙弥香について』の1巻を書かれる時には、(資料として)会話をお渡ししていたくらいなので、これは絶対に入るだろうなと思っていました。他は、だいたいネームをやりながら何を入れるか考えていった気がします。

──侑と燈子が恋人同士であることを、堂島以外の友人たちは知っているという描写もありました。第43話で「いつかは……わたしも先輩とのことみんなに言えたりするのかな」という侑のモノローグもありましたが、もう秘密の関係ではなくなっていることも、最終話で見せたいことの一つだったのでしょうか?

仲谷 それもすごく見せたかったところですね。幸せそうなところを描きたかったので、友達に話せている方が良いなと思って。

──細かい情報だと、児玉都が店長をしている喫茶店「エコー」が前よりも繁盛していて。都の他にもスタッフがいたり、3年前は使ってなかった2階席も営業している、といったことも描かれていました。

仲谷 はい。都の「1階席でいいですか?」って一つのセリフだけなんですけどね。

──気づいた時、いかにコマやセリフを使わず多くの情報を描くのか、すごく工夫されているのだなと思いました。

仲谷 ありがとうございます。そこにちゃんと気づいてもらえると、描いた甲斐があります(笑)。


アニメや小説からのフィードバックはかなりありました
──最終回では、燈子がプロの舞台役者として活動していることも描かれています。優秀だったのに夭逝した姉のようになろうと、本来の自分を隠して演じ続けてきた燈子が、文化祭の劇をきっかけに演技の才能を認められ役者への道を歩んでいく展開も当初からあったのですか?

仲谷 燈子がお芝居を続けていくかについては、最初の時点で決めきっていたわけではなくて。可能性はあるけれど、どうだろうなと迷っていたところではありました。でも、やっぱり、お姉さんをなぞろうとしていた頃のことも否定して欲しくなかったし、何かに繋がっている方が良いなと思ったので。文化祭の後くらいを描いている頃、そういうことにしようと決めました。

──昨年の10月~12月に放送された『やが君』のTVアニメは、原作の繊細な空気感なども丁寧に映像化した良作でしたし、今年の5月に公演された舞台も好評でした。仲谷さんが終盤の原稿を描くとき、アニメなどから影響を受けたこともあるのでしょうか?

仲谷 考えていた話の流れ自体が変わったりということは無かったですが、表現の仕方などではありました。例えば、(第34話の)扉絵で水の中にいる侑の絵を描いたのですが、あれはアニメの1話からイメージをいただいたものです。7巻最後の(第39話で)侑が燈子からLINEをもらって生徒会室に走って行くところは、前からイメージのあったシーンですが、エンディング曲「hectopascal」の歌詞がぴったり合っていて。そのイメージが強化されたりしました。あと、『佐伯沙弥香について』を読んでいなかったら、(第37話の)沙弥香の告白のセリフやモノローグは違う形になっていたと思います。作画面では、舞台以降の燈子は以前よりちょっと脚が長いかも……? アニメや小説、舞台からのフィードバックはかなりありました。

自分でも、すごくデビュー作っぽい作品だなと感じています
──最終巻の後には、仲谷さんの短編集と画集の発売が発表されています。どのような本になりそうか教えてください。

仲谷 短編集に収録されるのは『やが君』とは関係ない作品で、(百合アンソロジーの)『エクレア』に描いた作品や、新人賞(第21回電撃コミック大賞金賞)を受賞した『さよならオルタ』。それに書き下ろしも入る予定です。画集の方は、ほとんどが『やが君』に関する内容になりますが、入間さんの小説に描かせていただいた絵なども少しだけ入ります。『やが君』に関する絵は、かなり細かいものまで全部入れていただけそうな感じです。

──仲谷さんにとって、『やがて君になる』という作品は、どういった存在になりましたか? あるいは、今後も漫画家として活動していく中、どういった存在になっていくと思いますか?

仲谷 この先、たくさん描いていって、ヒットすることができたとしても、きっと代表作と言ってもらえるんだろうなという感覚はあって。自分でも、すごくデビュー作っぽい作品だなという感じがしています。自分を削って描いたというか、自分の中にあったもので描いた感じです。

──意識的にせよ、無意識にせよ、仲谷さん自身がかなり出ている作品なのですね。

仲谷 自分の経験をそのまま描いているわけではないのですが、物の考え方とかは、どのキャラクターにということではなく、全体的にかなりストレートに出ている作品だと思います。たぶん、最初にしか描けないタイプの話って言われると思うし、自分でもそう実感しています。正直、今は一発屋になるのが怖いです(笑)。

──気の早い質問ですが、次回作に関してはすでに考え始めていたり、打ち合わせを始めていたりするのでしょうか?

仲谷 編集さんとも、すごくぼんやりした話はしました。まだ具体的なキャラクターや設定の話まではできていないのですが……。

──次の作品も、百合漫画の予定ですか?

仲谷 それは早めに言っておこうと思っているというか、実は前から言ってるのですが。次は百合ではなく、別ジャンルを描こうと思っています。自分が百合を描くならこういう作品になるというのは『やが君』でもうやっちゃったので。自分の中に新しい蓄積というか変化が無いと、また連載で百合を描くことはできないし、描くとしても、かなり先になりそうです。まあ、今の段階でそう思っているというだけですし、違うジャンルでも、女の子カップルが出てきたりする可能性はありますが(笑)。
(丸本大輔)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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