第88回 『悪魔のかつら屋』

BOOKSTAND

2019/12/4 12:30

1967年・アメリカ・72分
監督/ハーシェル・ゴードン・ルイス
脚本/アリソン・ルイーズ・ドーン
出演/エリザベス・デイヴィス、グレッチェン・ウエルス、クリス・マーテル、ロドニー・ベデルほか
原題『THE GRUESOME TWOSOME』

***

スプラッター映画の始祖と言われるハーシェル・ゴードン・ルイス。1963年、ルイスが発表した『血の祝祭日』はホラー映画の歴史を変えた。女性の解体、脳ミソ丸出し、心臓嫡出......。劇場では失神者や途中退席者が続出し、映画評論家からは無視された。しかし「こういうのが見たかった!」という観客の潜在的なニーズと合致し、興行は大ヒット。それまでのホラー映画にも残酷シーンは存在したが、あくまでも添え物だった。ルイスが先駆的だったのは、真っ赤な血糊をたっぷり使った人体損壊をメインとして描いたことだ。
 続く『2000人の狂人』(64年)、『カラー・ミー・ブラッド・レッド』(65年)と合わせた3部作は「ザ・ブラッド・トリロジー」と呼ばれ、ルイスは「ゴア(血糊、流血)のゴッド・ファーザー」の称号を得た。『悪魔のかつら屋』は、そんな3部作の後に制作され、かつら屋だけに少し毛色の変わった作品となった。

スタートからルイスの遊び心が炸裂する。抽象画みたいな顔をした2体のウィッグ用マネキン首が出てきて「あなた新入り?」「ええ」と寸劇を始める。正確には上に乗っているかつら同士の会話だ。新入りは「女子大生だった私の髪の毛をロドニーがナイフで頭から丸ごと剥いだの」と犯人名を挙げて早々にネタバラシ(汗)。「そんな話、信じられないわ」と言う先輩のかつらが人の手で剥ぎ取られ、ツルツル頭にグサッとナイフが突き刺さる。脳天からドピュッと血が噴き出し、ゴロンと転がり沈黙する先輩マネキン。

町はずれに佇む「小さなかつら屋さん」(店名)。「100%人毛」とショーウインドーのホップに書かれ、「部屋貸します」の貼り紙も。女子大生が部屋の内覧に訪れ、店主の老婦人が接客する。ニコニコと笑みを絶やさない店主に油断した女子大生は、薄暗い倉庫に押し込まれる。戸惑う女子大生に考える暇も与えず上半身裸の男が襲いかかる! 店主の息子ロドニーだ。頭の弱いロドニーは「ウエッヘッヘッ」と舌を出して興奮し、女子大生をベッドに押し倒し、刃物で頭皮をベリベリ剥いでいく。ロドニーは毛髪付き頭皮の裏側をカメラに向け、中に溜まった血をドロリと流して見せる。

軽快なジャズ調のテーマ曲が流れ、店内にある何も乗せていないマネキン首が、オーバーラップ撮影で女子大生と同じ髪型のかつらを装着している様に変わる。ここで原題『THE GRUESOME TWOSOME』(ゾッとする二人組)と、なかなか凝ったタイトルイン。

主人公のキャシーが通う大学の女子大生が3人も行方不明になっていた。学生食堂でキャシーと食事をしている彼氏のデイヴは、事件に首を突っ込もうとする彼女に気が気じゃない。するとキャシーは、清掃中の年老いた用務員を見て「あの人が一番怪しい。やりかねないわ」。これには心の広いデイヴも怒って退席してしまう。

気にせずキャシーは、単独で用務員の尾行を始める。ヘッピリ腰で物蔭に隠れながら跡をつける探偵気取りのキャシーは、帰宅した用務員が紙袋から取り出した骨を見て、「この人、殺人犯よ!」と大騒ぎ。警察官が到着して用務員から事情を聞けば、愛犬のために学食からもらった牛豚の骨だった。キャシーが尾行を始めてから一件落着まで約9分。72分というただでさえ短い作品の8分の1が無駄に費やされる。

場面は、車に乗りながら映画を観るドライブイン・シアター。このシーンもかなり変。情景の中で上映されている様子を見せるのではなく、その映画をフル画面で見せる。男女がテーブルで飲酒していて、ポテチやフルーツを貪る男に「愛してる」「あなたが欲しい」と女がしつこく囁くが全く相手にされない。これが延々と流れ、鑑賞中のキャシーとデイヴいわく「どうでもいい映画だ」。このシーン、6分。映画の内容に事件解決のヒントがあるのか? 何かの伏線なのか? 結論から言えば、全くなかった。

一方、かつら屋では続々と犠牲者が出ていた。部屋を探すキャシーの学友は、ロドニーがママからもらった新兵器・電動カービンナイフで首を切断されてから頭髪を剥がれる(一段とアップする作業効率)。髪を売りたいとやってきた女性は、切り裂かれた腹の中に手を突っ込まれグチャグチャとレバーを取り出される。

やがてキャシーは行方不明の学友を探そうとかつら屋に侵入するが、まんまと店主に倉庫へ閉じ込められる。ふとキャシーがマネキンのかつらを見ると、見覚えがある学友の髪留め! そこへ「ヘラヘラ」とロドニーが登場!

この大ピンチに警察官と私服刑事を連れたデイヴが到着する。3人が倉庫内へ突入すると、ちょうどキャシーが抵抗中。おてんばキャシーは学友のかつらに刺さっていたヘアピンを引き抜き、ロドニーの左目にグサッ。ヘアピンが目玉に深々と突き刺さって悶え苦しんでいる息子を見た店主は「おお、かつら屋が台無しよ」。そっち? 刑事「ご婦人はいい人だが(いい人か?)、親子は精神病院で暮らすことになる」。こうしてゾッとする母子二人組は逮捕されたのであった。

一連のルイス作品は「稚拙な演出が却って生々しさを高めている」という評価もあり、当時の常識を覆したゴア描写はホラー映画史に残るエポックメイキングとなった。30代の時にルイスは、大学講師から広告代理店に転身してシカゴの映画館チェーンを展開、1960年代初頭にヌード映画を製作してヒットさせた。それが下火となった頃に世界初のスプラッター映画を送り出したのだ。発想とプロデュース力の勝利だった。

(文/天野ミチヒロ)

当記事はBOOKSTANDの提供記事です。

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