韓国はGSOMIA終了延長の裏で中国との初期的な軍事支援協力体制を強化していた

日刊SPA!

2019/11/30 08:54

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

その72 日韓GSOMIAの「終了延長」

◆韓国がGSOMIA失効直前にひっくり返す

日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)は、主に北朝鮮の核兵器やミサイル情報を扱います。日韓それぞれが持つ映像や文書、技術などの秘密情報を共有するものです。

GSOMIA締結前は米国を介して日韓各々が情報の一部を共有していたのですが、米国を介さずに日韓が二国間で直接情報を共有することで、ミサイル防衛などに迅速な対処が可能になりました。だから、仮にそれが破棄されたとしても、以前の状態に戻るだけでお互いの情報がまったく入らなくなるわけではありません。情報の入手に時間がかかり、日韓相互で共有する情報量が減るだけです。

日韓GSOMIAにより、韓国は日本海に落下したミサイル等の電磁情報、偵察機やレーダー、情報収集衛星で収集した弾道ミサイルの発射情報等を日本から得ることができます。

そして、韓国は地の利に基づいた脱北者等からのヒューミント情報、38度線を介しての監視情報を日本に提供してきました。ミサイルの落下地点などの条件が変わった場合など、日本側では情報が取れずに韓国に情報を要求することもまれにはありましたが、我が国にとって韓国から得られる情報は補足的なものでしかないため、協定が破棄されても日本側に大きなダメージはありません。

一方、韓国は重要な情報がタイムリーに得られなくなります。韓国から言い出した協定の破棄ですが、ダメージはどちらかというと韓国側にありました。

とはいえ、日韓の情報共有ができていれば、米国がわざわざ日本からの情報を韓国に伝える手間が省けます。軍事情報には瞬時に判断しなくてはならないものも多く、日米韓の連携を取るためには、タイムラグが発生する協定破棄はやはり損失です。情報伝達を仲介する米国が情報をサニタイズしなくちゃならないので、米国にとっても面倒です。だから、これはどう考えても米国から見て「ダメ」なのです。「米国にとって」というところがポイントです。

◆継続を「終了延長」と表現した今回の発表

「GSOMIA終了延長」などというのはわかりにくい表現ですよね。この言い回しには「日韓GSOMIA継続」とは意地でも言いたくない強い意思を感じます。さらに、韓国国立外交院のキム・ジュンヒョク院長は「いつでも韓国がGSOMIAを中断できる。刀の柄は韓国が握っている」と語ったと中央日報も報じています。まるで駄々っ子のようです。

この継続発表と同時に、経済産業省は輸出管理の局長級会談の用意を発表しました。輸出管理厳格化は日韓GSOMIA継続とは違う次元の話です。経産省がホワイト国認定を取り消しにした経緯はまったく別のところにあるのですから、混同されては困ります。この件に関しては引き続き厳しい態度で挑んでいただけると思います。

そもそも、韓国が日韓GSOMIA破棄を言い出したのは、輸出管理厳格化ではなく、徴用工訴訟への日本側の対処に対してだったはずです。別の話ですよね。

日本はもう韓国に甘い国ではありません。これまでは、韓国が強気に出れば日本は言いなりでした。日本国としての態度を一貫して変えないことは、軍事協定交渉にも有利に働きます。日韓GSOMIAで得られる韓国からの軍事情報は補足的なものですが、日米韓の連携が続くことの国益は計り知れません。日本は外交、貿易上の利益を損なう事なく、協定を継続させることに成功しました。これは勝利なのです。

◆韓国が中国との「災害救援協定」を7年ぶりに推進

しかし、まだ安心してはいられません。トランプ大統領はこれまでの在韓米軍駐留費の5倍にあたる47億ドル(約5100億円)を韓国に求めています。韓国はこれを拒否しましたが、応分の負担を求める米国の動きは止まらないでしょう。2016年の大統領選でトランプ大統領は「韓国側が駐留費を全額負担しない場合は米軍を撤収させる」と宣言しているくらいですから。

さる11月21日に韓国国防部は中国との「災害救援協定」を7年ぶりに推進すると発表しました。中韓は北京で「災害救援協定」を念頭に国防戦略対話を行ったようです。これは軍による「災害救援」の協定なので、初期的な軍事支援協力体制を整えるという話となります。 GSOMIA破棄か継続かに揺れるなか、韓国軍は中国に対して軍事的な協調関係を求めていたわけです。朝鮮半島のすべてがレッドチームに取り込まれる危険性は今も続いているのです。

◆邦人救出のための自衛隊派遣は「相手国」の許可が必要

朝鮮半島の平和的統一を夢想する人もいるでしょうが、理想は常に実現されるとは限りません。北朝鮮はこのところ、日本と韓国を想定した短距離弾道ミサイルや新型ミサイル「KN23」などの実験を繰り返しています。11月28日にも「超大型多連装ロケット砲」なる新型短距離弾道ミサイルを発射しましたが、平和に統一するお相手がそもそもミサイル発射実験をするでしょうか? 仮に駐留費問題で在韓米軍と韓国が揉めればどうなるでしょうか? 在韓米軍が縮小、または撤退するようなことがあればそれは千載一遇のチャンスです。朝鮮半島有事がさらに現実味を帯びてきた気がします。

朝鮮半島有事の邦人救出は非常な困難を伴います。邦人救出のために自衛隊が艦艇や航空機を派遣するには、相手国の許可が必要です。GSOMIAが継続されても、韓国の反日傾向は変わりません。許可を出さない場合どうするのか。さらに突っ込んだ議論が必要です。

日本国憲法前文の一節に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という文言があります。しかし、当然のことながらそれだけでは国は守れません。「信頼しながらもあらゆるリスクを想定する」賢さが必要です。どんな国に対しても「友好を保ちながらもリスクを考慮し、自国の利益を考え、布石を打ち、不安を排除する」賢さがあって初めて、平和は保たれるのです。

「信頼」に依存するだけじゃダメです(それを人は「お花畑」と呼びます)。失ってからでは遅いのです。綺麗事ではなく、例え生臭くても賢くしたたかに。「国破れて山河あり」は現実世界ではなく美しい詩のなかに留めておきたいものです。

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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