年収1500万円を捨て、借金1億円で会社を買収した男の考え

日刊SPA!

2019/11/28 17:13

 これまで「会社を買う=M&A」といえば、会社同士の売買ばかりだった。しかし近年、個人が急速に存在感を高めている。いまや普通の会社員が数百万円単位で会社を買っているのだ。“社長になる”という選択肢に迫った!

◆「80歳まで働ける居場所」を自分でつくろうとした会社員の挑戦

近年、「事業承継」という言葉がメディアで取り上げられることが増えている。後継者不足で廃業危機にある中小企業にとって、新経営者を迎えて事業を存続させることが喫緊の課題になっているのだ。

東京都世田谷区で創業50年を超える什器メーカー「泉美」。同社を3年前に買収した山田有孝社長の事例は、日本でも数少ない「外部の人間が買収によって後継ぎになる」という事業承継のケースだ。

「もともと独立志向なんてなくて、大学卒業後はずっとIT畑で仕事をしてきました。運よく勤務先のベンチャーが急成長し、東証一部に上場して33歳で人事部長にまでなっていたんです。当時は年収1500万円ほど。普通に考えたらそのまま勤めますよね。でも、人生何があるかわからないもので、今はこうしてまったく畑違いの老舗メーカーの社長をやっています」

そう笑う山田社長だが、安定の道を捨て、なんと同社を1億円以上の借金をしてまで買収している。何が彼を突き動かしたのか?

「30代半ばになって、『なんか新しいことをやってみたいな』と思ったんです。なんだか自分の成長が鈍化してきたような気がして。その頃、知人経由で紹介されたのが泉美の先代社長でした」

当時すでに80歳を超えていた社長とは不思議なほどに意気投合。会った翌日には電話で「ウチを継いでくれないか?」と言われた。

「もちろん断りましたよ(笑)。ただ、何か縁を感じて、それから週末に丁稚奉公のような形で仕事の様子を見させてもらったんです」

すると、同社に高いポテンシャルを感じたという。貴重な技術や製品を持つ一方で改善の余地が多く、彼の心は次第に傾いていった。

「IT業界で培った経験を生かせる場所はIT業界だけではない。むしろ、今まで経験したことがない業界ほどチャンスがあるのではと思ったんです。80歳になっても仕事を続けていたいと思っているので、40歳でまったく違う世界に飛び込むのもありだな、と」

◆事業を引き継いだ直後に先代社長が急逝してしまう

週末通いを続けて半年した頃には山田社長の頭はすっかりM&Aに染まっていた。先代社長との合意額は1.5億円。一部は自己資金を入れたが、大部分は信用金庫からの融資で賄ったという。

「ただ、当時は事業承継なんて言葉も広まってない頃で、唯一話を聞いてくれたのが信用金庫。彼らの顧客は多くが中小企業ですから、『今後もっと増やさないといけない事例だ』と、前例にしたい意味合いもあって融資してくれました」

そうして2代目になった山田社長を不幸が襲う。買収後も先代社長が相談役として残るはずだったのが、なんと継いでからわずか4か月後に急逝してしまったのだ。

「残されたのは僕と職人として長く働いてきた年長社員の3人だけ。一から関係性を築く必要があったし、何より業務上の会話も専門的で理解しきれない状態で。1年目はとにかく何もしないことに徹底しました。変えたいことはたくさんありましたけど、残ってくれた社員が働きやすいように先代のやり方を踏襲しようとしたんです」

少しずつ自分らしさを経営に注入して3年目。今では山田社長が主導して採用した20代社員も3人入り、会社は若返りの途中だ。

「中小企業って今、黒字なのに後継者がいなくてバタバタと倒産・廃業してるんですよ。僕が社長になってからも取引先がすでに数社なくなりました。僕がそのままモデルケースになれるとは思いませんが、外部から後継者を入れる事例は増えていいと思います。ゼロから起業するのは向いてなくても、今ある会社を1から10や100にする能力を持った人は、サラリーマンにこそ多いと思いますから」

山田社長の体験談は将来に悩む会社員のみならず、後継者選びに踏み出せない多くの廃業危機企業の社長の背中も押すことだろう。

<取材・文/吉岡俊 鈴木俊之 東田俊介 岩辺智博 撮影/水野善之 渡辺秀之 イラスト/bambeam>

―[会社を買え!]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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