「スカーレット」48話。フカ先生の絵を白米と卵3個に換えたと告白する八郎。その絵を想像して描く喜美子

エキレビ!

2019/11/25 08:30



(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~


『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第8週「心ゆれる夏」48回(11月23日・土 放送 演出・中島由貴)
昭和34年、6月30日、「ホットケーキが食べたくて絵付け師になった」「信楽初の女性絵付け師」「丸熊陶業のマスコットガール・ミッコー」として滋賀毎報新聞の「本日のシンデレラ」というコーナーに載った喜美子(戸田恵梨香)。

「狸が化けとるのかと思った」
師匠についていっさい触れていないにもかかわらず、深野(イッセー尾形)先生は気にする様子はない。
「きれいや 狸が化けとるのかと思った」と冗談を交えて褒める。
「笑ってくれました」とナレーション。

ありがちな展開だと、プライドを損ねられ、喜美子に対して素っ気なくなる(さらに虐めに発展)というパターンがあるが深野はそんなふうにならなそう。
一番弟子(夙川アトム)も二番弟子(三谷昌登)もニコニコ新聞を読んでいるし、みんな、なんて人が好いのか。

深野は一番二番もデザイン画を描くといいと言って、彼らの絵をチェック。「迷い道に入っている」と指摘する。
人生に「寄り道」もあるけど「迷い道」もある。

「ミッコーはホットケーキのほうが大事ですか」
笑ってくれたフカ先生だが、その後、なんともやるせない出来事が。

八郎(松下洸平)のシャツの穴の繕いが下手過ぎて、喜美子が繕い直してあげるのだが、そのとき、ふたりの間には妙に気まずい雰囲気がたちこめている。
先日、あんなに信楽焼の魅力で意気投合したというのに。訝しく思った喜美子が「もともとそういう感じですか?」「もともとそういう感じの人ならそういうことで…そういう感じでいきます?」と聞く(この言い方、ツボった)。

すると八郎は、「そちらも前にあったときと感じが違います」「マスコットガールやとは知りませんでした」と言う。
ガタッと音をさせて立ち上がる喜美子。
八郎は、新聞記事の内容に疑問を感じていた。深野のことに一切触れてないあの記事に。

八郎「ミッコーはホットケーキのほうが大事ですか」
喜美子「そんなことあるわけないですぅ」

真面目なシーンだが、このやりとりが可笑しい。
字幕で「あるわけないですぅ」と「う」が小さかったのが可愛っぽくて気になったが、関西弁のニュアンスだと小さい「う」になるんだろうか。それはともかく、喜美子自身、最も恥じていた部分をずばり指摘されて動揺してしまう。

このときの劇伴がポロポロ鳴る鍵盤の音が気持ちをかき乱す。

絵を白米に換えた八郎
耐え難い気持になった喜美子は食堂に貼られた新聞記事を外そうとするが、フカ先生は「堂々としとき」と平然としている。
そこへ、加山(田中章)が入って来て、喜美子の絵付け火鉢の注文が続々来たと言い、「深野よりミッコーの時代が来たでー」と大騒ぎ。そこに悪気はないと社員たちのフォローのセリフが入った。もうどれだけ意地悪い人を作らないように気を使っているのか。

だが八郎はむっとした顔をしている。
その後、八郎は工房を訪ね、かつて、実家には祖父が買った深野の日本画が床の間に飾ってあったが、11歳のとき、闇市でその絵を売って白米と卵に換えたと告白し、お礼を言う(ここでかかる劇伴が涙を誘う)。

弟子たちの前でなぜ、この話をわざわざするかと言ったらドラマだから、としか言いようがないが、喜美子が聞く必要があるのだ。もしかしたら喜美子にも聞かせたかったのかもしれないし。
それはさておき。

深野は戦争画を描いたことで絵を描くことができなくなった過去がある。絵付け火鉢に出会って再生できて今に至っている。彼が戦争画を描く前に描いていた芸術的な絵は、空腹を満たすことはできないが、お金に換えることはできた。これをどう深野は捉えただろうか。絵では人を救えないと思ったか。絵も人を救うと思ったか。
ただ、一言、「忘れんとってくれてありがとう」と深野は八郎の頭をぐしゃぐしゃっと撫でるだけだ。

食べ物は消えてなくなるが、絵は心に残る。いや、食べ物の美味しさも人の心に残る。

では、話を聞いた喜美子は何を思ったか。
喜美子は、八郎の家に飾ってあったという鳥が二羽、空を飛んでいく絵を想像して自分で描いてみる。
八郎の話を聞いた喜美子の感情の発露を、絵を描く行動で描く。生きる矛盾の苦しみにざわつく感情が深野の絵がどんなだったろうと想像する喜びに変わっていく。かかる劇伴はまさに生きる力が燃える音がする。

喜美子も八郎も深野も、理屈ではなく、体内で暴れまわる情念がある。戦争、貧しさ、絵という人生の楽しみを、食という生活に換えざるを得ない苦悩、その要因はどこにあるのか、当人たちにはコントロールできない世界の矛盾、それを煮詰めて煮詰めて……演歌の世界に近いかもしれない。石川さゆりの「天城越え」みたいな。あの粘り気のある歌。山が燃えるぅ~ ドラマも燃えるぅ~ 来週は火祭りか。

いわゆる「悪人」を書かないことによって、「善」でも「悪」でもない、もっと根源的な人間の感情に迫らざるを得なくなっているような気がするし、その言語化できない感情こそが、「ゲゲゲの女房」や「カーネーション」にあった「創作」というものの真髄なんではないかとも思えてくる。

蒲田さん
そんなことがあったことを、やっぱり常治(北村一輝)は知らない。
東京から帰ってきて、直子の働いている街・蒲田のことを「蒲田が」「蒲田が」と語り、家族は「蒲田さん」かと思ってしまうとナレーション。
「蒲田さん」と聞いてシン・ゴジラの「蒲田くん」を思い出してしまったじゃないか。
蒲田は空襲で焼け野原になったものの、いち早く闇市ができ、昭和30年頃に現在の商店街の前身ができたと、蒲田西口商店街のホームページに書いてあった。常治は、この商店街の活気を見て楽しくなったのかもしれない。

フカ先生の鳥の絵が卵に換わったこともちょっと面白かった。

(文・木俣冬 タイトルイラスト・まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)

●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業に就職。深野心仙に弟子入りし、絵付けを学び、丸熊陶業初の女性絵付け師として新聞に載る。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職する。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。京都の短大を卒業後、婿をとる。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変し、モテるように。高校卒業後、役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面する。

●信楽で出会った人たち 幼少期
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
緑…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。

深野心仙…イッセー尾形  元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。

藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
十代田八郎…松下洸平 京都の美術大学出身。祖父が買った深野の絵をお米に代えた過去がある。

●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。

●大阪の人たち 
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第七週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第八週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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