“全員デブのテラスハウス”…番組が問いかける「肥満の自分を愛するべきか」

日刊SPA!

2019/11/9 15:51

 2018年4月から「砂糖税」(清涼飲料水に含まれる砂糖の量に応じて課される税)が導入されるなど、肥満が社会問題となっているイギリス。肩身の狭い思いをしている“デブ”たちは、どんな思いを抱えているのだろうか?

BBC TWOの『Who Are You Calling Fat?』は、そんな彼らに迫ったリアリティーショーだ。片田舎のシェアハウスで共同生活を送る男女9人のデブたちが、肥満とともにあった人生や、そのことで世間から罵られる屈辱について、個人的な体験を告白しあうところから始まる。それでも彼らは思い悩むのだ。“いまのこの体を愛すべきか、それともダイエットすべきか”。

◆やせるべきか? 太った自分を愛すべきか?

この選択肢同様、出演者も2つの派閥に分かれる。ひとつは、肥満は問題だと受け止めるグループ。かつて160キロもあった57歳の男性、デルのケースはこうだ。大病を患い、自分で体を動かすのも困難になったのをきっかけに、胃の縮小手術を受けるなどして減量に成功したのである。

いまでは、同じように肥満の苦しみを抱える人たちの手助けをするために、非営利のウェブサイトも運営しているという。「僕はかつてないほど幸せなんだ」と語るデルは、番組における“善玉”の役割といったところだろうか。

その一方、ダイエットなど必要ないと語る“悪役”ヴィクトリアも登場する。

<だが、それはジャンクフードでいっぱいの冷蔵庫ではない。「食べたいものを本能的に食べるだけ」と語り、インチキ心理学の用語をまくし立てては、ボディポジティブを布教する伝道師だ。>

(『The Telegraph』 2019年10月28日 マイケル・ホーガン記者 筆者訳)

彼女は肥満を病気とする風潮そのものに異を唱える。「健康の問題というより、社会上生まれた概念でしょ」というわけだ。そして、世間が無意識のうちにデブ嫌いにさせられていると主張し、医学界からの警告を頑なに受け付けない。

(※ボディポジティブ:外見や体型の多様性を受け入れよう、というムーブメント。この数年、欧米で盛り上がっている)

◆「ボディポジティブ」に疑問を投げかけるBBC

さて、『Who Are You Calling Fat?』の興味深い点は、こうした論法で自らの正当性を主張するヴィクトリアを完全に間違っているとは見ていないところだろう。彼女が威圧的で独りよがりな発言を繰り返すことにより議論が前進する、いわば触媒の役目を果たしているからだ。

これまでボディポジティブというと、ポリコレ的配慮から他者を傷つけないとか、多様性を認めるとかの面から肯定的に論じられることが多かった。しかし、この番組においては真逆の扱いを受ける。9人の出演者に共通する傷口として、強烈なキャラを持つヴィクトリアが配置されているというわけだ。

ややもすると炎上しそうな演出方法ではあるけれども、ここにBBCの本気度がうかがえる。もちろん、肥満が社会、国家の財政にとって深刻な課題となっている現状を放置できないという危機感が第一なのだろう。そのうえで、ボディポジティブに対する率直な疑問も投げかけられているのではないだろうか?

それは、自らの体型を肯定する姿勢の根拠を、自分以外の他者に置いているからだ。ヴィクトリアの言葉を振り返ろう。「社会上生まれた概念」だとか、世間が無意識のうちにデブ嫌いにさせられているなどの発言からは、完全に自分自身が切り離されている。つまり、他者に依存しなければ確立できないほどに、脆弱な個性なのである。

◆「精神の怠惰をあらわす太鼓腹」と書いた三島由紀夫

かつて、三島由紀夫は次のように喝破した。

<私はもともと、精神の怠惰をあらわす太鼓腹や、精神の過度発達をあらわす肋のあらわれた薄い胸などの肉体的個性を、はなはだ醜いものと考えていたが、それらの肉体的個性を自ら愛している人々があるのを知って、おどろかずにはいられなかった。それは精神の恥部を肉体にさらけ出している無恥厚顔な振舞というふうに思いなされた。このようなナルシシスムこそ、私がゆるすことのできない唯一のナルシシスムなのであった。>

(「太陽と鉄」 佐藤秀明編『三島由紀夫スポーツ論集』所収 岩波文庫 p.208)

お気楽なリアリティーショーの形式を取りながら、さらっと人間の真理を突きつける『Who Are You Calling Fat?』。問題への根本的な解決方法は、効果的な政策でも大がかりな人権運動でもないことを視聴者に考えさせる番組作りは、さすがにBBCだ。

<文/石黒隆之>

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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