“地獄のような離婚”で知った、夫婦が「向き合いすぎない」ことの効用

女子SPA!

2019/11/9 08:47

【ぼくたちの離婚 Vol.14 縁側とテーブル #2】

離婚した男性たちに、離婚の経緯とその後の顛末を聞く本連載。男性たちがここまで赤裸々に自分の離婚について語った読みものが少ないからか、過去13回、毎回大きな反響がありました。そんな人気連載がこのたび、同名タイトル『ぼくたちの離婚』(角川新書、11月9日発売)として書籍化されました。

それを記念し、いつもとは趣向を変えて「離婚と親」にフォーカスしている特別編。今回はその後編です。

◆「人生は長く、一度しかない」

「離婚に際しては、あらゆる地獄を見ました」

そう語る土岡純也さん(仮名/43歳)は、数年前に地獄のような離婚劇を繰り広げた。仕事や結婚、すべてに対する考え方を妻から否定され、口撃され、ついには会社を辞め、心療内科にも通った――。

「離婚については、元妻との話し合いで最終決定したその日に、メールで父に伝えました。年の瀬も押し迫った頃ですね。理由は書かなかったです。とにかくもう無理だ。結論はもう出ている。親不孝で申し訳ない、とだけ。そうしたら、数時間後に父からこんな返事が返ってきました。今までに何十回も読み返したので、今でも暗唱できます。

『成熟した大人の夫婦が話し合いに話し合いを重ねてその結論に至ったのだろうから、お前の決断は尊重する。人生は長く、一度しかない。我慢して残りの人生を不本意な相手と過ごすよりは、早く人生の再スタートを切ってほしい。母さんも同じ意見だ』」

メールを読んだ土岡さんは、パソコンの前で嗚咽したという。

「僕は、人生のなかで、ものすごく重大で残念な決定を、両親に一言も相談しないで決めてしまったんです。あんなに大切に育ててもらったのに、不義理もいいとこですよ。父は家族の大切さを身をもって示してくれたし、母からはたくさんの心に響く言葉をもらった。なのに、僕は何ひとつ応えられなかった。本当に情けない。にもかかわらず、彼らは離婚の理由を聞き出そうともせず、ただ了解してくれました。最高の親です」

父親からのメールには、すぐにでも会いたいと書かれていた。ちょうど12月だったので、土岡さんはすぐに新幹線の切符を取り、年末の帰省がてら、実家のある某県に向かった。離婚届の証人欄に署名捺印してもらう目的も兼ねて。

「実家の最寄り駅までは父が車で迎えに来てくれました。前の年まで帰省時は元妻と2人だったので、毎年座るのは後部座席でしたが、その日は助手席。父の横顔を見ると、僕が思っていた以上に歳をとっていました。というか、それまでまじまじと父親の横顔を見たことがなかったんです」

家まで20分ほどの間、土岡さんの父親は離婚について一切、切り出さなかった。

「新幹線は混んでたろうとか、母さんが張り切って料理して待ってるぞ、とか。車が家に到着する直前に『ゆっくり休んでいけ』って言われた時には、泣きそうになりました」

◆この家の息子で、本当に良かった

実家に着き、父親が車を車庫に入れている間に、土岡さんが先に車を降りた。土岡さんが実家の玄関ドアを開ける。

「ぱあっと、母の料理の匂いがしました。みりんと醤油と鰹だしの混じった、あの匂い。母がエプロンで手を拭きながら玄関までパタパタと出てきて『おかえり』。僕はたまらなくなって、わびようと何か言いかけたんですが、母は笑顔のままさえぎって『ちょっと早いけどご飯にしようか。お父さん呼んできて』って。また、泣きそうになりました」

夕食には土岡さんの好物ばかりが食卓に並んでいた。その献立について、土岡さんが嬉しそうに語る。両親の話をしている時の土岡さんは本当に幸せそうだ。

「父が食卓につくと、ビールの中瓶が2本出てきました。父は健康のため数年前から酒を控えていましたし、母は下戸なので、僕のために買って用意してくれた2本です。ところが、グラスが3つあるんですよ。父はともかく、母は一滴も飲めません。なのに母はちょっといたずらっぽく笑って、『今日はちょっとだけいただこうかな』って」

◆父の余計なひと言を「草餅」で遮る母

乾杯の音頭は土岡さんの父親。「今年も一年、家族が健康で無事にすごせてよかったな」。そこに母親が「息子も無事に帰ってきたしね」と重ねた。

「僕は人生最悪の1年だったので、健康でも無事でもない。離婚のストレスでひどい顔をしていましたし、アバラが浮き出るほどげっそり痩せていた。なのに、まるでそんなことなんてなかったかのように、2人とも満面の笑顔を向けてくれる。なんて偉大な両親だろう、この家の息子で本当に良かったと、心から思いました」

その後も土岡さんの両親は、土岡さんに離婚の理由を何ひとつ聞かなかった。相手や相手の親とは揉めていないか、お金に困っていないか、通院していたそうだが体調は大丈夫か、と聞くのみ。

「ちょっとおもしろかったのは、夕食の終わりがけに交わされた会話です。父が離婚について『ふたりとも仕事が忙しかったから、すれ違ったんだろうな』と言ったので、僕がそうかもと答えると、父がささやくようなかすれ声で、こう言いかけました。『次はもっと家庭的な人を……』。すると隣にいた母が、すかさず父の言葉を遮って『買ってきてくれた草餅、いただきましょうか』って(笑)。めちゃくちゃ雑に話題を変えたんです。あのやり取りには、妙に癒やされましたね」

◆こんな夫婦には絶対ならないぞ、と思っていた

土岡さんは実家に一泊し、翌日東京への帰途についた。両親の愛情に包まれ、心から安堵したという。その新幹線の車中で、思い出したことがあった。

「僕は小学生の頃、実家でぼーっとテレビを観ている両親が嫌いでした。週末の夜、父と母はソファーにやや離れて座り、会話をするでもなく、ふたりで一心にブラウン管を見つめてるんです。時々、それぞれが番組に対して特に内容のない感想をポツポツ言うんですけど、言いっぱなしで、会話がラリーになってない。

普段の平日、父が遅く帰宅してからの夕食は、父がずっと夕刊を読んでいるので会話がない。週末くらい、たまには向かい合って話せばいいのに。夫婦に会話がなくなるってこういうことなんだな、こんな夫婦には絶対ならないぞって、心に誓いました。……それが、自分はこのざまです」

土岡さんに、「元妻さんとの夫婦生活では、向き合って対話したにもかかわらず、うまく行かなかったということでしょうか?」と聞くと、土岡さんは「テーブルとカウンター理論」と称する自説を展開し始めた。

◆夫婦は「テーブル型」と「カウンター型」に分かれる

「僕、夫婦には大きく二種類のありようがあると思ってるんです。ひとつはテーブル型。もうひとつはカウンター型です。テーブル型は、着席中、互いに相手の方向を向いている。つまり自分の注意の大半が配偶者に向けられます。相手と深いコミュニケーションを取ったり、意見交換したりできますが、互いの微妙な反応や表情の変化は、否応なしに相手にバレてしまう。それが、相手に対してとてつもなく不本意・不快なものであったとしても。

一方のカウンター型は横並びで座るので、配偶者に注意は払いません。その代わり、ふたりが同じ方向に視線を向けていて、同じものに興味・関心を抱いている。子育てとか、一緒に取り組める共通の趣味とか。なによりカウンター型は、相手への異議や、なんなら相手への“無関心”すら、相手に隠すことができます」

土岡さんは、ソファーに並んで座っていた両親を「カウンター型」、自分が実践した夫婦生活を「テーブル型」だと言いたいようだった。ちょっとした間を置いて、土岡さんは「元妻について書くのはこのことだけにしてほしいんですが……」と念を押し、元妻と交際中にもらった手紙のことを教えてくれた。

◆「ずっとテーブルで見つめ合っていたい」

「外で彼女と食事中、僕が彼女のキャリアについて差し出がましいことを言い過ぎてしまい、彼女が怒って帰っちゃったことがあるんですよ。2日後に彼女から封書の手紙が届きました。そこには、ついカッとなってしまったことに対する謝罪と、でも私の言い分もわかってほしいということ、これから二人がどうなっていきたいかが、丁寧に綴ってあったんです」

と言って土岡さんは、父親のメールを暗唱したのと同じような正確さで――淀みなく完璧に――手紙のあるフレーズを暗唱した。その大意はこうだ。「2人が歳を重ねても、縁側に並んで外を見ながらお茶をすするなんて嫌だ。ずっとテーブルで見つめ合っていたい」。元妻の理想とする夫婦観が込められていた。

おそらく土岡さんは結婚する前からわかっていた。両親が横並びに座っていた「ソファー」と元妻が避けたいと主張した「縁側」が、実は同じものであることを。彼はその2つをまとめて「カウンター」と言い換えたのだ。

「テーブルとカウンター、どちらが正しかったんでしょうね。いや、正しいとかじゃないのかな。会話なくソファーでテレビを観ていた僕の両親は離婚せず、元妻とテーブル上で逃げ場のない真正面のどつきあいをした僕は離婚した。ただ、そういう事実があるだけです」

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>

【稲田豊史】

編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。

【WEB】inadatoyoshi.com

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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