渡辺謙、「壁」を乗り越えるために大切にしてきた“オープンマインド”

クランクイン!

2019/11/9 07:00

 「文化、人種、宗教観が違うなかどうやって他人を理解するか――」。世界で活躍する名優・渡辺謙が近年抱いているテーマだという。その意味で、最新作映画『ベル・カント とらわれのアリア』との出会いは、渡辺にとって大きな意義のある作品になったようだ。

本作は、1996年にペルーで起きた「日本大使公邸占拠事件」をもとにアン・パチェットがつづったベストセラー小説『ベル・カント』を、オスカー女優ジュリアン・ムーアを主演に迎え映画化した人間物語だ。渡辺は、ムーア扮する世界的有名なオペラ歌手ロクサーヌのファンであり、窮地に追い込まれるなか、立場を超えて心を通わせていく実業家ホソカワを演じる。

当時、日本でも「日本大使公邸占拠事件」は大きく報道されていたが、渡辺は「事件が起きる1週間前までペルーを横断するドキュメンタリーの撮影でリマにいたんです。もし撮影スケジュールがズレていたら、レセプションのご招待を受けていたかもしれない」と驚くべき事実を明かす。

それだけに映画化の話を聞いたときには運命的なものを感じたというが「ちょうと9.11(アメリカ同時多発テロ事件)が起きてから間もなかったので、いまテロを題材にした映画は厳しいのでは」という理由で辞退した。しかし、再度企画が動き出し、メガホンを取るのが、以前仕事をしたことがあったポール・ワイツだと知り、渡辺も「これはやらなければならない題材だ」と思い参加したという。

政権に反対するテロリストたち、そして人質、さらに赤十字国際委員会からの交渉人という、立場がまったく違う人間たちが、極限の状態のなか“歌”を通して交流を図っていく物語だ。

渡辺は「ここ数年、世界的になにか内向きで、ユニバーサルな感覚が薄れつつある気がしていたんです」とつぶやくと「もちろん人種や宗教の違いなど、いろいろな考え方があるのですが、そのなかで、どうやって他人を理解していくことができるのだろうかと考えることが、僕の大きなテーマになっていました」と述べる。

劇中では、まったく立場が違う人と人を結び付けたのはロクサーヌの歌だったが、渡辺が「壁」を超えるために大切にしているのが「オープンマインド」という考え方だ。

「これをやれば絶対だという方法はないですが、少なくてもこちら側からは心を開こうという気持ちではいます。そうしなければ、相手も受け入れてくれませんからね。それは海外に限ったことではない。例えばこういう取材でも、奥歯にものが挟まったような言い方はできるけれど、それでは良いコミュニケーションは取れない。常にフレキシブルかつオープンマインドでいることで、距離は縮まると思うんですよね」。

自身の前から壁を排除し、心を開き受け入れる姿勢――。しかし今回の渡辺とムーアの役柄の距離感は微妙だ。スターとファンという間柄から、恋へと発展していく。「緊張感のあるなか、お互いが持っている壁を氷解していくのですが、ただ氷を溶かせばいいわけではない。オンオフを含めコミュニケーションにはすごく気を使いました」。

ムーアについて「キャリアもパッションもある女優」と評した渡辺。互いに多くの経験を積むプロフェッショナルな俳優だが「僕は求められることにどれだけ忠実にできるかを考えています。そのうえで、求められているものを超えるサムシングはなんなのか、ということを常に意識しています」と流儀を語る。今作でいえば、ロクサーヌとホソカワの距離感をどう表現するかは、渡辺のなかでは大きな悩みどころでもあり、見せ場でもあったという。

本作や、待機作でもある『Fukushima 50』など、メッセージ性の強い作品への出演が続くが「僕のなかには出演作へのこだわりはないです。こだわってしまうと、そこで安定してしまう。すると『こいつは見なくてもいいや』と思われてしまう」と語る。常にお客さんに「次はなにをするんだろう」と期待してもらえるようにならなければいけないというのだ。

題材はこだわらない。必要なのは「作る側が作品に対してどれだけパッションを持てるか」。思いがないものは見透かされてしまう――。そんな厳しい時代のなかでもブレることなく、渡辺は熱い思いを持って作品に挑むからこそ、人は彼の演技に笑い涙し、心を動かされるのだろう。(取材・文:磯部正和 写真:ナカムラヨシノーブ)

映画『ベル・カント とらわれのアリア』は、11月15日より全国公開。

当記事はクランクイン!の提供記事です。

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