働き方からファッションまで。世界一周をする男たちが見た日本<乙武洋匡×東松寛文対談 第3回>

日刊SPA!

2019/11/8 15:51

 世界一周の旅……。言葉だけ聞くと実現不可能に思える壮大な旅だが、かたや車椅子、かたやサラリーマンでありながら、それを実現させた男たちがいる。

◆「幸せの国」では障がい者も幸せ?

そんな世界一周ライフを続けているのは、『ただいま、日本』でその様子を描いている作家の乙武洋匡氏。そして、「リーマントラベラー」として、平日はサラリーマン生活を送っている東松寛文氏だ。

前回に引き続き、彼らが世界一周にかける思い、そしてその裏側を語り合う。

東松寛文氏(以下、東松):「乙武さんの『ただいま、日本』を読んで共感したのが、キューバの話ですね。雨宿りを手伝ってくれた人にチップを断られたという話。僕も行ったときに思いましたけど、キューバって貧しいイメージがあったのに、ご飯をご馳走になったり、急にダンスパーティが始まったり、靴を洗ってくれたり……。

お金でも払おうかと思ったけど、そんなんじゃない。『楽しんでね』って感じで。そうじゃないところもあるけれど、けっこう共通のスタンダード。それを思い出しましたね」

乙武洋匡氏(以下、乙武):「今年の正月にブータンへ行ったんです。幸せの国というイメージがあるけど、障がい者も幸せなのかなと思って施設に行ったり、取材をしてみた。すると、障がい者福祉って概念がまったく進んでいなかったんです。

近所の人にボコボコに殴られるとか、学校に通える状況じゃなかったりとか、ここ数年になって、ようやく『これって社会問題だよね?』って言われだした。『幸せの国』と言われているけど、少なくとも障がい者に関してはそうでなかったと思い知らされました」

◆海外に行って日本を見る物差しが増えた

東松:「僕は日本にいるときはサラリーマンの生き方しか知らず、社会のレールに乗っかってきて、海外に行くといろんな生き方があって選択肢があるんだと思った。それを知ったからこそ、今の自分の生き方を見つけられた。

会社のなかでやりたいことを見つけなきゃいけないという先入観があったけど、別に自分が納得してればどれやってもいいんだと思って、少しずつ自分らしく生きられるようになったんです。だから僕は、いろんな生き方を知るというのが旅をするテーマとしてあるんですけど、乙武さんは何かテーマがあるんですか?」

乙武:「僕は大テーマとしては、自分がいろんな経験をして多様な価値観を僕自身が身につけていくこと。それによって逆に、日本という社会を見るときの物差しの種類が増えていくという感覚はある。

たとえば、『ただいま、日本』で描いた旅では、ロンドンに3か月、ニューヨークに2週間行ったんですけど、ちょうどロンドンが春先、ニューヨークが秋口だった。で、どちらも街中で行き交う人の服装がバラバラ。革ジャンの人にすれ違ったと思えば、タンクトップ1枚の人にすれ違ったりする。最初はギョッとしたけど、でもたしかに、人の温度感覚はそれぞれだから、別に自分にあった服を着ればいいなって気づかされた」

◆閉店時間は絶対に死守する

乙武:「それで一時帰国したときに、ネットでバズってた記事がまさに『週刊SPA!』のものだったんですけど、『ウルトラライトダウンおじさんキモい』みたいな記事があって(笑)。それがまさに日本だよなと。

要するに、人が何かを着ているだけで、まったく関係ない第三者が不快になったり、イチャモンつけたりするのが日本なんだなって。僕も日本にいたらそう思ったかもしれないけど、海外から帰ってきてその記事をみて、『どうでもいいな~』って思ったんです」

東松:「スーツとかもそうですよね」

乙武:「あとは、まさに日本で叫ばれている働き方改革ですよね。ロンドンでは17時で閉店の薬局があって、そもそも17時閉店もびっくりだけど、たまたま入ったのが16時57分だった。日本だとお客さんが帰るまで閉めないじゃないですか? でもそこでは入った瞬間に店員が飛んできて『あと3分後に閉店するけどいいか?』と。

そうは言っても追い出されはしないだろうと思って商品を物色していたら、また飛んできて『あと1分で閉めるから』と言われて、これちょっと本気モードだなと。急いで会計したら、会計している最中に『もう17時すぎてるのに……』とブツクサ言われて、追い出されるように出て行った」

東松:「海外だとありますよね」

乙武:「日本の客商売だとありえないじゃないですか。でもこれぐらいシビアにやらないとプライベートは守れないし、仕事はそもそもプライベートを充実させるためにやっているものであるという価値観の順位づけがはっきりしている。

だからこそ、海外の人は『過労死ってなに?』と思う。『仕事のために生きることが奪われるってどういうこと?』って理解できない」

◆休み方が働き方を変える

東松:「僕も今ハッと思ったのが、そこまで努力して休んでいる人っていないんですよね。みんな周りの目が気になるわりには、欧米がいいなって言ったりして。向こうはそこまでちゃんとマインドセットしてあって、絶対に休むっていう思いでなりふり構わずやる」

乙武:「以前、小学校で教員をやっていたんですよ。僕は当時から休みをやりくりして国内旅行に行っていた。授業を休むことはなかったけど、通常の勤務が17時までなら1時間だけ休暇を取って16時に学校を出れる。そうすると19時ぐらいには仙台に着けるんです。

ところが、そういう休み方をしていたら、『ほかの教員の方々の手前もあるので』と言われたんです。意味がわからなくて。だったらみんなもやればいいじゃんと。僕だけが逸脱していて、特別なルールのなかでやっているならそう言われるのも理解できるんですけど、与えられた権利を行使して何がダメなんだと」

東松:「働き方改革が本末転倒になっているのは、働かせ方改革になっているところですよね。企業にとってうまく働いてもらうための改革。今の働き方改革は解決になっていないのは、みんな自分で決定してこなかったからですよ。なんとなくの社会のレールに乗って生きてきたからだと思う。

僕は休みに自分の軸を見つけられて、それがたまたま旅行だった。旅行に行くって決めたら、じゃあどうやって休もうかと。週末使ってダラダラやっていた仕事を金曜の夜までに終わらせなきゃいけない。そう思うと、決められた仕事だけど結果的に自分で締め切りを決めなおして、休み方を変えたら働き方も変わった。どんどん主体性が持てるようになった。休みは自分を変えるチャンスなんです」

<取材・文/日刊SPA!編集部 撮影/荒熊流星>

【乙武洋匡】

‘76年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターや、小学校教諭としても幅広く活躍。『ただいま、日本 世界一周、放浪の旅へ。37か国を回って見えたこと』が発売中

【東松寛文】

‘87年、岐阜県生まれ。平日は広告代理店に勤務、週末は世界を旅する「リーマントラベラー」。主な著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』『人生の中心が仕事から自分に変わる! 休み方改革』など

―[乙武洋匡×東松寛文対談]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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