静岡市のAI相乗りタクシー、実証実験では不備の多さばかりが目立つ結果に…

日刊SPA!

2019/11/8 15:52

 静岡県静岡市で、AI連動の相乗りタクシーの実証実験が始まった。これは11月1日から1か月をかけて行われるもので、静岡市内でのMaaS整備(「Mobility as a Service」の略語。全ての乗り物をサービスとして提供しようという概念)に向けた重要な布石でもある。従来までの「1乗車1契約」というタクシーの原則を覆し、1台の車両に不特定多数の利用者が同時乗車できるよう施されている。当然、利用者毎に乗車地も行き先も違う。そこでAIが走行ルートを算出し、効率的なピックアップを実現するという仕組みだ。相乗りだから、料金も従来型タクシーより25%程度安くなる。しかし、この実証実験には多数の不備が見受けられる。

◆PR不足が招いた「モニター不足」

日本は「ライドシェア後進国」と言われている。運営会社が一般ドライバーと業務契約を交わすライドシェアは、格安の利用料金と完全オンラインの利便性が相成って世界各国で受け入れられている。アメリカのUber、中国のDiDi、シンガポールのGrab、インドネシアのGo-Jek。だが日本では「自家用自動車の有償運行」を厳しく規制しているため、今でもライドシェアサービスが確立していない。

AI相乗りタクシーは、言わば「ライドシェアに代わる手段」なのだ。

静岡市でのAIタクシー実証実験は、というよりAIタクシーを含めたMaaSの市内での実用化は、田辺信宏静岡市長が公約として掲げている。今年4月の静岡市長選挙でも、田辺陣営の配布したマニフェストにMaaSの説明があった。

此度の実証実験は、まさに鳴り物入り……と言いたいところだが、実のところAIタクシーの存在そのものが静岡市民にあまり知られていない。

「今のところ、実証実験のモニターとして登録しているお客様はせいぜい120人ほどだと聞いています。それが実験終了までに200人程度になるのでは、という見込みだそうです」

そう語るのは、AIタクシーの運転手。曰く、11月1日から筆者が取材を行った同月5日まで、「モニターからのオーダーは1日1回あるかないか」だそうだ。

「我々は通常の業務と並行して今回の実証実験に参画しています。正直、相乗りタクシーとしての利用は多いとは言えません」

筆者の手元には、『静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト』が今年6月に発行したプレスリリースがある。それによると、静岡市でのAIタクシー実証実験は「1000人以上のモニターを確保して」実施するとある。

が、実際には1000人はおろか200人も集まっていないという。一般モニターは静鉄グループが発行する電子マネーカード『LuLuCa』の会員ではあるが、実証実験に関する静岡市と市内企業のPR不足によるものが大きいのかもしれない。

◆クレジットカード変更不可

実証実験に参加するモニターは、ユーザーページからオンライン配車のプラットフォームに入る。スマホアプリはまだ用意されておらず、そのプラットフォームはブラウザ上の「疑似アプリ」というべきもの。1か月限定の実証実験だから、これについては無理もないだろう。

問題はここからだ。モニターは事前に決済用クレジットカードをオンライン登録するのだが、何とこれは一度登録したら他のカードに変更することができない。つまり1アカウント1カードなのだ。

Uber、Grab、Go-Jekと、筆者は国外で様々なライドシェアサービスを日常的に利用した。これらのアプリでは、クレジットカードやデビットカードは複数枚登録できるのが普通だ。その仕組みはライドシェアに留まらず、Amazonのようなオンライン通販サービスを利用していれば理解できるだろう。

ところが、此度のAIタクシーのアカウントページでは、決済用カードの情報を変更する項目そのものがない。もし再発行等でカード番号が変わってしまったら、一体どうすればいいのか?

それに関して、筆者はコールセンターに問い合わせた。が、そのコールセンターも問題である。というのも、080から始まる携帯電話番号なのだ。「センター」などというものではない。

「別のクレジットカードを登録する場合は、新しいアカウントを作っていただく必要があります」

このようなコールセンターからの回答であるが、いくら実証実験とはいえユーザーの利便性を無視しているとしか思えないプラットフォーム設計である。

◆「今、どこにいますか?」ができない

さらにこのAIタクシーの利便性を損ねているのが、タクシー運転手との連絡手段である。

ライドシェアサービスは、そのプラットフォーム上に利用者と運転手が連絡し合える機能を備えている。平たく言えば、LINEのようなチャット機能だ。それで不足が生じる場合は、運転手が利用者に対して(またはその逆も)直接電話をかける。このあたり、宅配便と同じようなものだ。

だが、静岡市のAIタクシーにそのような機能はまったくない。利用者が地図上で指定した乗車地点と実際のそれとではどうしても微妙な差異が出てしまい、運転手が利用者を見つけられないということが少なからずある。その場合の「今、どこにいますか?」という連絡が一切できないのだ。

双方間の細かいコミュニケーションができなければ、そもそもオンライン配車など成立しない。この問題についてもコールセンターに質問した。すると回答は、

「その場合はコールセンターに連絡をしていただければ、こちらから運転手にお伝えします」

ということだった。要は伝言ゲームである。このあたりの不備、というよりも欠陥について、関係者は誰も疑問に思わなかったのだろうか?

◆不親切な業務用プラットフォームに怒りの声

現場のタクシー運転手からも不満が噴出している。それは「業務用プラットフォームが見づらい」という問題だ。

「タブレット端末に表示されたAIタクシー用のオンラインプラットフォームですが、我々が普段使っているカーナビより地図が大まかで、現在位置を指す表示のタイムラグもかなり長い。これは本当に見づらいですよ。タブレット自体の能力も、たとえば周囲の明るさに従って光量を自動調節してくれる機能がありません」

プラットフォームのデザイン設計に問題がある、というのは筆者も利用者の立場から感じた。

水色の円は筆者の現在地、そのすぐ脇の、手を挙げる人のアイコンは乗車地点、そこから下方に位置する車のアイコンは乗車予定車両の現在地。なぜ、「手を挙げる人」と「車」のアイコンを同色にするのかという疑問が筆者にはある。オンライン配車に慣れていない人がこれを見たら、「車のアイコンの位置までこちらが歩かなければならない」と誤解してしまうのではないか?

いずれにせよ、静岡市内のタクシー運転手は相当な苦労を強いられていると筆者は察する。車載のカーナビよりも明らかに性能が劣る7インチタブレットで、洗練されていないデザイン設計のアプリを操作しなければならない。しかもAIタクシーの実証実験に向けた事前研修は、たった1日行われただけだったという。

◆タクシー会社の創意工夫

このように、静岡市のAI相乗りタクシーはお世辞にも「実用的」と呼べるようなものではない。だが、この実証実験に参画している各タクシー会社の努力、利用者に対するサービスには目を見張るものがあった。とくに、静岡市の特産物をイメージした不二タクシー株式会社の「お茶タク」は見栄えもよく、乗っていて心地がいい。

降車前に、お茶タクの運転手がお土産をくれた。来年のカレンダーと緑茶のティーパック。このような感じの地域物産を取り入れた車内サービスは、市内在住者だけでなく外国人観光客にとっても嬉しいものではないか。

しかし、その点はあくまでも「不二タクシーの努力」であって「しずおかMaaSの努力」ではない。タクシー会社と現場の運転手は120%の工夫を凝らしているが、現状のプラットフォーム設計がその足を引っ張っているのだ。

◆まずは広報活動を!

静岡市は『しずおかMaaS』とAI相乗りタクシーの事業化を推し進めている。先述のように、これは田辺市長の公約でもある。

しかし、このプロジェクトを牽引しているはずの静岡市交通政策課は、誰かひとりでも海外でライドシェアサービスを体験したことがあるのだろうか? 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉がある。ライドシェアサービスに対抗する気があるのなら、まずはそのライドシェアサービスの利便性を知らなければならない。もし誰かが「敵」について知っていれば、「クレジットカードを変更できない」「利用者と運転手との直接連絡ができない」などという信じ難い欠陥は生じないはずだ。

モニターの数が少ない、というのも非常に大きな問題である。これは相乗りタクシーの実験だから、1台のタクシーへひっきりなしに利用者が乗ってくれなければ実験そのものの意味がない。

11月2日から4日にかけた3連休、静岡市では『大道芸ワールドカップ』が開催されていた。この機会にAI相乗りタクシーはPRを実施することができたはずだ。それをまったくやっていなかった、というわけではないだろうが、せっかくの機会を殆ど活かせなかったと書かざるを得ない。

それを考慮せずとも、静岡市出身の有名人は数多い。この土地を舞台にした国民的アニメも、Jリーグ創設以来の老舗サッカーチームもある。静岡市は強力なタイアップパートナーに恵まれた都市である。田辺市長と静岡市は、これを機にまずはしずおかMaaSの市民への周知及び広報に全力を注いでいただきたい。<取材・文/澤田真一>

【澤田真一】

ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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