NODA・MAP『Q』出演中の橋本さとし「僕が生きる場所は、やっぱり演劇の世界だと気づかされました」~東京帰還公演を目前にインタビュー

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ロックバンド「クイーン」の代表作『オペラ座の夜(A Night at the Opera)』の全楽曲を用いるということで、音楽ファンからも大きな注目を集めている、NODA・MAPの新作『Q』:A Night at the Kabuki。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の後日譚を、日本の源平合戦の時代を舞台に描いた本作は、『ボヘミアン・ラプソディ』を始めとする数々の名曲によって、純粋な愛と過酷な現実の間で抗う人々の運命が、より劇的に浮かび上がる作品となっている。

この舞台を彩る豪華キャストの中の一人・橋本さとしは、これがNODA・MAP初参加。最近はミュージカルの舞台の出演が大半だったが、今年は古巣である「劇団☆新感線」にNODA・MAPと、自らのルーツである小劇場演劇の原点に戻る作品が続く。その心境や『Q』の創作過程、自ら「ギミック俳優」と笑い飛ばす今回の役柄などについて語ってくれた。

■野田秀樹とカンパニーの、大きなオモチャになってます。

──10月8日に初日を迎え、今(取材時点)は大阪公演の真っ最中です。現在の心境はいかがでしょう?

役者人生の中で、本当に貴重な時間をいただいてるなあって思います。僕、やっと野田秀樹さんの舞台に出られましたから。野田さんの舞台は「(夢の)遊眠社」時代から観ていて、すごく遠い存在だと思ってたけど、「NODA・MAP」になってから(当時同じ劇団の)羽野(晶紀)とか古田(新太)さんが出だしたので、可能性がないことはないなあと思ってたんです。時間はかかりましたけどね。

──30年のキャリアを経て、やっと。

でも実は野田さんとは、一度[サンシャイン劇場]の男子トイレでお話したことがあるんです。野田さんが横に並んだ時に、僕を見上げて「君ってこんな大きかったっけ? もっと小さいかと思った」と話しかけてきたので「それってもしかして、僕の演技が小さいってことですかね?」って、冗談っぽく答えたんですよ。そしたら野田さんがニコッと笑いながら「……そうかもね!」って(一同笑)。初めて会って、すげえグサっと刺さったけど、僕の演劇人生の、忘れられないワンシーンです。だから今回ワークショップにお声がけいただいた時は「やっと自分の演技を直に見ていただける機会だ!」って。
NODA・MAP『Q』: A Night At The Kabuki より。 【撮影】福岡諒祠
NODA・MAP『Q』: A Night At The Kabuki より。 【撮影】福岡諒祠

──あの頃から確実に、演技も大きくなってるはずの俺を見てくれ、みたいな。

本当に「ぜひチャレンジさせてください!」って気持ちでした。というのもその頃はちょうど、自分が演劇に飢えてたというのもあって。もちろんミュージカルも演技は大事ですけど、感情の高ぶりを歌で表現するのと、台詞と演技のみで表現するのって、やっぱり大きく違うんですね。ミュージカルの良さや難しさも、いろいろ体験させていただいたからこそ、ここでちゃんとストレートなお芝居に、演技に立ち返りたいなあと思っていたんです。しかも音楽がクイーンだと聞いて、ロック少年だった僕としては「すげえな、ぜひその舞台に立ってみたい」と思ったので、出演が決まった時は本当に嬉しかったですね。ただ稽古が始まってみると、僕は野田秀樹の大きなオモチャになってました(笑)。

──確かに今回演じる四役は、出落ちギリギリなお遊び感が満載のキャラばかりですよね。

稽古中はとにかくいろんなパターン、いろんな演技をやってみたんですけど、野田さんはずっとそれをニコニコしながら、止めることなく見てるんですよ。最初の方は「僕はこういう役者です」というのを見せたいこともあって、だいぶ張り切ってたんですけど、だんだん「え、もっとやらないとダメですか?」みたいな気持ちになってきて。カンパニーの中でも「さとしさん、今日は何をするかな?」という雰囲気がただよって……今思うと、あれは野田さんの放置プレイでしたね(笑)。

今や野田さんだけでなく、みんなのオモチャになってます。僕は本番中でも、いつもと違うことをコソッとやったりするんですけど、みんなそれをすごく喜んでくれるんですよ。もちろん芝居を壊さない範囲ですけど、それがカンパニーの温度をグッと上げたり、新発見につながったりする。そういうのも、ちゃんとみんなが拾ってくれるのがありがたいですね。本当に居心地がいい、いい風が吹いてるカンパニーです。
橋本さとし。
橋本さとし。

■「演劇ってこんなにオモロイ」というのを見せる役割に。

──竹中直人さんのような大ベテランから、広瀬すずさんのような初舞台の20代まで。年齢もキャリアもかなり振り幅がありますが、舞台ではすごく一体感のある座組でした。

そうですね。特に広瀬さんや志尊(淳)君に、もちろんアンサンブルの皆さんのような、体力も精神力もある若い人たちと一緒にやらせてもらえるのは、すごく刺激になります。すずちゃんなんか、とても初舞台とは思えないですよね。映像と舞台は、声の通りとかさじ加減が全然違うのに……僕はすずちゃんとは、朝ドラ(『なつぞら』)で共演させていただいた縁もあって、稽古の最初の方で「舞台と映像って、やっぱりスイッチ切り替えますか? どう切り替えたらいいんでしょう?」って、質問されたんですよ。そこで僕がしばらく考えてから言ったのが「大きい声を出せばいいんじゃないかな?」(一同笑)。

──舞台のキャリア30年のベテランとは思えないような回答を。

「とにかくデカい声を出せ!」みたいな環境に、ずっといましたからねえ。すずちゃんは稽古中に、どんどん舞台仕様の演技に変化していって、それを直で見れたのはやっぱりすごかったです。ただそれはきっと野田さんの言葉のおかげで、僕の言葉が参考になったわけじゃないと思います(笑)。そんな若手たちの演技を、上川(隆也)さんや松(たか子)さんがまっすぐに受けて立つ姿を見てると「じゃあ、俺は遊んでやろう」ってなるんですよね。

──主役たちがしっかりしていれば、周りは多少オモチャと化してもいいやって。

そうですそうです。ストーリーはそちらに任せて、僕はその周りで「演劇ってこんなにオモロイねんで」っていうのを、いろんな形で見せようじゃないか……という役割です。
橋本さとし。
橋本さとし。

──その中でも特にインパクトのある登場シーンの写真が、クイーンの公式サイトに掲載されましたね。

「あのアルバムを使って、一体何を作ってるんだ?」と思われたかもしれませんね(笑)。でもそれはもう、野田さんの発想に僕は乗っけていただいた所があります。僕は演出家に自分の我を通すほど、自分に自信があるわけじゃないんで、作家や演出家が「さとし、これを伝えてくれ」と思っていることを、自分なりに一生懸命見つけたい。特に野田さんの世界観は、表があって必ず裏に深い意味があったりするので。それを僕なりに読み解きながら、野田さんが作家として伝えようとしたもの、演出家として現そうとしたもの……野田さんの色っていうんですかね? そこに素直に準じて、自分も一つの色になるというのが、本当に第一優先でした。

──それぞれ全然違うキャラのように見えますが、どれも父親や権力者のダメな面を現すのと同時に、物語を別のターンに誘導するトリックスター的な役割もあったと感じました。

あ、それは僕にとって光栄なことですね。自分が意識しなくても「橋本さとしがやればこうなる」というものに、やっぱりなると思うんです。僕、憑依型でも何でもないんで。多分野田さんが、僕をワークショップで選んで、この役をくださった時点で、そういう計算があったんでしょうね。お殿様をやっても「何かオチがありそう」みたいな(笑)、うさん臭い感じになるだろうと。うさん臭さって、僕の持ってる一つの要素なのかもしれないです。
橋本さとし。
橋本さとし。

■元ロック少年として、いろんなロックテイストを含ませてます。

──その中の一人の法王は『ロミオとジュリエット』のロレンス神父的な立ち位置ですが、橋本さんは以前ロレンスを演じたことがありましたよね。

ありましたね。(脚本に)シェイクスピアの台詞がところどころ散りばめられてるので「この台詞、昔言ったなあ」と思います。ロレンスって、シェイクスピア作品の中で一番好きなキャラクターなんですよ、僕。若い人に何かきっかけを与えようとする役ですけど、この年になるとそういう役割が楽しくなってくるんで。シェイクスピアの方のロレンスは、時代や若者の意識を必死に変えようとした結果、悲劇を生み出してしまう人ですけど、法王は結構無責任です。結婚式とか、超適当ですからね。何の祝福か全然わからない(笑)。

──クイーンの曲の使われ方は、一ロックファンとしていかがですか?

あの世界的に有名な楽曲が、あたかもこの芝居のために作られたかのように、自然に重なってくるんですよ。フレディ・マーキュリーの声と、ブライアン・メイとロジャー・テイラーとジョン・ディーコンの奏でる音色が、ちゃんと野田さんの世界に入り込んでいる。楽曲だけでなく、鹿の鳴き声がブライアン・メイのギターだとか、花火の音がロジャーのバスドラだったりとか。クイーンの曲を、こんなに切り貼りしていいのか? っていうぐらい、いろんな所に音が使われていて、すごく贅沢だなあと思います。
NODA・MAP『Q』: A Night At The Kabuki より。 【撮影】福岡諒祠
NODA・MAP『Q』: A Night At The Kabuki より。 【撮影】福岡諒祠

──ちなみに二幕で演じる二役は、どちらも同じカツラを使用してますが、あの髪型ってもしかしてブライアン・メイを意識したものですか?

そうです。柘植(伊佐夫/美粧スタッフ)さんが、ブライアン・メイのオマージュとなるような造形をされました。ちょっと膨らませすぎて、ダイアナ・ロスとか言われてますけど(笑)。ただ虚仮威(こけおどし)の(役の)方は、場当たりの段階では髪がくくられてたんです。物語のキーポイントとなる役なので「もっとインパクトが欲しいなあ」と思って、自分で解いたんですよ。そしたら「それぐらいやった方がいい」ってことになりました。

やっぱりクイーンが絡んでるということで、自分が聞いて育ったロックというものが、演じる上で大切なキーワードになってます。ジーン・シモンズを意識してるシーンもありますし、いろんなロックテイストを、いろんな所に含ませてるんです。二幕ではブライアン・メイの大音響のギターをバックに登場しますし、それって元ロック少年としてはシビれますよ。

──ロックファンの夢ですよね。

ねえ。まあ、あんな登場の仕方をするとは、まさかの展開でしたけど(笑)。
橋本さとし。
橋本さとし。

■がむしゃらな「小劇場魂」を持ってた頃に立ち返る。

──とはいえ、シェイクスピアもクイーンもあって、しかも歌舞伎のエッセンスもありと、かなりいろんな要素を盛り込んでいるのに、破綻せずに一つの世界になってるというのが、この『Q』の一番の見どころだと思います。

そうですよね。しかもそこに、日本の歴史のいろんなことまで重なるし。ある意味カオスだけど、それが野田さんの中で一本筋の通った話になっている。ロミオとジュリエットが、自分たちの運命を変えようとするというファンタジックな話ではありますけど、そこには時空を越えた不滅の愛というものが、一貫してあるんです。

究極の状況の中で愛を貫こうとする姿、その周りで翻弄される人々の姿、そして戦いが終わった後の愛の姿みたいなもの。すごくヘヴィなテーマを抱えてる反面、どこかコミカルな所もあって、硬さと柔らかさを織り交ぜながら、それを描いてるんです。僕が観客だったら目のやり場に困るぐらい、どの角度から見ても楽しめるし、どこを切ってもスキがない舞台だなあと。宣伝みたいになっちゃうけど……あ、これ宣伝(の取材)か(笑)。少しでも興味がある人は、絶対観た方がいいと思います。

──難があるとしたら「チケットが取りにくい」ということぐらい。

それはもう「あきらめないでください」と言わせていただきたいですね。NODA・MAPは当日券必ず出しますし、「チケットが取れない」と思い込んで観ずにいるのは、すごくもったいないと思います、この舞台は。
橋本さとし。
橋本さとし。

──この後は、劇団☆新感線『偽義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)』の第二期公演が控えてますが、実は『Q』とちょっと世界観と役柄が重なる所がありますね。

源平合戦の時代だし、殿様とか父親という役割も似てますね。しかも自分の古巣の劇団の公演の間に、NODA・MAPがあるという(注:『偽義経』第一期は今年上半期に上演済)。どちらも大規模だし、クオリティも高いけど、やっぱり根底にある小劇場魂は変わってないんです。僕らは小劇場の劇団で育った役者だし、その魂を今年再確認させていただけてるなあと。若き日のあの頃、身体を張ってがむしゃらに演劇というものを求めていた自分に、この年になって立ち返れたような気がしています。

──そのがむしゃらさが「小劇場魂」。

そうですね。もうがむしゃらさしかなかったですもん。ただあの時は「痛い」とかまったく感じなかったけど、今はふくらはぎが痛いとか、腰ヤバいとか(笑)。やっぱり身体は大事にしながら、あの頃のイケイケな気持ちを大事にしていかないとなあ。というのと、やっぱり演劇って難しくて楽しいなって思いました。

──確かに野田さんの芝居は、それをすごく感じますよね。頭では完全に理解はできなくても、感情とか感覚では理屈抜きにワクワクできるという。

すごいですよね。野田さんがどういう思いで、どういう状態であんな世界を描かれるのかって、僕には想像できないですよ。その世界をまざまざと見せられて、演劇の難しさと楽しさを改めて感じさせてもらいました。と同時に、僕が生きる場所はやっぱり演劇の世界なんだなあと、野田さんに……言葉ではないんですけど、一方的に教えてもらったし、気づかせてもらえました。今は尊敬できる作家・演出家というだけでなく、一緒に遊んでくれる兄貴のようにも思ってます。ときどき、「このクソガキ!」って思う時もありますけどね(一同笑)。
橋本さとし。
橋本さとし。

取材・文=吉永美和子

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