藤井フミヤのデビュー作『エンジェル』にソロシンガーとしてのビギニングを見出す

OKMusic

2019/10/30 18:00

7月にアルバム『絶対チェッカーズ!!』を取り上げたばかりだが、11月2日(土)の仙台PIT公演を皮切りに、ソロになってからは初めてだというライヴハウスツアーが開催されるとあって、今回は藤井フミヤのデビューアルバムを取り上げたい。ライヴハウスはほとんどのライヴミュージシャンにとっての原点と言える場所であろうが、デビュー作品というのもアーティストにとっては原点であることは間違いない。今週はそんなお話。

■デビュー作にはすべてがある

“デビュー作にはそのアーティストの全てがある”とはよく聞く話で、アルバム毎に音楽性を変化させたと指摘されるThe BeatlesにしてもDavid Bowieにしてもそれは当てはまるようだ。The Beatlesの『Please Please Me』は当時彼らが傾倒していたR&Bの要素を巧みに入れ込んでいる様子が分かる他、すでにメンバー4人がメインヴォーカルを務めた楽曲が収録されているなど、中期~後期の片鱗を見ることができる。David Bowieのデビュー作、その名も『David Bowie』は、当時セールスが芳しくなく、ファン以外には話題にも上がらない地味なアルバムと言われているが、歌詞の持つコンセプチュアルな世界観は、『Space Oddity』や『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』といったのちの名盤と通底する。邦楽ではRCサクセションの例が分かりやすいだろうか。当時のメンバーは忌野清志郎、小林和生、破廉ケンチの3人で、外野からはフォークトリオ的なの見られ方をしていたと思われるが、そのデビュー盤『初期のRCサクセション』(タイトルが秀逸!)にはソウル要素もしっかりあるし、清志郎らしい反骨心は楽曲タイトルにも溢れ出ている。

バンドから離れてソロ活動に転じた時のデビューアルバムとなると、さらにそのアーティストの方向性が明確に出ると思う。それもまたThe Beatlesを例に取るのが分かりやすいだろう。John Lennonは自らの人間性を露呈し、Paul McCartneyはメロディーメーカーとしての職人的資質を推し進めたと言われている。日本ではCAROL解散後の矢沢永吉に同様の現象を見ることができる。矢沢はバンド解散と同年の1975年に1stアルバム『I LOVE YOU,OK』を発表しているが、[キャロルを否定するような曲構成にファーストツアーでの評判は散々で、"キャロルの矢沢"を期待するファンが一気に離れた]という([]はWikipediaからの引用)。だが──そこは矢沢自身の大いなる努力があって現在のポジションを確立してきたからではあろうが──今、一般的な矢沢永吉のイメージは、CAROLよりも「I LOVE YOU,OK」の方に近いはずだ。元BOØWYの氷室京介と布袋寅泰とのソロデビュー作品も同じことが言えると思う。氷室の『FLOWERS for ALGERNON』、布袋の『GUITARHYTHM』は、各々バンドとは異なるサウンドを示したところでその方向性には近いものを見出せるものの、両アルバムのシリアスさとポップさとのバランスは明らかに異なっており、今思っても現在のふたりのアーティスト性を暗示していたように感じる。

藤井フミヤの場合も同じである。彼が所属していたバンド、チェッカーズはメンバー自身がアイドルバンドであったことを否定していなかったので、そもそもバンドとソロとでは明らかに方向性が異なってはいるのだが、チェッカーズ解散後のソロデビューアルバム『エンジェル』にはアーティスト、藤井フミヤの意志がしっかりと貫かれているように思う。以下、いくつかの側面からその点を探ってみた。

■サウンドの変化と多彩な作家陣

まず、バンドを離れてソロデビューしたアーティストであればそのほとんどがそうであるように、『エンジェル』にもサウンド面での変化があるようだ(“ようだ”というのはチェッカーズ、藤井フミヤ共に全楽曲を聴き比べているわけでなく、それらを大掴みにしているからで、その辺りはどうかご容赦いただきたい)。明らかな違いはサックスとドゥーワップ的なコーラスがないことであるけれども、それ以上に──バンドっぽくないというか、レコーディングならではの音作りと言える楽曲が散見できる。オープニングであるM1「BIRTH」とエンディングのM10「エンジェル」で聴こえる鼓動やSF的な電子音はもちろんのこと、M3「609」やM5「白い太陽」、M8「落陽」でのサイケデリックロックな音作りがそれである。「Strawberry Fields Forever」風のメロトロン(たぶん)の音であったり、「A Day in the Life」を彷彿とさせるオーケストレーションは、The Beatlesオマージュをそれと分かるようにあしらっているようだ。

また、彼がCAROLに傾倒してバンドを始めたのは有名な話で、2003年には全編CAROLのカバーで構成した『MY CAROL』を発表したほど。The Beatlesも矢沢永吉が憧れた存在として認識し、『With the Beatles』を買ったと聞く(ちなみに『With the Beatles』が、彼が初めて買った洋楽レコードだったそうである)。チェッカーズではリーダーだった武内享がThe Beatlesフリークとして知られていたけれども、(『With the Beatles』と『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』とでは前期と中期との隔たりはあるものの)藤井フミヤにもその影響があったことは疑うまでもなく、本格的なソロデビューにあたって躊躇なくそれらを露呈してきたのであろう。さらに言えば、単なるオマージュではなく、M3「609」であれば、それらのサウンドを渋めのR&Rに併せてそこに電子音も注入したり、M5「白い太陽」ではノイジーなギターサウンドに融合させたりと、懐古的に終わらせなかったのは彼の面目躍如たるところと言えると思う。ドラムレスでギター、ベースに弦楽器と管楽器とが加わった演奏陣で行なった『藤井フミヤ 35周年記念公演 “十音楽団”』や、世界的指揮者である西本智実の指揮の下でのオーケストラと共演する(来年1月に『billboard classics PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2020 藤井フミヤ meets 西本智実』を開催!)など、所謂バンドサウンドに留まることなく、現在もさまざな音楽との融合を試みている彼だが、アルバム『エンジェル』で垣間見ることができるその取り組みを思えば、今の彼の動きにも納得できる。

もう一点、本作の誰の目にも分かる特徴は作曲陣の多彩さであろう。それによって『エンジェル』はバラエティー豊かなメロディーが揃う作品に仕上がり、“ヴォーカリスト・藤井フミヤ”の存在感を示すアルバムになっていると言える。実弟でありバンド時代からの盟友と言えるNAO=藤井尚之以外には、Char(M3「609 」)、桜井和寿(M4「女神 (エロス)」)、 藤原ヒロシ(M5「白い太陽」)、KUDO(M6「告白」)、土屋昌巳(M7「堕天使」)、小倉博和(M10「エンジェル」)らが参加。チェッカーズ時代から考えると意外とも思える面子が集っている。

今回聴いて素直に面白いと感じたのは、案外フミヤ以外の作曲者によるナンバーは、チェッカーズ時代からを踏襲…と言うと語弊があるけれども、多くの人がイメージするであろうフミヤらしい音域と音階であり、その逆に、本人作曲のものはそれまでの(1994年頃までの)フミヤっぽくないヴォーカリゼーションではないだろうかということ。彼の歌声はある音域から“ヤンチャな声”になるような感じがあって、その声が康珍化や売野雅勇が作った、いい意味でステロタイプの歌詞との相性がかなり良く、初期チェッカーズが広く老若男女に愛された要因にはそれも大きいと個人的には思っている。M4「女神 (エロス)」やM7「堕天使」、M10「エンジェル」ではサビでその音域を聴くことができる。その一方で、本人作曲のM2「BODY」では、ショーケン=萩原健一を思い起こさせるようなワイルドでフリーキーな歌いっぷりを披露しており、あえて“らしさ”を取っ払っているように思える。それは彼の最大ヒットシングルであるM9「TRUE LOVE」にしてもそう見える。今や平成を代表する一曲と言える同楽曲だが、冷静に聴いてみると、その“ヤンチャな声”の音域はことさらに強調されていないことに気付く。こういう言い方で合っているのかどうか分からないけれど、必要以上に歌い上げていないのである。「TRUE LOVE」は自身初の作曲ナンバーだという。しかも、本格ソロ活動スタートの第一弾シングルであったわけで(さらにはドラマ主題歌というタイアップもあった)、そこにはその他の楽曲以上に、シンガーとしての新たなる決意があったことは想像するに難くない。気張って歌唱するタイプではなく、かと言って、1番でのサビのファルセットが示すように、決してお気楽なメロディーではない「TRUE LOVE」にはソロシンガー、藤井フミヤのスタンスが過不足なく詰め込まれていたのであろう。ちなみに、彼はのちに、さまざまなアーティストとコラボした、『F's KITCHEN』(2008年)と『F's シネマ』(2009年)という2枚のアルバムを発表しているのだが、『エンジェル』で示した多彩な作家陣との共演は、そのひな形、プロトタイプだったとの見方もできる。ここにも“デビューアルバムならでは…と言える要素がある。

■さすがに手練れた世界観の構築

歌詞から見出せるもの──作品コンセプトと言い換えてもいいかもしれないものは、さすがにバンドを経てのソロデビューなだけに、ポッと出の新人には間違いなく出せないであろう手練れた印象がある。

《暖かな液体の中 真っ暗な小さな世界/目を覚ますと 僕は ここにいた》《何かが起こり始めている 何かが終わり始めている/カプセルが揺れてる カプセルが開いてゆくよ/もしかして僕は生まれる もしかしたら僕は生まれる》《あれは遠い遠い遠い記憶/あれは誰か誰か誰かの涙/きっとその人に逢うために/きっとその人に巡り逢うために》《どんな時代を選んだのさ/どんな場所を選んだのさ/もう一度僕は生まれる/さよなら すべての SAVE MEMORY》(M1「BIRTH」)。

《覚えてるかい この物語/一人ぼっちの 天使の話さ》《ここにいておくれ この腕の中/はてしないSTORY思い出すよこれから》《こぼれ落ちた 涙の上にそっと船を浮かべ/眠るように 寄り添うのさ ふたりは》《YOU 夜明けが近い YOU すべてが始まるYOU 走り出すのさ FREE 光の上を》《YOU 翼が見える YOU 無くした翼が/YOU はばたくのさ今 FREE 光の中へ》(M10「エンジェル」)

本作はM1「BIRTH」で始まってM10「エンジェル」で締め括られる。M10の後半では再び《暖かな液体の中 真っ暗な小さな世界/目を覚ますと 僕は ここにいた》というフレーズが出て来るので、M1で幕を開けた物語がさまざまな場面を経て、再び最初に戻るという所謂“円環構造”を持っている。さらには──穿った見方かもしれないが、「BIRTH」「エンジェル」ともにチェッカーズ「Blue Moon Stone」を彷彿させるような内容でもあって、“お見事!”と思わずうなってしまった。まぁ、この辺りは彼もそれほど意識していなかったのかもしれないけれど、意識しなかったとするならば、それは藤井フミヤらしい作風と言うこともでき、これまたデビューアルバムに相応しい要素なのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『エンジェル』

1994年発表作品

\n<収録曲>
1.BIRTH
2.BODY
3.609
4.女神 (エロス)
5.白い太陽
6.告白
7.堕天使
8.落陽
9.TRUE LOVE
10.エンジェル

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