渡辺謙、俳優歴のエポックともなった舞台への思いとは 演出のウィル・タケットと共に語る、新生PARCO劇場のオープニングを飾る『ピサロ』

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2020年3月にいよいよスタートする新生PARCO劇場のオープニング・シリーズ、その第1弾はピーター・シェーファー作の壮大な歴史劇『ピサロ』だ。そもそも1985年、まさにPARCO劇場にて山崎努主演で上演されていたこの舞台に、まだ無名だった渡辺謙は若きインカ王・アタワルパ役に抜擢され、注目を浴びた。その渡辺謙が自らの俳優歴のエポックともなった記念すべき舞台に、今回はピサロ役で再挑戦する。演出は、ロイヤルバレエのメンバーにして振付家としても活躍し、ローレンス・オリヴィエ賞のベスト・エンターテインメント賞の受賞歴も持つウィル・タケットが手がける。果たしてどんな舞台になりそうか、この日が初対面だったという渡辺謙ウィル・タケットに話を聞いた。

ーー今回、このタイミングで『ピサロ』に出演しようと思われた、一番の決め手はなんでしたか。

渡辺:これはあとで宮沢氷魚(今回アタワルパ王役で出演)くんにも言おうと思っていることなんですけど。難題を吹っかけてくるプロデューサーほど大事にしたほうがいい、ってことなんです(笑)。35年前に、僕が世に出るきっかけになった、自分にとって大きなエポックとなった作品が『ピサロ』で。その時に演じたアタワルパではなく逆サイドの人物であるピサロ役をやってみないかと、そのプロデューサーから話があった時、ロジカルではなく単純にそれは面白いなと思ったんです。もちろん話の大まかなところは覚えていますが、細かいところは忘れているので改めて脚本を読み直してみたら、自分がこの年齢だからこそ感じ取れることもあり、物語自体にも、このピサロという役にも共鳴する部分がたくさんあったんです。だから、この機会に一周まわってもう一度自分の原点に戻れるような、そういう舞台になるんじゃないかという気がしました。僕の中にはいまだに鮮明に山崎努さんが演じていたピサロが体感的に残ってはいますけれども、それを超えるとか超えないとか、または全然違うことをやろうというのではなくて。21世紀になり自分も齢を重ね、改めて感じられたこの作品全体のテーマを現代のお客様にどうやって伝えるか。それをこれから彼(タケット)と一緒に探していく時間になります。そしてそれは、僕にとって相当有意義な時間になるだろうと思っています。
渡辺謙
渡辺謙

ーータケットさんは、今回この『ピサロ』を渡辺謙さん主演でというお話が来た時はどう思われましたか。

タケット:こうして真横で語るのもなんですが(笑)、彼の出演している作品はとても素敵だと思っていて。いつも崇拝するような気持ちで観させていただいていますし、いちファンでもありますので、今回初めてご一緒できることに興奮しています。逆に興奮しない人がいるだろうかと思うくらいです(笑)。そしてこの作品自体も、実に面白みのあるものでして。特に今回は渡辺さんが役を変えて違う視点でもう一度挑戦していただくという意味でも、かなり面白いことになるのではないかなと思っています。ピサロというキャラクターは多岐にわたる、非常に複雑な人物像であるので、彼がどんな人間なのかということを、これからの稽古で時間をかけて見つけていきたいと思っています。ピサロとは誰なのかという人探しにもなりますから、稽古ではいろいろ大変なこともあるかと思います。でも渡辺さんなら絶対に大丈夫だと確信していますので、私自身も非常に楽しみです。
ウィル・タケット
ウィル・タケット

ーー今回、改めて台本を読み直したら感じるところがあったとのことですが、それはたとえばどんなことでしたか。

渡辺:自分自身もそうなんですが、ある程度人生のピークというか、既になにがしかを成し遂げている場合、その先に自分には何があるんだろう、どこを目指せばいいのだろうということを考えると思うんです。ピサロ自身も明確な目標や目的を持って、この物語の中で最後の旅をしたわけではないと思うんです。それが一体何なのかということを探し求めた先が、インカだったのではないかということ。だからそこで彼が本当に見つけたいものはなんだったのか、もしかしたら何か見つけられたのか。カッコよく言っちゃうと、毎日ピサロとしてそれを探して、毎日それを見つけるのか失うのか。リハーサルでも、そして幕が開いてからも、ずっと毎日それを探していく旅をするべきなのかなという風に、今は思っています。
渡辺謙
渡辺謙

タケット:実はさっきも二人で話をしていたのですが、そのピサロの旅路というのは心理的にも興味深いです。彼がそこで最後で見つけるもの、王と出会ってから気づかされるもの。ピサロの心理的な原動力というのは一体どこから来るのだろう。だって直前の戦で受けた矢が刺さったままだったりもして、苦労をしてきたばかりのはずなのに、なぜまた旅に出て苦労をするのか。おそらく彼の中にはまだこの先に何かあるはずだと、そう思っているからこそ前に進もうという気持ちが働くんだと思うんです。ピサロというのはすごくマグネティック、磁力があり、人々を惹きつける力がとてもある人物だと思うんです。それは、彼には強い意志があるから。それがピサロというこの人物をカリスマ的な存在に思わせているんです。さらに、ピサロはとても男らしくて力強い感じがあり、それもまた人を惹きつける要素になっている。彼自身の中でも、相反する気持ちというものはあると思うんです。彼自身も結局スペインにいた頃はただの兵士だったし。それが旅路を経ていくうちに、ただの兵士ではなくなっていくわけで。そんな男を、これからどうやって探っていくかについては稽古場で今後、どうするかということになりますね。

ーー渡辺さんは公式のコメントで「この作品には我々人類が繰り返している異文化の衝突が描かれている」とおっしゃっています。今、国家間の対立が深まっているこの情勢の中で、この『ピサロ』を上演することで、どのようなことが観客に伝わると思われていますか。

渡辺:言ってみれば海外で仕事するようになってからのほとんどの仕事が、それをベースにしているようなものです。逆に言うと、違う国の人や違う国の話をするという、それだけでもある種の異文化を自分の中でどう取り入れるかという問題が必ずあるわけで。ただ、この『ピサロ』に関して言うと異文化の問題だけではなく、違う信仰というか、自分が信じるものとは違うものをどう受け止めるか、またはどうそれに叩きのめされるのか、みたいなことだと思うんです。だから今現在の社会情勢のことというよりはもっとパーソナルな、人対人という意味で、自分とは違う人間に対してそれをどう受け入れたり、反発し合ったりということを描いていそうな気がしています。
渡辺謙
渡辺謙

タケット:私も、まったく同感です(笑)。信仰に関しても何を良かれとするか、たとえばお金、ゴールド、富、だけが欲しいのか。それはそれでシンプルな願いですよね。そういう意味ではインカは違うところに欲しいものがあったわけです、たまたまお金も富もありましたけれど。じゃあスペインはというと、スペインにはカトリックの信仰があり、彼らの欲するものは複雑なのでインカとはまた違う。ただそこが違うだけだと言って終わってしまうとただのシンプルな話になってしまいますが、ここに登場するキャラクターたちが、もっと個人ベースで関わっていくとさらに細かく複雑な関係になっていきます。その人たちがどうなっていくのか、その複雑なやりとりの中に当然ピサロもいるわけで、彼の心情も時として行ったり来たりする。そのさまがどうなるかということと、そこに政治的なものとの出会いというか、もっとパーソナルな個人的なレベルの出会いも一緒になるともっと複雑になりますし。僕自身はその当時でも、今の時代でも、とても興味深いことだなと思っています。そして自分自身もありがたいことに世界中でお仕事をさせていただく機会に恵まれていまして、特にこの30年間で感じていることは、世界がどんどん狭くなってきている気がすること。そんな中でこうしていろいろな人たちとお会いする機会があって、表面的にコーヒーを飲みながらおしゃべりをすることもできますが、いざ、こういう作品を作るとなると、稽古場に入れば“ただのおしゃべり”では済まなくなるわけです。もっともっと深い中で、なおかつ何かに向かって、作り上げていくという深いプロセスにこれから入っていかなければならない。そこでどういう風に馴染んでいくかはまさにこれから、ですね。
ウィル・タケット
ウィル・タケット

ーー劇中では、たとえばインカとの戦闘のシーンやゴールドを部屋に詰めるところなど、見せ場もたくさんありそうです。どんな演出を考えられていますか。

タケット:No……まだ何も言いたくないな(笑)。まあ、作品の中には見せ場が確かにいくつかありますけれど、実は本当にまだお話しできることがないんです。なぜなら、デザイナーと今まさに話し合いをしている真っ最中なので。ただ、アンデス山脈を越えたいなとは思っています。じゃあ舞台上でどうやってアンデス山脈を出す? という問題もありますが、そこは今後の話し合いの展開次第ですね。それとは別に、インカの人々の過ごし方というものを、どのようにしてとらえて伝えるかということもあります。彼らが語る言語、ではなく、彼らの生活様式というか、彼らの在り方というか。自分自身は振付家という経歴がありますので、確かに動きという部分も重視していきますが、全面的に動きを使うものではないと、今は思っています。あとは南米の雰囲気をどのように表現するか。あまり変な感じにはしたくないですが、かといってすべて忠実にやるかどうかは、まだ決めかねているところです。

ーーこれから稽古が始まってからだとは思いますが、現段階ではピサロという人物をどう演じてみたいと思われていますか。

渡辺:ピーター・シェーファーの特色で、『アマデウス』でもそうでしたが、これも誰かの語りで始まる物語なんです。ということは、そこにはひとつフレームが入る。こういうことがありました、という伝聞になるというか。そこに真実はあるかもしれないけれど、事実をそのまますべて伝えているかどうかはわかりません。それは非常に面白いフィルターがかかることになると、僕は思うんです。だからそこで僕らはものすごい飛躍もできるし、なんでも消し去ることもできる。そういう意味では、非常に想像的な脚本なんじゃないかなという気がします。補うところは補って、いらないものは思い切って捨てることも、今後の作業としてやっていけますから。だから今回は「この役をこう作り上げたいんだ」ということではなく、彼がどんな風に語られていくのだろうという感覚なんです。ある意味、劇場の中にもうひとつ映像があるような、そんなマインドで作り込んでいけそう。これって非常に面白いスタイルなんじゃないかなと、今の時点ではそう思っています。
(左から)ウィル・タケット、渡辺謙
(左から)ウィル・タケット、渡辺謙

スタイリスト/馬場順子
ヘアメイク/筒井智美(PSYCHE)

取材・文=田中里津子 撮影=iwa

当記事はSPICEの提供記事です。

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