高校生の間でカジュアルに交換される大麻情報<薬物裁判556日傍聴記>

日刊SPA!

2019/10/12 15:54

 自身が覚えのない容疑での家宅捜査を受けたのをきっかけに(たまたま電話でやり取りした取引先の人間が大麻所持で逮捕され、その電話の履歴に斉藤さんの名前があった)、薬物事案の裁判を556日に渡って傍聴しその法廷劇の全文を書き起こした斉藤総一さんの手記。

今回の被告は、微量の大麻を所持していたのが家宅捜査で発覚し逮捕。被告の年齢は平成生まれの24歳。家族関係もそれほど悪くないようで、証人として法廷に立った父親からも息子に対する愛情を感じられた。思わず「つつがなく進む」と表現したくなるような裁判を読み進めるにつけ、裁判や法廷の持つ意味そのものについて考えさせられてしまった。

***

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

◆「(大麻を所持していて)おったまげた」父の気持ち

最初に、公訴事実から。

検察官「公訴事実。被告人はみだりに平成29年3月21日、被告人方において、大麻である乾燥植物片約0.452gを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、同法24条の2第1項。以上です」

覚せい剤であれば、0.452gでも通常売買される単位でしょうが、大麻であれば、これは超微量と言っていいでしょう。

検察官「ブツである大麻を被告人に示します。これ、あなたの自宅から押収されたもので間違いないですか?」

被告人「はい」

検察官「この中身の大麻は、すべてあなたの物ですか?」

被告人「はい」

検察官「これ今後必要ですか?」

被告人「いや、いらないです」

検察官「はい。以上です」

裁判官「じゃあ、被告人は、元いた席に戻ってください。続いて弁護側の立証として、お父さんの尋問を少々したいということですかね?」

弁護人「はい」

では、ここから証人である父親の言葉を聞きましょう。

弁護人「はい。では、弁護人から聞いていきます。横から質問をしますけれども、前の裁判官の方を向いて答えてください」

証人「はい」

弁護人「あなたは、被告人と、被告人のお兄さんと、奥様と4人で暮らしているんですよね?」

証人「はい」

弁護人「今回その3月21日の、この事件の日に、家に警察官が来て、被告人が大麻を持っていたということが、事件になったということがわかったんですよね?」

証人「はい」

弁護人「その日よりも前に、被告人が大麻を持っているのを見たとか、そういうのを聞いたことはありましたか?」

証人「見たことはありませんし、聞いたこともありません」

弁護人「被告人が大麻を持っていることを知って、どういうふうに思いましたか?」

証人「そうですね。まあ、おったまげたというか、まさかと思いました」

弁護人「逮捕されて警察署にいるときに、面会には行かれましたか?」

証人「はい。1回行きました」

弁護人「ほかのご家族の方も行かれましたか?」

証人「はい。家内も1回行っております」

弁護人「面会のときの被告人の様子は、まあ、奥様から聞いたのも含めて、どういうような様子でしたか?」

証人「家族に迷惑かけて、そういう本人は口には出さないんですけど、その、表情とか、言い回しから感じ取れて、非常に反省しているな。ということは、親としては思いました。はい」

弁護人「この後、本人が社会に戻った時は、一緒に暮らしていく予定ですか?」

証人「はい。そのつもりです」

弁護人「もう二度とね、被告人がこういうことをしないようにしなきゃいけないとは思っていますよね?」

証人「はい。もっとよく息子に関心を持ってですね、一緒に暮らしていて、一緒に出かけたり、一緒に食事をしたりもしていたんですけれども、まあ、それでも、そういう、まあ、普段の生活と全然変わらない状況であったので、まさか大麻を持っていたということは、夢にも思わなかったですね。親としてもっと注意深く見てあげないといけないなと。それで、色々悩み事があったりしたら、よく聞いてあげたりしなければいけないなと。

そういうニュースとかで色々大麻の話題とかも出ますけども、そういうことも、そういう話はよくして、そういうことを家族で話し合っていかなくてはいけないなと思っています」

弁護人「まあ、いろいろとコミュニケーションを取って、監督をしていただけるといことですかね?」

証人「はい」

弁護人「それから被告人の仕事は、お母様の仕事の関係で、仕事をしているということですかね?」

証人「そうですね。母親の知り合いの紹介で、運転手の仕事ですね、をしております」

弁護人「今彼は拘束をされていて、仕事の方については、どのように聞いていますか?」

証人「仕事についてはですね、正直には言っていなくて、ちょっと体調を崩して仕事に出れないというふうに話しておきまして、2週間くらいした後に、休職か退職か、どちらか選んでくださいと、このまま保留には出来ませんと、会社の手続き上ですね。まあ、そう言われまして、休職なら診断書を出さないといけないということで、退職の方の手続きを母親が書いてまいりました。

ただ職場の人が、非常に祐光のことを、とてもよくやっていると思ってくれているみたいで、また元気になったら顔を出してくださいと。まあ、話のニュアンスから、また職場復帰も可能かなと思いましたので、本人が誠意を持って、職場の人に話をすれば、復帰も可能ではないかというふうに思っています」

弁護人「お父さんや家族としては、本人は仕事に復帰して、家族でサポートしながら、もう2度と犯罪に関わることがないようにしていくということですかね?」

証人「そうですね。二度とそういうことをしないようにして、社会人として頑張ってほしいと思います。本人もあの、去年成人式を迎えて、その後免許も取って、働きながら通信制の高校に通っていたんですけれども、やっと、働きながらで大変だったと思うんですけれども、やっと3月に高校を卒業することが出来まして、簿記の勉強もしていたので、2月に簿記3級の資格を取って、本当に真面目に立派な社会人になったなあと思って、私も母親も、とても安心していたので、まあ、逆にこういうことになって、ちょっと面食らったんですけれども、二度とこういうことがないように、頑張れると思いますので、息子を信用して、また、親としてサポートしていきたいと思っています」

◆15歳の時にも児童相談所で…

証人として出廷している以上、息子の不利になるような発言をするはずはないのですが、それでも勤務態度は悪くなさそうですし、通信制の高校を卒業した話は、「息子はやればできる」という決して表面的ではない信頼が垣間見えます。

この信頼の裏には、彼が過去に人生を立て直した現場を家族がともにしているからかもしれません。

裁判官「息子さんは15歳のときに傷害で児童相談所に送致されているみたいなんですけども、その後は、事件を起こしたとかは裁判所の記録には書いていないんですけれども、この後は問題なく、高校も働きながら卒業されたんですよね?」

証人「はい」

裁判官「まあ、お話を聞いていると、ちゃんと仕事に就いて、ちゃんと真面目にやっているような様子で、あまりそういうことに関係しているとは気づかなかったんですかね?」

証人「そうですね。もう、その、中学校時代に比べれば変わったなと。いろいろと仕事も経験して、人の気持ちもわかるようになったので、安心して見ていたんですけども、ちょっと、まあ、あの、安心し過ぎたなと思っています。はい」

裁判官「わかりました。では終わりましたので、元に戻っていただいて大丈夫です。では続いて被告人質問を行います。被告人は証言台の前の椅子に座ってください」

かつては激しい気性があったのかもしれませんが、裁判所にいる被告人からは少なくとも、そうした暴力傾向は感じられませんでした。清潔感のある好青年といった風貌です。

とはいえ、彼は違法である大麻を入手しているわけで、当然そこは突っ込まれます。

弁護人「今年の3月21日に、自宅で大麻を持っていたことは、間違いないですね?」

被告人「はい」

弁護人「これは、何の為に持っていたんですか?」

被告人「自分で使うためです」

弁護人「使ったことはあるんですか?」

被告人「はい。あります」

弁護人「今まで何回くらい使ったことがありますか?」

被告人「4回か5回くらいです」

弁護人「大麻はどうやって入手したんですか?」

被告人「密売人から買いました」

弁護人「密売人とは、どうやって連絡を取ったんですか?」

被告人「携帯電話で、売人とやり取りをしました」

弁護人「どうやって密売人の連絡先を知ったんですか?」

被告人「友人から聞きました」

弁護人「友人からどうして密売人の連絡先を聞いたんですか?」

被告人「その前に、別の密売人から買っていたのですが、その密売人が連絡取れなくなってしまったからです」

弁護人「一番最初に大麻を入手したのは、いつ頃ですか?」

被告人「今年の初め頃です」

弁護人「今年の初めに、どうして大麻を入手することになったんですか?」

被告人「今年の3月まで通信制の高校に在学していたんですが、今年の始め頃、その学校で体育の授業があったときに、同じ学校の男子生徒から、大麻が買えるという密売人の連絡先を聞いたことがきっかけです」

弁護人「その同級生から密売人の連絡先を聞いて、自分で連絡を取ったんですか?」

被告人「はい」

弁護人「どうして自分で連絡取ったんですか?」

被告人「興味本位です」

弁護人「どういう興味があったんですか?」

被告人「実際に、そこから本当に買えるのかというのが、半信半疑ではあったんですけれども、まあ、大麻がどういったものなのかということに興味がありました」

弁護人「大麻を持つことが違法だということは知っていましたか?」

被告人「はい」

弁護人「その違法なものに、どうして興味を持ってしまったんですか?」

被告人「今思うと浅はかだとしか言えないんですが、その時は、こんなことになるなんて思ってもいなかったので、そこまで深く考えていませんでした」

◆どうして友達と大麻の話題になったのか?

検察官も密売人との接触については、もちろん突っ込みます。

検察官「少しだけ。友達から最初に密売人の連絡先を聞いたということなんですけども、その友達と何で大麻の話題になったんですか?」

被告人「半年前のことなので……」

検察官「あなたが、大麻を買ってみたいという話をしたの?」

被告人「こちらからしたわけではありません」

検察官「それじゃあ、何で向こうは、そういう大麻の話をしてきたの?」

被告人「お前大麻吸ったことあるか? ない。みたいな話から、話が広がって、俺は買えるところ知っているから教えてやるよと言って教えてくれました」

検察官「で、その後、その密売人と連絡が取れなくなったときに、新たに連絡先を聞いた人っていうのは、また別の人なんですか?」

被告人「はい」

検察官「別の友達が大麻の密売人を知っているというのは、なぜわかったの?」

被告人「以前から知っていました」

検察官「じゃあ、あなたの周りにはね、あなたが大麻を使い始める前から、大麻を使う人っていうのがいたってこと?」

被告人「はい」

検察官「ずっと大麻に興味を持っていたということなのかな?」

被告人「いえ。その時は、そこまで興味がなかったです。」

検察官「ふーん。でも自分で1回使って、その密売人から買えなくなったから、新たに密売人を探して買いたい位にはなっていたということですよね?」

被告人「はい」

検察官「それで本当に依存性とかないとか思っていますか?」

被告人「全くないとは言い切れないです」

検察官「そういうことを、ちゃんと自覚して、今後もう二度とやらないようにって気をつけて生活していけますかね?」

被告人「はい」

検察官「はい。以上です」

途中、どこか疑わしいといった検察官の反応は見られますが、追求はあっさりしたものです。かつて、この連載の中で大麻不法所持の初犯は「懲役6ヶ月、執行猶予3年」という判決が一般的と書きましたが、彼の執行猶予がこの例より短いのは所持した量が微量ゆえでしょうか。

裁判官「はい。それでは、被告人は、そこに立ってください。じゃあ、今回の刑についての判決の言い渡しをします。主文。被告人を懲役6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から2年間、その刑の執行を猶予する。(中略)具体的な刑の理由ですけれども、まあ、今回の大麻所持の件は、量的には、そんなに多くないということもあるし、使い始めて、そんなに多数回使用しているわけではない。という事情もあるけれども、やはり大麻を持っていたという違法薬物を持っていた以上、それ相応に責任を取ってもらう必要があると。ただし、まあ、あなた自身、罪を認めて、法廷でも反省の態度を示している。若年であって前科がないということ。お父さんも法廷に出廷して、今後の監督等を約束してくれているというような事情を認められるので、執行猶予ということにしました」

***

この裁判は被告人を裁いたり、叱責するというより、どこか被告人を信頼し励ましているような印象すら受ける。最後の裁判官の判決にそれが集約されているのではないか。

だが一方で、かえってこれは一体なんのための裁判なのだろうと、ふと考えてしまう。訓戒や説諭では済まず、彼が裁かれなくてはならなかった理由。それが法を犯したゆえとすれば、やはりいかなる罪であれ法を犯していいことはひとつもない。法廷とはそれについての理解を促す場所なのかもしれない。

<取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>

―[薬物裁判556日傍聴記]―

【斉藤総一】

自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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